【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
63 / 186

63. 迷惑な客

しおりを挟む
 最近疲れを感じるアリスの侍女たち。直接害はなくとも見ているだけで疲れるものがあることに気づいたこの頃。時は過ぎていくもので今日は侍女たちにある命令を下すアリス。

「今日はフランクとイリスは外出するから。あと、私も今日は用事があるからこの部屋には誰も通さないで頂戴。よろしくね」

「はい、畏まりました」

 3人はよくふらっと急にいなくなる。それで何かトラブルが起こったことはなく、今日も何事もなく1日が過ぎていくと思われた。

 が、そうはいかなかった。

「いいから通して、通しなさいよ!」

 アリスの部屋の前で叫ぶのは以前夜会でアリスにワインをかけた令嬢(以下ワイン令嬢)だ。対するのは侍女兼宰相の手先であるルリハ。

「申し訳ありませんが、誰も通さないようにというご命令です」

「急ぎなのよ!アリス様が私の婚約者に色目を使っているのよ!王子妃だからって許されないことよ!」

「………………」

 そうは言われても通すなと言われている以上通すわけにはいかない。そもそも王子妃と話しをする為にはお伺いを立ててることも王宮に立ち入る許可だって必要だ。ではなぜ入れたか?彼女たちの背後からカツンとヒールの音をさせ登場した……

「ルリハ。通して頂戴」

 このルビーのせいだ。ワイン令嬢から話を聞いたルビーはアリスの悪評を広げるチャンスと友人と共に乗り込んできたのだ。

「申し訳ございません。アリス王子妃のご命令でお通しするわけには参りません」

 いつもはつけない王子妃をつける。アリスは王子妃。伯爵令嬢にしか過ぎないルビーとどちらが地位が高いか、命令を優先すべきか示す。

 が、そんなことが通じるならここには来ないわけで……

「どんな用事なの?外出してもいないし来客があるわけでもない……このご令嬢は緊急なの。もしかしたら婚約破棄の可能性も……。可哀想だと思わないの?それに……あなたこの国を支える宰相の孫たる私の言うことが聞けないの?」

 最後の言葉に固まるルリハ。彼女は宰相の手の者。宰相の名を出されると弱い。一瞬躊躇した隙にルビーとその他が部屋に入り込む。

「なっ……酷い…………!」

 入室と同時に声を上げたのはルビーだ。

「こんなにも部屋の前で話しをしたいと声を張り上げておりましたのに、アリス様は椅子でお休みではございませんか!?王子妃ともあろうものが……令嬢の悲痛な叫びを無視するなどなんたることですか!」

 とにかく大きな声で騒ぎ立てる3人娘。

「どうされましたか!?」

 駆け込んできたのはキャリーだ。その姿を視界に入れた途端泣き崩れるワイン令嬢。そして泣き叫ぶ。

「アリス様っ!どうして私の婚約者を誑かすのですか……っ!私は彼のことを愛しているのです……」

 かすかに漂う大根感。が、騙されるものは騙される。そして便乗する性悪女二人。

「アリス様っ!どうしてこんなことを……!」

 彼女の背に手を添えているのはルビーともう一人の取り巻き令嬢。

「アリス様っ!聞いていらっしゃるのですか!?」

 詳しいことはわからないが、彼女たちの様子からどちらが弱者か判断したキャリーは椅子に腰掛けるアリスのすぐ近くで仁王立ちして憤慨する。

「皆様方落ち着いてください!アリス様は今日は忙しいと仰っています。また後日にお願い致します」

 高貴な身分の者相手に声を張り上げるのはアイラだ。今この場にはアリスとアイラ、ルリハ2人の侍女しかいない。気の強い公爵の娘でもありアリス様様のカルラがいれば力技で追い返したのだが、長い物には巻かれろ精神がある侍女二人では上手く追い出せない。

「ただ目を瞑って座ってるだけじゃない!」

 そう激昂するキャリーの視線の先には目を瞑って騒がしい声など耳に入っていないかのように座るアリスの姿。そうは言っても……と侍女たちはオロオロするばかり。

「アリス様!聞いているのですか!?」

 我慢の限界に達したキャリーがアリスに向かって手を伸ばす。が、バチッとアリスに触れることなく弾かれた手。キャリーは小さく悲鳴を上げると手をひっこめる。その手は少し赤くなっている。

「「「キャリー様!大丈夫ですか!?」」」

 3人のおしかけ娘がキャリーに駆け寄り、アリスに向かってどういうつもりですか!?怪我をされたのに無視ですか!?等々怒鳴ってくるが、目を開ける気配も動く気配もないアリス。

「アリス様……?」

 キャリーがその異常さに気づく。周りはキャッキャとうるさいがおかしい……こんなに煩いのに一言も発さないし、ピクリとも動かない。まさか…………先程痛い思いをしたにも関わらず再び手を伸ばす。再び弾かれる。それを見た3人娘はぎゃあぎゃあ更にうるさくなる。

 いやいや、おかしくないか?アリスもおかしいが、この3人もおかしい。こんなアリスを責め立てるなど。一旦静かにさせようと口を開きかけ止まる。

「何をしているの?ここは王子妃の部屋よ」

 りんと響き渡る声。

「「皇太子妃様」」

 慌てたように現れた人物に頭を下げる侍女二人。それを見て周りも慌てて頭を下げる。

「マリーナ様、アリス様が酷いんです!この子の婚約者に手を出してるみたいで、話を聞きに来たのに無視なんですよ!」

 ルビーが叫ぶ。

「私……悲しくて。こんなことしちゃ駄目だってわかってます。でもこんなきれいな方に見初められたら婚約者だってどう思うか」

 続いてワイン令嬢が悲しげに言う。

「出なさい」

「「「えっ」」」

「ここはアリス王子妃の部屋です。許可なきものは入ってはなりません」

「許可を得ようにも返答がないのです。無視されているのです……」

 悲しげにいうルビー。ルビー様……と取り巻きや侍女たちはお可哀そうにと目を潤ませる。

「それは許可しないと同義です。緊急時でもないのに入る方がおかしいのです」

「友の一大事です!」

「私は緊急時だと言いました。本当に早急な1日も待てない事態なのですか?」

 視線を向けられたワイン令嬢は俯いて小さくいいえと呟く。

「とにかく出なさい。話があるならアリスに対面許可の申請をお出しなさい」

「ですが!」

「私の言うことがわからないかしら?」

 先程のルビーと同じような言葉なのにこの威圧感はなんだ。先程は虎の威を借る狐感満載、小物感満載だったが、マリーナは違う。彼女自身が獅子だ。皆押し黙ると失礼しますと去っていく。

 マリーナはちらりと横を通り過ぎるルビーを見る。その顔はとても悔しそうな怖い顔をしていた。

 はー……と息を吐く。これは一波乱ありそうだと。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

処理中です...