【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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154.煽る②

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 アリスとルビーは本来クレアよりも格上の人間である。アリスは言うまでもないがルビーだって幼き頃から王子妃教育を受けてきたのだ。勉強は苦手だったが見た目や立ち居振る舞いを美しくすることは得意だった。

 クレアには品というものがない。貧乏男爵家出身、武器といえばその豊満な身体。それを使おうと男性に身体を寄せる様ははしたないと言わざるを得ない。

「ひ、酷い!ひどいですぅ!ルカさまぁ、皆さんクレアのことをバカにしますぅ」

「君たち性格悪いんじゃない?」

 クレアの言葉に彼女の肩を優しく撫でながらアリスとルビーを睨みつけるルカ。

「おほほほほほ!そんなことご存知でしょう?美しさは人を傲慢にするのですよ?そちら様は舌の動きが悪いのでは?」

 甘えたような語尾がアリスには気色悪くて仕方ない。これが天使のごとく愛らしい子供や少女であればまだ許せるが微妙な顔のデカパイ女がやるのはご遠慮願いたい。

 閉じたままの扇子を口元に当て高笑いするアリスはチラリとクレアを見る。

「きゃっ!アリス様が睨みつけてきますぅ。クレア怖いですぅ」

「大丈夫だよクレア。僕がついているからね。アリス、君目力が強いんだから気をつけてくれよ」

 ぎゅうと豊満ボディを押し付けられたルカはアリスに物申す。がアリスはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべると言った。

「きゃっ!ルカ様が勘違い甚だしい苦言を呈してきますぅ。ルビー様私殴っちゃいそうですぅ」

「……駄目ですよ。相手は王子ですからね」

 相変わらず人をおちょくるのが好きだなとルビーは呆れながら言葉を返すが、ラシアはぶるぶると震えながら笑いを堪えているよう。

 そしてクレアは真似されて恥なのか怒りなのか顔を真っ赤にして震えている。真似されて恥ずかしいならやらなければ良いのに……。

「挨拶だけしたら失礼しようと思いましたが、少々喉が渇いてしまいましたわ」

「気づかずに失礼しました。お茶を……」

 各々のリアクションなど気にすることないアリスの言葉に反応したラシアは侍女にお茶の用意をさせようとする。

 が、

 その声はアリスが手を挙げたことにより遮られた。不思議そうなラシアにアリスは微笑んで言う。

「そちらのルカ義兄様の侍女殿にお願いしたいですわ」

「「「?」」」

 ルカは今護衛と執事しか連れていない。

 誰のことぞ?皆不思議顔でアリスの顔を見る。

 彼女の視線の先にいるのは――――――――――

「「「!!!!!」」」

 クレアだ。

「アリス!!!」

 誰のことを言っているのか気づいたルカは立ち上がり大声でアリスの名を呼び咎める。

「クレアのことを侍女とは失礼にも程があるだろう!彼女は僕の恋人だ。使用人扱いをするなど僕が馬鹿にされたも同然。ブランクにも抗議させてもらうよ」

「侍女ではないと?」

「当然だろう」

 ルカの言葉にアリスはほおと小さい声で漏らす。

「この場は正妃と側妃が顔合わせする場です。私も王族の人間として彼女たちに挨拶に参りました。そしてこの場にいる他の者達は侍女や護衛、彼らの役割としてこの場にいるのです。許可なく言葉を発さず、有事以外では置物のように佇む存在。ではクレア嬢はどのような役割でここにいるのですか?」

「クレアは僕の恋人だ」

「恋人がここで何をするのですか?」

「何って……挨拶に「ふふっ」」

 ルカの言葉の途中でアリスが笑いをこぼす。ルカとアリスの視線が交錯する。

「何がおかしいのかな。彼女は本来なら側室になっていた。残念ながら今回は見送りとなったが近いうちに側室になるだろう。だから今この場にいてもおかしいことは何も無いよ」

「なれなかったのだから、ここにいてはいけないのですよ?」

「君たちが邪魔したからだろう?」

「彼女の立ち位置が愛人、ふふっ失礼、恋人である以上、このような王族が集う場に来てはいけないはず。王族の話が外に漏れてはいけませんもの」

「彼女は側室も同然だ」

「ルカ様の心持ちがどうあれ、彼女が側室の地位に無いのは事実。婚約者でもないのに彼女が側室になるという確約はないのです。実際ルカ義兄様は何人の女性の手を離しましたか?」

「クレアは特別だ。手を離したりなどしない」

「そうですか。ですが王宮規則の塊の場。地位、役割で行く場所、仕事、会う者とその順序が決まっています。ああどこに住まうことができるかも決まっていましたね」

 その言葉にルカは苛つきを隠すかのようにあえて笑った。

「ああ、そうだったね。ラシアが実家に帰ることになったからクレアを正妃の間に住まわせようとしたら鍵が開かなかったことがあったね」

「そんなこともありましたね」

「恥をかいたよ」

「そもそも正妃の間に愛人を住まわせる行為が恥ですわ」

「君の魔法だろう?」

「ラシア様の目の前でクレア様を部屋に招こうとしておりましたものね。あまりにもの見苦しさに天が罰をくだされたのでは?」

「君の魔法だと言える者がいないのが残念だ」

「ふふっ、お褒めに預かり光栄ですわ」

 暫く黙って睨み合うアリスとルカだったが、アリスが目を合わせたまま言葉を発する。

「話をもとに戻しまして、ここにクレア嬢がいても良い理由付をしてあげましたのに……私の優しい心遣いがご理解いただけなかったようで悲しゅうございますわ」

「くどいよ、彼女は側室いや正妃も同然だ」

 ルカの言葉にルカさまぁとうっとりとするクレア。アリスはその様子をチラリと横目で見る。

「ルカ義兄様がなんと思われようと彼女はただの貴族令嬢の一人。ここに参加する権利などありませんわ。まあ彼女が我らに何か有益なものでももたらしてくれるのであれば話は別ですが……」

「クレアは私を支えてくれる。彼女の存在は私の癒しだ」

 その言葉に再びルカさまぁととろんとした目を向けるクレア。そして彼女の腰を抱き寄せるルカ。むぎゅっと当たるたわわな実り。

「支えや癒し…………ふふっ、身体のですかぁ?なんちゃって」

「なっ!?下品な!」

 アリスの言葉に激昂するルカに構わず言葉を続けるアリス。

「それならぁ、こんなところで王族の一員面していないでベッドの上でその無駄にでかいものを使って役割をはたしてきてくださぁい」

「なっ!?」

「では挨拶も済んだし、さようなら~」

 ヒラヒラと手を振るアリスの前からルカとクレアが消えた。

「え、大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫。それでは私もこれで失礼しますわ」

 ルビーの焦る声に軽い調子で返した後、イリスとフランクと共に消えるアリス。

 
 えーーーーーーー…………。




 残されたラシアとルビーは開いた口が暫く塞がらなかった。



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