【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
106 / 186

106. アリスとブランク②

しおりを挟む
 アリスの微笑みに一瞬見惚れたが、すぐに正気に戻ったブランク。

「いや、いかに君がすごいかというのは理解している「それでは参ります!」」

「…………………………」

 参ります!って何をする気だ。

「まずブランク様。今回の件、貴方様が人の命を奪おうとしていたらあなたがやらかす前に私があなたの命を奪っておりました。人を傷付ける気はなかったからこそ助けたのです。それをこれからも忘れてはいけませんよ。

 それにこれが本物の魔導書で魔物が召喚できるものでありましたら、私即座に貴方様の首を斬り落としておりました。

 それだけ魔物は危険なものなのです。大人の男性であれば対処できるであろう弱き魔物であっても、老人は?子供は?赤子は?一方的にやられてしまいます。

 そもそも何かを利用する場合は自分が制御できるものにせねばなりません。命が危ないとかどうしても誰かを救いたいと思うときに火事場の馬鹿力がうまく作用するときもあります。奇跡的にうまくいくときもあります。が、基本的に制御できないものに手を出すのは危険です。無理なものは無理です。

 ああ、ルビー嬢を修道院から救い出して彼女のヒーローになりたかったとか思ってたなら痛い!痛いですわ!そもそも乙女を悪の巣窟から救い出すとかじゃないんですからね。ルビー嬢は自分のやったことの責任を取っているに過ぎません。

 ルビー嬢といえば、最近いい感じの仲の殿方がいるらしいですよ。なぜ男性はあのブリブリ大根芝居に騙されるんですかね?お相手は診療所付近に縄張りを持つボスらしいですよ。義理人情に厚い方で怪我人を放っておけないタイプらしくルビー嬢の仕事に関してはあまり甘やかさないようです。しかしアクセサリーやおいしい食事などを貢がれているようですよ。いや~、ルビー嬢の不屈の精神おみそれ致しますわ。天晴としか言えませんよね」

「あっ……ああ…………」

 どれだけ喋るんだ?

「ちゃんと聞いてますか?別にね、色々と責任を取ったり上手く事を収められるのであれば多少のやんちゃは許されるのですよ?あなたは王子なのですから。多少の我儘は許されます。

 ああ、勿論国に害を与えるようなものはいけませんよ?でも王個人に息子が父親に多少我儘を言うくらいは宜しいのではないでしょうか?

 庶出とはいえ、王子です。あなたは王の子なのですから。そりゃあ兄上たちに比べれば比重は軽いかもしれませんが、私から見れば王はそれなりにあなたのことも気にかけているように見えましたよ。

 それに王なんて優しいではないですか!うちの母なんて子供を魔物の前に放り出すのですよ!10歳の時に一人でドラゴン倒してこいと言われたときは正気かババアと思いましたよ。まあポロッと言葉にしたら殴られましたが……。

 王妃様が怖いから、兄上方のほうが優秀だからと縮こまる必要はないのですよ。そりゃあ態度はでかいといけませんが、あなたが普通に話し掛ければ彼らは普通に返事しますよ。あなたに対し興味はないかもしれませんが、今までの言動がいけないのだから致し方ありません」


「そうだろうか。もし彼らと良い付き合いができるようになったら使用人とも良い関係が築けるだろうか?」

「さあ」

「さあ!?」

「所詮正妃腹と側妃腹ですからね。わかりあえないこともあるでしょう。使用人だってそりゃあ権力持った人の方に良い顔するでしょうし。貴方様が変わったとしても何も変わらない人もいるでしょう。でもこれだけたくさんの使用人がいますからね。何人かはあなたの味方になる者も出てくるのでは?まあそれが多いか少ないかは運じゃないですか?」

「運!?」

「まあ、そんなのは横においておきましょう。ここからが大事なのですから」

 いや、結構自分にとっては大事なのだが。それにまだ続くのか………………。

「そもそも今回私がしたこととブランク様がしたことは大して違いがありません。力を以てして人に言うことを聞かせる……同じですよね?さてではなぜあなたは失敗し、私は成功したのでしょうか?」

「そもそも力を得ていなかったから」

 小さい声でボソボソと言われる言葉。

「まあそれもそうなのですが、でもうまくいっていた可能性もありますよね?」

「?」

「だってあのときイリス、フランク、そして私がいなければもしかしたらうまく交渉できてたかもしれませんよ」

「確かに……」

 あの混乱の最中、あれが偽物だと気づいた者はいなかった。本人もだが。

「私があなたの企みを阻止したのです。ではなぜ阻止できたのでしょうか?それは私にそれだけの力があったからです。

 先程の会議で両陛下にさえ生意気な態度を取る大臣共がなぜ私の言うことをきいたと思います?それは私に力があったからです。

 彼らは私の力に!常識やルールなど通用しない狂気に!怖気づいたのです!自分の命惜しさ……家族にまで手を出されるのではないかという恐怖!彼らは私の力に屈したのです!!!」

 ブランクは身体が震えてくる。なんだこいつは……目茶苦茶しゃべるな。なんか言うこともヤバいし……得体のしれない者に見えてきた。

「あなたはご家族や大臣にとてつもない恐怖を感じております。自分の話しなど聞いてもらえない、自分など彼らにとってどうでも良い存在……そのように思っておられるはず。

 それはなぜ?自分より地位が高いから?人気があるから?強いから?徒党を組んで数の利に物言わせあなたを取るに足りない、いない者のように扱ってくるから?」

「…………わからない。わからないが怖いんだ」

「怖いとお認めになるのですね……。ですが貴方がそのように怖いと思う存在が畏怖する存在………それは私です!!!」

 ビシッと胸を張り右手を自らの胸に当てるアリス。

「だって彼らは私の言うことを聞いたでしょう?そしてあなたは今私に対しても何か漠然と怖いと思っていらっしゃる。誰よりも……」

 ニンマリと笑うアリスの顔の悪いこと悪いこと。どこの悪党だ。

「あなたと私の大きな違いは力です。あなたには力がなく、私には力がある。………………ねえ、ブランク様私の庇護下に入ればあなたに手を出す者はいないと思いませんか?」

「確かに」

「ではどうしたら私の庇護下に入れるでしょうか?」

「それは……あなたの言うことに従う、とか?」

「そうですね。でもただ従うだけではなりません。虎の威を借る狐になってはなりませぬ。謙虚に、そして虎にとって有益なものにならなければなりません。周りから虎の背後にいるのが当然と思われるようにならねば……。何よりも私は自分の力を他人が誇示するのは嫌いなので、そんなことしたら張っ倒しますからね」

「なれるだろうか?」

「なれます。私達は夫婦ではありませんか。せっかくの御縁大切に致しましょう」

 アリスの言葉はどこまでも頼もしく、優しく心に染み渡る。

「ブランク様、あなたはもともと賢く、気が弱く、優しい性格です。傲慢さがそれを覆い隠してしまっただけ。もう少し気の弱さが前面に出れば人によく思われたいという思考が頭を駆け巡るでしょう。人目を気にするように頭も回転するでしょう」

 アリスは穏やかな女神のような笑みのまま言葉を紡ぎ続ける。

「ブランク様、一緒に変わっていきましょう?」

 スッと夫の頬に手を当てるアリス。

「優しく、謙虚に……。









 その為に私の言うことをよく聞くのですよ。私の庇護下に入ればあなたは安泰なのですから」

「はい、アリス様」

 ブランクは虚ろな目でアリスを見つめる。

 ヒッ!
 様!?

 ビシッと脳天にチョップを食らわす。

「失礼しました。これからよろしくお願いします。アリス」


「ええ、よろしく愛しの旦那様」


~~~~~


 


「えっ!?」

 扉の前で本を手に持ちザラは一人驚いていた。彼女は王宮にいた父親を捕まえると本を強奪した。父が自分で読む用に予約した物が今日届くと前に言っていたのを思い出したのだ。無事本を手に入れアリスとブランクがいる部屋の前まで戻って来たのだが……。彼女が雑に扉を開けた為、扉が少し開いていた。中の話し声が聞こえて思わずその内容に聞き入ってしまった。


 なんだ今のは?なぜ今の話しで息子は納得したのか、改心しようと思ったのか?

 いや、全然理解できない。

 そもそもアリスが言っていたのは私の方が強いんだから言うこと聞け。聞いたら守ってやるということだった気がする。

 嫁の傲慢さ。

 息子の阿呆さ……いや、騙されやすいというのか、洗脳されやすいというのか。なんか結局残念で愚かなままの息子に驚きを隠せない。




 まあ、でも


 とりあえず

 息子の命も助かったし

 隷属関係っぽそうだが、
 夫婦仲も良くなりそうだし


 なんだか明るい未来がまっているように感じる。




 ポジティブに考えようと努めるザラだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

処理中です...