【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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115.追放後のルビー①

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 ノラ修道院は昔ある一人の医療に長けた修道女により
病院で診てもらいたくとももらえないお金のない患者が集まる場となった。長い年月が経とうとそれは変わらず……人手が必要だった。修道院には修道女の他に行き場のない人たちや少々問題はあるが医療の心得がある者が共同生活を営んでいる。

「お疲れルビー」

「………………」

「この子に声を掛けても無駄よ。高貴なお姫様は下々の者とは話しなんてしないんだから」

「えっ!お姫様!?どこどこ~?見た~い!」

「いるじゃない!身の回りのことも満足にできない、仕事もとろい、薄汚い服を着た血筋だけ立派なお姫様が!」

 あはははははと周囲から馬鹿にしたような笑い声が上がる。

「本当にいつまでそんなお姫様みたいな傲慢な態度をとるのかしらね。もうあんたも平民だっつうの」

「………………………」

 何を言われようとも笑われようとも反応すること無く自室に戻りベッドにダイブするルビー。
 
 ――――疲れた。

 ここに来て2ヶ月程経った今日も早朝から働き通しだった。ルビーは今修道女見習いだ。自分の身の回りのことはもちろん、食事の支度、清掃、畑仕事、治療等、様々なことをしている。

 本当に本当に疲れた。

 まあ……ここに来た時に比べればまだマシだけれど、目を瞑ると蘇ってくる記憶。




「えっ?あなたこんなこともできないの?」

「…………………………」

「先輩。貴族のお茶会に参加して、お茶の飲み方やお菓子の食べ方わかりますか?」

「え?わかるわけないじゃない。そんなところ行ったこともないんだから」

「それと一緒です。ルビーは平民にとって当たり前のことがわからないしできないんです」

「いやいや服着るくらい」

「貴族は自分で服着ないです。服っていうかバカ高いドレスですけど」

「自分で着ないの!?赤ちゃん!?子供!?」

 誰が赤ちゃんや子供よ!?二人はその後も食事の用意や洗濯、清掃等一つ一つ私ができることを確認していくがどれも出来ないことを知ると先輩と呼ばれている女性が口をぽっかーんと開けた。

「まじか……お貴族様恐るべし」

「宰相の孫娘にして王子様の婚約者でしたからね。貴族の中でもトップレベルの令嬢ってやつですよ」

 あら……こっちの娘は私がどれだけ高貴な存在か、私の価値をわかっているようね。ちょっと優しくしてやっても良くってよ。

「ここでは血筋なんてなんの役にも立たないですけどね~。修道長様も人手が足りないから早急に使えるように教育しとけとか超迷惑ですよね。これはさっさとみっちり鍛えないと!」

 こいつも敵だわ。



 毎日毎日毎日毎日……自分のことは自分でやれと言われて他人のことまでもやれと言われて、無視していたら食事も貰えなかった。

 現状を受け入れることのできないルビーの気持ちなど知らぬとばかりに色々な規則や仕事を教え続ける修道女や見習い修道女たち。

 倒れようと与えられない食事。仕方なく仕方なーーーーく生きていくために働くようになった。

 やってみればできるようになるもので、身の回りのことはすぐにできるようになった。人より時間はかかるし洗濯物はシワまみれだし汚れもきれいに取ることはできなかったけれど。

 ああでもなぜか皿洗いと包丁を使った作業は一度やった後、暫く免除と言われた。

 もしかしたら1日でお皿を10枚以上割ったから?
 野菜を切る時に何度も手首を切り落としそうだったから?

 それくらいのことで不思議だわ。


 色々とやるべきことはあったが彼女のメインの仕事は入院している人や修道院に訪れる人の診察、治療だった。もともと彼女はその為にここに連れてこられたようなものなので当然だが。

 働きだして感じたのは

 疲れる
 忙しい
 苛つく
 理不尽
 理不尽……
 理不尽…………

 悪感情ばかり。

 とにかく患者がひっきりなしに来る。治安がよくない場所だからか怪我人も病人も多い。無償ということで遠慮なく来ること来ること。

 そしてやって来る人たちの口が悪いこと悪いこと。

 いてーだろ
 ちんたらすんな
 はやくなおせ
 むのうが
 ブスが
 ねえちゃん微妙に美人だな、俺とどうだい

 等々。治療してやっているのに感謝の心なんてありゃしない。美人の前に微妙をつけるんじゃないわよ。というかブスか美人かどっちなんだよという感じだ。

 でも何よりも苛つくのは、

 周囲を見回す。

「ありがとうね~」

「本当に有り難いわ」

「この前はありがとう。良かったらこれ食べて」

 他の修道女や見習い修道女たちはルビーより劣る治療をしているのに感謝されている。

 まだ慣れてないから仕方ない。自分も後々ああやって尊敬される存在になると思っていたのだが…………





「なんで私は感謝されないの?」

 修道院に来て5ヶ月程、こう言ってはなんだが治癒魔法も使えるし、慈善活動でも診察、治療はやってきたのでそれなりにちゃんとやれていると思う。

「は?あんただってありがとうって言われてるじゃない」

 1日の仕事が終わり共用スペースにいたルビーの呟きにウェンディという一人の女性が反応した。彼女はルビーの同室者だ。この頃には多少余裕が出てきて、他の修道女や見習い修道女と会話を交わすようになっていた。

「いや、違うでしょ」

「何がよ」

「心が籠もってない」

「なんじゃそりゃ」

「皆が言われてるありがとうには心がある。私には形だけよ。悪態つかれることも多いし!」

「はあ?そんなもんわからないでしょ。人の心なんて見えないんだから。この辺に住む人は口が悪い人が多いんだから皆それなりに嫌なこと言われてるわよ」

「皆はたまーにじゃない。私は滅茶苦茶言われるわ。それにお礼も……皆どうもって感じで本当に形だけじゃない!」

「意味がわからないわ」

 周囲はお貴族様の言うことは理解不能と冷たく笑うばかり。そんな中一人のメリハリボディの女性が近寄ってきた。


「あんたの心がきったなーーーーいからじゃないのー?」

「は?なんですって?」

「だーかーらー。性格が悪いのバレてるからじゃないのー?嫌われてるのよあんた」

 女性の言葉にくすくすと笑いが漏れる面々。なんなのよ、いきなり出てきて………。この女、この身体つき……

「あなたは身体が穢れてるんじゃないの?見たわよ。きったない男にありがとうって言われて手撫でられているのを」

「……どういう意味?」

「あなた元娼婦でしょ?その身体つきを見ればね。それに艶めかしい目つき、雰囲気が出ているわ……お気の毒様」

 ピリッとした空気が漂い、いくつかの鋭い視線が突き刺さる。


 何よ…………何なのよ……。

 なんでそんな視線を向けられないといけないのよ。

 事実を言っただけ。

 なんでそんな目をするの?

 私がどれだけ辛い思いをしていると思っているのよ。

 

 高貴な生まれ、王子の婚約者という地位にあった自分がこんなにも頑張っているのに。私は本来傅かれるべき人間なのよ。生まれも育ちも悪いであろう下層の女達が生意気な。





 患者もこの女達も本当に何様なの。

 

 
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