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159.癒し
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そんななんとも濃ゆい日々を過ごすエリアスだが本日は何の予定も無い休息日……
のはずだったのだがアリスに呼び出された。
彼は憂鬱だった。というか、疲れが溜まっていた。
それと反比例するように山のようにあった自信は地面を抉るほどに減っていた。
燃やされ切り落とされたことのある腕をさする。そこには傷一つ無い。だが確かに感じた痛み。実戦で得た痛み。
アリスたちは命に関わりそうな時は助けてくれるが、それ以外は放置だ。何回腕や足を吹き飛ばされただろうか。腹や背中を斬られただろうか。
怪我を治される度に自分の無力さを思い知らされる。彼らは口だけではなく王宮での訓練も魔物との実戦も自分たちも必ず一緒に戦う。
悔しいが彼らの実力は惚れ惚れするばかりだ。
特にアリス。魔物と戦った後自分は立っているのがやっとなのに、息切れもしていなければ治癒魔法まで使える。本当に人外の力だと思う。
今となっては自分程度の魔法であんなに粋がってたのが恥ずかしい。
自分もああなりたい。
でもなれる気がしない。というか辛い。
なんかもう自分の弱さを認めて辞めさせてもらいたい。
ドアをノックするとアリスの入室許可の声がしたので部屋に入る。もう辞めて実家に帰りたいと言おう。
そのつもりだったのだが……エリアスの動きが止まった。
「休息日に呼びつけてごめんなさいね」
「………………」
「疲れてるところ申し訳ないのだけれど、ちょっと頼みたいことがあって」
「………………」
「ねえ、ちょっと聞いてる?」
「………………」
「………………」
部屋のある一点を見つめたまま動きを止め、返事もしないエリアス。アリスがすーっと自分の側に近づいたのにも気づかなかった。
「不敬よ~~~~~~」
耳元で呟かれた言葉にハッと正気に戻る。
「うおっすみません!はっ!王子妃が軽々しく他の男に近づいたら駄目ですよ!」
「正論ではあるけれど、こんなに超絶美人が真横にいるのに気づかない、王子妃の言葉を無視するあなたに言われるとイラッとするわね」
「す、すみません……」
そう言いつつエリアスの視線は動かない。アリスはエリアスの視線の先にいる者を優しい眼差しで見つめた後、彼に視線を移した。
「可愛いでしょ」
「はい」
「ふふっ」
アリスの笑い声にはっと意識が現実に戻るエリアス。二人の視線の先には小さな天使ズ。
もとい、ちょこんと座る1歳になったばかりのラルフとオリビアだ。
「いや、別に……………………………………。はい、とてつもなくかわいいです」
アリスの子を褒めるなど嫌だったが、自分を見つめるきらきらと輝く4つの瞳を前にして可愛くないとは言えなかった。
「俺……一番下だったし、友達もいなくて小さい子あんまり見たことないんですけど、こんなに可愛いものなんですね」
「まあ」
そう言ってアリスは気の毒そうに口元を押さえる。友達がいないとか言うんじゃなかった。
「こんなに可愛い子供がそのへんにいるわけないでしょ。こんなに可愛いのはこの子達だけよ」
「…………そうっすね」
意外と親バカなのかもしれない。
「じゃあよろしくね。今日皆忙しいのよー。エリアスがいて助かったわ」
「はい?」
「ラルフ、オリビア。エリアスお兄さんよ。このお兄さんが遊んでくれるからね」
「「あい」」
「!?」
驚いて言葉が出ない間に双子に近づき抱きしめ頬に口付けるアリス。
「虐めたらコレだからね」
ピッと親指で自分の首を切る仕草をしたアリスは、双子の頬を撫でると消えた。
まじか……。
ぎぎっとエリアスはラルフとオリビアに視線を向ける。
「「エリー」」
辿々しくも可愛らしく自分の名を呼び、ニッカーと眩しい笑顔を向けられたエリアスは愛嬌という矢に心臓を撃ち抜かれた。
それ以来休息日に双子の面倒をみて欲しいと頼まれるようになった。辛い辛い修行……。
人が怪我をしようとも魔物の群れに追いかけられようとも……修行だと言って高速で人に雷を何発も落として顔色一つ変えない悪魔たちと過ごす日々。
ラルフとオリビアがエリー……エリアー……エリアスと名前を呼んで笑顔を向けてくれる。頭を撫でてくれる。膝に座ってくれる。抱きついてくれる。そんな温もりが自分を癒してくれた。
なんとか苦行……いや、修行を終えた時、ラルフ様とオリビア様の護衛にと言われた。即座に頷いていた。
満足そうなアリスの顔。
アリスは我が子たちのために自分を鍛えたのだと察した。
だがそんなの気にならなかった。やつれていく俺に自信を失っていく俺に騎士たちは大丈夫かと気遣い、仲間だと励ましてくれた。一緒に訓練や魔物の討伐、警護をすることもあり今ではそれなりの関係を築けている。
父上と姉上もアリス様に目をつけられた俺をとても心配していた。特に父上は何度も俺の足がちゃんとついているか確認していた。なんかそんな彼らを見ていたら俺も力が抜けた。父上とは会話が増えたし、姉上ともそれなりに交流するようになった。
辛い日々だったが、今はあの日々に感謝している。
何よりも今ラルフ様とオリビア様の成長を誰よりも近くで見ることができるのが至福である。
だが、まあ…………
二度とあの日々には戻りたくない。
のはずだったのだがアリスに呼び出された。
彼は憂鬱だった。というか、疲れが溜まっていた。
それと反比例するように山のようにあった自信は地面を抉るほどに減っていた。
燃やされ切り落とされたことのある腕をさする。そこには傷一つ無い。だが確かに感じた痛み。実戦で得た痛み。
アリスたちは命に関わりそうな時は助けてくれるが、それ以外は放置だ。何回腕や足を吹き飛ばされただろうか。腹や背中を斬られただろうか。
怪我を治される度に自分の無力さを思い知らされる。彼らは口だけではなく王宮での訓練も魔物との実戦も自分たちも必ず一緒に戦う。
悔しいが彼らの実力は惚れ惚れするばかりだ。
特にアリス。魔物と戦った後自分は立っているのがやっとなのに、息切れもしていなければ治癒魔法まで使える。本当に人外の力だと思う。
今となっては自分程度の魔法であんなに粋がってたのが恥ずかしい。
自分もああなりたい。
でもなれる気がしない。というか辛い。
なんかもう自分の弱さを認めて辞めさせてもらいたい。
ドアをノックするとアリスの入室許可の声がしたので部屋に入る。もう辞めて実家に帰りたいと言おう。
そのつもりだったのだが……エリアスの動きが止まった。
「休息日に呼びつけてごめんなさいね」
「………………」
「疲れてるところ申し訳ないのだけれど、ちょっと頼みたいことがあって」
「………………」
「ねえ、ちょっと聞いてる?」
「………………」
「………………」
部屋のある一点を見つめたまま動きを止め、返事もしないエリアス。アリスがすーっと自分の側に近づいたのにも気づかなかった。
「不敬よ~~~~~~」
耳元で呟かれた言葉にハッと正気に戻る。
「うおっすみません!はっ!王子妃が軽々しく他の男に近づいたら駄目ですよ!」
「正論ではあるけれど、こんなに超絶美人が真横にいるのに気づかない、王子妃の言葉を無視するあなたに言われるとイラッとするわね」
「す、すみません……」
そう言いつつエリアスの視線は動かない。アリスはエリアスの視線の先にいる者を優しい眼差しで見つめた後、彼に視線を移した。
「可愛いでしょ」
「はい」
「ふふっ」
アリスの笑い声にはっと意識が現実に戻るエリアス。二人の視線の先には小さな天使ズ。
もとい、ちょこんと座る1歳になったばかりのラルフとオリビアだ。
「いや、別に……………………………………。はい、とてつもなくかわいいです」
アリスの子を褒めるなど嫌だったが、自分を見つめるきらきらと輝く4つの瞳を前にして可愛くないとは言えなかった。
「俺……一番下だったし、友達もいなくて小さい子あんまり見たことないんですけど、こんなに可愛いものなんですね」
「まあ」
そう言ってアリスは気の毒そうに口元を押さえる。友達がいないとか言うんじゃなかった。
「こんなに可愛い子供がそのへんにいるわけないでしょ。こんなに可愛いのはこの子達だけよ」
「…………そうっすね」
意外と親バカなのかもしれない。
「じゃあよろしくね。今日皆忙しいのよー。エリアスがいて助かったわ」
「はい?」
「ラルフ、オリビア。エリアスお兄さんよ。このお兄さんが遊んでくれるからね」
「「あい」」
「!?」
驚いて言葉が出ない間に双子に近づき抱きしめ頬に口付けるアリス。
「虐めたらコレだからね」
ピッと親指で自分の首を切る仕草をしたアリスは、双子の頬を撫でると消えた。
まじか……。
ぎぎっとエリアスはラルフとオリビアに視線を向ける。
「「エリー」」
辿々しくも可愛らしく自分の名を呼び、ニッカーと眩しい笑顔を向けられたエリアスは愛嬌という矢に心臓を撃ち抜かれた。
それ以来休息日に双子の面倒をみて欲しいと頼まれるようになった。辛い辛い修行……。
人が怪我をしようとも魔物の群れに追いかけられようとも……修行だと言って高速で人に雷を何発も落として顔色一つ変えない悪魔たちと過ごす日々。
ラルフとオリビアがエリー……エリアー……エリアスと名前を呼んで笑顔を向けてくれる。頭を撫でてくれる。膝に座ってくれる。抱きついてくれる。そんな温もりが自分を癒してくれた。
なんとか苦行……いや、修行を終えた時、ラルフ様とオリビア様の護衛にと言われた。即座に頷いていた。
満足そうなアリスの顔。
アリスは我が子たちのために自分を鍛えたのだと察した。
だがそんなの気にならなかった。やつれていく俺に自信を失っていく俺に騎士たちは大丈夫かと気遣い、仲間だと励ましてくれた。一緒に訓練や魔物の討伐、警護をすることもあり今ではそれなりの関係を築けている。
父上と姉上もアリス様に目をつけられた俺をとても心配していた。特に父上は何度も俺の足がちゃんとついているか確認していた。なんかそんな彼らを見ていたら俺も力が抜けた。父上とは会話が増えたし、姉上ともそれなりに交流するようになった。
辛い日々だったが、今はあの日々に感謝している。
何よりも今ラルフ様とオリビア様の成長を誰よりも近くで見ることができるのが至福である。
だが、まあ…………
二度とあの日々には戻りたくない。
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