【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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129.ルビーちゃん教えてby双子②

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 ルビーの話を聞いていた双子は残念そうに叫んだ。

「「え~~~~ありきたり~~~~!」」

「あなたたち本当に失礼ね」

「命救ってもらって恋に落ちるって……そんなんだったらお母様たくさんの人に惚れられちゃうじゃん、ねーラルフ?」

「ねーオリビア」

「ふふん、あなたたち賢いようでもまだまだ子供ね……乙女の心がわからないんだから」

 先程のことを根に持っていたルビーはふふん、と勝ち誇ったように言う。が、

「乙女……」

 ポツリとラルフが呟いた。双子は顔を見合わすと爆笑した。

「「ははははは」」

「何がおかしいのよ」

「「普通に乙女って年ではないでしょう?」」

「…………………………」

 本当に失礼な子供たちだ。いやいやいや、子供は素直なものだ落ち着け自分。深呼吸した後咳払いをするルビー。

「いい?あなたたち。私は命を助けてもらったから惚れたわけじゃないわ」

「「へー……」」

「つまらなそうにするんじゃないわよ!運命の再会!彼自身の強さ、優しさ、人柄、そして……私を見つめる熱のこもった瞳……!私は彼を知っていくたびに心が惹かれていったのよ……。決して、決して!救われたから一目惚れしたなどという理由ではないわ!」

「「へー……」」

 運命の再会も何も今まで修道院で会ってたはずなのに、記憶になかっただけだろうに。ルビーちゃんは面食いなのかもしれない。

 こいつら……本当に興味なさそうに。

 ま、まあ子供にまだ恋愛云々はわからないわよね。いかんいかん冷静になれ自分。

「じゃあ、旦那さんはルビーちゃんのどこに惹かれたんだろうね?」

 オリビアの問いにルビーは一瞬動きが止まった。そういえば聞いたことなかった。

「さ、さあ……どこに惹かれたのかしらね?」

「はい!見た目!」

「はい!スタイル!」

「はい!治癒魔法!」

「はい!仕事への姿勢!」

「はい!性格!」

「あははは!それはないない!」

 完全に遊ばれている。いい加減怒ってもいいだろうか?青筋が浮かぶルビー。騒ぐ双子たちはあることに気づく。

「あれ?でもどうやって修道院出たの?」

「どれだけ想い合ってても結ばれないでしょ?」

 ていうか本人が散々悔しそうにそう言っていた。なのになぜ今ここにいるのだろうか?

「「えっ!もしかして逃げた……とか?」」

「違うって言ってるでしょうが!」

 引き気味に問われた言葉に思わず大きい声が出てしまう。

「恩赦が出たのよ……2年前に」

「「…………ああ」」

 彼らは納得したようだった。しかしその顔は二人共悲しげだった。

 2年前、皇太子マキシムと妃のマリーナとの間に待望の子供が生まれた。しかも生まれた子は男の子で跡継ぎの誕生だと国中お祭り騒ぎだった。王も王妃も皇太子もマリーナも大喜びだった。

 だがそれは長くは続かなかった。

 それはさておき当時特に王の喜びは凄まじく、軽犯罪の者に限り恩赦を与えた。看守や修道長などからの評判が良いもの、彼らが改心したと判断した者がその対象となった。

 ノラ修道院ではルビーは選ばれた。反対の声は上がらなかった。

 一番戸惑ったのは本人だった。動揺するルビーの顔を見て修道長はゆっくり考えなさいと穏やかな笑みで伝えた。


 ルビーは考えた。


 修道院から出た後生きていけるのか?

 否、どう考えても無理だ。

 

 修道院は規則も厳しい。仕事も厳しい。だが食うにも寝るところにも困らない。蝶よ花よと育てられてきた自分がここから出て自分の力だけで生きていく自信はない。

 甘ちゃんと言われようと無理なものは無理だ。

 実家には……帰れない。宰相である祖父の手前父は自分を受け入れない。祖父は些か腹黒いところもあるが王家に対しては忠誠を誓っている。王家の手を煩わせた自分を許すことなど絶対にない。

 どこの家にも所属できない以上平民として暮らすしかない。

 このまま修道院に居続ける……それが一番良い。



 真剣に何日も眠らずに出した結論を修道長に申し出た。

 彼女はニッコリ笑うと

『早く出て行ってちょうだい』

 と言って、いつの間にやら勝手に荷物を詰め込まれた鞄を持たされ追い出された。門が閉まるとき

『ボランティアには来てちょうだいね。あなたなら大歓迎よ』

 と器用にウインクしながら言われた。もう呆然とするしかなかった。

 いやいや、どうすれば良いのだ。

 頼れる人もいなければ、一銭もないのだが……。

 その場から動くことができず立ち尽くすルビーの前に現れた人。


 それが―――――

「トキだったのよ」

「「だろうね、他の人だったら驚きだよ」」

「…………まあそうよね」

 子供たちの言うことは間違っていないのだが、人の感動話しを冷静に返されるのはなんとも複雑な気分である。

「そこでプロポーズされたのよ」

「ちなみになんて言われたの?」

 ワクワクとした様子でオリビアが聞いてくる。

「『僕が守ります。結婚してください』って」

「「キャー!」」

 二人が顔を隠して黄色い悲鳴をあげる。どこぞの若い娘二人のようだ。前から思っていたがラルフはちょっと言動がこう……オネエっぽい。顔が可愛いので違和感はないが。

 そんなことを考えていると

「「ありきたりー!」」

 とまた言われた。さっきの黄色い悲鳴はなんだったのか。

「ありきたりで悪かったわね!でも私には感動の瞬間だったのよ!」

「住む場所ゲット~」

「食い扶持ゲット~」

「そうそう本当に助かったわ~……じゃないわよ!」

「まあまあルビーちゃん。わかってるよ」

「ルビーちゃんにとっては運命の出会い、その人からのプロポーズ嬉しかったわよね?」

 急に大人びた反応して何よ。調子が狂うじゃない。

「あまりにも幸せそうに話すから……ねぇオリビア?」

「それをからかいたくなるのが人間というものでしょう?ねぇラルフ?」

 お互い顔を近づけて頬に片手を添えて……本当にどこのおばさまたちだ。




 コンコン

 少し控えめにノックされる玄関の扉。

「「ルビーちゃん、旦那様!?早く開けて!早く開けて!」」

「痛い痛い。わかってるわよ!」

 興奮気味にバシバシと叩いてくる双子。どれだけ人の旦那に会うのを楽しみにしているのか。思わず笑みがこぼれる。というかなんか照れくさい。


 ガチャリと扉を開けると現れたのは――――――。







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