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103. 無礼千万

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「当然とは…………?」

 一人の大臣の呟きに、ニコリと笑うアリス。

「凶行であれば私もどうぞ処刑してくださいと申し上げましょう。むしろ私自らお手打ちにしてもよろしいくらいですわ。ですがこんなしょうもない悪戯レベルのことで私を未亡人、犯罪者の妻にする気ですか?」

「は?」

「頭部だけでなく、聴力も退化しておられるのですか?」

「な……っ!失礼な!」

 皆の視線が頭部に集まるのを感じた大臣は顔を真っ赤にする。

「陛下、このような無礼な小娘はブランク王子と共に処刑にしてしまうべきです!おっと失礼!その小娘の背後には大国と太いご実家が控えておりましたな。命拾いしましたな小娘様?早々にこの国から去るが良い!陛下、我らのような忠臣あってこその王家なのです!我らの貢献があってこそ国は成り立っているのです!小娘の言葉を聞く必要などありません」

 行き過ぎた言葉。一部の大臣たちはまだアリスを侮っていた。所詮他国から捨てられた小娘だと。無駄に高いプライド、自尊心が自分たちの方が上だと錯覚させている。

「……アリス、あまり失礼な発言は慎むように。そなたも王子妃に過ぎた言葉は控えよ。アリス、ブランクとは離縁してしまえば良いのではないか?」

 コホン、と咳払いしながら王が口を挟む。

「離縁してよろしいのですか?」

「…………やむを得まい」

「でその後は?」

「ルカと婚約というのはどうだろうか?」

 アリスは手放すには惜し過ぎる人材。

「嫌だと言ったら?」

「なぜ嫌なのです?」

 王妃が口を挟む。自慢の息子を否定するとは?といったところか。なんか笑顔の圧が凄い。

「王妃様みたいになりたくないからです」

「…………………………」

「ルカ様は陛下と同じく女性がお好きなよう。たくさんの愛妾を侍らすのでは?」

「……今は遊んでいるけれど、婚約すればそんなことはないわ。ねえルカ?」

「はい、もちろんです」

「フフッ王妃様、お慶び申し上げます!そこのハゲ大臣の御息女ですが、ルカ様のお子を孕んでいるようですよ?どの令嬢ともベッドは共にせぬように気を付けておられたようですが、ハゲ大臣に二人共媚薬を盛られたようですね。御息女もお気の毒に。大人しい方ですが、父親の企みに勇気を出して反対したのに無理矢理薬を飲まされたようですね」

「…………マジ?」

 ルカは言葉も動きも固まった。

「マジです。だからルカ王子の婚約者になるかもしれない私を消したいんですよね、ハゲ大臣?」

「誰がハゲ大臣だ!少しあるだろう!?」

 ほんの僅かな些細な抵抗。ほんの数本だけ残っている。

「ブランク様は夢見るお花畑脳をお持ちです。ですがルビー様を一途に想い続け……かといって押し倒す度胸もなく。できたのは手を握ることや背に手を添えること。軽く挨拶程度に抱きしめるといった程度でしょうか。ルビー様はいなくなり、使用人たちも彼の残念さを見て敬遠しているよう。浮気の心配はないでしょう。というか誰も相手にしないでしょう」

 ブランクの心に見えない棘が何本も突き刺さる。

「小娘が!無視をするな!」

「それに……そもそも夫が行ったことはおふざけじゃないですか」

「おふざけ?」

 王が聞き返す。

「ええ、しかけ絵本を使った遊び。皆様を少し驚かせただけではないですか。私が母や家臣たちにやったのと同じです」

「いや、全然違うだろう!ブランク王子は王を脅したのだぞ!王を意のままに操ろうとしたのだぞ!」

 ハゲ大臣がめげずに吠える。

「あらいやだ彼はちょっとおねだりしただけではないですか」

「魔物を利用して何かを得ようとすることを脅迫と言うのだろう。そもそもお遊びではなく、おねだりではないか」

「あら、いやだ。自白ですか?陛下に自分たちの勢力を利用して意見を押し通してる貴方がたの」

 アリスの言葉と挑発的な視線に野次が飛ぶ。

 アリスは思う。婚姻契約のときの再来だと。わりと色々と見せつけてきたつもりだが、所詮自分に何かなければ侮る連中か……。実に愚かなり。

 薄っすらと冷たい笑みが浮かぶ。

「静まりなさい」

 鋭い声が皆を冷静にさせた。

「アリス」

「はい、王妃様」

「場を混乱させるのはやめて頂戴。あなたが言いたいことは?」

「夫の処分を謹慎に」

 アリスの言葉に野次再来。人の話しを黙って聞いてられない病気なのだろうか。

「なら皆が納得できるような意見を」

「皆が納得できる意見などありません。彼らは何かしらいちゃもんをつけてくる生き物です。彼らは強き者の意見は通るとし、そして強者とは自分たちであると勘違いしているのです」

「頂点は王家よ」

「本当に?表面だけのことでは?」

 なんと無礼な、野次の声が大きくなる。

「アリス……不敬よ」

「王子妃たる私に対する彼らの行動こそ不敬。王族へのあの横暴な態度に目を瞑るなど、王妃様は貴族社会に染まっていらっしゃる」

「…………………………」

 王家が頂点に立つ政治の場。だがその内情は貴族たちの勢力が強いことはよくあることだ。貴族の無礼な態度も行き過ぎた言動をスルーしなければならないときは多々ある。

「貴族に徒党を組まれれば王権が弱体化するのは当たり前。ちょうど良いところで落とし所を見つける。それが常識ですか?」

「致し方ないわ」

「私は違います。彼らが徒党を組もうと何の問題もありません。ひねり潰せます」

「傲慢よ」

「それが比類なき力というものです。私が目障りならば消せばいい。国から追い出して頂いて結構ですよ。ああ、夫を攫うのも良いですね。そちらの方が宜しいですか?ですが私の力は惜しいでしょう?」

「本当にあなたは傲慢だわ。ブランクとお似合いね」

 王妃は王と目を合わし、軽く頷きあう。それを見たアリスは満足そうに微笑む。あとは大臣共を同意させなくては。王と王妃の強行決断は王家として嫌なよう。ならば大臣共を謹慎で納得させるまで。


「陛下も王妃様も大臣方が納得できなければ謹慎処分にはしてくれそうにありませんねぇ……」

 その呟きが聞こえたのは近くにいるものだけだった。なぜならアリスと王妃の会話中にも関わらず野次はずっと飛んでいたから。これで人に無礼だなんだとよく言えるものだ。

 彼女は髪の毛を掻き上げると大臣たちに向かって言い放った。

「うるさい」





 アリスの美しい紫色の目がキラリと一瞬光った。



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