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144.側室問題③

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「もちろん夫婦の問題に口を出すのははしたなきこと……」

 そこでアリスは一旦言葉を止めると息を吸って気合を込める。



「ですが……お金の問題は別です!」

 金!?

 普通にはしたない!!!

「あ……とお金……?」

「はい。お金です」

「えっと……どういうことかな?」

 困惑気味にルカが尋ねる。

「我ら王族は民からの税により国を営み、そこから我らが生活する予算も組んで生活しております。まあ私は自分で賄っておりますが」

 アリスに対する予算は相変わらず組まれていなかった。彼女自身が不要というからだ。自分で稼いだ金を自分の好きなように使う。その代わり援助もしないと。

 彼女の個人資産は王宮の資産を大きく上回る。そしてそれは年々増えている。

「あ、ああ。そうだね」

「残念なことに我が国は貧乏ではありませんが、まあそこそこ?微妙なレベルの国です。税収もしかり」

「…………………………」

 大変失礼な言い方だが事実である。

「陛下やルカ様が側室を娶ればその分予算を組まねばなりません。現在我が国はそんなに余裕があるわけではございません。有事の際のためにも余力を残しておくべきでは?」

「その通りだね。でも僕らは重責を担う王族だ。彼女の存在によってより一層頑張れると思えば安いものでは?僕らの頑張りは民に還元されるのだから」

「では彼女との婚姻によってどれだけの利益が見込めると?」

「…………まだ未定だよ」

「話になりません」

「貴様さっきから黙っていれば何様だ!女にはわからんかもしれんが男というのは女の存在でやる気が出るのだ!そこにかける金は必要経費だ!まだ余力はあるのだから新たに予算を組めばよいこと!ルカ王子、このおん……っアリス様のことなど放っておきましょう。所詮男と女はわかりあえない生き物なのです!」

 一人の大臣の言葉にそうだそうだと他の大臣も付き従う。

「アリス。今回ばかりは僕の方に軍配が上がりそうだね」

 ルカだけでなく大臣までもがニヤニヤする中、アリスはゆっくりと目を瞑る…………そして、カッと目を見開いた。
 
「愛ではお腹は一杯になりません!」

「「「!?」」」

「男性の下半身事情などどうでも良いのです!薬を盛られたわけでもないのに、コントロール不能な下半身などもぎ取っておしまいなさい!」

「いや、あのアリス……下半身じゃなくて心の癒しの話だと思うんだけど……」

「はあ?デカパイに夢中のくせに心の話などと白々しい!そもそもわかりあえない心がなぜ癒しになるのですか?下半身の癒しの間違いでしょう?」

「だ……男女は身体の構造も違うし、わ……我らは、女よりも大変な立場で…………」

「はあ?あなたがたよく私の前でそんなこと言えますね?私の代わりに魔物退治行きます?しかもここには王妃様がいらっしゃるのですよ?政務に子育てに、孫育てどれだけ大変か……」

 うっと声を詰まらせる大臣たち。

「女女とやかましい!自分を律せずしてどうやって民を導くのですか?民が安心できる金を十分に作ってから余裕を持って彼女たちをお迎えください!」

 いやいや、あなたが一番好き勝手やってるんですけど……。そう言いたいが流石に誰も言えない。

「でもアリス」

 諦めずなんとかアリスを説得しようとするルカをアリスは手で制する。

「うんうんわかります。わかります……女、女欲しいですよね」

「は?」

 いやいや、さっき言ってたことはなんだったんだ。

「ですが我らは王族。女性一人選ぶとて愛だけではいけません。どうせ娶るのであれば金持ちの支援が望める女でなければ」

「じょ、女性を擁護するような言い方をしておいて自分だって女性をモノ扱いしているじゃないか!それに金がなければ価値がないような言い方をして……私の妻や娘は美しいしあ……愛妾でも甘んじて受け入れている優しい者だ!」

 タリス男爵がここぞとばかりに声を上げる。

「それが何か?」

「え?」

「美しさ?そんなもの私だって持っているわ。あなたの妻や娘以上に美しいものなどいくらでもいるわ。そもそもあなたの妻子は美しくないわよ。美しいのは胸元でしょ?優しさ?妻を押しのけてその座に座ろうとする者が優しいなどと笑止千万!」

「な!陛下やルカ様の愛を得られた彼女たちのことをそのように……!この世の何人がそんなことが可能だと?」

「男の心を射止める力はあっても、それはあなたたちにとって利益があるだけ。王家には何も無いですわね」

「陛下や王子の心が潤う!」

「陛下や王子が心の支えもとい欲を解消できるから頑張れると、まあ一理あるでしょう。モチベーションは大切ですからね」

「でしょう!」

「であれば今のまま愛妾で構わぬでしょう。わざわざ側室にして国の予算を使う必要などなし。陛下やルカ義兄様に割り当てられた予算内で与えられるアクセサリーで褒賞は十分かと」

「な……そんな、売女のような…………」

「では彼女たちは私達に何をもたらしますか?王権強化?人脈?お金?お金?お金?お金?お金?」

「…………子供とか」

「子は他の者でも可能です。それに恵まれぬ可能性もあります。マリーナ様もラシア様もそして私も婚姻することによって国に何らかのメリットがありました。何も与えられぬただ貢がせるだけの彼女たちが側室になるなどと図々しい」

「……………………」

「ルカ義兄様はラシア様を役立たずと言いましたが、そのご実家からの支援が毎年いくら王家に入っているかご存知?貧乏男爵家の娘などお呼びでないのよ。そんなに陛下や王子の心心というのであれば大人しく愛妾でいなさいな」

 アリスの毒舌に声を発することができるものはいなかった。

 男爵は陛下やルカ王子を見た。愛する女が蔑ろにされたのだ。きっと憤っているはず…………いや、なんか気落ちしている。
 

「あ…………あの……」

 一人の気の弱そうな大臣が手を挙げる。

「子供ができたら側室に迎えるというのはいかがでしょうか?」

 その言葉に皆からそうだと声が上がる。

「まだ話は終わっていなくてよ。黙っていて頂戴」

「あ、はい」

 すごすごと引き下がる気弱な大臣。

「ルカ義兄様」

「…………………………」

「ルカ様兄様!」

「…………はい」

 なんだかとてつもなく嫌な予感がする。

 アリスの顔がとても輝いているからだ。

 黒い方に。

「私、皆様が側室側室と言われますのでルカ様に側室を用意しましたの!王妃様の許可は得ておりますからご安心くださいませね」

「「「!?」」」

「は……?」

 驚く大臣たちとルカ。そんな彼らにお構いなしにアリスは叫ぶ。

「どうぞーーーー!」

 ガチャリと開かれる扉。そして、見開かれる大臣やルカの目。

「ルビー?」

 そこにいたのはかつての婚約者ルビーだった。








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