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143.側室問題②
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3人は気づく。
王妃と公爵とハーゲ伯爵の口角が緩やかに上っていることに。
――――――なぜ?
答えはすぐに出た。
「陛下、私は嫌です」
室内が沈黙に満ちた。
皆の視線が声の主であるアリスに向かう。
「ア…アリス様……今何かおっしゃいましたか……?」
呆然としながらもなんとか声を絞り出したのは男爵だ。
「あら聞こえなかったかしら?あなた、私声小さかったかしら?」
「いや、聞こえていたよ」
ブランクの耳にはそれはもうがっつりと聞こえていた。
「そうよね。あら嫌だわ。男爵まだお若いのにお耳が遠いなんて!あら、失礼。もしかして席が離れていたからかしら?」
オホホホと笑うアリスに男爵はカッと頬が赤くなる。
発言力は増したようでもまだ所詮は末席。男爵の反応に公爵やハーゲ伯爵は喉の奥だけで笑う。
――――――――――面白くなってきた。
「聞き返すなど失礼いたしました。謝罪申し上げます。ですが聞き取れなかったわけではないのですよ?陛下が賛成なさろうとしたことに異議を唱えるなど無礼な真似をアリス様がするとは思わなかったものですから」
馬鹿にしたように笑う男爵に周囲の者もつられたように笑う。そうだ、今回は陛下が味方なのだ。勝算は十分にある。
彼に続こうと声を上げかけるもののアリスのほうが早かった。
「陛下!少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ……と……」
王はちらりとルカを見た。ぶんぶんと思いっきり首を横に振るのが見えた。アリスに発言の許可を与えたら最後……嫌な予感がする。
ここは心を鬼にして、時間がないと口を開こうとしたが……ピタリと止まった。
アリスが………………泣いている!?
「…………私は……私は……口惜しゅうございます!」
ぐわっと急に大きな声を出されてびくつく男たち。
「陛下に尽くしている王妃様はもちろんのこと……マリーナ義姉様もラシア義姉様も下半身バカのお花畑脳に蔑ろにされて」
「「「!?」」」
な……なんたるいい草。
「下半身から芽生えた想いを声高らかに気持ち気持ちと前面に押し出して……同じ男性だから気持ちがわかるのでしょうか?自分の夫がごちゃごちゃ言うのはまあ100歩いや、10000歩譲って生意気なと思うくらいでございますが。外野が他の女をあてがうなど迷惑極まりないですわ」
「な!?失礼な!アリス様は陛下が愛する女性を側室にしたいという想いを蔑ろにするのですか!?」
「まあ!陛下が愛するのは王妃様ですわ!」
「そ……そうですが。でも、男というものは一人の女性では満足できないと言いますか……」
「既に側室は何人もおります」
「…………新しい女人が欲しいと言いますか……」
「コントロール不能であるならばもうちょん切ってしまったら宜しいのでは?」
ちらりと視線を下に向けられ思わず股間を押さえる一人の大臣。
「アリス様。陛下はとりあえず横においておきまして、皇太子様につきましては跡継ぎがいないわけですし、側室を迎えるのは悪くないと思いますが」
「皇太子様本人が望んでいないのですから不要でしょう?ルカ義兄様も我が夫もラルフもおります。無理して側室を迎える必要はないのでは?」
「ですが……」
「無理矢理誰かをあてがったとして皇太子様のものが役に立たなかったらどうするのですか?そうなったら誰が恥をかくとお思いで?それとルカ様、夫はさておき我が子ラルフに何か不満でも?」
「…………………………」
なんともお下劣な言いようだが、その通りだ。そしてラルフに文句などない。この国の神童に文句などつけられるはずがない。
「アリス」
黙る大臣の後に言葉を発したのはルカだった。大臣たちの頬が少し上気する。王族である彼ならばアリスに対抗できるかもしれない。
「クレアと僕は想い合っているから側室に迎えたい」
「…………………………」
「僕には他に側室はいないよ」
「女遊びはすごいですけどね」
「…………陛下と違って妻と愛し合っているわけでもない。そして何よりも現在彼女は妻の役目を放棄している。娘も実家に連れ帰り公務もしない、夜の相手もしない。そんな身も心も寂しい僕が側室を迎えるのは駄目なのかい?」
「…………………………」
「それに最悪役に立たないあの女は離縁してクレアを正妃に据えるのも「王子!」」
大声を出したのはハーゲ伯爵だ。彼の顔は少し青褪めている。そんな彼を薄く笑いながらすまない、冗談だよというルカ。
アリスはそんな彼を真正面から見据えるとニコリと笑う。
「クレアさんを側室にするのも正妃にするのも反対です」
「君に口出しする権利などないだろう?僕たちは王族ではあるが他人だよ?君は僕の女ではないのだから……余計なお世話だ」
ルカの言葉にクスクスと笑う大臣たち。
空気が変わる。
その空気に一部の者たちはゾクッと背中に寒気が走った。
「夫婦の問題に外野が口を出すのは野暮というものですわね」
「わかっているじゃないか。だったら……」
黙っているといい――――――――――
ルカはアリスに勝ったとばかりに彼女を見下すような嫌な笑みを浮かべる。
その笑みを見てゾゾゾゾゾゾォと身体全体に怖気が走ったのは王妃と皇太子とブランクだった。もちろん息子の、兄弟の表情に対してではない。
ルカは母とブランクの異変に
そして
アリスの禍々しい笑顔に気づく。
王妃と公爵とハーゲ伯爵の口角が緩やかに上っていることに。
――――――なぜ?
答えはすぐに出た。
「陛下、私は嫌です」
室内が沈黙に満ちた。
皆の視線が声の主であるアリスに向かう。
「ア…アリス様……今何かおっしゃいましたか……?」
呆然としながらもなんとか声を絞り出したのは男爵だ。
「あら聞こえなかったかしら?あなた、私声小さかったかしら?」
「いや、聞こえていたよ」
ブランクの耳にはそれはもうがっつりと聞こえていた。
「そうよね。あら嫌だわ。男爵まだお若いのにお耳が遠いなんて!あら、失礼。もしかして席が離れていたからかしら?」
オホホホと笑うアリスに男爵はカッと頬が赤くなる。
発言力は増したようでもまだ所詮は末席。男爵の反応に公爵やハーゲ伯爵は喉の奥だけで笑う。
――――――――――面白くなってきた。
「聞き返すなど失礼いたしました。謝罪申し上げます。ですが聞き取れなかったわけではないのですよ?陛下が賛成なさろうとしたことに異議を唱えるなど無礼な真似をアリス様がするとは思わなかったものですから」
馬鹿にしたように笑う男爵に周囲の者もつられたように笑う。そうだ、今回は陛下が味方なのだ。勝算は十分にある。
彼に続こうと声を上げかけるもののアリスのほうが早かった。
「陛下!少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ……と……」
王はちらりとルカを見た。ぶんぶんと思いっきり首を横に振るのが見えた。アリスに発言の許可を与えたら最後……嫌な予感がする。
ここは心を鬼にして、時間がないと口を開こうとしたが……ピタリと止まった。
アリスが………………泣いている!?
「…………私は……私は……口惜しゅうございます!」
ぐわっと急に大きな声を出されてびくつく男たち。
「陛下に尽くしている王妃様はもちろんのこと……マリーナ義姉様もラシア義姉様も下半身バカのお花畑脳に蔑ろにされて」
「「「!?」」」
な……なんたるいい草。
「下半身から芽生えた想いを声高らかに気持ち気持ちと前面に押し出して……同じ男性だから気持ちがわかるのでしょうか?自分の夫がごちゃごちゃ言うのはまあ100歩いや、10000歩譲って生意気なと思うくらいでございますが。外野が他の女をあてがうなど迷惑極まりないですわ」
「な!?失礼な!アリス様は陛下が愛する女性を側室にしたいという想いを蔑ろにするのですか!?」
「まあ!陛下が愛するのは王妃様ですわ!」
「そ……そうですが。でも、男というものは一人の女性では満足できないと言いますか……」
「既に側室は何人もおります」
「…………新しい女人が欲しいと言いますか……」
「コントロール不能であるならばもうちょん切ってしまったら宜しいのでは?」
ちらりと視線を下に向けられ思わず股間を押さえる一人の大臣。
「アリス様。陛下はとりあえず横においておきまして、皇太子様につきましては跡継ぎがいないわけですし、側室を迎えるのは悪くないと思いますが」
「皇太子様本人が望んでいないのですから不要でしょう?ルカ義兄様も我が夫もラルフもおります。無理して側室を迎える必要はないのでは?」
「ですが……」
「無理矢理誰かをあてがったとして皇太子様のものが役に立たなかったらどうするのですか?そうなったら誰が恥をかくとお思いで?それとルカ様、夫はさておき我が子ラルフに何か不満でも?」
「…………………………」
なんともお下劣な言いようだが、その通りだ。そしてラルフに文句などない。この国の神童に文句などつけられるはずがない。
「アリス」
黙る大臣の後に言葉を発したのはルカだった。大臣たちの頬が少し上気する。王族である彼ならばアリスに対抗できるかもしれない。
「クレアと僕は想い合っているから側室に迎えたい」
「…………………………」
「僕には他に側室はいないよ」
「女遊びはすごいですけどね」
「…………陛下と違って妻と愛し合っているわけでもない。そして何よりも現在彼女は妻の役目を放棄している。娘も実家に連れ帰り公務もしない、夜の相手もしない。そんな身も心も寂しい僕が側室を迎えるのは駄目なのかい?」
「…………………………」
「それに最悪役に立たないあの女は離縁してクレアを正妃に据えるのも「王子!」」
大声を出したのはハーゲ伯爵だ。彼の顔は少し青褪めている。そんな彼を薄く笑いながらすまない、冗談だよというルカ。
アリスはそんな彼を真正面から見据えるとニコリと笑う。
「クレアさんを側室にするのも正妃にするのも反対です」
「君に口出しする権利などないだろう?僕たちは王族ではあるが他人だよ?君は僕の女ではないのだから……余計なお世話だ」
ルカの言葉にクスクスと笑う大臣たち。
空気が変わる。
その空気に一部の者たちはゾクッと背中に寒気が走った。
「夫婦の問題に外野が口を出すのは野暮というものですわね」
「わかっているじゃないか。だったら……」
黙っているといい――――――――――
ルカはアリスに勝ったとばかりに彼女を見下すような嫌な笑みを浮かべる。
その笑みを見てゾゾゾゾゾゾォと身体全体に怖気が走ったのは王妃と皇太子とブランクだった。もちろん息子の、兄弟の表情に対してではない。
ルカは母とブランクの異変に
そして
アリスの禍々しい笑顔に気づく。
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