【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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124.アリスにお任せ①

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「陛下、発言の許可を願います」

「あ、ああ構わない」

 何が起こる?王は冷や汗が出てきた。

「ハンカチに王族が自ら刺繍をするというご提案素晴らしいものだと思います。我ら王族が民をどれだけ思っているかを示す良い証となりましょう」

 アリスが眉髭男爵を見ながら言う。

「ありがとうございます!いやあアリス様は話が分かる御方ですなあ!」

 どこまでも上から目線の男爵。

「とは言うものの現在手が空いている王族は極わずかです」

「ええ!ですからぜひとも私の娘クレアを側室に!」

「陛下、皇太子様、ルカ様、ブランク様、私……あら?結構おりますわね」

「「「っ!?」」」

 男爵の言葉を無視して発された言葉に大臣たちから言葉にならぬ悲鳴が漏れる。王や王子に刺繍をさせるとはなんと不敬な。

「アリス、申し訳ないが吾は刺繍はできぬ」

 陛下ーーーーーー!

「倅たちもできないはすだ」

 陛下ーーーーーー!

 いやいや、できたらやろうやらせようというのか。

「おほほほほほ、そんな恐れ多いこと。冗談に決まっていますわ~!王妃様は不在ですので作業できるのは私のみですか……」

「アリス様は子育てや政務等、お忙しくて刺繍などしている暇はございますまい!ですから……」

「え?これくらい一人でできますからお構いなく」

 食い気味に発言された男爵の言葉をスパンと拒否するアリス。

「「「!?」」」

 できるわけない!
 できるわけ………ない……よな?

「そんなの無理です!」

 男爵が叫ぶ。

「自分の力量を誤るほど愚かではないつもりですが」

 さらりと受け流すアリス。

「そ……そんな…………。できなかったらどうするのです!?クレアは!?」

 もう彼女は既に刺繍をし終えていた。だって側室になるのは確実だと思っていたから。1週間で何百枚も刺繍するなんて無理だと思ったから。

「?クレア嬢の手伝いは不要ですからご自宅でお茶でもお飲みになっていれば宜しいのでは?それにできなかったらなどと……そんな人を仕事できないやつみたいに言わないでくださいませ?……………あなたじゃあるまいし」
 
 最後にボソリと付け加えられた言葉に周囲の者達はちょっと同意だった。彼は仕事ができない。

「そ……そんな…………」

 幸いなことにショックで最後の言葉は耳に入らなかった男爵。最後の手段とばかりに王に縋るような視線を向ける。



 が、



 さっと逸らされる視線。

「へ…へい……か」

 許せ男爵。

 だが…………こちらを見ないで欲しい。

「皆様が受け取る立場でしたら貧乏男爵家出身の普通顔のボインだけが取り柄の側室が刺繍したハンカチより高貴なる生まれで美貌、頭脳、魔法等全てにおいてパーフェクトな私が刺繍したハンカチの方が欲しいでしょう?」

 まあ、それは……。なんかご利益もありそうだし。

 いや、でもボインもなかなか捨て難いような。

「アリス様!失礼ですぞ!」

 憤慨する男爵にフワリと微笑むアリス。その美しさに思わず言葉を失う。ボインは見慣れていても類稀なる美貌には見慣れぬ男爵。

「陛下。では私にお任せくださるということで宜しいですね?」

「う、うむ。頼む」

「承知いたしました。それでは皆様ご機嫌よう」

 優雅なカーテシーを披露した後扉から出ていくアリス。 



 公爵は心の中でアリスに感謝した。

 なんとかクレアを側室にすることを阻めた。ハーゲ伯爵もほっとしたようだ。尋常じゃない汗をかいている。自分の娘がいずれか廃妃になるかもしれないのだから気が気でないだろう。

 だが所詮は先延ばししたに過ぎない。ルカ王子が彼女を強く望み、陛下が賛成している以上強引にでも側室にすることは可能なのだ。

 ただ王や王子が自分たちとの勢力関係を考えて強行しないだけ。まともな思考の持ち主で良かったと思う。裏ではどうあれ表立っては仲良くしていこうということだ。

 だからこそなんとか公爵や伯爵も側室に賛成したというように話をもっていきたいよう。


 あの手この手で。


 ただでさえ忙しいのに

 非常に面倒である。





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