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137.無力
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そうよ、あんな男クソ男以外の何者でもないわよ。
ギロリとアリスを睨みつけたのに彼女は酷く満足げだ。それが更にルビーの怒りを加速させた。
「あんの男ふっざけんじゃないわよ!そりゃあちょっと王子と婚約破棄とか平民落ちとか珍しいかもしれないけど……だあれが一番不幸な人間よ!勝手に決めつけるんじゃないわよ!っていうか自分の理想とかけ離れていくからって赤子を手に掛けようとするなんて……あり得ないでしょう!クズ男が!可哀想な人間に戻してあげるって、お前の頭が一番可哀想だっつーの!イカレ野郎が!」
ルビーの罵声にブランクや宰相や侍女たちはぽっかーんと口を開けている。双子ちゃんはおお、と目をまん丸くしている。
「あらあら、ずいぶん溜まっていたのかしら?それとも平民に染まったのかしら……随分と粗暴な口調になってしまったわねぇ」
「アリス様……」
のほほんとしたアリスの様子に宰相は呆れた視線を向ける。
「何のほほんとしているのよ!?あんたが煽ったんでしょ!?ちゃんと聞きなさいよ!」
「あらあら、失礼」
イタズラがバレたときのようにコロコロと笑うアリスを睨みつけた後ルビーは続ける。
「あいつが捕まって安心。自分への執着はなくなったみたいだし安心。終わった終わった…………………なんて思えるかーーーーーー!」
「では……どう思っていて?」
アリスの艶のある声音がやけにルビーの心に頭に浸透する。
どう思っていて?
そんなの決まっている。
「許せない……」
「なんて?小さくて聞き取れないわ」
「許せない」
「あらあらその程度の気持ちなの?」
「この私をこけにするなんて何様なの!?ぜっっったいに許さない!!!あいつを痛い目にあわせてやりたい!!!」
そう絶叫するとぜえはあと荒い息を吐く。
シーーーーンと静まり返る室内にパチパチと手を叩く音が響く。
もちろんアリスだ。
「素敵よルビーさん!それでこそあなただわ。やられっぱなしで終わり?そんなことを受け入れるあなたは私の知るルビーさんではないわ。だってあなた性悪だもの。隠すことはできてもその心にはドロドロとしたどす黒い感情が渦巻いていると思っていたわ!」
とても良い笑顔なので褒められていると錯覚しそうだが内容が内容なだけに顔が引き攣るルビー。自分の高揚していた気持ちが静まってくる。
この女は相変わらず失礼というか……
思考がヤバいわ。
最後にパーン!と手を叩いたアリスはダンっと立ち上がるとルビーに近づきその頬にそっと触れる。
「素敵よ……輝いているわ……!取り繕った心に淀んだ瞳よりも欲望を宿した瞳の方がとっても素敵」
そう言うアリスの恍惚とした瞳にルビーはドキリとする。
「そもそも何を遠慮しているの?あなたを襲ったやつに敵意を剥き出しにして何が悪いのよ。自分を害するものは敵……敵に情けは無用よ?」
そうでしょうとも。彼女はいつも情け無用だ。
「わかってるわよ。でも……」
「でも!?」
うおっびっくりした。まだ言うかと言いたげなアリス。
自分だって、でもなんて言いたくない。そんな言葉を続けたくない。こんな惨めな自分は嫌だ。
でも……
「……でもやり返したくても何ができるというの?何も持たない、ただの平民に過ぎない私ができることなんて何も無いじゃない!」
このまま終わり?ふざけんじゃないわよ!私をこんなにこけにして……許せないわ!
でも、でも……。
「私には今地位もない……
人脈もない……
お金もない……
それなら捨て身でやり返す?それで今度は自分が捕まる?いやよそんなの……」
自分がどうなってもよいから痛い目にあわせる勇気なんてない。
追放後、失ったものの代わりに得たと思っていたものはまやかしだった。
自分は
今
無い無い尽くしだ。
ははっ
「何かされたって相手が捕まって終わり、それが普通でしょ」
捕まって刑が決まる。処刑、懲役~年、どこかへ奉仕活動、それが何かはそれぞれだ。ではそれに口出しできるのか?捕まってる人間に何かをすることはできるのか?
力を持たぬ平民にそんなことはできない。
やるならば捨て身だ。
「そうよ、私は今その辺にいる平民なのよ。普通から外れたことなんてできないのよ」
アリスとは、いやこの場にいる者達とは違うのだ。
ブランクもラルフもオリビアも祖父も侍女たちも何かしら持っている。それは地位、金、人脈様々である。
持っているから普通とは違うことができるのだ。自分はもうそんなことを考えることさえ難しい。だって考えたからといって何ができるというのだ。虚しくなるだけだ。
あっヤバイ涙が出そう。
自分が落ちぶれたという事実がどばっと波のように襲ってくる。これで良かった……ちゃんと報いを受けて腐った自分を捨てられたんだから……そう思ってきた。
でも、
でもやっぱり自分が持っていたものは普通の人には無いもので、能力のない自分が持つことができていたのはただ運が良かっただけ。自分の力で取り戻すなんて到底無理なもので。
できれはやはり失いたくなどなかった。
ギロリとアリスを睨みつけたのに彼女は酷く満足げだ。それが更にルビーの怒りを加速させた。
「あんの男ふっざけんじゃないわよ!そりゃあちょっと王子と婚約破棄とか平民落ちとか珍しいかもしれないけど……だあれが一番不幸な人間よ!勝手に決めつけるんじゃないわよ!っていうか自分の理想とかけ離れていくからって赤子を手に掛けようとするなんて……あり得ないでしょう!クズ男が!可哀想な人間に戻してあげるって、お前の頭が一番可哀想だっつーの!イカレ野郎が!」
ルビーの罵声にブランクや宰相や侍女たちはぽっかーんと口を開けている。双子ちゃんはおお、と目をまん丸くしている。
「あらあら、ずいぶん溜まっていたのかしら?それとも平民に染まったのかしら……随分と粗暴な口調になってしまったわねぇ」
「アリス様……」
のほほんとしたアリスの様子に宰相は呆れた視線を向ける。
「何のほほんとしているのよ!?あんたが煽ったんでしょ!?ちゃんと聞きなさいよ!」
「あらあら、失礼」
イタズラがバレたときのようにコロコロと笑うアリスを睨みつけた後ルビーは続ける。
「あいつが捕まって安心。自分への執着はなくなったみたいだし安心。終わった終わった…………………なんて思えるかーーーーーー!」
「では……どう思っていて?」
アリスの艶のある声音がやけにルビーの心に頭に浸透する。
どう思っていて?
そんなの決まっている。
「許せない……」
「なんて?小さくて聞き取れないわ」
「許せない」
「あらあらその程度の気持ちなの?」
「この私をこけにするなんて何様なの!?ぜっっったいに許さない!!!あいつを痛い目にあわせてやりたい!!!」
そう絶叫するとぜえはあと荒い息を吐く。
シーーーーンと静まり返る室内にパチパチと手を叩く音が響く。
もちろんアリスだ。
「素敵よルビーさん!それでこそあなただわ。やられっぱなしで終わり?そんなことを受け入れるあなたは私の知るルビーさんではないわ。だってあなた性悪だもの。隠すことはできてもその心にはドロドロとしたどす黒い感情が渦巻いていると思っていたわ!」
とても良い笑顔なので褒められていると錯覚しそうだが内容が内容なだけに顔が引き攣るルビー。自分の高揚していた気持ちが静まってくる。
この女は相変わらず失礼というか……
思考がヤバいわ。
最後にパーン!と手を叩いたアリスはダンっと立ち上がるとルビーに近づきその頬にそっと触れる。
「素敵よ……輝いているわ……!取り繕った心に淀んだ瞳よりも欲望を宿した瞳の方がとっても素敵」
そう言うアリスの恍惚とした瞳にルビーはドキリとする。
「そもそも何を遠慮しているの?あなたを襲ったやつに敵意を剥き出しにして何が悪いのよ。自分を害するものは敵……敵に情けは無用よ?」
そうでしょうとも。彼女はいつも情け無用だ。
「わかってるわよ。でも……」
「でも!?」
うおっびっくりした。まだ言うかと言いたげなアリス。
自分だって、でもなんて言いたくない。そんな言葉を続けたくない。こんな惨めな自分は嫌だ。
でも……
「……でもやり返したくても何ができるというの?何も持たない、ただの平民に過ぎない私ができることなんて何も無いじゃない!」
このまま終わり?ふざけんじゃないわよ!私をこんなにこけにして……許せないわ!
でも、でも……。
「私には今地位もない……
人脈もない……
お金もない……
それなら捨て身でやり返す?それで今度は自分が捕まる?いやよそんなの……」
自分がどうなってもよいから痛い目にあわせる勇気なんてない。
追放後、失ったものの代わりに得たと思っていたものはまやかしだった。
自分は
今
無い無い尽くしだ。
ははっ
「何かされたって相手が捕まって終わり、それが普通でしょ」
捕まって刑が決まる。処刑、懲役~年、どこかへ奉仕活動、それが何かはそれぞれだ。ではそれに口出しできるのか?捕まってる人間に何かをすることはできるのか?
力を持たぬ平民にそんなことはできない。
やるならば捨て身だ。
「そうよ、私は今その辺にいる平民なのよ。普通から外れたことなんてできないのよ」
アリスとは、いやこの場にいる者達とは違うのだ。
ブランクもラルフもオリビアも祖父も侍女たちも何かしら持っている。それは地位、金、人脈様々である。
持っているから普通とは違うことができるのだ。自分はもうそんなことを考えることさえ難しい。だって考えたからといって何ができるというのだ。虚しくなるだけだ。
あっヤバイ涙が出そう。
自分が落ちぶれたという事実がどばっと波のように襲ってくる。これで良かった……ちゃんと報いを受けて腐った自分を捨てられたんだから……そう思ってきた。
でも、
でもやっぱり自分が持っていたものは普通の人には無いもので、能力のない自分が持つことができていたのはただ運が良かっただけ。自分の力で取り戻すなんて到底無理なもので。
できれはやはり失いたくなどなかった。
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