【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
96 / 186

96. 魔導書

しおりを挟む
 手に取った本を持ち、椅子に腰掛けるブランク。

「懐かしいな……」

 本棚から落ちた本は昔、ルビーと外出した際に彼女が欲しがった物だった。何やら文字がたくさん書いてあり内容はよくわからなかったが、美しい模様がいくつも描かれていた。その模様を見て彼女が目を輝かせていたので買った。

 最初は嬉しそうに見ていたが、子供には何やらよくわからないことが書かれており、結局ルビーは飽きたのかブランクに押し付けた。押し付けられたと思わぬブランクはルビーからの贈り物として大事にしまっておいたのだった。

 ページをめくっていくブランク。本当に懐かしい。ルビーと二人でこれがきれい……これが好きだと話した思い出が蘇る。

 読み進めていくうちに、思い出に浸り暖かかったブランクの目に暗い輝きが宿っていく。一通り目を通すと彼はポツリと呟く。

「ルビー……やっぱり君は僕の女神様だったんだね。これが本物なら最強じゃないか……」


 彼は本を持つと机に移動し、本に書かれている模様を紙に描き始めた。黙々と続けられる作業。始めたのは昼過ぎだったが気づけばもう夕日が出ていた。

 彼は模様を描いた紙を手に部屋の何も無いスペースに移動した。そして床に1枚の紙を置いた。そして唱える……

「召喚」

 呟きに呼応するように紙から光が放たれる。光が収まったあとその場にいたのは青色のスライムだった。

「うおっ」

 彼は慌てて剣を構える。何やらぷるぷるしているがこちらを襲ってくる様子はない。本に書いてある通りだ。召喚主を襲うことはない。とはいうものの何やら不気味なのでお帰りいただこう。

「戻れ」
 
 スライムが光った後、その場にはもういなかった。残るは彼が描いた紙だけ。

 他の模様も試してみる。

 ゴブリン、オーガ、リザードマン、コウモリのモンスター…………。

 
 全て現れた。
 本物だ。

 この本は魔物を召喚できる魔法陣が描かれた魔導書で間違いない。これがあればーーーーー


 この国を、
 いや、
 世界を手に入れられる。
 
 彼の顔に下卑た醜い笑みが溢れる。
 自分が王で、王妃には当然ルビーだ。


 だがふと気づく。

 手に入れたところでどうする?
 自分が世界のトップ?

 いやいや、めんどくさいよな……。

 有能な臣下を置いて運営していけば良い?

 最終的にはなんか自分で判断しないといけないし、有能な臣下は自分以上にチヤホヤされそうだ。それは気に食わない。力を持ったやつこそがNo1でなければ。だがこの魔導書があったって、力は手に入るが政治力はないままだ。独裁政権?力で気に入らないものを消していったらそれはそれで国はめちゃくちゃになる。

 父親が王だからこそ見えてくる現実。

 責任、家臣の勢力争い、民からの評判……etc.

 力だけ持った王、有能な人間のいない国なんて滅茶苦茶になるに決まっている。絶対にやりたくない。

 でも…………今のままは嫌だ。
 どうすれば良い?
 自分はどうしたい?

 ーーーーー見返したい。側室腹の王子だからと見下してきた奴らを。自分だって王子なのに、全て王妃から生まれた兄たちのほうが優先されてきた。邪魔者みたいな視線を向けられてきた。何か命令してもそれはできません、なりません、そんなことばかり言われてきた。力さえあればきっとそんなこと言われなくなる。


 そして……ルビーと結ばれたい。力があれば誰も自分に文句など言えない。すぐに貴族籍に戻さなければ。きっとルビーも喜んでくれる。ルカ兄上のことを好きなようだったが、きっと自分にも好意は持っているはず。だって、アリスに虐められる度に自分に助けを求めてきたのだから。何も思わない人間に助けは求めないだろう。

 魔導書と模様を描いた紙を持って、自分の力を見せつけて王に願い出よう。

 どこかに豪邸を建てルビーと仲睦まじく暮らしていくのだ。自分に忠実な部下、使用人ばかり集めよう。自分の楽園を作るのだ。力ある者に絶対服従するやつなんていくらでもいる。誰にも指図されない、邪魔されない場所を王に譲ってもらおう。どこの土地が良いだろうか?

 政治や責任など面倒なことはいらない。ただ場だけ提供してもらうのだ。

 王が断ったら?

 そのときは……どうしようか。自分の言うことを聞いてくれる者に王を交代させるのが良いか……。だが、皇太子の兄は言うことを聞いてくれるはずない。

 いや自分だって王の息子なのだ。無能な息子ならいざ知らず。魔物を召喚できる有能な力を持った息子の願いぐらい父親なら聞いてくれるはず。

 顔がニヤつくのを止められない。
 明るい未来しか見えない。

 だが、はっと気づく。

 今召喚したのは部屋に収まるくらいのサイズの魔物ばかり。力もそんなに強くない。騎士たちにすぐに討伐されてしまう。

 それに……アリスもいる。彼女の背後には魔物討伐の最高峰とも言えるカサバイン家もついている。


 王に言うことを聞かせるには……。他の誰にも口出しをされないには……強力な魔物が必要だ。しかも何体も一斉に出現させなければならない。

 可能だろうか。
 一度試してみねば。


 どこか良い場所はないだろうか…………。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...