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148.ラシアとルビー
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重臣会議の後、あれよあれよという間に周りの者が速やかに手続きをして第三王子ルカの側室となったルビー。彼女の頭の中は迷走していた。
え……労力って自分はこれから政務を押し付けられるの?
え……お金って祖父は支援してくれるの?
そもそも自分で役に立てるの?
いや、もうなんか色々と不安しかない。
先日の作戦会議だって、なんの作戦もなかったではないの。あれは現状説明というべきなような、でもなんやかんやいってクレアとやらが側室になるのを防げたので良いのかしら………………
………………それにしても今は息が詰まる。
そう思うのはルビーだけではない。部屋に控える侍女やルビーの正面に座る女性も同じ気持ちだった。
だが黙っているわけにもいかないわけで。
「ルビー様」
「はい……!?」
「そのように畏まらないでください。今回あの女狐を側室にすることを阻めたのはアリス様……そして、あなたのお陰なのですから」
「きょ……恐縮です。ラシア様」
なんだろう。とてつもなく緊張する。自分だって元々は貴族令嬢だったのに。7年程平民として修道院で色々な人と接するうちに心持ちが平民よりになったようだ。
目の前の女性―――ラシアは穏やかな笑みを浮かべている。だが少々その顔には疲れが見える。
「私達は同じ男性を夫として持つ身、力を合わせてルカ様を支えましょうね」
「私はあの薄情やろ……ルカ様を支えるつもりはございません」
「まあ……」
ラシアが片手を頬に当て困り顔をする。
「自分がルカ様に嫌われていることは重々承知しておりますし、もう男はこりごりです。私はアリス様やラルフ様、オリビア様に借りを返すだけです。あと生活のためです」
あの変態クソ野郎亡き今自分の力で生きていかねばならない。だが……正直なところ自分だけの力で生きていく自信がない。
周りからいろいろと言われるかもしれないが、貴族に戻り側室として生きていった方が衣食住に困ることはない。それに周りの者にごちゃごちゃ言われるのは慣れっこだ。
それにまあラルフやオリビアも可愛いし……恩もある。アリスにもちょっとばかり感謝もしている。あの子達に免じてアリスの役に立ってやらなくもないと思っている。
「ルビー様は正直な御方ですね」
くすくすと口元に指を当てて笑うラシア。どこか羨ましそうにも見えるのはルビーの思い違いだろうか。
「ふふっ。薄情野郎……彼にぴったりですね」
あら、意外と毒舌なのかもしれない。
「父に謀られ結ばれた私達です。かつて私はあの方に心を寄せ、あの方の子供を産むことができ幸せを感じていたものです。少々傲慢な考えかもしれませんが、権力者である父を持つ私をこのように蔑ろにするなどと思いもしませんでした。あのような品のかけらもない女にのぼせ上がるとは……」
ラシアの表情からは悲しみも憎悪も感じられない。彼女が思うのは一体……なんなのだろうか。ルビーにはわからない。
「離縁はなさらないのですか?」
「娘のナディアもおりますし、もうこの歳ですと今更離縁したところでメリットがないと言いますか」
ちらとラシアが視線を向ける先にルビーも目を向ける。そこには双子たちより少し大きいと思われる子供――ルカとラシアの長女ナディアが座っている。
母親譲りのクリーム色の髪の毛と瞳を持つナディアは顔つきも優しく、見ているほんわかと癒されるような美少女である。
それに……ルビーはラシアに視線を戻して彼女を観察する。まだ十分若いし、美人だ。自分よりも遥かに。
しかも権力者の娘、再婚の話でもすぐに来そうだ。
……いや、それが煩わしいのかもしれない。
男というものは面倒だから――――――。
「それに、王妃様もアリス様も味方になってくださっていますし……」
そこで一旦言葉を止め、見つめてくる目に鋭さを感じドキリとする。
「バカにされて、あの女に地位を奪われて終わり――――などとは、ねえ?」
その目には絶対に許さないと書かれている。
怖っ!
な、なにか他の話題に……
「あ……あの!アリス様とは仲いいんですか!?」
とっさに口に出していたのはアリスのことだった。
「仲が良いかはわかりませんが、色々と感謝していますわ」
「えっ!?」
少し意外である。追放前にラシアとは挨拶程度の仲であったが、なよなよして自分を卑下しつつ、可哀想な自分に酔うようなタイプだと思っていたのだが……。
「意外ですか?」
「はい。あっ、いえ、はい」
「ふふっ。雰囲気が柔らかくなられましたが、素直なところは変わりませんね」
「えっ!?」
それはどういう意味なのか。
「欲しいものは欲しいといい、我儘をたくさん言って。宰相にだめだと言われても駄々をこねて……結局手に入らなくて。でもそれにめげずにまた同じことを繰り返す」
なんだろう。ディスられてるのだろうか。
「羨ましかった。私は自分の本心を口に出すことが苦手で。兄や弟に比べて何か秀でてもいない、女だし後回しにされて当然だと思っていました。だから地位や肩書以外何も持っていないのに強気に出られるルビーさんは私の憧れでした。真似しようとも思いましたが、できず……」
「そのせいで自滅しましたけどね」
うん、真似しなくて正解。
この人自分のこと大人しいみたいな言い方しているが、結構口が悪い気がする。
ふふ、とルビーの言葉に笑うラシア。
「アリス様に向けられる人々の関心が私も欲しくて……でも嘆くばかりの私は距離を置かれるばかり。そんな私を気にかけてくれたのは妬ましくて仕方ないアリス様でした」
その言葉に胸がムカムカしてくるルビー。なんか……なんかアリスの私への態度とラシアへの態度全然違わない?自分には自ら近づいてきたことなどなかったような。
「アリス様にそんな気はなかったかもしれませんが、本当に私の心は救われたのです」
ラシアはゆっくりと目を瞑り思いを馳せる。
え……労力って自分はこれから政務を押し付けられるの?
え……お金って祖父は支援してくれるの?
そもそも自分で役に立てるの?
いや、もうなんか色々と不安しかない。
先日の作戦会議だって、なんの作戦もなかったではないの。あれは現状説明というべきなような、でもなんやかんやいってクレアとやらが側室になるのを防げたので良いのかしら………………
………………それにしても今は息が詰まる。
そう思うのはルビーだけではない。部屋に控える侍女やルビーの正面に座る女性も同じ気持ちだった。
だが黙っているわけにもいかないわけで。
「ルビー様」
「はい……!?」
「そのように畏まらないでください。今回あの女狐を側室にすることを阻めたのはアリス様……そして、あなたのお陰なのですから」
「きょ……恐縮です。ラシア様」
なんだろう。とてつもなく緊張する。自分だって元々は貴族令嬢だったのに。7年程平民として修道院で色々な人と接するうちに心持ちが平民よりになったようだ。
目の前の女性―――ラシアは穏やかな笑みを浮かべている。だが少々その顔には疲れが見える。
「私達は同じ男性を夫として持つ身、力を合わせてルカ様を支えましょうね」
「私はあの薄情やろ……ルカ様を支えるつもりはございません」
「まあ……」
ラシアが片手を頬に当て困り顔をする。
「自分がルカ様に嫌われていることは重々承知しておりますし、もう男はこりごりです。私はアリス様やラルフ様、オリビア様に借りを返すだけです。あと生活のためです」
あの変態クソ野郎亡き今自分の力で生きていかねばならない。だが……正直なところ自分だけの力で生きていく自信がない。
周りからいろいろと言われるかもしれないが、貴族に戻り側室として生きていった方が衣食住に困ることはない。それに周りの者にごちゃごちゃ言われるのは慣れっこだ。
それにまあラルフやオリビアも可愛いし……恩もある。アリスにもちょっとばかり感謝もしている。あの子達に免じてアリスの役に立ってやらなくもないと思っている。
「ルビー様は正直な御方ですね」
くすくすと口元に指を当てて笑うラシア。どこか羨ましそうにも見えるのはルビーの思い違いだろうか。
「ふふっ。薄情野郎……彼にぴったりですね」
あら、意外と毒舌なのかもしれない。
「父に謀られ結ばれた私達です。かつて私はあの方に心を寄せ、あの方の子供を産むことができ幸せを感じていたものです。少々傲慢な考えかもしれませんが、権力者である父を持つ私をこのように蔑ろにするなどと思いもしませんでした。あのような品のかけらもない女にのぼせ上がるとは……」
ラシアの表情からは悲しみも憎悪も感じられない。彼女が思うのは一体……なんなのだろうか。ルビーにはわからない。
「離縁はなさらないのですか?」
「娘のナディアもおりますし、もうこの歳ですと今更離縁したところでメリットがないと言いますか」
ちらとラシアが視線を向ける先にルビーも目を向ける。そこには双子たちより少し大きいと思われる子供――ルカとラシアの長女ナディアが座っている。
母親譲りのクリーム色の髪の毛と瞳を持つナディアは顔つきも優しく、見ているほんわかと癒されるような美少女である。
それに……ルビーはラシアに視線を戻して彼女を観察する。まだ十分若いし、美人だ。自分よりも遥かに。
しかも権力者の娘、再婚の話でもすぐに来そうだ。
……いや、それが煩わしいのかもしれない。
男というものは面倒だから――――――。
「それに、王妃様もアリス様も味方になってくださっていますし……」
そこで一旦言葉を止め、見つめてくる目に鋭さを感じドキリとする。
「バカにされて、あの女に地位を奪われて終わり――――などとは、ねえ?」
その目には絶対に許さないと書かれている。
怖っ!
な、なにか他の話題に……
「あ……あの!アリス様とは仲いいんですか!?」
とっさに口に出していたのはアリスのことだった。
「仲が良いかはわかりませんが、色々と感謝していますわ」
「えっ!?」
少し意外である。追放前にラシアとは挨拶程度の仲であったが、なよなよして自分を卑下しつつ、可哀想な自分に酔うようなタイプだと思っていたのだが……。
「意外ですか?」
「はい。あっ、いえ、はい」
「ふふっ。雰囲気が柔らかくなられましたが、素直なところは変わりませんね」
「えっ!?」
それはどういう意味なのか。
「欲しいものは欲しいといい、我儘をたくさん言って。宰相にだめだと言われても駄々をこねて……結局手に入らなくて。でもそれにめげずにまた同じことを繰り返す」
なんだろう。ディスられてるのだろうか。
「羨ましかった。私は自分の本心を口に出すことが苦手で。兄や弟に比べて何か秀でてもいない、女だし後回しにされて当然だと思っていました。だから地位や肩書以外何も持っていないのに強気に出られるルビーさんは私の憧れでした。真似しようとも思いましたが、できず……」
「そのせいで自滅しましたけどね」
うん、真似しなくて正解。
この人自分のこと大人しいみたいな言い方しているが、結構口が悪い気がする。
ふふ、とルビーの言葉に笑うラシア。
「アリス様に向けられる人々の関心が私も欲しくて……でも嘆くばかりの私は距離を置かれるばかり。そんな私を気にかけてくれたのは妬ましくて仕方ないアリス様でした」
その言葉に胸がムカムカしてくるルビー。なんか……なんかアリスの私への態度とラシアへの態度全然違わない?自分には自ら近づいてきたことなどなかったような。
「アリス様にそんな気はなかったかもしれませんが、本当に私の心は救われたのです」
ラシアはゆっくりと目を瞑り思いを馳せる。
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