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65. 面倒な話し合い②
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「あなたは?」
「はい?あっ……失礼致しました……」
マリーナの問いに思わずポロリと聞き返してしまったワイン令嬢にマリーナはたたみかける。
「あなたはアリス王子妃にドレス又は代わりのものは贈ったの?」
「なぜ私が?」
「………………。では、謝罪は?」
「えっ…………なぜ私が?」
周囲の冷たい視線に気づき戸惑うワイン令嬢。
「皇太子妃様、彼女はその場できちんと謝罪しております。それに……正直に申し上げますが、彼女は私のためにわざとこぼしたのです。私の母のドレスを着たいという気持ちを考えてくれる優しい方なのです」
目をうるまして言うルビー。とはいうもののここにいるものは一部を除き引き続き冷たい視線で見ているだけ。
「そうだったのですね。で?」
「えっ……」
「それで?彼女がワインを零したことは事実。自分より格上の王子妃に無礼を働いておいてその場の謝罪だけなどありえないでしょう。ましてわざとアリス王子妃のドレスに零したのでしょう?あなたの気持ちを考慮した行動……その美しい友情は素晴らしいわ。しかし、格上のものへの配慮はどこへいってしまったのかしら?」
「うっ…………」
青ざめるワイン令嬢。ルビーの表情にも焦りが見て取れる。隣に座るルカ王子にすがる視線を向けるが、何を思うかルビーの手を握るものの、緩やかな笑みを浮かべたまま何も言う様子は見られない。視線を彷徨わせるルビーはブランクと目が合う。ぎくりとしたようだが、愛する女からのすがる視線を無視できぬよう。
「あっ……皇太子妃様。確かに色々と配慮が足りぬ言動ではあったかもしれませんが、たった1枚のドレスのことではありませんか。妻が彼女の婚約者からドレスやアクセサリーを受け取っていることは非常識な行為であることは間違いありません」
「婚約者が王子妃に無礼を働いたので、代わりに動いただけでしょう。本来なら本人の家族揃って謝罪の品を持ってくるものです」
「ですが、何度もというのはおかしくありませんか?」
「……確かに一理あります。アリス貴方の意見は?」
「はい、皇太子妃様」
お行儀よく返事するアリスの行動に室内の空気が和らぐ。ここは王宮。先程から王妃や皇太子妃の言葉を遮ったり、勝手に発言するやつばかりだった為、侍女たちも少々苛立っていたのだった。本来こうあるべきというアリスの態度に侍女たちは少し落ち着きを取り戻す。
「まずそちらのご令嬢の婚約者と何度も会っているというのは事実です。がその度に持ってこられる贈り物は一度も受け取っておりません」
「きっといつまでも品を受け取らずに何度も来るようにして、そのおきれいな顔と身体で誘惑でもしようとしたんでしょう」
もはや無礼すぎるワイン令嬢の。言葉に退散させたいぐらいだが、まだそのときではない。
「彼には愛する方がいるよう。ですが相手の方は体が弱く跡取りを産めないだろうとご両親から無理やり別れさせられ、そちらのご令嬢と無理やり婚約させられたようでした」
「な……ッ」
「色々と事情がある婚約などいくらでもあります。それを声高らかに言うとは……」
なんと非情なと涙を流すのはルビーだ。ブランクがアリスに強い視線を向け口を開きかけるが止まった。自分に突き刺さるいくつもの視線に気づいたからだ。
「が、最近我が長姉エミリアがある薬を発明し、その薬が彼女に合うものでした。彼は最初婚約者の代わりに謝罪として来ましたがそれ以降は薬を融通してもらえないかと我が宮に通っております」
「それが本当だとしたら………」
「まあ所謂賄賂みたいな物を持って彼は度々ここを訪れていたわけですね」
「じゃあ、彼が最近婚約解消をちらつかせてきたのは……」
「彼女と一緒になれる未来が見えてきたからですね」
ワイン令嬢の目から涙が溢れる。アリスと婚約者がなどとは思っていなかった。ルビーに媚を売ろうとしただけ。だが、彼の心に住む女が本当にいたとあれば話しは別。病が治ったら婚約者を奪われてしまうだろう。
「まあ、彼に薬を渡す気はありませんが……」
室内の空気が凍る。あれっ?なにか思っていたのと違う。
「いや、だって何度来られたってあの薬いくらすると思います?」
いや、知らないです。そもそもそんな薬の存在もしらない。
「この国の王妃1年分の予算くらいかかるんですよ。それに本数もまだ10本もないんですよ」
ああ……そうなのね。
「そんな貴重な薬をなぜ自国のものだから譲ってもらえると思えるのかしら?しかも、救いたいと思うだけならまだしも、救ったら今の婚約者と婚約を白紙にして新たに婚約を結ぶなんて……えっ、浮気の手伝いまでさせられるの?みたいな。婚約者の人生を壊す手伝いさせられるの?みたいな。気分悪いじゃない」
ああ……そう言われてみれば確かに。
「では……私はあの方と婚約を白紙にしなくても良いということですか……?」
「好いた相手よりも家や地位を選んだのに、どちらも手に入れられる可能性が出てきたらあなたを平気で捨てるような男でもあなたが良いなら白紙にはならないと思うわよ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
アリスに近づき手をぎゅっと握り思いっきり何度も振るワイン令嬢。命を救わないという選択をしたのにお礼を言われている姿を見るのはなんとも言えないが、まあ良いのか悪いのか。病弱令嬢からしたら悲劇だが、ワイン令嬢から見たら幸運だ。なかなか皆がwinwinになることはないものである。
「でもあなたドレス……」
ドレスの弁償はと言いかけてマリーナは止まった。というよりもアリスが口元に一本指を当てて首を振ったのを見てやめた。本人が弁償を望まぬのならそんなものは不要である。
もう一人の取り巻き令嬢はワイン令嬢が泣きじゃくるのを見て目を潤ませる。彼女は取り巻き仲間と言うよりもワイン令嬢の友人として彼女を心配していたから。
が、そんな二人を役立たずと睨みつけるのはルビーだ。
「はい?あっ……失礼致しました……」
マリーナの問いに思わずポロリと聞き返してしまったワイン令嬢にマリーナはたたみかける。
「あなたはアリス王子妃にドレス又は代わりのものは贈ったの?」
「なぜ私が?」
「………………。では、謝罪は?」
「えっ…………なぜ私が?」
周囲の冷たい視線に気づき戸惑うワイン令嬢。
「皇太子妃様、彼女はその場できちんと謝罪しております。それに……正直に申し上げますが、彼女は私のためにわざとこぼしたのです。私の母のドレスを着たいという気持ちを考えてくれる優しい方なのです」
目をうるまして言うルビー。とはいうもののここにいるものは一部を除き引き続き冷たい視線で見ているだけ。
「そうだったのですね。で?」
「えっ……」
「それで?彼女がワインを零したことは事実。自分より格上の王子妃に無礼を働いておいてその場の謝罪だけなどありえないでしょう。ましてわざとアリス王子妃のドレスに零したのでしょう?あなたの気持ちを考慮した行動……その美しい友情は素晴らしいわ。しかし、格上のものへの配慮はどこへいってしまったのかしら?」
「うっ…………」
青ざめるワイン令嬢。ルビーの表情にも焦りが見て取れる。隣に座るルカ王子にすがる視線を向けるが、何を思うかルビーの手を握るものの、緩やかな笑みを浮かべたまま何も言う様子は見られない。視線を彷徨わせるルビーはブランクと目が合う。ぎくりとしたようだが、愛する女からのすがる視線を無視できぬよう。
「あっ……皇太子妃様。確かに色々と配慮が足りぬ言動ではあったかもしれませんが、たった1枚のドレスのことではありませんか。妻が彼女の婚約者からドレスやアクセサリーを受け取っていることは非常識な行為であることは間違いありません」
「婚約者が王子妃に無礼を働いたので、代わりに動いただけでしょう。本来なら本人の家族揃って謝罪の品を持ってくるものです」
「ですが、何度もというのはおかしくありませんか?」
「……確かに一理あります。アリス貴方の意見は?」
「はい、皇太子妃様」
お行儀よく返事するアリスの行動に室内の空気が和らぐ。ここは王宮。先程から王妃や皇太子妃の言葉を遮ったり、勝手に発言するやつばかりだった為、侍女たちも少々苛立っていたのだった。本来こうあるべきというアリスの態度に侍女たちは少し落ち着きを取り戻す。
「まずそちらのご令嬢の婚約者と何度も会っているというのは事実です。がその度に持ってこられる贈り物は一度も受け取っておりません」
「きっといつまでも品を受け取らずに何度も来るようにして、そのおきれいな顔と身体で誘惑でもしようとしたんでしょう」
もはや無礼すぎるワイン令嬢の。言葉に退散させたいぐらいだが、まだそのときではない。
「彼には愛する方がいるよう。ですが相手の方は体が弱く跡取りを産めないだろうとご両親から無理やり別れさせられ、そちらのご令嬢と無理やり婚約させられたようでした」
「な……ッ」
「色々と事情がある婚約などいくらでもあります。それを声高らかに言うとは……」
なんと非情なと涙を流すのはルビーだ。ブランクがアリスに強い視線を向け口を開きかけるが止まった。自分に突き刺さるいくつもの視線に気づいたからだ。
「が、最近我が長姉エミリアがある薬を発明し、その薬が彼女に合うものでした。彼は最初婚約者の代わりに謝罪として来ましたがそれ以降は薬を融通してもらえないかと我が宮に通っております」
「それが本当だとしたら………」
「まあ所謂賄賂みたいな物を持って彼は度々ここを訪れていたわけですね」
「じゃあ、彼が最近婚約解消をちらつかせてきたのは……」
「彼女と一緒になれる未来が見えてきたからですね」
ワイン令嬢の目から涙が溢れる。アリスと婚約者がなどとは思っていなかった。ルビーに媚を売ろうとしただけ。だが、彼の心に住む女が本当にいたとあれば話しは別。病が治ったら婚約者を奪われてしまうだろう。
「まあ、彼に薬を渡す気はありませんが……」
室内の空気が凍る。あれっ?なにか思っていたのと違う。
「いや、だって何度来られたってあの薬いくらすると思います?」
いや、知らないです。そもそもそんな薬の存在もしらない。
「この国の王妃1年分の予算くらいかかるんですよ。それに本数もまだ10本もないんですよ」
ああ……そうなのね。
「そんな貴重な薬をなぜ自国のものだから譲ってもらえると思えるのかしら?しかも、救いたいと思うだけならまだしも、救ったら今の婚約者と婚約を白紙にして新たに婚約を結ぶなんて……えっ、浮気の手伝いまでさせられるの?みたいな。婚約者の人生を壊す手伝いさせられるの?みたいな。気分悪いじゃない」
ああ……そう言われてみれば確かに。
「では……私はあの方と婚約を白紙にしなくても良いということですか……?」
「好いた相手よりも家や地位を選んだのに、どちらも手に入れられる可能性が出てきたらあなたを平気で捨てるような男でもあなたが良いなら白紙にはならないと思うわよ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
アリスに近づき手をぎゅっと握り思いっきり何度も振るワイン令嬢。命を救わないという選択をしたのにお礼を言われている姿を見るのはなんとも言えないが、まあ良いのか悪いのか。病弱令嬢からしたら悲劇だが、ワイン令嬢から見たら幸運だ。なかなか皆がwinwinになることはないものである。
「でもあなたドレス……」
ドレスの弁償はと言いかけてマリーナは止まった。というよりもアリスが口元に一本指を当てて首を振ったのを見てやめた。本人が弁償を望まぬのならそんなものは不要である。
もう一人の取り巻き令嬢はワイン令嬢が泣きじゃくるのを見て目を潤ませる。彼女は取り巻き仲間と言うよりもワイン令嬢の友人として彼女を心配していたから。
が、そんな二人を役立たずと睨みつけるのはルビーだ。
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