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56. 最終話①

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 よく晴れた日の朝今日もヒルデは早朝から朝食の用意を済ませ、洗濯物を干していた。その後は、無駄に広い屋敷の掃除が待っている。

「あら、ヒルデ。おはよう」

「これは次期伯爵夫人、おはようございます」

 ヒルデのニヤつきながら発された言葉にデレ~と笑うのはジオの妻となり次期伯爵夫人になったレイラだった。

「やだ~~~次期伯爵夫人だなんて!」

 バシッと思いっきり背中を叩かれた。ヒルデにとっては痛くはないが、とても夫人がやる仕草ではない。

「……今日もお元気そうで」

 嫌味か、と察したレイラはスルーすると、自分のことをさっさと話し始める。

「ねえねえ、今夜旦那様にお料理を作ってさしあげようと思うの。前に旦那様に手料理をお出ししたら喜んでくださったのよ。だから今日も旦那様に何か作ってあげたいのよ。ねえ、旦那様は何が喜ぶと思う?」

 旦那様旦那様と自慢なのか……?ジオと結婚できたことが嬉しくて嬉しくて仕方ないよう。相変わらずジオラブだな……と呆れる。それにしても、夕飯作りの相談とは……とても次期伯爵夫人とは思えないく。

「我が家は鍋にしようかと思っておりますが」

「相変わらず鍋好きね~」

「最近、冷えてきましたしね」

「あなたのところ年中鍋食べてるじゃない」

 寒さ関係ないでしょというレイラにあははと笑うヒルデ。
ヒルデの顔を見てはっと思い出したかのように言った。

「そういえば、あなたトーマスにお嫁さん見つけるって言ったらしいわね」

 誰だ、チクったのは?

「トーマスがジオに話してるの聞いたのよ」

 本人だった。

「別に探さなくても、いるじゃない」

「?」

「使用人の真似事もできる優秀な女性」

「?」

「とてつもない美人。この世で一番美人な女性が」

「ああ、私のことですか……」

「……なんか腹立つわね」

 なぜ、美人で気づく。確かに美人だが。

「私はだめですよ」

 あっけらかんというヒルデ。

「なんで、男爵家気に入ってるんでしょ?ずっといたいなら奥様になればいいじゃない」

 首を横に振るヒルデ。

「?トーマスに自分はもったいないとか?あなた将軍にまでなった人だもんね。人脈も広いし」

 またふるふると横に振る。

「顔?そこまで悪い顔ではないでしょ?そりゃあ、陛下とかキール将軍に比べれば月とスッポンだけど」

 また横にふるふると振る。

「あっ!わかった。体つきだ!あんまり筋肉質は好きじゃないんでしょ?」

 また横にふるふると振る。言葉を発さず、頭をふるだけのヒルデに幼馴染がキレた。

「一体、なんなのよ!!!」

「姉弟だからですよ」

「は?」

「姉弟だからですよ」

 淡々と返された返事に理解が追いつかず聞き返してみたが、やはり帰ってきてのは淡々とした同じ返答だった。

「あなたたち血つながってないでしょ?もしかして、叔父様と養子縁組したとか?それとも隠し子?!」

「違いますよ」

 なら、姉と弟ではないでしょうが。

「血も繋がっていないし、養子にもなっていません。しかし、心に同じ人を父に持つ姉弟です」

 レイラの目が驚きに見開かれるのをヒルデは見逃さなかった。

「何を驚かれているんですか?」

「いや、トーマスも同じこと言ってたのよ」

「……え?」

「あなたと自分は姉弟だって」



 そうあれは珍しくトーマスが自分で伯爵邸に税を納めにきたときのことだった。



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