【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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帰郷遊戯⑩

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「王妃……言い訳せぬのか?」

 王が悲しそうに言う。

「そんなことしても何の意味もないでしょう?皆様、皇太子を中心として共謀し、私をこの座から引きずり下ろそうとしていらっしゃるのに。

 私が理想とする赤子を利用し感情を揺さぶり、アリスに手を出させて他国の王子妃に危害を加えようとした罪で廃位。それを狙っていたのでしょう?

 くだらない、お粗末な作戦でしたがその通りに動いて差し上げましたよ。アリスに喧嘩を売られて買わぬわけにはいきませんからね。まあ赤子たちをターゲットにしたのは予想外だったようですが……。弱い者には手を出さないなどと勝手に思い込んだのはそちら。それくらい構わぬでしょう?

 なにはともあれうまくいったのです。もっと嬉しそうな顔をしたらどうです?」

「なぜそこまでアリスに執着する?それになぜアナベルを無視するのだ?アナベルはそなたの孫だ。オスカーとそなたお気に入りのジュリアの子ではないか……」

「皆して同じことばかり言うのですね。もう飽きましたわ。聞かれたので答えますがアリスはただ気に入らないのです。もともとカサバイン家自体気に入りませんが、特にエレナとアリス。私は嫌いで嫌いでたまりません。

 エレナもアリスも私が欲しかったものを全て持っております。私が蔑ろにしたことで媚を売らんとする者たちがアリスを無能だなどと騒いでいたようですが……実際はそうでないことなど殆どの者が知っていたはず。

 それに私はそんなに悪いことをしましたか?アリスだってべつに傷ついていなかったでしょう?むしろ面白がっていたはず……人とは愚かだ……と。力の無き小者が必死になって……と。

 なにをしたって言ったって彼女はいつも涼しい顔ばかり……。皆だって見下した振りをしつついつも注目しているのも期待しているのもアリスでした。我が子ではなくアリスでした。まあ一部の愚か者は噂を鵜呑みにしていたようですが」

 王妃から真っ直ぐ向けられる視線を受け止めるアリス。

「仕方ありません。だって私美しいのですもの。人は美しいものに目が行くものです。まあそれが良い感情か悪い感情かは別ですけど……」

 髪の毛を掻き上げ見下すような視線を皆にスーッと向けるアリス。

「本当に自信満々ね。でも本当にそういう態度がよく似合う。だってあなたは完璧だから……。

 それに比べてアナベル、あの子は無能だわ。容姿も魔力も王家にふさわしくないわ。だからいない者として扱っただけ」

「アリスへの評価が低いのはそなたの態度のせいだ。アナベルとて嫌な目にあうことになると思わないのか?その様を目の当たりにするジュリアの気持ちをどのように考えているのだ?」

 王は感情を抑えているのか、少し声が震えている。

「あら、アナベルには何もしていませんわ。ただいない者のように扱っただけ。能無き者に時間を割くほど暇ではありませんの。ジュリアのことは可愛いですわよ。美しいし賢いけれどオスカーほどではない。魔力は低いけれど、別に妃に必要ではないでしょう?

 ジュリアの気持ち……。気の毒だとは思いますわ。無能な子が産まれるなんて。でも自分がそう産んだんだから仕方ないですよね。

 次の子はもっと完璧な男の子が良いですわね。ジュリアは私やアリスのように性格は悪くないし、ひねくれてもいないし、普段の行いも良いもの。きっと完璧な子が生まれるわ。そう思いませんか陛下?」

「……性格が悪いのも、ひねくれているのも事実ですが。同じにはされたくないですねぇ」

 アリスの呟きにフフッと笑う王妃。言葉を失う王の悲しげな表情は目に入らぬよう。

「楽しかったわ。最後だもの。暴れまくれって指示してあったから、今頃至る所がめちゃくちゃでしょうね。陛下も使用人や兵士に見て見ぬ振りしろ、だた見たままを後で報告せよと命じていたようですし。他国の者の証言だけでは難癖つけたと言われてしまいますものね。逃げ回っているところを多くの者に見てもらわねば。

 でも少し残念だわ。勝てるとは思っていなかったけれど可能性は0ではなかった。可能であればあなたが子を失うところを見たかったのに……フフッフフフフッ……」

 心の底から楽しそうに笑う王妃に声を失う面々。

「幼き頃から共に過ごし、そなた以上の王妃などいないと思っていたが……私は見誤ったようだ。それとも王妃という座は狂う程に重いものだったか?」

 王の言葉に、視線に、穏やかな笑みを浮かべるだけの王妃。そもそも彼女が見据えるはアリスのみ……王の言葉は彼女を揺さぶらせることはできない。言葉を発するほど苦しくなるは王のみ。

「皆の者、彼女にはこれ以上王妃という座は務まらぬようだ。どれだけ政治手腕があろうとも他国の王族に手を出すなど許されることではない。廃位としようと思うがいかがだろうか?」

 大臣たちへの問いかけに、異議なしという言葉が続々と挙げられる。カサバイン家も宰相家も、皇太子の口からも。

 ただこの娘だけは違った。

「異議有りにございます!」

 
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