65 / 186
65. 面倒な話し合い②
しおりを挟む
「あなたは?」
「はい?あっ……失礼致しました……」
マリーナの問いに思わずポロリと聞き返してしまったワイン令嬢にマリーナはたたみかける。
「あなたはアリス王子妃にドレス又は代わりのものは贈ったの?」
「なぜ私が?」
「………………。では、謝罪は?」
「えっ…………なぜ私が?」
周囲の冷たい視線に気づき戸惑うワイン令嬢。
「皇太子妃様、彼女はその場できちんと謝罪しております。それに……正直に申し上げますが、彼女は私のためにわざとこぼしたのです。私の母のドレスを着たいという気持ちを考えてくれる優しい方なのです」
目をうるまして言うルビー。とはいうもののここにいるものは一部を除き引き続き冷たい視線で見ているだけ。
「そうだったのですね。で?」
「えっ……」
「それで?彼女がワインを零したことは事実。自分より格上の王子妃に無礼を働いておいてその場の謝罪だけなどありえないでしょう。ましてわざとアリス王子妃のドレスに零したのでしょう?あなたの気持ちを考慮した行動……その美しい友情は素晴らしいわ。しかし、格上のものへの配慮はどこへいってしまったのかしら?」
「うっ…………」
青ざめるワイン令嬢。ルビーの表情にも焦りが見て取れる。隣に座るルカ王子にすがる視線を向けるが、何を思うかルビーの手を握るものの、緩やかな笑みを浮かべたまま何も言う様子は見られない。視線を彷徨わせるルビーはブランクと目が合う。ぎくりとしたようだが、愛する女からのすがる視線を無視できぬよう。
「あっ……皇太子妃様。確かに色々と配慮が足りぬ言動ではあったかもしれませんが、たった1枚のドレスのことではありませんか。妻が彼女の婚約者からドレスやアクセサリーを受け取っていることは非常識な行為であることは間違いありません」
「婚約者が王子妃に無礼を働いたので、代わりに動いただけでしょう。本来なら本人の家族揃って謝罪の品を持ってくるものです」
「ですが、何度もというのはおかしくありませんか?」
「……確かに一理あります。アリス貴方の意見は?」
「はい、皇太子妃様」
お行儀よく返事するアリスの行動に室内の空気が和らぐ。ここは王宮。先程から王妃や皇太子妃の言葉を遮ったり、勝手に発言するやつばかりだった為、侍女たちも少々苛立っていたのだった。本来こうあるべきというアリスの態度に侍女たちは少し落ち着きを取り戻す。
「まずそちらのご令嬢の婚約者と何度も会っているというのは事実です。がその度に持ってこられる贈り物は一度も受け取っておりません」
「きっといつまでも品を受け取らずに何度も来るようにして、そのおきれいな顔と身体で誘惑でもしようとしたんでしょう」
もはや無礼すぎるワイン令嬢の。言葉に退散させたいぐらいだが、まだそのときではない。
「彼には愛する方がいるよう。ですが相手の方は体が弱く跡取りを産めないだろうとご両親から無理やり別れさせられ、そちらのご令嬢と無理やり婚約させられたようでした」
「な……ッ」
「色々と事情がある婚約などいくらでもあります。それを声高らかに言うとは……」
なんと非情なと涙を流すのはルビーだ。ブランクがアリスに強い視線を向け口を開きかけるが止まった。自分に突き刺さるいくつもの視線に気づいたからだ。
「が、最近我が長姉エミリアがある薬を発明し、その薬が彼女に合うものでした。彼は最初婚約者の代わりに謝罪として来ましたがそれ以降は薬を融通してもらえないかと我が宮に通っております」
「それが本当だとしたら………」
「まあ所謂賄賂みたいな物を持って彼は度々ここを訪れていたわけですね」
「じゃあ、彼が最近婚約解消をちらつかせてきたのは……」
「彼女と一緒になれる未来が見えてきたからですね」
ワイン令嬢の目から涙が溢れる。アリスと婚約者がなどとは思っていなかった。ルビーに媚を売ろうとしただけ。だが、彼の心に住む女が本当にいたとあれば話しは別。病が治ったら婚約者を奪われてしまうだろう。
「まあ、彼に薬を渡す気はありませんが……」
室内の空気が凍る。あれっ?なにか思っていたのと違う。
「いや、だって何度来られたってあの薬いくらすると思います?」
いや、知らないです。そもそもそんな薬の存在もしらない。
「この国の王妃1年分の予算くらいかかるんですよ。それに本数もまだ10本もないんですよ」
ああ……そうなのね。
「そんな貴重な薬をなぜ自国のものだから譲ってもらえると思えるのかしら?しかも、救いたいと思うだけならまだしも、救ったら今の婚約者と婚約を白紙にして新たに婚約を結ぶなんて……えっ、浮気の手伝いまでさせられるの?みたいな。婚約者の人生を壊す手伝いさせられるの?みたいな。気分悪いじゃない」
ああ……そう言われてみれば確かに。
「では……私はあの方と婚約を白紙にしなくても良いということですか……?」
「好いた相手よりも家や地位を選んだのに、どちらも手に入れられる可能性が出てきたらあなたを平気で捨てるような男でもあなたが良いなら白紙にはならないと思うわよ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
アリスに近づき手をぎゅっと握り思いっきり何度も振るワイン令嬢。命を救わないという選択をしたのにお礼を言われている姿を見るのはなんとも言えないが、まあ良いのか悪いのか。病弱令嬢からしたら悲劇だが、ワイン令嬢から見たら幸運だ。なかなか皆がwinwinになることはないものである。
「でもあなたドレス……」
ドレスの弁償はと言いかけてマリーナは止まった。というよりもアリスが口元に一本指を当てて首を振ったのを見てやめた。本人が弁償を望まぬのならそんなものは不要である。
もう一人の取り巻き令嬢はワイン令嬢が泣きじゃくるのを見て目を潤ませる。彼女は取り巻き仲間と言うよりもワイン令嬢の友人として彼女を心配していたから。
が、そんな二人を役立たずと睨みつけるのはルビーだ。
「はい?あっ……失礼致しました……」
マリーナの問いに思わずポロリと聞き返してしまったワイン令嬢にマリーナはたたみかける。
「あなたはアリス王子妃にドレス又は代わりのものは贈ったの?」
「なぜ私が?」
「………………。では、謝罪は?」
「えっ…………なぜ私が?」
周囲の冷たい視線に気づき戸惑うワイン令嬢。
「皇太子妃様、彼女はその場できちんと謝罪しております。それに……正直に申し上げますが、彼女は私のためにわざとこぼしたのです。私の母のドレスを着たいという気持ちを考えてくれる優しい方なのです」
目をうるまして言うルビー。とはいうもののここにいるものは一部を除き引き続き冷たい視線で見ているだけ。
「そうだったのですね。で?」
「えっ……」
「それで?彼女がワインを零したことは事実。自分より格上の王子妃に無礼を働いておいてその場の謝罪だけなどありえないでしょう。ましてわざとアリス王子妃のドレスに零したのでしょう?あなたの気持ちを考慮した行動……その美しい友情は素晴らしいわ。しかし、格上のものへの配慮はどこへいってしまったのかしら?」
「うっ…………」
青ざめるワイン令嬢。ルビーの表情にも焦りが見て取れる。隣に座るルカ王子にすがる視線を向けるが、何を思うかルビーの手を握るものの、緩やかな笑みを浮かべたまま何も言う様子は見られない。視線を彷徨わせるルビーはブランクと目が合う。ぎくりとしたようだが、愛する女からのすがる視線を無視できぬよう。
「あっ……皇太子妃様。確かに色々と配慮が足りぬ言動ではあったかもしれませんが、たった1枚のドレスのことではありませんか。妻が彼女の婚約者からドレスやアクセサリーを受け取っていることは非常識な行為であることは間違いありません」
「婚約者が王子妃に無礼を働いたので、代わりに動いただけでしょう。本来なら本人の家族揃って謝罪の品を持ってくるものです」
「ですが、何度もというのはおかしくありませんか?」
「……確かに一理あります。アリス貴方の意見は?」
「はい、皇太子妃様」
お行儀よく返事するアリスの行動に室内の空気が和らぐ。ここは王宮。先程から王妃や皇太子妃の言葉を遮ったり、勝手に発言するやつばかりだった為、侍女たちも少々苛立っていたのだった。本来こうあるべきというアリスの態度に侍女たちは少し落ち着きを取り戻す。
「まずそちらのご令嬢の婚約者と何度も会っているというのは事実です。がその度に持ってこられる贈り物は一度も受け取っておりません」
「きっといつまでも品を受け取らずに何度も来るようにして、そのおきれいな顔と身体で誘惑でもしようとしたんでしょう」
もはや無礼すぎるワイン令嬢の。言葉に退散させたいぐらいだが、まだそのときではない。
「彼には愛する方がいるよう。ですが相手の方は体が弱く跡取りを産めないだろうとご両親から無理やり別れさせられ、そちらのご令嬢と無理やり婚約させられたようでした」
「な……ッ」
「色々と事情がある婚約などいくらでもあります。それを声高らかに言うとは……」
なんと非情なと涙を流すのはルビーだ。ブランクがアリスに強い視線を向け口を開きかけるが止まった。自分に突き刺さるいくつもの視線に気づいたからだ。
「が、最近我が長姉エミリアがある薬を発明し、その薬が彼女に合うものでした。彼は最初婚約者の代わりに謝罪として来ましたがそれ以降は薬を融通してもらえないかと我が宮に通っております」
「それが本当だとしたら………」
「まあ所謂賄賂みたいな物を持って彼は度々ここを訪れていたわけですね」
「じゃあ、彼が最近婚約解消をちらつかせてきたのは……」
「彼女と一緒になれる未来が見えてきたからですね」
ワイン令嬢の目から涙が溢れる。アリスと婚約者がなどとは思っていなかった。ルビーに媚を売ろうとしただけ。だが、彼の心に住む女が本当にいたとあれば話しは別。病が治ったら婚約者を奪われてしまうだろう。
「まあ、彼に薬を渡す気はありませんが……」
室内の空気が凍る。あれっ?なにか思っていたのと違う。
「いや、だって何度来られたってあの薬いくらすると思います?」
いや、知らないです。そもそもそんな薬の存在もしらない。
「この国の王妃1年分の予算くらいかかるんですよ。それに本数もまだ10本もないんですよ」
ああ……そうなのね。
「そんな貴重な薬をなぜ自国のものだから譲ってもらえると思えるのかしら?しかも、救いたいと思うだけならまだしも、救ったら今の婚約者と婚約を白紙にして新たに婚約を結ぶなんて……えっ、浮気の手伝いまでさせられるの?みたいな。婚約者の人生を壊す手伝いさせられるの?みたいな。気分悪いじゃない」
ああ……そう言われてみれば確かに。
「では……私はあの方と婚約を白紙にしなくても良いということですか……?」
「好いた相手よりも家や地位を選んだのに、どちらも手に入れられる可能性が出てきたらあなたを平気で捨てるような男でもあなたが良いなら白紙にはならないと思うわよ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
アリスに近づき手をぎゅっと握り思いっきり何度も振るワイン令嬢。命を救わないという選択をしたのにお礼を言われている姿を見るのはなんとも言えないが、まあ良いのか悪いのか。病弱令嬢からしたら悲劇だが、ワイン令嬢から見たら幸運だ。なかなか皆がwinwinになることはないものである。
「でもあなたドレス……」
ドレスの弁償はと言いかけてマリーナは止まった。というよりもアリスが口元に一本指を当てて首を振ったのを見てやめた。本人が弁償を望まぬのならそんなものは不要である。
もう一人の取り巻き令嬢はワイン令嬢が泣きじゃくるのを見て目を潤ませる。彼女は取り巻き仲間と言うよりもワイン令嬢の友人として彼女を心配していたから。
が、そんな二人を役立たずと睨みつけるのはルビーだ。
461
お気に入りに追加
5,154
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~
ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる