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169.養子
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「二人共とりあえず手を離そう?ね?」
片方は険しい顔、片方は愉しそうな顔をしつつも相手の髪の毛から手を離さない二人をマキシムが止めに入る。
「「下がっててよ!」」
「うおっ!すみません!」
二人を引き離そうと肩を触ろうとしたのだが二人の迫力に思わず手を引っ込めてしまう。怖すぎる。アリスはともかくマリーナがこんなにも感情を剥き出しにするのを始めて見る。
「全く皇太子でしょ!空気読みなさいよ!」
「そうよ!皇太子様は引っ込んでてくださいよ!」
髪の毛を鷲掴みし合っているのに仲の良いことである。さささっとマキシムが王妃の後ろに移動するのを確認した二人は再び相手を見つめる。いや、睨みつける。
「いい目ですねマリーナ様」
「は?」
「本心が溢れていらっしゃる」
「何を言っているの?」
「ふふ。ところでなぜお怒りなのです?この子を養子とすれば跡継ぎ問題解決、側室だって不要。うるさい、うざい、臭いオヤジ共もといお偉いさん方も私の血を引く子を蔑ろにすることなど…………ねぇ?」
「はははっ、そんな命知らずはいないよ…………すみません」
はは、と笑いながら思わずポロリと溢してしまったブランクに邪魔と言わんばかりの二人の鋭い視線が突き刺さり、即座に謝る。
「確かにそれらは解決するでしょう」
マキシムに子供がいなければ兄弟やその子が継ぐもの。この子は王家の血とカサバイン家の血を引く貴重な子供。お偉いさん方が側室云々言ってきても不要な争いを防ぐためと言えば無理に勧めることもできない。
この子の命を狙う者が出たとしても……それこそ無駄な心配というもの。この子の背後には最強の生みの親と兄姉とその他諸々がついているのだ。
「ですがそれならアリス、あなたが育てれば良いではありませんか。王になる教育を受けさせ、然るべき時が来たら養子にすれば良いことです」
「私が育てて、まともな王に育つとでも!?」
「育つ!…………かしら?」
とても伸びやかに育つラルフとオリビア。そう5才にして人を落とし穴に落とそうと考えるくらいに。この前はキャッチボールをすると言って100メートルくらい離れた場所から剛速球を投げ合っていた。
「いや、でもあの二人は魔力だって高いからちょっと変わってるだけよ」
「失礼な。この子だって自由奔放に育って王様何それ~ってなったらどうするんですか?」
「た、たぶん大丈夫よ!」
「大丈夫じゃありません。私普通じゃないので!品行方正なマリーナ様がお育てください!」
「……でも。だって……もし私が育ててあの子みたいになったら………………」
今でも鮮明に思い出す冷たく動かなくなった我が子。
「マリーナ様が悪かったわけではありません。病に気づくのが遅かったわけでもありません。そのように自分を追い詰めてはなりません」
アリスはマリーナの髪の毛を離すと自らの髪の毛を掴むマリーナの手を取り、ぎゅっと胸の前で両手で包んだ。
「マリーナ様はこの子を育てるのはお嫌ですか?」
「嫌とかそういう問題じゃ……」
「私の目から見るとあなたは今非常に不安定です。地に足がついておらずいつ飛び立ってしまうか心配で仕方ありません」
亡き子の呪縛から逃れられないマリーナを子を産めない皇太子妃と周囲は追い詰める。皇太子に群がる狸爺と女狐たち。女狐に子狐でもできたら…………きっとマリーナは耐えられない。
「私、マリーナ様のこと好きなんです」
「「「え?」」」
マリーナだけでなく、周囲からもざわつく声。まさかのそっち系かと。ギロリと睨みつけるとさっと視線をそらされた。
「この国に来てから私を値踏みせずに見てくれたのはあなただけでした。ある者は私を利用できる者か値踏みし、ある者は私を取るに足らない者と認識し、ある者は舐め腐った態度を取りました」
「…………私はその人たちからあなたを庇わなかったわ」
「それが何か?王子妃たるものそれくらい自分でどうにかできねば話になりませんでしょう?普通に接してくださる。それが嬉しかったのです」
「…………そう」
「ええ、だからあなたが部屋に籠もるようになってからどうすれば良いかわからず会いに行くこともできませんでした。子と毎日会える私を見ればあなたはもっと傷つくと思いました。ふふっ情けないですわね。私自分と敵対したものを利用するのは得意なのですが」
だって便利に使っても心が痛まないでしょう?ねぇ?と言われても……非常に答え辛い。
「この子をあなたをこの世に繋ぎ止める足枷にしようとする。母親としての役目を放棄する。気持ちを聞かず、将来王になることを押し付ける。私は最低な母親ですね」
するり、とアリスはマリーナの手を離す。
「……私は将来ラルフとオリビアにも私はこの国を守る兵器となることを押し付けるつもりです。私とて幼き頃から国を守れと戦場に出された身です。生まれた環境、力を持つ者というのは与えられた役目を担わなければならないものだと私は考えます。それが正しいか正しくないかはわかりませんが」
そう言うアリスの顔はとても悲しそうだった。
「この子の役目は後の世のこの国の王、私はそう考えます。そうすることで全てが丸く収まります。―――――――この子の気持ちが自らを手放し、王を押し付けた母に対しどのような思いを抱くかはわかりません。ですがこの子が私に対し憎悪を持つ覚悟はできています」
「…………放棄なんて言わないで。私の元で育とうとあなただって母親でしょう?共に……共に育てていきましょう?」
今度はマリーナが胸の前でアリスの手を両手でしっかりと握る。アリスの手は自分の心を制御するかのように微かに震えていた。
「ごめんなさいアリス。国のため、そして自分のためにこの子を養子にしないと言えない私を許してちょうだい……」
ツーと止めどなくマリーナの瞳からは涙が流れる。
そして部屋にいるものたちは気づいた。
アリスの片方の目からひと粒だけ涙が溢れたことを。
片方は険しい顔、片方は愉しそうな顔をしつつも相手の髪の毛から手を離さない二人をマキシムが止めに入る。
「「下がっててよ!」」
「うおっ!すみません!」
二人を引き離そうと肩を触ろうとしたのだが二人の迫力に思わず手を引っ込めてしまう。怖すぎる。アリスはともかくマリーナがこんなにも感情を剥き出しにするのを始めて見る。
「全く皇太子でしょ!空気読みなさいよ!」
「そうよ!皇太子様は引っ込んでてくださいよ!」
髪の毛を鷲掴みし合っているのに仲の良いことである。さささっとマキシムが王妃の後ろに移動するのを確認した二人は再び相手を見つめる。いや、睨みつける。
「いい目ですねマリーナ様」
「は?」
「本心が溢れていらっしゃる」
「何を言っているの?」
「ふふ。ところでなぜお怒りなのです?この子を養子とすれば跡継ぎ問題解決、側室だって不要。うるさい、うざい、臭いオヤジ共もといお偉いさん方も私の血を引く子を蔑ろにすることなど…………ねぇ?」
「はははっ、そんな命知らずはいないよ…………すみません」
はは、と笑いながら思わずポロリと溢してしまったブランクに邪魔と言わんばかりの二人の鋭い視線が突き刺さり、即座に謝る。
「確かにそれらは解決するでしょう」
マキシムに子供がいなければ兄弟やその子が継ぐもの。この子は王家の血とカサバイン家の血を引く貴重な子供。お偉いさん方が側室云々言ってきても不要な争いを防ぐためと言えば無理に勧めることもできない。
この子の命を狙う者が出たとしても……それこそ無駄な心配というもの。この子の背後には最強の生みの親と兄姉とその他諸々がついているのだ。
「ですがそれならアリス、あなたが育てれば良いではありませんか。王になる教育を受けさせ、然るべき時が来たら養子にすれば良いことです」
「私が育てて、まともな王に育つとでも!?」
「育つ!…………かしら?」
とても伸びやかに育つラルフとオリビア。そう5才にして人を落とし穴に落とそうと考えるくらいに。この前はキャッチボールをすると言って100メートルくらい離れた場所から剛速球を投げ合っていた。
「いや、でもあの二人は魔力だって高いからちょっと変わってるだけよ」
「失礼な。この子だって自由奔放に育って王様何それ~ってなったらどうするんですか?」
「た、たぶん大丈夫よ!」
「大丈夫じゃありません。私普通じゃないので!品行方正なマリーナ様がお育てください!」
「……でも。だって……もし私が育ててあの子みたいになったら………………」
今でも鮮明に思い出す冷たく動かなくなった我が子。
「マリーナ様が悪かったわけではありません。病に気づくのが遅かったわけでもありません。そのように自分を追い詰めてはなりません」
アリスはマリーナの髪の毛を離すと自らの髪の毛を掴むマリーナの手を取り、ぎゅっと胸の前で両手で包んだ。
「マリーナ様はこの子を育てるのはお嫌ですか?」
「嫌とかそういう問題じゃ……」
「私の目から見るとあなたは今非常に不安定です。地に足がついておらずいつ飛び立ってしまうか心配で仕方ありません」
亡き子の呪縛から逃れられないマリーナを子を産めない皇太子妃と周囲は追い詰める。皇太子に群がる狸爺と女狐たち。女狐に子狐でもできたら…………きっとマリーナは耐えられない。
「私、マリーナ様のこと好きなんです」
「「「え?」」」
マリーナだけでなく、周囲からもざわつく声。まさかのそっち系かと。ギロリと睨みつけるとさっと視線をそらされた。
「この国に来てから私を値踏みせずに見てくれたのはあなただけでした。ある者は私を利用できる者か値踏みし、ある者は私を取るに足らない者と認識し、ある者は舐め腐った態度を取りました」
「…………私はその人たちからあなたを庇わなかったわ」
「それが何か?王子妃たるものそれくらい自分でどうにかできねば話になりませんでしょう?普通に接してくださる。それが嬉しかったのです」
「…………そう」
「ええ、だからあなたが部屋に籠もるようになってからどうすれば良いかわからず会いに行くこともできませんでした。子と毎日会える私を見ればあなたはもっと傷つくと思いました。ふふっ情けないですわね。私自分と敵対したものを利用するのは得意なのですが」
だって便利に使っても心が痛まないでしょう?ねぇ?と言われても……非常に答え辛い。
「この子をあなたをこの世に繋ぎ止める足枷にしようとする。母親としての役目を放棄する。気持ちを聞かず、将来王になることを押し付ける。私は最低な母親ですね」
するり、とアリスはマリーナの手を離す。
「……私は将来ラルフとオリビアにも私はこの国を守る兵器となることを押し付けるつもりです。私とて幼き頃から国を守れと戦場に出された身です。生まれた環境、力を持つ者というのは与えられた役目を担わなければならないものだと私は考えます。それが正しいか正しくないかはわかりませんが」
そう言うアリスの顔はとても悲しそうだった。
「この子の役目は後の世のこの国の王、私はそう考えます。そうすることで全てが丸く収まります。―――――――この子の気持ちが自らを手放し、王を押し付けた母に対しどのような思いを抱くかはわかりません。ですがこの子が私に対し憎悪を持つ覚悟はできています」
「…………放棄なんて言わないで。私の元で育とうとあなただって母親でしょう?共に……共に育てていきましょう?」
今度はマリーナが胸の前でアリスの手を両手でしっかりと握る。アリスの手は自分の心を制御するかのように微かに震えていた。
「ごめんなさいアリス。国のため、そして自分のためにこの子を養子にしないと言えない私を許してちょうだい……」
ツーと止めどなくマリーナの瞳からは涙が流れる。
そして部屋にいるものたちは気づいた。
アリスの片方の目からひと粒だけ涙が溢れたことを。
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