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68. 面倒な話し合い④
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「という感じで退治してもらったから、その礼を持ってきたわけだ。お前たちの言うように少し色を付けておいたぞ」
アリス、イリス、フランクがにたりと下卑た笑みを浮かべたが、瞬時に何もなかったように顔を引き締めた。今のは幻だったのかと思うほどの速さ。
「先程から無視無視と騒いでいるが、そのときアリス……おっと失礼アリス王子妃は抜け殻状態だったわけだ。魂の抜けた王子妃を心配するでもなく、医師を呼ぶならまだしも詰め寄るなどお前たちは何を考えているんだ?」
シオンの呆れたような視線に汗が吹き出るルビー。
「そ……それは気づかなかったのです」
「そうか?ではそなたの目は節穴だったようだな。そちらの令嬢は異常に気づいていたようだぞ」
スーッと視線を向けられたキャリーはドキリとする。あの後、部屋を出たものの心配になり医師に診察するように頼んでいた。だが、特に元気そうだったと言われ安堵していた。ではあのアリスの異様な様子はなんだったのかと不思議に思っていたのだが……今謎が解けた。そして、アリスが普通で考えてはいけない人間だとようやく理解できた。
そして彼女たち……いや、ルビーの異常性も。
「そのような言い方は酷いです……」
ルカの胸に顔を埋めるルビー。ルカは彼女の頭を撫でるもののその瞳からは何を思うか読み取れない。ルビーは少しするとそーっと恐る恐る顔を上げた。
「アリス様……本当に魂がない状態だったのですか?そのようなふりをしていただけでは……?そもそも魂が抜けた状態で生きていられるわけがありませんし、仮に抜けていたとしてどうして魔法が使えるのですか?そんなことはありえません」
は……?まだいうかと空気が凍る中、彼女の視線はキャリーに向かう。
「あのときキャリー様は手に怪我を負われていました……アリス様からの攻撃で……」
「えっ……攻撃などされて「お可哀そうなキャリー様、手が赤くなってしまって、治るか私心配で……」」
まるでアリスがわざと攻撃したとでも言いたげだが。
「ルビー、キャリーはどこもケガをしていないようだけど」
王妃が放った言葉にそんなはずはとキャリーを見る。彼女は皆に見えるように軽く手を上げていた。
「確かにアリス様に触ろうとしたとき痛みを感じ手も赤くなりました。ですがすぐに痛みも赤みもひきました。むしろ激昂して王子妃様のお身体に触れようとしたこと今となっては恥じるばかりです。それにあれは攻撃ではなく結界だと思うのですが」
「ええ、あれは己を守るための結界です。痛い思いをさせて申し訳なかったと思いますが、一応誰が触るかわかりませんでしたので傷跡が残らないようには調整しておきました」
「はい、なんの跡も残っておりません」
ルビーの顔が醜く歪む。何もかもが自分の思うようにいかない。便利に使っていたキャリーまで自分に向ける視線が変わった。取り巻きも……婚約解消する必要はなさそうで良かった?なんだその男は?そんな変な男なんて捨ててしまえば良いだけなのに……絶対にまた他に女を見つけるタイプだろう。ルカはなぜ自分に加勢しない?ブランクは?自分のことをあんな熱い目で見つめるなら、役に立てよ。イライラが増幅する。
「折れねえなぁ。こいつはお前さんには理解できないほど強力な魔法使いなんだよ。なんで理解しようとしないんだ。厄介な女だ」
「そうですか?非常に自分に素直で可愛らしいと思いますが」
横に座るブランクの身体がビクリと跳ねる。それはどういう意味だ?嫌味か?文句を言いたかったがシオンからの視線に言葉が出ない。
アリスはチラリとブランクを見る。下を向き顔を赤くさせ震えている夫。好いた女性を助けることができない悔しさ?何も言えない恥ずかしさ?ルビーの言葉を否定したアリスに対する怒り?それとも全て?
ルビーの言葉を否定しまくったのはシオン。といってもルビーの思い込みに対し実際に起きたことをいっただけなのだが。彼はきっと自分より格上のシオンには怒りなど抱けない。臆病者だから。だから身近な存在であるアリスに怒りを向ける。
チラリとルカを見る。彼と目があった。何を考えているのかーーーーー読み取れない。ただ前の光景が映るだけ……まるでただガラス玉をはめ込んだかのよう。
ガラス玉が違う方を向いた。ルビーが再び彼の胸に飛び込んだからだ。彼はその頭をゆっくりと撫でる。その手つきは優しくーーーーー単調。
アリスはルビーを見る。
かわいそうに。
自分をお姫様だと思いこんでいる脇役。
王子様とそのライバル王子にも
愛されていると思いこんでいる偽お姫様。
その夢はいつまで続くのか。
彼女が亡くなるまで?
いや、それは彼の気分次第。
そして、あの子が彼にとっての価値をどれだけ維持できるか次第。
彼女が信じる王子様が作り物だと気づいたとき、
お姫様はどうなるのか。
アリスの口角が上がる。
ルビーはゾッとした。彼女のその笑みに。そして気づく、その笑みは自分を嘲っているものだと。
視線が絡む。ルビーの瞳に憎悪が宿る。
アリスの瞳には愉悦が増す。
それに気づいた周りの聡い者たちはそっと見て見ぬふりをした。
アリス、イリス、フランクがにたりと下卑た笑みを浮かべたが、瞬時に何もなかったように顔を引き締めた。今のは幻だったのかと思うほどの速さ。
「先程から無視無視と騒いでいるが、そのときアリス……おっと失礼アリス王子妃は抜け殻状態だったわけだ。魂の抜けた王子妃を心配するでもなく、医師を呼ぶならまだしも詰め寄るなどお前たちは何を考えているんだ?」
シオンの呆れたような視線に汗が吹き出るルビー。
「そ……それは気づかなかったのです」
「そうか?ではそなたの目は節穴だったようだな。そちらの令嬢は異常に気づいていたようだぞ」
スーッと視線を向けられたキャリーはドキリとする。あの後、部屋を出たものの心配になり医師に診察するように頼んでいた。だが、特に元気そうだったと言われ安堵していた。ではあのアリスの異様な様子はなんだったのかと不思議に思っていたのだが……今謎が解けた。そして、アリスが普通で考えてはいけない人間だとようやく理解できた。
そして彼女たち……いや、ルビーの異常性も。
「そのような言い方は酷いです……」
ルカの胸に顔を埋めるルビー。ルカは彼女の頭を撫でるもののその瞳からは何を思うか読み取れない。ルビーは少しするとそーっと恐る恐る顔を上げた。
「アリス様……本当に魂がない状態だったのですか?そのようなふりをしていただけでは……?そもそも魂が抜けた状態で生きていられるわけがありませんし、仮に抜けていたとしてどうして魔法が使えるのですか?そんなことはありえません」
は……?まだいうかと空気が凍る中、彼女の視線はキャリーに向かう。
「あのときキャリー様は手に怪我を負われていました……アリス様からの攻撃で……」
「えっ……攻撃などされて「お可哀そうなキャリー様、手が赤くなってしまって、治るか私心配で……」」
まるでアリスがわざと攻撃したとでも言いたげだが。
「ルビー、キャリーはどこもケガをしていないようだけど」
王妃が放った言葉にそんなはずはとキャリーを見る。彼女は皆に見えるように軽く手を上げていた。
「確かにアリス様に触ろうとしたとき痛みを感じ手も赤くなりました。ですがすぐに痛みも赤みもひきました。むしろ激昂して王子妃様のお身体に触れようとしたこと今となっては恥じるばかりです。それにあれは攻撃ではなく結界だと思うのですが」
「ええ、あれは己を守るための結界です。痛い思いをさせて申し訳なかったと思いますが、一応誰が触るかわかりませんでしたので傷跡が残らないようには調整しておきました」
「はい、なんの跡も残っておりません」
ルビーの顔が醜く歪む。何もかもが自分の思うようにいかない。便利に使っていたキャリーまで自分に向ける視線が変わった。取り巻きも……婚約解消する必要はなさそうで良かった?なんだその男は?そんな変な男なんて捨ててしまえば良いだけなのに……絶対にまた他に女を見つけるタイプだろう。ルカはなぜ自分に加勢しない?ブランクは?自分のことをあんな熱い目で見つめるなら、役に立てよ。イライラが増幅する。
「折れねえなぁ。こいつはお前さんには理解できないほど強力な魔法使いなんだよ。なんで理解しようとしないんだ。厄介な女だ」
「そうですか?非常に自分に素直で可愛らしいと思いますが」
横に座るブランクの身体がビクリと跳ねる。それはどういう意味だ?嫌味か?文句を言いたかったがシオンからの視線に言葉が出ない。
アリスはチラリとブランクを見る。下を向き顔を赤くさせ震えている夫。好いた女性を助けることができない悔しさ?何も言えない恥ずかしさ?ルビーの言葉を否定したアリスに対する怒り?それとも全て?
ルビーの言葉を否定しまくったのはシオン。といってもルビーの思い込みに対し実際に起きたことをいっただけなのだが。彼はきっと自分より格上のシオンには怒りなど抱けない。臆病者だから。だから身近な存在であるアリスに怒りを向ける。
チラリとルカを見る。彼と目があった。何を考えているのかーーーーー読み取れない。ただ前の光景が映るだけ……まるでただガラス玉をはめ込んだかのよう。
ガラス玉が違う方を向いた。ルビーが再び彼の胸に飛び込んだからだ。彼はその頭をゆっくりと撫でる。その手つきは優しくーーーーー単調。
アリスはルビーを見る。
かわいそうに。
自分をお姫様だと思いこんでいる脇役。
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愛されていると思いこんでいる偽お姫様。
その夢はいつまで続くのか。
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いや、それは彼の気分次第。
そして、あの子が彼にとっての価値をどれだけ維持できるか次第。
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お姫様はどうなるのか。
アリスの口角が上がる。
ルビーはゾッとした。彼女のその笑みに。そして気づく、その笑みは自分を嘲っているものだと。
視線が絡む。ルビーの瞳に憎悪が宿る。
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それに気づいた周りの聡い者たちはそっと見て見ぬふりをした。
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