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117.眉髭男爵&娘登場
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夫や子供たちを見送った後、アリスは王宮の廊下をイリスと歩いていた。
「いやあ、最近のタリス男爵の躍進は素晴らしいですなあ!」
「本当に!下級貴族である男爵が大臣に任じられるなど、実にめでたい!」
「今陛下の信頼を最も得られているのでは?」
「他の大臣方を差し置いて私など……。いやはやたまたまですよ!たまたま!」
あっはっはっはとオヤジたちの下品な笑い声が王宮の廊下に響く。そこに近づく麗しき美女二人。
「おお、これはこれはアリス妃殿下!今日も真にお美しい!侍女殿まで絶世の美女とは!目の保養になりますなあ!」
イリスを連れたアリスに各々挨拶する中、元気いっぱい自分が代表だとばかりにしゃしゃり出てくるのは皆に持ち上げられていたタリス男爵だ。
「ご機嫌よう男爵。今日も髭が決まっていらっしゃるわね」
彼の鼻の下には太めの眉毛みたいな髭があった。毎日丁寧に形を整えているそれは本人ご自慢の髭のようだが小太りの中年男性にして平凡な顔立ちにその髭は悪目立ちしている。
鼻の下に眉毛……眉髭じゃん。
こっそり彼のことを眉髭男爵と呼んでいるアリス。
アリスが内心よっ、眉髭男爵!今日も眉髭だね!などと考えているとは思わぬタリス男爵はご機嫌な様子でアリスに話しかけてくる。
「アリス様、陛下のところへ行かれるのですか?」
「ええ、何やら私をお呼びとのことですので」
アリスの言葉に鼻をぷくっと膨らませ、頬が上気する男爵にイリスはキモッと心で呟いた。
「おお、なんと!アリス様、申し訳ございません!」
「………………」
一大事でも起こったかのように大げさに声が張り上げられる。口では謝りながらも勝ち誇ったような顔をする男爵にアリスは変わらぬ笑みを無言で浮かべ続ける。
「先程陛下にお願い事を致しまして、その件で足をお運び頂いたかと……。ああ、男爵たる私の為に王子妃様にご足労頂くなどなんと罪深いことをしてしまったのでしょう!」
ヒクヒクと鼻が動く。とっても気分が良さそうだ。
「………………」
物言わぬアリスに周囲にいた低位貴族から忍び笑いが漏れる。
ショックで言葉が出てこないのか。
色々と非現実的な彼女の化け物じみた行動を噂で聞いたが、所詮は噂かと嘲笑う低位貴族の親父共。
ニコニコしたまま反論する様子のないアリスをイリスはチラリと見るが何を考えているのか全く読めない。イリスは男爵に視線を移す。
彼は地位も低ければ、見た目もブサ……平凡、政治センスなし、剣や魔法の腕皆無、頭悪し。今までアリスの犠牲になったことのある公爵やハーゲ伯爵とは比べるのも烏滸がましいほどの小者。
だが今彼はその二人に劣らぬ勢いを持った男と言えた。
なぜか?それは――――――――
「お父様」
「おお、クレア!ルカ王子様のところに行くのか?」
「はい」
見るものを呑み込むような豊かに波打つ濃紺の髪の毛と瞳を持つタリス男爵の娘クレアによるものだった。
彼女のねっとりとしたお色気たっぷりの不快な声音にイリスは顔を歪めたくなるのをぐっと堪えた。
「アリス様、ご機嫌よう」
フワリと微笑んだ後、バサリと開いた扇を口元に寄せるアリス。挨拶を返したとも、無視したとも取れる行動に男爵父娘は不快げに眉を寄せる。
クレアはアリスなどいないかのように父親と何やら話し始める。それを咎める者は誰もいない。イリスは憤慨していたが主人が黙っている以上前に出るつもりはない。
イリスはクレアを黙って睨みつける。彼女は大してキレイというわけではない。では何がルカの心を捉えたのか。
イリスは再びチラリとアリスを見る。
――見てる。
――――めっちゃ見てる。
――――――いやいや見すぎでしょ。
アリスはある一点をガン見していた。
どこかって…………クレアの胸元だ。
そんなに大きいものがこの世に存在するんですか!と信じがたい程大きなものがそこに存在している。ドレスから溢れそうだ。
ルカの心を離さないものはこれと独特の色気によるものだった。
「あ、あの、アリス様?」
あまりにも図々しい視線にクレアも思わず声をあげる。
「あら、どうかなさって?」
「い、いえ」
素知らぬ顔をされてはそう言うしかない。
「これからルカ義兄様のところに行かれるのでしょう?これを持っていって頂ける?」
そう言ってアリスが何も無い空間から取り出したのは長方形の箱だった。
「ガルベラ王国から取り寄せて欲しいと言われていたネックレスが届いたのよ」
「まあ!ありがとうございます!私がルカ様にお願いしたものなのよ!あっ!敬語……ごめんなさい。近々アリス様と義姉妹になる予定だからつい……」
「なんと!娘へのプレゼントをルカ王子に頼まれたのですか!?父娘で王子妃様の手を煩わせてしまうとは……なんとお詫び申し上げれば良いかわかりませんなあ」
この父にしてこの娘あり。父娘共にアリスを見下すような発言をする。
「義姉妹……」
「ええ。だって私はもうすぐルカ様の側室になるのですもの。いえ……もしかしたら正妃ということも。あら、私ったらなんと不敬なことを!でも……今ラシア様があんな状態では、ねえ?」
ラシアは現在愛娘ナディアと共に病気療養中という名目でハーゲ伯爵邸にいた。実際に体調を崩したわけではない。ルカがクレアを正妃にすべく無理矢理彼女が病んでいるとし追い出したのだ。
「アリス様も誰につくべきかちゃあんと見極めた方が良いですわよ?」
では、と言って父親含めオヤジーズを引き連れ去っていくクレア。
彼女たちの姿が見えなくなるとアリスが真面目な顔で口を開く。
「イリス」
「はい」
「なぜ私はルカ義兄様の女に敵視されるのかしらね?」
「………………」
「私はルカ義兄様の女ではなくて、ブランク様の妻なんだけど。なんのために私に絡んでくるのかしらね?不思議だわー」
「……なにか呪いでも掛けられてるんじゃないですか?」
「えー…………どんな?」
「女難とか?」
「それ男が掛けられるやつじゃない」
そんなやり取りをしながら二人が向かうは王の執務室だ。
「いやあ、最近のタリス男爵の躍進は素晴らしいですなあ!」
「本当に!下級貴族である男爵が大臣に任じられるなど、実にめでたい!」
「今陛下の信頼を最も得られているのでは?」
「他の大臣方を差し置いて私など……。いやはやたまたまですよ!たまたま!」
あっはっはっはとオヤジたちの下品な笑い声が王宮の廊下に響く。そこに近づく麗しき美女二人。
「おお、これはこれはアリス妃殿下!今日も真にお美しい!侍女殿まで絶世の美女とは!目の保養になりますなあ!」
イリスを連れたアリスに各々挨拶する中、元気いっぱい自分が代表だとばかりにしゃしゃり出てくるのは皆に持ち上げられていたタリス男爵だ。
「ご機嫌よう男爵。今日も髭が決まっていらっしゃるわね」
彼の鼻の下には太めの眉毛みたいな髭があった。毎日丁寧に形を整えているそれは本人ご自慢の髭のようだが小太りの中年男性にして平凡な顔立ちにその髭は悪目立ちしている。
鼻の下に眉毛……眉髭じゃん。
こっそり彼のことを眉髭男爵と呼んでいるアリス。
アリスが内心よっ、眉髭男爵!今日も眉髭だね!などと考えているとは思わぬタリス男爵はご機嫌な様子でアリスに話しかけてくる。
「アリス様、陛下のところへ行かれるのですか?」
「ええ、何やら私をお呼びとのことですので」
アリスの言葉に鼻をぷくっと膨らませ、頬が上気する男爵にイリスはキモッと心で呟いた。
「おお、なんと!アリス様、申し訳ございません!」
「………………」
一大事でも起こったかのように大げさに声が張り上げられる。口では謝りながらも勝ち誇ったような顔をする男爵にアリスは変わらぬ笑みを無言で浮かべ続ける。
「先程陛下にお願い事を致しまして、その件で足をお運び頂いたかと……。ああ、男爵たる私の為に王子妃様にご足労頂くなどなんと罪深いことをしてしまったのでしょう!」
ヒクヒクと鼻が動く。とっても気分が良さそうだ。
「………………」
物言わぬアリスに周囲にいた低位貴族から忍び笑いが漏れる。
ショックで言葉が出てこないのか。
色々と非現実的な彼女の化け物じみた行動を噂で聞いたが、所詮は噂かと嘲笑う低位貴族の親父共。
ニコニコしたまま反論する様子のないアリスをイリスはチラリと見るが何を考えているのか全く読めない。イリスは男爵に視線を移す。
彼は地位も低ければ、見た目もブサ……平凡、政治センスなし、剣や魔法の腕皆無、頭悪し。今までアリスの犠牲になったことのある公爵やハーゲ伯爵とは比べるのも烏滸がましいほどの小者。
だが今彼はその二人に劣らぬ勢いを持った男と言えた。
なぜか?それは――――――――
「お父様」
「おお、クレア!ルカ王子様のところに行くのか?」
「はい」
見るものを呑み込むような豊かに波打つ濃紺の髪の毛と瞳を持つタリス男爵の娘クレアによるものだった。
彼女のねっとりとしたお色気たっぷりの不快な声音にイリスは顔を歪めたくなるのをぐっと堪えた。
「アリス様、ご機嫌よう」
フワリと微笑んだ後、バサリと開いた扇を口元に寄せるアリス。挨拶を返したとも、無視したとも取れる行動に男爵父娘は不快げに眉を寄せる。
クレアはアリスなどいないかのように父親と何やら話し始める。それを咎める者は誰もいない。イリスは憤慨していたが主人が黙っている以上前に出るつもりはない。
イリスはクレアを黙って睨みつける。彼女は大してキレイというわけではない。では何がルカの心を捉えたのか。
イリスは再びチラリとアリスを見る。
――見てる。
――――めっちゃ見てる。
――――――いやいや見すぎでしょ。
アリスはある一点をガン見していた。
どこかって…………クレアの胸元だ。
そんなに大きいものがこの世に存在するんですか!と信じがたい程大きなものがそこに存在している。ドレスから溢れそうだ。
ルカの心を離さないものはこれと独特の色気によるものだった。
「あ、あの、アリス様?」
あまりにも図々しい視線にクレアも思わず声をあげる。
「あら、どうかなさって?」
「い、いえ」
素知らぬ顔をされてはそう言うしかない。
「これからルカ義兄様のところに行かれるのでしょう?これを持っていって頂ける?」
そう言ってアリスが何も無い空間から取り出したのは長方形の箱だった。
「ガルベラ王国から取り寄せて欲しいと言われていたネックレスが届いたのよ」
「まあ!ありがとうございます!私がルカ様にお願いしたものなのよ!あっ!敬語……ごめんなさい。近々アリス様と義姉妹になる予定だからつい……」
「なんと!娘へのプレゼントをルカ王子に頼まれたのですか!?父娘で王子妃様の手を煩わせてしまうとは……なんとお詫び申し上げれば良いかわかりませんなあ」
この父にしてこの娘あり。父娘共にアリスを見下すような発言をする。
「義姉妹……」
「ええ。だって私はもうすぐルカ様の側室になるのですもの。いえ……もしかしたら正妃ということも。あら、私ったらなんと不敬なことを!でも……今ラシア様があんな状態では、ねえ?」
ラシアは現在愛娘ナディアと共に病気療養中という名目でハーゲ伯爵邸にいた。実際に体調を崩したわけではない。ルカがクレアを正妃にすべく無理矢理彼女が病んでいるとし追い出したのだ。
「アリス様も誰につくべきかちゃあんと見極めた方が良いですわよ?」
では、と言って父親含めオヤジーズを引き連れ去っていくクレア。
彼女たちの姿が見えなくなるとアリスが真面目な顔で口を開く。
「イリス」
「はい」
「なぜ私はルカ義兄様の女に敵視されるのかしらね?」
「………………」
「私はルカ義兄様の女ではなくて、ブランク様の妻なんだけど。なんのために私に絡んでくるのかしらね?不思議だわー」
「……なにか呪いでも掛けられてるんじゃないですか?」
「えー…………どんな?」
「女難とか?」
「それ男が掛けられるやつじゃない」
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