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62. うざい旦那襲来
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ドンドンドンドン、ドンドンドンドン……
朝食前からアリスの部屋の扉を叩くのは誰か。傍迷惑な客に声を上げる気になれず、指を打ち鳴らす。
「おわっ」
アリスの魔法により突然開いたドアに転びかけるのは名ばかりの夫であるブランクだ。
「なんだっ!?」
「「おはようございます、ブランク様」」
礼儀と姿勢正しくお辞儀しながら挨拶をしてくるイリスとフランクを見て、自分の行いが恥ずかしくなる愚夫。姿勢を整えながら小さくああと返事をする。
「おはようございます、ブランク様」
が、アリスの声掛けに怒鳴り声を上げる。
「お前いい加減にしろよ!何様だと思ってるんだ!?」
「何様?奥様、王子妃様、公爵令嬢様、将軍の娘様、アリス様、隊長様、まだ他にもあったかしら?まあ色々と様付けで呼ばれておりますね」
「そういうことじゃない!!!」
「ブランク様は何しにいらっしゃったのですか?朝早くから意味のわからないことを怒鳴るためですか?まずなんの話しをしにしたのか説明していただかなければ会話は成り立ちません。それとも奇怪な行動をするほどのストレスが……?」
あら、でもそんなに仕事していないわよねと独りごちる。
「お前だってほとんど仕事していないだろう!妃だというのにキャリーやルビーよりも仕事がないじゃないか!普段何してるんだ!?遊んでるだけだろう!」
イリスとフランクはまだ半年も経たないのに過ごしたあの濃密な日たちを思い出す。いや、結構大きな問題を解決したはず。本当に役立たずのお前と違って。
「フフッ、仕方ありません。あなたの奥方なので」
ブランクが側妃腹なので重要な仕事が回ってこないように、妻のアリスにだって回ってこない。ガルベラ王国のスパイと思ってる者もいるぐらいだから尚更仕事が少ない。
まあアリスはこの国以外のことも色々しているので多忙なのだがブランクはそのことを知らない。
「そんなことはどうでもいい」
自分も仕事量が少ないのはわかっている。これ以上言うと自分が傷つくだけ、ブランクはこれ以上話しを広げないことにした。
「お前……キャリーやルビーを除け者にしてるらしいな。特にルビーを虐めているらしいじゃないか。相手は兄上のき、きさ…きさきになる人なんだぞ。立場が上の人を虐げるなど正気のやつのすることとは思えないぞ。それに、兄上に色目を使うなんて恥をしれ!」
き、きさ…きさき……どもるほど、ルビーがルカの妃になることを口に出すのが躊躇われるよう。それに自分は誰が見てもルビーにベタ惚れの視線を投げかけているくせに、何もしていないアリスに恥をしれ!とは。色目を使って見えるのはどちらなのか皆に聞いて回ってみたい。
「あらあら、どなたがそんなことを仰っていたのですか?事実とは異なるようです。それにしても貴方は私の夫。まず責める前に妻の話しを聞くべきではないのですか?」
「お前の話を聞く必要はない!」
この男は妻を精神的に押さえつける俺って格好いい、自分のでかい声にアリスがビビって何も言えなくなると思っている。アリスはそんなことはどうでも良いが興奮しすぎて鼻からフーフーと鳴る音の方が気になる。
「なぜ?」
「なぜとは……?……!お前こそなんの話しをしているかわからないじゃないか!それでは会話が成り立たないと言ったのはお前だろうに!」
先程馬鹿にされたことをそのまま返してくる。子供か。そもそもブランクがいきなりあびせた罵声と、アリスの話しの流れから読み取れる質問では全く違う。単純にブランクの頭が悪い……いや血が上りすぎて回転が悪いだけだ。
「なぜ聞く必要がないのですか?」
にこやかな表情は変えずに子供でもわかるように話し直したアリス。
「そんなものルビーとキャリーが言っていたからだ」
「片方の意見だけ聞くのですか?」
「ルビーとキャリー二人に聞いてるだろう」
ルビーが上手く操作しているのだからキャリーとルビーの話しが一致するのは当たり前のこと。
「ブランク様がルビー様とキャリー様のことを信頼しているのはわかりました。昔からのお付き合いですものね。でもそれと私の意見を聞かぬのは違うのでは?」
「うるさい!そもそも俺の信頼を得られていないお前が悪いんだ。話しを聞いてもらえるような関係を築くことができなかったのはお前だ」
まあ確かに。なんかヤバイ恋愛脳をもっていそうだから、好意があると思われたら気持ち悪いと思い近づかなかった。ブランクは黙ったアリスにもっと言ってやろうと口を開きかけたが……
コンコン
常識的なノック音。
「アリス様、マリーナ様がお話しがあるようですが今宜しいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
ガチャリと開くドア。皇太子妃マリーナが入室する。
「皇太子妃様、ご機嫌よう」
「…っ………ご機嫌よう」
優雅に挨拶するアリスと、慌てて頭を下げるブランク。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「いえ、私はこれでお邪魔します」
あたふたと去っていくブランク。
「助かりました」
「フフッ、驚いたわ。とても綺麗……」
マリーナの背後から現れたのは数匹の少し透けている水色の蝶。アリスが魔法で生み出した蝶だ。その蝶から何か声が繰り返し聞こえる。
『うざお襲来、うざお襲来、お助け、お助け、うざお襲来……………………』
「マリーナ様は保有する魔力量がなかなか多いので、できると思いますよ」
「本当に?教えてくださるの?」
「ええ、勿論です」
「困ったときは助け合わないとね」
クスクスと微笑み合う二人。
王宮は一人では生き抜けない。誰を味方とするか……
それはとても重要なこと。
朝食前からアリスの部屋の扉を叩くのは誰か。傍迷惑な客に声を上げる気になれず、指を打ち鳴らす。
「おわっ」
アリスの魔法により突然開いたドアに転びかけるのは名ばかりの夫であるブランクだ。
「なんだっ!?」
「「おはようございます、ブランク様」」
礼儀と姿勢正しくお辞儀しながら挨拶をしてくるイリスとフランクを見て、自分の行いが恥ずかしくなる愚夫。姿勢を整えながら小さくああと返事をする。
「おはようございます、ブランク様」
が、アリスの声掛けに怒鳴り声を上げる。
「お前いい加減にしろよ!何様だと思ってるんだ!?」
「何様?奥様、王子妃様、公爵令嬢様、将軍の娘様、アリス様、隊長様、まだ他にもあったかしら?まあ色々と様付けで呼ばれておりますね」
「そういうことじゃない!!!」
「ブランク様は何しにいらっしゃったのですか?朝早くから意味のわからないことを怒鳴るためですか?まずなんの話しをしにしたのか説明していただかなければ会話は成り立ちません。それとも奇怪な行動をするほどのストレスが……?」
あら、でもそんなに仕事していないわよねと独りごちる。
「お前だってほとんど仕事していないだろう!妃だというのにキャリーやルビーよりも仕事がないじゃないか!普段何してるんだ!?遊んでるだけだろう!」
イリスとフランクはまだ半年も経たないのに過ごしたあの濃密な日たちを思い出す。いや、結構大きな問題を解決したはず。本当に役立たずのお前と違って。
「フフッ、仕方ありません。あなたの奥方なので」
ブランクが側妃腹なので重要な仕事が回ってこないように、妻のアリスにだって回ってこない。ガルベラ王国のスパイと思ってる者もいるぐらいだから尚更仕事が少ない。
まあアリスはこの国以外のことも色々しているので多忙なのだがブランクはそのことを知らない。
「そんなことはどうでもいい」
自分も仕事量が少ないのはわかっている。これ以上言うと自分が傷つくだけ、ブランクはこれ以上話しを広げないことにした。
「お前……キャリーやルビーを除け者にしてるらしいな。特にルビーを虐めているらしいじゃないか。相手は兄上のき、きさ…きさきになる人なんだぞ。立場が上の人を虐げるなど正気のやつのすることとは思えないぞ。それに、兄上に色目を使うなんて恥をしれ!」
き、きさ…きさき……どもるほど、ルビーがルカの妃になることを口に出すのが躊躇われるよう。それに自分は誰が見てもルビーにベタ惚れの視線を投げかけているくせに、何もしていないアリスに恥をしれ!とは。色目を使って見えるのはどちらなのか皆に聞いて回ってみたい。
「あらあら、どなたがそんなことを仰っていたのですか?事実とは異なるようです。それにしても貴方は私の夫。まず責める前に妻の話しを聞くべきではないのですか?」
「お前の話を聞く必要はない!」
この男は妻を精神的に押さえつける俺って格好いい、自分のでかい声にアリスがビビって何も言えなくなると思っている。アリスはそんなことはどうでも良いが興奮しすぎて鼻からフーフーと鳴る音の方が気になる。
「なぜ?」
「なぜとは……?……!お前こそなんの話しをしているかわからないじゃないか!それでは会話が成り立たないと言ったのはお前だろうに!」
先程馬鹿にされたことをそのまま返してくる。子供か。そもそもブランクがいきなりあびせた罵声と、アリスの話しの流れから読み取れる質問では全く違う。単純にブランクの頭が悪い……いや血が上りすぎて回転が悪いだけだ。
「なぜ聞く必要がないのですか?」
にこやかな表情は変えずに子供でもわかるように話し直したアリス。
「そんなものルビーとキャリーが言っていたからだ」
「片方の意見だけ聞くのですか?」
「ルビーとキャリー二人に聞いてるだろう」
ルビーが上手く操作しているのだからキャリーとルビーの話しが一致するのは当たり前のこと。
「ブランク様がルビー様とキャリー様のことを信頼しているのはわかりました。昔からのお付き合いですものね。でもそれと私の意見を聞かぬのは違うのでは?」
「うるさい!そもそも俺の信頼を得られていないお前が悪いんだ。話しを聞いてもらえるような関係を築くことができなかったのはお前だ」
まあ確かに。なんかヤバイ恋愛脳をもっていそうだから、好意があると思われたら気持ち悪いと思い近づかなかった。ブランクは黙ったアリスにもっと言ってやろうと口を開きかけたが……
コンコン
常識的なノック音。
「アリス様、マリーナ様がお話しがあるようですが今宜しいでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
ガチャリと開くドア。皇太子妃マリーナが入室する。
「皇太子妃様、ご機嫌よう」
「…っ………ご機嫌よう」
優雅に挨拶するアリスと、慌てて頭を下げるブランク。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「いえ、私はこれでお邪魔します」
あたふたと去っていくブランク。
「助かりました」
「フフッ、驚いたわ。とても綺麗……」
マリーナの背後から現れたのは数匹の少し透けている水色の蝶。アリスが魔法で生み出した蝶だ。その蝶から何か声が繰り返し聞こえる。
『うざお襲来、うざお襲来、お助け、お助け、うざお襲来……………………』
「マリーナ様は保有する魔力量がなかなか多いので、できると思いますよ」
「本当に?教えてくださるの?」
「ええ、勿論です」
「困ったときは助け合わないとね」
クスクスと微笑み合う二人。
王宮は一人では生き抜けない。誰を味方とするか……
それはとても重要なこと。
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