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61. 勘違い女は不要
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ルビーが入宮してからというものアリスは一部の使用人から悪女のレッテルを貼られるようになった。ルビーを虐める無能で家族からも愛されない悪女。夫ブランクに愛されない、彼の想い人であるルビーを憎み嫉妬する悪女。
頻繁に会うわけではないのに、もう何回彼女に突っかかられただろうか。ついでにキャリーも一緒にくるからキャンキャンとよく吠えられる。
今日のアリスは王妃とマリーナに呼ばれて庭でお茶をしていた。
「アリス」
「はい、王妃様」
「ここに来てから結構経ったけれど……最近どう?」
「特に変わりないですよ」
探るようにアリスの顔をしげしげと見つめる王妃。何をそんなに見る必要がある。
「アリス」
「はい、皇太子妃様」
「何か嫌な思いとか……していない?」
「はい、全く。むしろとても楽しい日々を過ごしております」
ニタリと笑うアリスにやっぱり、とゾッとする王妃とマリーナ。
「「お手柔らかにね……」」
こちらはやられている立場だというのに失敬な。“まだ”何もしていない。アリスは近づいてくる人の気配に気づき、更に口角が上がる。
再度ゾッとする王妃とマリーナ。
「「「「王妃様、皇太子妃様、アリス様、ご機嫌麗しゅう」」」」
現れたのはユーリ王子とルカ王子、キャリーとルビーだった。その後ろにお付きのものが控えている。
「楽しそうな声が聞こえたので……ご迷惑だったでしょうか……?」
そう言い上目遣いでルカを見るルビー。なぜそこでルカを見る。同席の許可をするのはボスである王妃だ。
「そんなことないよ。ですよね母上?」
王妃は軽く頷く。もう確認したいことは終わった。王妃から見ても少々うざいこの娘のアリスに対する行動。アリスが激怒していたら今度は何をしでかすかと心配になり呼び出したのだ。
すこぶる上機嫌のようで安心したが、それだけこのウザ娘がやらかしているということでもある。王妃が内心うざうざと自分のことを思っているとは思わぬルビー。
「でも……。呼ばれなかったわけですし」
チラリとアリスを見る。なぜそこでアリスを見る。まるでアリスのせいみたいではないか。アリスがルビーを虐めているという噂があるからか……またかと使用人の非難の視線がアリスに向かう。
「ルビー様。私達はまだ妃ではないのですから呼ばれないこともありますよ。妃になればきっと……」
虐められなくなる。王妃腹の王子の妃の方が地位は高いのだから。ルビーを庇いつつアリスの地位を下に見るキャリーの言動からは傲慢さが見える。正義の味方ヅラをしながら弱いものいじめをしているのは誰なのか。
「アリス、まだ妃ではないとはいえキャリーもルビー嬢も君の義姉のようなものなんだ。そのような振る舞いは今後は控えてもらいたい」
ほー……ユーリ王子も正義ヅラタイプか。それにしてもそのような振る舞いとはなんだ、別に王妃にルビーとキャリーを仲間外れにしろなんて言っていない。何もしてないのに勝手に彼らの中で共通の物語が組み上がっている。テレパシーでも送り合っているのだろうか?
ビビビビーと頭から電波が出るところを想像して笑いそうになるのをこらえる。
「まあまあ兄上。きっと呼ぶ呼ばないを決めたのは母上だよ。アリスのせいにしちゃ駄目だよ」
「なっ……母上はお優しいから二人を会わせないようにしただけだ」
お、お優しい……。王妃がお優しい。ほー……これがマザコンか。しげしげとユーリを見るアリスのスネに王妃の靴の先が当たる。いや、刺さる。地味に痛い。
チラリとルビーを見る。うるうるお目々はパッサパッサに乾き、その目が吊り上がっている。ルカが自分の味方をするような発言をしなかったことが気に食わなかったよう。
ルカ王子に視線をうつすと二人の視線が交わった。ルカが微笑む。その華やかな笑みに皆二人の視線が交わったことに気づく。
ルビーはチャンスとばかりに目をうるうるさせ俯き、キャリーのドレスをそっと掴む。
「アリス様、ルカ王子に色目を使うのはおやめください!」
はっきりと言い切るキャリーの表情は言ってやったとでも言いたげな満足げな顔。
「ルビー様、もう行きましょう。無理にここにいる必要はありません。失礼致します王妃様、皇太子妃様」
そして去っていく4人とそのお付きの者共。
「今のはなんだったのでしょう?演劇ですか?」
マリーナがポツリと呟く。一言も発していないアリスを悪女にした演劇でもしたかったのか……。
「キャリーを王宮に入れるべきではなかったかしら……」
王妃がおでこに手を当てて唸る。
「ルビー様には何も魅力がないですね」
「「?」」
ずっと黙っていたアリスが話し出す。
「王妃様やマリーナ様のような品性、美貌、カリスマ性。キャリー様のような財力。地位はキャリー様と一緒の伯爵家ですが、親や兄弟が特に優れた政治家というわけでもなければ何よりも金が無い。強いて云うなら宰相の孫娘というところは魅力ですが……特に可愛がられているわけでもなさそうですしね」
ルビーは可愛らしいものの貴族の女性の中では中の上くらいの見た目。地位は良くも悪くもない伯爵だが能無し父親と散財母親のせいで金もない。宰相の孫といってもいつまでも彼が宰相のままではないし、彼は優秀な者が好きなようだから愚かなルビーのことは嫌っているようだった。それに宰相の持つ侯爵位を継ぐのはルビーの父親の兄であり、彼は非常に優れた政治手腕を持つ。その娘も見目麗しく賢い……なぜ彼女が王子妃候補ではないのか不思議なくらいだ。
なのに自分は多くの者に愛され、侯爵位にある者のように振る舞っている。じつに勘違い甚だしい。
「ルビー様は王宮に不要のようですね…………」
皆に愛されていると勘違いしているお姫様。いや、ただのお嬢様。同類や無駄な正義感をもつ単純な者以外からは嫌われているとは少しも気づかない憐れなお嬢様。
自分の周りの人間の好意的な態度を絶対とし、優越感に浸っているルビーの顔を思い出す。
アリスの顔が見事な嘲笑に彩られる。
だが、今回はアリスだけではなかった。
王妃とマリーナの顔にも嘲笑が広がる。
なぜならあの女が王宮を去る……それは女の園を統べていく彼女たちの望みでもあったから。
頻繁に会うわけではないのに、もう何回彼女に突っかかられただろうか。ついでにキャリーも一緒にくるからキャンキャンとよく吠えられる。
今日のアリスは王妃とマリーナに呼ばれて庭でお茶をしていた。
「アリス」
「はい、王妃様」
「ここに来てから結構経ったけれど……最近どう?」
「特に変わりないですよ」
探るようにアリスの顔をしげしげと見つめる王妃。何をそんなに見る必要がある。
「アリス」
「はい、皇太子妃様」
「何か嫌な思いとか……していない?」
「はい、全く。むしろとても楽しい日々を過ごしております」
ニタリと笑うアリスにやっぱり、とゾッとする王妃とマリーナ。
「「お手柔らかにね……」」
こちらはやられている立場だというのに失敬な。“まだ”何もしていない。アリスは近づいてくる人の気配に気づき、更に口角が上がる。
再度ゾッとする王妃とマリーナ。
「「「「王妃様、皇太子妃様、アリス様、ご機嫌麗しゅう」」」」
現れたのはユーリ王子とルカ王子、キャリーとルビーだった。その後ろにお付きのものが控えている。
「楽しそうな声が聞こえたので……ご迷惑だったでしょうか……?」
そう言い上目遣いでルカを見るルビー。なぜそこでルカを見る。同席の許可をするのはボスである王妃だ。
「そんなことないよ。ですよね母上?」
王妃は軽く頷く。もう確認したいことは終わった。王妃から見ても少々うざいこの娘のアリスに対する行動。アリスが激怒していたら今度は何をしでかすかと心配になり呼び出したのだ。
すこぶる上機嫌のようで安心したが、それだけこのウザ娘がやらかしているということでもある。王妃が内心うざうざと自分のことを思っているとは思わぬルビー。
「でも……。呼ばれなかったわけですし」
チラリとアリスを見る。なぜそこでアリスを見る。まるでアリスのせいみたいではないか。アリスがルビーを虐めているという噂があるからか……またかと使用人の非難の視線がアリスに向かう。
「ルビー様。私達はまだ妃ではないのですから呼ばれないこともありますよ。妃になればきっと……」
虐められなくなる。王妃腹の王子の妃の方が地位は高いのだから。ルビーを庇いつつアリスの地位を下に見るキャリーの言動からは傲慢さが見える。正義の味方ヅラをしながら弱いものいじめをしているのは誰なのか。
「アリス、まだ妃ではないとはいえキャリーもルビー嬢も君の義姉のようなものなんだ。そのような振る舞いは今後は控えてもらいたい」
ほー……ユーリ王子も正義ヅラタイプか。それにしてもそのような振る舞いとはなんだ、別に王妃にルビーとキャリーを仲間外れにしろなんて言っていない。何もしてないのに勝手に彼らの中で共通の物語が組み上がっている。テレパシーでも送り合っているのだろうか?
ビビビビーと頭から電波が出るところを想像して笑いそうになるのをこらえる。
「まあまあ兄上。きっと呼ぶ呼ばないを決めたのは母上だよ。アリスのせいにしちゃ駄目だよ」
「なっ……母上はお優しいから二人を会わせないようにしただけだ」
お、お優しい……。王妃がお優しい。ほー……これがマザコンか。しげしげとユーリを見るアリスのスネに王妃の靴の先が当たる。いや、刺さる。地味に痛い。
チラリとルビーを見る。うるうるお目々はパッサパッサに乾き、その目が吊り上がっている。ルカが自分の味方をするような発言をしなかったことが気に食わなかったよう。
ルカ王子に視線をうつすと二人の視線が交わった。ルカが微笑む。その華やかな笑みに皆二人の視線が交わったことに気づく。
ルビーはチャンスとばかりに目をうるうるさせ俯き、キャリーのドレスをそっと掴む。
「アリス様、ルカ王子に色目を使うのはおやめください!」
はっきりと言い切るキャリーの表情は言ってやったとでも言いたげな満足げな顔。
「ルビー様、もう行きましょう。無理にここにいる必要はありません。失礼致します王妃様、皇太子妃様」
そして去っていく4人とそのお付きの者共。
「今のはなんだったのでしょう?演劇ですか?」
マリーナがポツリと呟く。一言も発していないアリスを悪女にした演劇でもしたかったのか……。
「キャリーを王宮に入れるべきではなかったかしら……」
王妃がおでこに手を当てて唸る。
「ルビー様には何も魅力がないですね」
「「?」」
ずっと黙っていたアリスが話し出す。
「王妃様やマリーナ様のような品性、美貌、カリスマ性。キャリー様のような財力。地位はキャリー様と一緒の伯爵家ですが、親や兄弟が特に優れた政治家というわけでもなければ何よりも金が無い。強いて云うなら宰相の孫娘というところは魅力ですが……特に可愛がられているわけでもなさそうですしね」
ルビーは可愛らしいものの貴族の女性の中では中の上くらいの見た目。地位は良くも悪くもない伯爵だが能無し父親と散財母親のせいで金もない。宰相の孫といってもいつまでも彼が宰相のままではないし、彼は優秀な者が好きなようだから愚かなルビーのことは嫌っているようだった。それに宰相の持つ侯爵位を継ぐのはルビーの父親の兄であり、彼は非常に優れた政治手腕を持つ。その娘も見目麗しく賢い……なぜ彼女が王子妃候補ではないのか不思議なくらいだ。
なのに自分は多くの者に愛され、侯爵位にある者のように振る舞っている。じつに勘違い甚だしい。
「ルビー様は王宮に不要のようですね…………」
皆に愛されていると勘違いしているお姫様。いや、ただのお嬢様。同類や無駄な正義感をもつ単純な者以外からは嫌われているとは少しも気づかない憐れなお嬢様。
自分の周りの人間の好意的な態度を絶対とし、優越感に浸っているルビーの顔を思い出す。
アリスの顔が見事な嘲笑に彩られる。
だが、今回はアリスだけではなかった。
王妃とマリーナの顔にも嘲笑が広がる。
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