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84. 王宮では……
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少し時間を遡り王宮。
アリスが消えた後に王の言葉の途中でいなくなるなど不敬だと騒ぐのはルビー。いちいち煩いと頭の中でどついた王妃はルビーに視線を向ける。
「少しでも早く行ったほうが良いでしょう?」
今だって王都の凄惨な様が続々と報告されている。
「ですが!」
「王に対する礼儀を守り、多くの怪我人が出たほうが良かったとでも?」
「いえ、あの……それは……。でもアリス様だって……人命よりなんかよくわからないですが、役割?決まり?を優先していたではないですか」
ボソボソと文句を言うルビーに同調するのはブランクだ。
「ルビーの言う通りです!そのように仰るなら、なぜすぐにアリスを行かせなかったのですか!?」
彼は周りの視線が冷たいことに気付かない。
「お黙りなさい!」
ビクッと身体を震わせる二人。
「今後の為にも協会との関係を保つことと、家族内の王のメンツを同列に語るでない!!!」
不思議そうな顔をする二人。意味がわからないようだ。
ミシミシと王妃の手の中の扇が悲鳴を上げる。
「母上」
一切笑っていない目がユーリに向けられる。
「アリスだけに任せるわけにはいきません。ルカと共に兵士を連れて応援に行って参ります。父上、許可を頂けますか?」
「ああ、頼んだぞ」
「「はっ!!」」
二人は足早に去っていった。
いけない……こんなやつらの相手をしている場合ではない。王妃はマリーナとキャリーと共に討伐後の為の医療支援や食糧配布の準備をしに向かう。
愚か者の相手などしていられないとでも言うかのようにブランクとルビーの存在を無視して行動する母に苦い表情を浮かべるマキシム。彼も応援に行きたいところだが、その立場故危険なところに赴くことはできない。若き次代の王の命は王より優先される。その血を後世に伝えていくために。
王は王で家臣たちとやることがある。この場は任せたとポンとマキシムの肩を叩くと去っていった。彼はブランクを見据える。
「なあ、ブランク。協会とか王家や貴族家の騎士たち……いわゆる魔物と戦える力を持つ組織だね、彼らが魔物を見つけたときの決まりって知ってる?」
「見つけた者に討伐の権利が発生します」
わかってるね、とうんうんと頷くと不機嫌そうな顔をされた。解せぬ。
「それぐらい誰でも「じゃあ、今回の魔物の討伐権利があるのは協会だってわかるよね?」」
「わかります。ですが、彼らが苦戦しているのであれば国としてなんとかするべきです」
「うん、だから父上……いや、王は派兵したよね?王として民を守るために。民を守るという役割を持つ者を……ね」
「アリスは王子妃です。民を守る義務があります」
「じゃあ、お前が行けよ」
乱暴な言葉に表情が固まるブランク。おっと、素が出てしまった。
「いや、それは……。私は王子ですし……軽々しく出るわけには……」
「ははっ!王子である自分は奥にこもり、王子妃は戦いに……なんだそのクズみたいな考えは。ユーリもルカも応援に行ったよ。少し時間はかかってしまったけど、なんの情報もなしに王子を魔物の前には出せないからね。それにしてもお前がそんな考えなら、ルビーが王子妃になったらバンバン魔物の前に出さないといけないね?」
ルビーの顔が青褪める。
「なっ……ルビーにそんな危険なこと!」
「自分の奥方には行けというのに……人の妻は駄目なんだ?」
「でも……アリスは強いですし。もともと魔物の討伐をしていた人間ですし」
だから、戦って当然だと思うのはいけないのだろうか。
「まあ、お前だけじゃないよ」
「え?」
「アリスに任せればOK。彼女が魔物の出現と同時に出向いていたら被害は抑えられたのに……そんなふうに思ってしまうのは」
「でしたら」
なぜ自分は責められているのだ。
「彼女はとても強い」
「……………はい」
「アリスを討伐に出すということは協会からすると、手柄を取られるということになるんだよ」
「それは……」
ギロッと睨みつけられ黙る。
「我が国には魔物討伐ができる突出した人材がいない。だから強い魔物が出現したときは協会にお願いしている。うちの兵士も戦うけど、主戦力は協会になる。それは知ってるよね?」
コクリと頷くのを確認して先を続ける。
「私達は協会と対立するわけにはいかない。魔物を倒す度に多大なる犠牲を払うことになる。ところで、協会が私達に求めているものは何かわかる?」
「報酬、地位とかですか?」
「まあ地位は稀だろうけど、お金だね」
ニコリと言うマキシム。
「彼らが命をかけて戦うのはやらなきゃやられるし、人を守るためというのもあるだろうけどね。でもそんな危険なことなんの見返りもなしになんかやってられないよ。でね、アリスが参戦すれば分け前減っちゃうでしょ?」
「いや、でも……アリスは王子妃ですし。別に無償で良いではないですか」
「そんなわけにいかないんだよ。王子妃に割り当てる予算はあり、それと魔物退治の褒美は別物だよ。アリスはここの国に将軍として来たわけじゃないんだから。それに将軍だって手柄を上げればボーナスがもらえるだろ?」
「そうですけど……」
「それに協会にもメンツってものがある。急に現れたアリス嬢にぽっと倒されてはね……。協会に見捨てられたらどうするんだい?アリスがいるから良い?じゃあ将来は?絶対に離縁はないかい?アリスが私達に絶対に協力してくれる保証は?協会との縁を守るというのは非常に大切なことなんだよ。だから私達は協会からの要請を待った。そうすればこちらがそれを答えた形になり、角が立たないからね」
そもそもアリスの実力をわかってるくせに、
それを頼ろうとしているくせに、
なぜアリスにあんな態度を取るのか理解不能だ。
離縁の可能性大だろうに。
なぜだろうと考えていると伝令係が飛び込んできた。
「申し上げます!全ての魔物を鎮圧したとのことです!」
「被害は」
「はっ!王都の半分程の者が負傷したようです。死者はまだ不明ですが、決して少ない数ではないかと……。建物は半分程倒壊しているようです。王子さま方は帰還され、アリス様は引き続き診療所で怪我人の治療にあたるとのことです」
「わかった」
伝令係が去った後、ブランクが声を上げる。
「……そんなことで救えるはずだった民の命を見捨てたのですか……?アリスが即座に出ていれば百人の命は助かったはずです」
協会だって鬼じゃない。そんな金やメンツくらいで縁を切るわけないはず。
「お前はおかしなことを言うね」
「アリスがいたから本来受けるはずだった被害を抑えることができたんだよ」
「えっ……?」
「アリスがいなかったら王都は全滅だったかもしれない。かなり早い段階で援助要請が来たからね。協会としてもすぐに自分たちでは手に負えないと判断するレベルだったんだろうね」
「それは……」
「お前のような考えのやつは多いだろうね、貴族も平民も。アリスはそれらを受け止める覚悟で王家や協会のことを考えて行動してくれた。王家として彼女を責めるなどあり得ないよ。救えるべき命を救わなかった。確かに非人道的なことかもしれない。だが、今後のことを考え非道な道を選択することもあるんだよ。それが国というものだ。綺麗事だけではやっていけないんだよ」
黙るブランク。室内は静寂に満ちた。
「申し上げます!!!」
「何事だい?」
伝令係が再び来たが、何やら様子がおかしい。尋常ではない汗をかいている。
「門の前にてルビー様を出せと民衆が集まっております!!!」
皆の視線が黙っていたルビーに向かう。
自分は何もしていない。
ずっとここにいた。
なのになぜ……?
ルビーの顔は困惑に満ちていた。
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「ルビーの言う通りです!そのように仰るなら、なぜすぐにアリスを行かせなかったのですか!?」
彼は周りの視線が冷たいことに気付かない。
「お黙りなさい!」
ビクッと身体を震わせる二人。
「今後の為にも協会との関係を保つことと、家族内の王のメンツを同列に語るでない!!!」
不思議そうな顔をする二人。意味がわからないようだ。
ミシミシと王妃の手の中の扇が悲鳴を上げる。
「母上」
一切笑っていない目がユーリに向けられる。
「アリスだけに任せるわけにはいきません。ルカと共に兵士を連れて応援に行って参ります。父上、許可を頂けますか?」
「ああ、頼んだぞ」
「「はっ!!」」
二人は足早に去っていった。
いけない……こんなやつらの相手をしている場合ではない。王妃はマリーナとキャリーと共に討伐後の為の医療支援や食糧配布の準備をしに向かう。
愚か者の相手などしていられないとでも言うかのようにブランクとルビーの存在を無視して行動する母に苦い表情を浮かべるマキシム。彼も応援に行きたいところだが、その立場故危険なところに赴くことはできない。若き次代の王の命は王より優先される。その血を後世に伝えていくために。
王は王で家臣たちとやることがある。この場は任せたとポンとマキシムの肩を叩くと去っていった。彼はブランクを見据える。
「なあ、ブランク。協会とか王家や貴族家の騎士たち……いわゆる魔物と戦える力を持つ組織だね、彼らが魔物を見つけたときの決まりって知ってる?」
「見つけた者に討伐の権利が発生します」
わかってるね、とうんうんと頷くと不機嫌そうな顔をされた。解せぬ。
「それぐらい誰でも「じゃあ、今回の魔物の討伐権利があるのは協会だってわかるよね?」」
「わかります。ですが、彼らが苦戦しているのであれば国としてなんとかするべきです」
「うん、だから父上……いや、王は派兵したよね?王として民を守るために。民を守るという役割を持つ者を……ね」
「アリスは王子妃です。民を守る義務があります」
「じゃあ、お前が行けよ」
乱暴な言葉に表情が固まるブランク。おっと、素が出てしまった。
「いや、それは……。私は王子ですし……軽々しく出るわけには……」
「ははっ!王子である自分は奥にこもり、王子妃は戦いに……なんだそのクズみたいな考えは。ユーリもルカも応援に行ったよ。少し時間はかかってしまったけど、なんの情報もなしに王子を魔物の前には出せないからね。それにしてもお前がそんな考えなら、ルビーが王子妃になったらバンバン魔物の前に出さないといけないね?」
ルビーの顔が青褪める。
「なっ……ルビーにそんな危険なこと!」
「自分の奥方には行けというのに……人の妻は駄目なんだ?」
「でも……アリスは強いですし。もともと魔物の討伐をしていた人間ですし」
だから、戦って当然だと思うのはいけないのだろうか。
「まあ、お前だけじゃないよ」
「え?」
「アリスに任せればOK。彼女が魔物の出現と同時に出向いていたら被害は抑えられたのに……そんなふうに思ってしまうのは」
「でしたら」
なぜ自分は責められているのだ。
「彼女はとても強い」
「……………はい」
「アリスを討伐に出すということは協会からすると、手柄を取られるということになるんだよ」
「それは……」
ギロッと睨みつけられ黙る。
「我が国には魔物討伐ができる突出した人材がいない。だから強い魔物が出現したときは協会にお願いしている。うちの兵士も戦うけど、主戦力は協会になる。それは知ってるよね?」
コクリと頷くのを確認して先を続ける。
「私達は協会と対立するわけにはいかない。魔物を倒す度に多大なる犠牲を払うことになる。ところで、協会が私達に求めているものは何かわかる?」
「報酬、地位とかですか?」
「まあ地位は稀だろうけど、お金だね」
ニコリと言うマキシム。
「彼らが命をかけて戦うのはやらなきゃやられるし、人を守るためというのもあるだろうけどね。でもそんな危険なことなんの見返りもなしになんかやってられないよ。でね、アリスが参戦すれば分け前減っちゃうでしょ?」
「いや、でも……アリスは王子妃ですし。別に無償で良いではないですか」
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「そうですけど……」
「それに協会にもメンツってものがある。急に現れたアリス嬢にぽっと倒されてはね……。協会に見捨てられたらどうするんだい?アリスがいるから良い?じゃあ将来は?絶対に離縁はないかい?アリスが私達に絶対に協力してくれる保証は?協会との縁を守るというのは非常に大切なことなんだよ。だから私達は協会からの要請を待った。そうすればこちらがそれを答えた形になり、角が立たないからね」
そもそもアリスの実力をわかってるくせに、
それを頼ろうとしているくせに、
なぜアリスにあんな態度を取るのか理解不能だ。
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「被害は」
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「わかった」
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「えっ……?」
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「それは……」
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黙るブランク。室内は静寂に満ちた。
「申し上げます!!!」
「何事だい?」
伝令係が再び来たが、何やら様子がおかしい。尋常ではない汗をかいている。
「門の前にてルビー様を出せと民衆が集まっております!!!」
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