【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
164 / 186

149.人の不幸は蜜の味

しおりを挟む
   ~4年程前~

「はー」

「………………申し訳ございません……ルカ様」

「ラシア、君は何を謝ってるんだい?僕は何も怒ってなどいないよ?なんで君は……いや、いいや」

「…………………………」

 それではなぜあんな溜息を?と言いたいが言えない自分にラシアは唇を噛む。今二人がいるのは寝室である。先程まで王の誕生日パーティーに参加していた二人。

「それにしても今日もアリスはとても美しかったね。ドレスもアクセサリーのセンスも抜群。周辺国の大使たちも皆見惚れ、我先にと彼女に近づこうと必死だった。もちろん彼女の実家や他国とのパイプ、実力もあるだろうけれど彼女の周りはとても楽しそうだったから惹かれるのも当然だよね」

 そう。それに引き換え自分の周りは父親であるハーゲ伯爵の取り巻きのご令嬢やご令息ばかりでおべっかばかり。友人たちも自分と同じく大人しい者が多く、ドレスも地味め、華やかさに欠けた。

「ナディアは愛らしく賢い」

 ナディア『は』、では私は?

「でも運が悪かったね。ラルフとオリビアという全てにおいて上をいく存在が一緒にいるから霞んでしまう。ラルフはともかくオリビアは同じ女の子だ。将来色々と比べられナディアは霞んでいく一方だろうね」

 まだ1、2歳の子をそのように評価するなんて。そんなのまだわからない。

「あーあ。最近ではブランクの方が評判もいいし、母上も自分の孫よりも血の繋がらない孫の方を可愛がっているし、僕に対しても母上は冷たい視線を向けるようになったからやっていられないよ」

「あっ……では女性と遊ぶのを控「は?何か言った?」」

 その視線は彼の女遊びが酷いから。結婚してからも、いや、ますます増えていく彼の恋人。誰一人側室にしていないのがまだ救い。

「僕がすることに口出ししないでくれる?仕事はちゃんとしてるし、私的な時間をごちゃごちゃ言われる覚えはないよ」

 そう言う彼の瞳は酷く冷たい。

「でも……わ、私と婚姻しましたし…………」

「僕はするつもりなどなかったけどね。君は所詮一人の遊び相手でしかなかったのに。覚悟もなんの思いもなく周りに言われてした結婚になぜ僕が気を使わないといけないんだい?なんで生活を変えないといけないんだい?」

 勇気を出して諫める言葉を口にしたが、彼の気分を害しただけだった。周りに無理矢理結婚させられたとはいえ婚姻書に署名したのは彼。最後に決断を下したのは彼のはず。

「私はあなたと仲良くやっていけたらと思っただけです……」

 初めて見たときから素敵な人だと思っていた。遊び相手でもいいから近づきたかった。彼の妻となることができ本当に嬉しかった。

 なのに今自分はなぜこんなに虚しいのか。

「僕は君がやることに口出ししていないよ。僕のやることに口出しして気分を悪くしているのは君だ。仲良くする気があるなら黙っていたら?」

「そんな……」

 そもそも彼がいろんな女性に手を出すのが悪いのでは?婚姻前とは違って色々な女性と身体の関係を結びまくっている。

「ああ、うるさい!気が休まらない!ちょっと出てくるよ」

 こんな深夜に、今日はどこの令嬢の元へ行くというの?

 扉に向かい歩いていくルカ。出ていく瞬間ポツリと呟く。

「はあ、子供ができなければ良かったのに」

「!?」

 その言葉に目を見開くラシア。

 しかし彼を引き止めることも、反論することもできなかった。




~~~~~~~~~~


「ナディア様お上手です」

「あい、どうじょ」

「ありがとうございます」

 ラシアは王宮の庭園にいた。娘のナディアと侍女とともに。娘と侍女たちがボール遊びをしているのをぼーと見つめていた。

 侍女たちはナディアがまだおぼつかない足で一生懸命歩き、ボールを転がしたり手渡しする様子を見ては可愛い可愛いと声を上げる。

 可愛い、可愛い……、可愛い…………?

 本当に?

 父親に存在を否定されたこの子が……?






 は!いけない………そんなことを思うなんて。

 ナディアは可愛い娘だ。唯一無二の自分の宝物。
 自分とルカを繋いでくれた娘。

 でも

 自分と同じように
 彼の心を繋ぎ止めておくことはできない娘。


 ラシアは両方の手で自らの頭を抱え、髪の毛を思いっきり掴む。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、こんなことを思ってしまう自分が嫌だ。なんで自分はこうなのか。

 こんな自分だから彼の心が掴めないのだ。

 こんなだから昔から父親にも大切にされなかったのだ。

 こんなだから――――

 こんなだから――――

 こんなだから――――

 

 頭がグラグラする。




 ああ、侍女たちが自分の名前をオロオロしながら呼んでいる。

 ごめんなさい。

 こんな弱い私に仕えさせて。

 こんな私に仕えるよりもあなたたちはあの人みたいな素敵な人に仕えた方が幸せだったでしょうに。



「あら?大丈夫ですか」

 涼やかな声音がラシアの耳にするりと入って来る。

「ラシア義姉様?どこか痛いのですか?」

 ゆっくりと髪の毛を離し、前を見る。

 そこには先ほど考えたあの人――――アリスがいた。

 今日も美しい、憎悪を感じるほどに。

 でもそんな相手に答えていた。

「心が……心が痛いのです」

「あらまあ、それは大変」

 全然思ってもいなそうな軽い調子に思わず笑ってしまう。

「心が痛いねえ。ふふっ、私最近ちょっと暇でして……特になんのトラブルもないし、つまらないのです。人の不幸は蜜の味……ささ、私に話してくださいな」

 アリスは何を言っているのか。

 蜜の味って。

 でも……その期待に満ちた表情、キラキラした透き通った紫色の瞳を見ていたら思わず口を開いていた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

処理中です...