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96. 魔導書
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手に取った本を持ち、椅子に腰掛けるブランク。
「懐かしいな……」
本棚から落ちた本は昔、ルビーと外出した際に彼女が欲しがった物だった。何やら文字がたくさん書いてあり内容はよくわからなかったが、美しい模様がいくつも描かれていた。その模様を見て彼女が目を輝かせていたので買った。
最初は嬉しそうに見ていたが、子供には何やらよくわからないことが書かれており、結局ルビーは飽きたのかブランクに押し付けた。押し付けられたと思わぬブランクはルビーからの贈り物として大事にしまっておいたのだった。
ページをめくっていくブランク。本当に懐かしい。ルビーと二人でこれがきれい……これが好きだと話した思い出が蘇る。
読み進めていくうちに、思い出に浸り暖かかったブランクの目に暗い輝きが宿っていく。一通り目を通すと彼はポツリと呟く。
「ルビー……やっぱり君は僕の女神様だったんだね。これが本物なら最強じゃないか……」
彼は本を持つと机に移動し、本に書かれている模様を紙に描き始めた。黙々と続けられる作業。始めたのは昼過ぎだったが気づけばもう夕日が出ていた。
彼は模様を描いた紙を手に部屋の何も無いスペースに移動した。そして床に1枚の紙を置いた。そして唱える……
「召喚」
呟きに呼応するように紙から光が放たれる。光が収まったあとその場にいたのは青色のスライムだった。
「うおっ」
彼は慌てて剣を構える。何やらぷるぷるしているがこちらを襲ってくる様子はない。本に書いてある通りだ。召喚主を襲うことはない。とはいうものの何やら不気味なのでお帰りいただこう。
「戻れ」
スライムが光った後、その場にはもういなかった。残るは彼が描いた紙だけ。
他の模様も試してみる。
ゴブリン、オーガ、リザードマン、コウモリのモンスター…………。
全て現れた。
本物だ。
この本は魔物を召喚できる魔法陣が描かれた魔導書で間違いない。これがあればーーーーー
この国を、
いや、
世界を手に入れられる。
彼の顔に下卑た醜い笑みが溢れる。
自分が王で、王妃には当然ルビーだ。
だがふと気づく。
手に入れたところでどうする?
自分が世界のトップ?
いやいや、めんどくさいよな……。
有能な臣下を置いて運営していけば良い?
最終的にはなんか自分で判断しないといけないし、有能な臣下は自分以上にチヤホヤされそうだ。それは気に食わない。力を持ったやつこそがNo1でなければ。だがこの魔導書があったって、力は手に入るが政治力はないままだ。独裁政権?力で気に入らないものを消していったらそれはそれで国はめちゃくちゃになる。
父親が王だからこそ見えてくる現実。
責任、家臣の勢力争い、民からの評判……etc.
力だけ持った王、有能な人間のいない国なんて滅茶苦茶になるに決まっている。絶対にやりたくない。
でも…………今のままは嫌だ。
どうすれば良い?
自分はどうしたい?
ーーーーー見返したい。側室腹の王子だからと見下してきた奴らを。自分だって王子なのに、全て王妃から生まれた兄たちのほうが優先されてきた。邪魔者みたいな視線を向けられてきた。何か命令してもそれはできません、なりません、そんなことばかり言われてきた。力さえあればきっとそんなこと言われなくなる。
そして……ルビーと結ばれたい。力があれば誰も自分に文句など言えない。すぐに貴族籍に戻さなければ。きっとルビーも喜んでくれる。ルカ兄上のことを好きなようだったが、きっと自分にも好意は持っているはず。だって、アリスに虐められる度に自分に助けを求めてきたのだから。何も思わない人間に助けは求めないだろう。
魔導書と模様を描いた紙を持って、自分の力を見せつけて王に願い出よう。
どこかに豪邸を建てルビーと仲睦まじく暮らしていくのだ。自分に忠実な部下、使用人ばかり集めよう。自分の楽園を作るのだ。力ある者に絶対服従するやつなんていくらでもいる。誰にも指図されない、邪魔されない場所を王に譲ってもらおう。どこの土地が良いだろうか?
政治や責任など面倒なことはいらない。ただ場だけ提供してもらうのだ。
王が断ったら?
そのときは……どうしようか。自分の言うことを聞いてくれる者に王を交代させるのが良いか……。だが、皇太子の兄は言うことを聞いてくれるはずない。
いや自分だって王の息子なのだ。無能な息子ならいざ知らず。魔物を召喚できる有能な力を持った息子の願いぐらい父親なら聞いてくれるはず。
顔がニヤつくのを止められない。
明るい未来しか見えない。
だが、はっと気づく。
今召喚したのは部屋に収まるくらいのサイズの魔物ばかり。力もそんなに強くない。騎士たちにすぐに討伐されてしまう。
それに……アリスもいる。彼女の背後には魔物討伐の最高峰とも言えるカサバイン家もついている。
王に言うことを聞かせるには……。他の誰にも口出しをされないには……強力な魔物が必要だ。しかも何体も一斉に出現させなければならない。
可能だろうか。
一度試してみねば。
どこか良い場所はないだろうか…………。
「懐かしいな……」
本棚から落ちた本は昔、ルビーと外出した際に彼女が欲しがった物だった。何やら文字がたくさん書いてあり内容はよくわからなかったが、美しい模様がいくつも描かれていた。その模様を見て彼女が目を輝かせていたので買った。
最初は嬉しそうに見ていたが、子供には何やらよくわからないことが書かれており、結局ルビーは飽きたのかブランクに押し付けた。押し付けられたと思わぬブランクはルビーからの贈り物として大事にしまっておいたのだった。
ページをめくっていくブランク。本当に懐かしい。ルビーと二人でこれがきれい……これが好きだと話した思い出が蘇る。
読み進めていくうちに、思い出に浸り暖かかったブランクの目に暗い輝きが宿っていく。一通り目を通すと彼はポツリと呟く。
「ルビー……やっぱり君は僕の女神様だったんだね。これが本物なら最強じゃないか……」
彼は本を持つと机に移動し、本に書かれている模様を紙に描き始めた。黙々と続けられる作業。始めたのは昼過ぎだったが気づけばもう夕日が出ていた。
彼は模様を描いた紙を手に部屋の何も無いスペースに移動した。そして床に1枚の紙を置いた。そして唱える……
「召喚」
呟きに呼応するように紙から光が放たれる。光が収まったあとその場にいたのは青色のスライムだった。
「うおっ」
彼は慌てて剣を構える。何やらぷるぷるしているがこちらを襲ってくる様子はない。本に書いてある通りだ。召喚主を襲うことはない。とはいうものの何やら不気味なのでお帰りいただこう。
「戻れ」
スライムが光った後、その場にはもういなかった。残るは彼が描いた紙だけ。
他の模様も試してみる。
ゴブリン、オーガ、リザードマン、コウモリのモンスター…………。
全て現れた。
本物だ。
この本は魔物を召喚できる魔法陣が描かれた魔導書で間違いない。これがあればーーーーー
この国を、
いや、
世界を手に入れられる。
彼の顔に下卑た醜い笑みが溢れる。
自分が王で、王妃には当然ルビーだ。
だがふと気づく。
手に入れたところでどうする?
自分が世界のトップ?
いやいや、めんどくさいよな……。
有能な臣下を置いて運営していけば良い?
最終的にはなんか自分で判断しないといけないし、有能な臣下は自分以上にチヤホヤされそうだ。それは気に食わない。力を持ったやつこそがNo1でなければ。だがこの魔導書があったって、力は手に入るが政治力はないままだ。独裁政権?力で気に入らないものを消していったらそれはそれで国はめちゃくちゃになる。
父親が王だからこそ見えてくる現実。
責任、家臣の勢力争い、民からの評判……etc.
力だけ持った王、有能な人間のいない国なんて滅茶苦茶になるに決まっている。絶対にやりたくない。
でも…………今のままは嫌だ。
どうすれば良い?
自分はどうしたい?
ーーーーー見返したい。側室腹の王子だからと見下してきた奴らを。自分だって王子なのに、全て王妃から生まれた兄たちのほうが優先されてきた。邪魔者みたいな視線を向けられてきた。何か命令してもそれはできません、なりません、そんなことばかり言われてきた。力さえあればきっとそんなこと言われなくなる。
そして……ルビーと結ばれたい。力があれば誰も自分に文句など言えない。すぐに貴族籍に戻さなければ。きっとルビーも喜んでくれる。ルカ兄上のことを好きなようだったが、きっと自分にも好意は持っているはず。だって、アリスに虐められる度に自分に助けを求めてきたのだから。何も思わない人間に助けは求めないだろう。
魔導書と模様を描いた紙を持って、自分の力を見せつけて王に願い出よう。
どこかに豪邸を建てルビーと仲睦まじく暮らしていくのだ。自分に忠実な部下、使用人ばかり集めよう。自分の楽園を作るのだ。力ある者に絶対服従するやつなんていくらでもいる。誰にも指図されない、邪魔されない場所を王に譲ってもらおう。どこの土地が良いだろうか?
政治や責任など面倒なことはいらない。ただ場だけ提供してもらうのだ。
王が断ったら?
そのときは……どうしようか。自分の言うことを聞いてくれる者に王を交代させるのが良いか……。だが、皇太子の兄は言うことを聞いてくれるはずない。
いや自分だって王の息子なのだ。無能な息子ならいざ知らず。魔物を召喚できる有能な力を持った息子の願いぐらい父親なら聞いてくれるはず。
顔がニヤつくのを止められない。
明るい未来しか見えない。
だが、はっと気づく。
今召喚したのは部屋に収まるくらいのサイズの魔物ばかり。力もそんなに強くない。騎士たちにすぐに討伐されてしまう。
それに……アリスもいる。彼女の背後には魔物討伐の最高峰とも言えるカサバイン家もついている。
王に言うことを聞かせるには……。他の誰にも口出しをされないには……強力な魔物が必要だ。しかも何体も一斉に出現させなければならない。
可能だろうか。
一度試してみねば。
どこか良い場所はないだろうか…………。
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