【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
78 / 186

78. 悪びれない男

しおりを挟む
「そういえばアリス様、結局ブランク様から何もお言葉がありませんでしたね」

 義兄たちとのお茶会を終えて3日。自室にてマリーナから頼まれた仕事をこなしているときにイリスが思い出したように言った。

「そういえばそうね」

 自分からお茶会に誘って、無断で約束の場所には現れず、その後の謝罪も何もなかった。が、

「お義兄様たちと色々お話できたから良かったじゃない。それに恋の沼に溺れ中のあの夫に常識を当てはめても仕方ないでしょ」

 部屋にいた侍女たち及びフランクもうんうんと頷く。


 コンコン

 扉をノックする音が聞こえた。誰か訪ねてきたよう。 

「はい」

「ルナにございます。只今お時間宜しいでしょうか?」

「入って頂戴」

 失礼いたしますと入ってきたのはブランクの専属侍女ルナ。名前の月のように静かな美しさを備えた女性だ。好みはあるが顔だけで言ったらルビーよりも上だとアリスは思う。

「どうかした?」

「ブランク様がお呼びですが……忙しければ断って参ります。もしくはご自分から来るように言付けましょうか?」

 ルナはイリスのようになかなかよい性格をしていてアリスは好きだった。だからこそブランクには好かれていないようだが。

 他の王子の侍女よりも扱いも雑であろう、第四王子の侍女。まあ仕事と割り切れる人間かよっぽどブリブリしてブランクを上手く転がせる人間しか彼の侍女は続かないと思う。

「構わないわ。今から向かうわ」

「向かわれるのですか?」

 嫌そうに言うルナに部屋の中の者たちはピーンときた。

「あら……不快な目に合いそう?」

「はい」

 コクリと頷くルナ。

「大丈夫よ。意味がわからないことをごちゃごちゃ喚くだけなんだから、スルーするだけよ」

「それはそうですね」

 ではお願いしますと頭を下げるルナ。


~~~~~

「遅いじゃないか!!!」

 ブランクの部屋に入って早々怒鳴られた。ルナもアリスも歩くのは速い方。別に道草を食ったわけでもなし、遅いなんてことはない。解せぬ。

 それよりも…………ブランクの足元に座り込み、泣いているルビーをチラリと見やる。

「何を睨みつけているんだ!私達の間には何も無い!」

 いや、睨みつけてないし。わかってるし、何かあっても構わないし気にならない。まるで嫉妬しているかのように言わないでほしい。普通おいおいと泣いている人がいたら多少視線はいくものだと思うのだが、ブランクは違うのだろうか……。

「お前この前兄上達と茶をしたらしいな。そのときにルカ兄上と大層親しそうにしていたそうじゃないか!ルビーがショックを受けて、こんなにも窶れてしまったではないか!!!」

 ?

 どの辺が?今日もルビーは可愛らしいドレスを着ている。顔色も良いし、頬もうるうるして弾力がありそう。女性の体系をとやかく言うものではないが、普通体型のルビーよりも自分の体型のほうがよっぽどスリムボディ。

「義兄上たちとお茶をしてはいけなかったでしょうか?呼ばれた場に行ったら義兄上方がおられましたのでご一緒しただけです。それにブランク様から約束場所の変更も時間変更も体調不良、来れない理由、行けなかったことへの謝罪など何一つなかったので……ああ、義兄上たちと交流をしろという意味に捉えましたが違いましたでしょうか?」

「……っ……!」

 違うと言いたいが、言えない。

 兄たちから逃げたこと、無断で約束を守らなかったことを認めることになる。それだったら交流のために呼び出したことにした方が格好がつく。

「だがっ!既婚者の身でありながら女一人で男の茶会に参加するなど」

 いやいや、何言ってんだ。義兄との交流の機会をブランクがセッティングしたと話しを纏めてやろうと思ったのに、言いがかりをつけてくるとは。あの時に誰か人をやって誰か呼べば良かったとでも言いたいのか。そこの暇そうな女を呼ぶのは論外だが王妃もマリーナもキャリーもお前と違って忙しいんだよ。

 それに侍女もついていたし、疚しいことなどない。誰の胸にも。目の前の二人と違って。

「……これは失礼いたしました。確かに夫のある身で複数の魅力的な男性に囲まれてお茶をしたのはよくありませんでした。ああ……でもとても目の保養となりましたわ……」

 お前と違って。言葉にしないが伝わったのかブランクが唇を噛みしめる。ルビーは魅力的な男性に囲まれてに反応したようだ。ギリッとこちらを睨みつけている。涙はどこにいった?と聞いてやりたい。

「ですが……別に王族としての話しや世間話しをしただけです。義兄上たちの侍女も侍従もおりましたし、顔を見て笑顔を浮かべ話しを致しましたが、もしかしてそれを親しそうと言われているのでしょうか?むしろ目を逸らして笑顔の一つも浮かべぬのは失礼に当たると思うのは私だけでしょうか?……本当に王宮というところは怖いところですね。人として家族として普通のことをしているだけなのに。あらぬ噂を立てられるのですから。本当に誰がそんなことを言い出したのか……」

 ルビーは動揺を見せないが彼女の侍女は視線が少し彷徨った。
 
「……殿方の身体に触れたりしたら噂になるのもわかりますが……」

 チラリと見るはブランクとルビー。

 ブランクは座り込むルビーを支えるように自分も足を折り曲げ背中に手を回している。ルビーはそのブランクの足に手を添えている。

 ハッとして僅かに手を離そうとするブランク。逆にギュウッと手に力を込めるルビー。アリスにはあなたの夫は私のものという宣戦布告のように受け取ったが、目の前の夫は助けを求められたと思ったよう。離れかけた手を戻し、先程よりも力を込める。

 いや、なんだこれは。嫌すぎる。

 夫が他の女性とくっついている絵面が……




 ではなく、

 なんかこの構図だと嫉妬している妻が夫と愛人の密会を責めているように見えるのがだ。


 
 己の想像にゾワーっと鳥肌がたつアリスだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...