【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
166 / 186

151.ラシアとアリス②

しおりを挟む
「…………あの、アリス様、私の顔に何か……?」

「いえ、何も。ただ本当に何もないと思っていらっしゃるのかと観察していただけですわ」

「は、はあ」

「だって私からしたらラシア様は十分いろんなものをお持ちのあるようにお見受けしますもの」

「えっ!?」

 この万能超人は自分のどこを見てそう思うのか。

「だってそうでしょう?見た目だって、実家の太さだって、地位だってあるじゃないですか」

「いえ、アリス様の方が何倍もおきれいだし、実家の太さだってあるではありませんか」

「何事にも上はあるものです。上を見すぎですよラシア様」

「は、はあ?」

「そもそもあのハゲ親父は気に入らないことははっきり言うタイプの人間でしょう?」

「は、ハゲ親父」
 
 人の父親のことをハゲ親父とは……。

「ハゲ親父が何も言わないってことは全て及第点だし、今この現状もあなたに何ら問題はないと思っているんですよ」

「そうでしょうか?」

「そうです!それに王族としての仕事をこなす頭だってあれば、可愛い姫君もいらっしゃる」

「いや、それは当たり前のことで……。それに大して役に立っていませんし」

 王妃やマリーナのように国を左右するような重要な案件をやっているわけでも、アリスのように国を守ることもできていない。

「ハーゲ家と王族を縁続きにさせたではありませんか」

「それは父の力で……」

「そもそもあなたがいなければ縁続きになどなれません。ハーゲ家にとってはただ存在するだけで価値があるのです」

「ま、まあそう言われてみれば。でも王子はいませんし、この先も望めなさそうです。それに……夫の愛がないからと、影で笑われておりますわ」

 自嘲気味に笑うラシア。

「おほほほほ!そんなの負け犬の遠吠えですわ~!愛があろうとなかろうと王家がルカ様の妃と認めているのですから問題なし!愛だの恋だの……王族がそのようなものを求めてそれしか持たざるものと結ばれたとき、王権は弱まるだけです。金や権力、血筋、頭脳、何かしら持つべき者でないと……我らは平民ではないのです。王家の後継者はマリーナ様の問題です。最悪の場合はラルフもおりますし。それにルカ王子とラシア様の血筋を……ということであれば婿を取れば宜しいではありませんか。姫君に子が生まれれば血は引き継がれるのでなんの問題もございません。それにそもそも外野というものは好きに言うものです」

「は、はあ」

 アリスのマシンガントークについていけないラシア。

「王妃様とてなんで王子ばかり産んだのかと言われたそうですよ。他国と縁続きになるのに姫君の方が便利なのに、と。姫ばかりであれば男の子でないと跡継ぎがいないと騒ぐ。男女一人ずつならばもう一人男の子がいないと不安だ。男女二人なら、もっと姫がいればもっと他国と縁続きになれるのに。子沢山なら税の無駄遣い、されどそのとき疫病が流行ればたくさんいて良かった。人とはそのときそのときに理由をつけていちゃもんをつけ、ときに自分が放った言葉を翻すのです。そんな者達の意見などまともに取り合ってたら病みますよ」

「病む……」

「ラシア様がルカ様を好いていることは存じ上げております。いつか振り向いてくれるのではないかと期待していることも……。ですが諦めも時には必要かと思いますわ」

「……わかっているのです。でも、気持ちとはなかなかコントロールができぬものですね」

「いつかルカ様に見切りをつけ、対峙することがあれば私はラシア様の味方になりますからね。あなたの後ろには私がおります。同じ国の妃になったのも何かの縁。忘れないでくださいませ」

「ありがとう……。心強いです」

 ラシアは久しぶりに穏やかな笑みを浮かべた。

 その様は小さな花がそっと咲いた様で可愛らしい。

「ラシア義姉様は私にとっても必要な方ですわ」

「えっ?」

 この私が目の前の麗人にとって必要?

 何に?

 でも今はそれよりも

「あの…………何やら王妃様の声が」

 二人の耳にはアリスー!アリスー!と叫ぶ王妃の声が聞こえる。
 
「ちょっと廊下にあった壺を割ってしまいまして」

「えっ!?」

 それはヤバくないか?  

「やれやれ、怖い怖い鬼ババアの説教が待っていますわ」

 いやそれは当たり前では?

「そんな壺の一つや二つ、ねえ?」

 もしかして二つやってしまったのか?

「無駄に長いんですよね~お説教。ふふ、ラシア義姉様後で愚痴聞いて下さいね?」

「え、ええ」

 では、と言って去っていくアリス。王妃と遭遇し、めちゃくちゃ言われている。しゅんと肩を落としてちょっと可愛い。

「もしかして……姑の愚痴を言うのに必要ってこと?…………………………ふふっ、ふふふっ」
 



 は!くだらない。

 くだらない。



 本当に色々とくだらない。






 自分は何を色々とくだらないことを考えていたのだろうか。


 無駄な時間、あんな男にかける時間は無駄だったのかもしれない。


「かあたま~~~~~~」

 ナディアがよちよちと歩いてくる。

 涙が頬を伝う。

 自分にはこの子がいる。 

 あんな男、もうどうでも良いではないの。


「ラ、ラシア様、いかがされました!は!アリス様に虐められたんですか?大丈夫ですか?あの方はお口が悪いですから気にされなくても大丈夫ですよ!」

 侍女たちがオロオロしている。心配してくれている。

「かあたま。たいたい?」

 ラシアの膝に登ろうと一生懸命な様子のナディアに笑みが漏れる。

「いいえ、どこも痛くないわ。この涙はね……弱い自分を流す為のものだから大丈夫よ」

 そう言うラシアの顔はとても晴れ晴れとしていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結保証】ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...