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52. 王妃とアリス

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 翌日の昼、王妃自慢の庭園で優雅に足を組み頬杖をつくアリス。麗しい御御足がスカートから覗いている。

「はしたなくってよ」

 王妃がアリスの前に座る。

「このような時間にご起床とは珍しいですね」

「昨日色々とあったからね」

 ギロッとアリスを睨む王妃。色々と後処理が大変だった。何よりも今まで生きてきた中で、一番精神的に疲れた。昼ぐらいまで休んでも誰にも文句を言われる覚えはない。

「あら、見事第一の任務……いえ、1.5の任務を果たしたのにそんな顔をされるなんて甚だ遺憾ですわ」

 確かに見事マキシムの側妃候補だけでなくユーリの妃候補まで蹴散らしてくれた。だが

「他の方法は無かったの?そもそも時間をかけなさすぎでしょう」

 もっと穏便に、しっかりと計画を練っても良いのではないか?そもそもガルベラ王国からダイラス国に来てまだ1ヶ月も経っていない。婚姻3日目でなぜこんな大臣を集めるような騒動を起こせるのか。

 恨めしげな視線を鼻で笑うアリス。

「そういえば王妃様。公爵が手を出している女性の特徴知ってますか?」

「昨日までは知らなかったわよ……」

「流石王妃様オモテになりますね」

「………………」

 彼が手を出していた人は金色に近い茶色の髪か瞳を持つものばかり。それに皆大人しそうでおっとりとした女性ばかり。ちなみに金髪金眼は王族や高位貴族の者が多い。平民でその色を両方持つ者はほとんどいない。

 そう……なんとなく王妃に似ているものばかり。あくまで雰囲気が、だが。これからも公爵と顔を合わせるのに今更そんなことに気づいても気が滅入るだけ。何よりも普通に気持ち悪い。若かりし日、付きまとわれなくなったので諦めていたと思ったのに。

「でも良かったですね」

 片眉を上げる王妃。

「公爵は王妃様の口の悪い姿、蔑む視線を見て、あれは誰だ……と百年の恋も冷めたそうですよ」

「………………そう。それは良かったわ」

 何だろう。それはそれで苛つく。

「それにしても無事お妾さんも解放されて良かったわ。言ってくれたら力を貸してあげられたのに……」

 妾も娘も皆公爵家を出たそう。ちなみに公爵と妾の子は全員女の子。何人かは公爵家に残るかと思ったので意外だった。

「まあ普通に正妻の親友に助けなんて求められないですよ。どうせ王妃様怖い目で見てたんじゃないですか?」

「睨んでないわ。そもそも昨日初めてあったのよ」

 噂を鵜呑みにして、蔑んできただけ。

「私もまだまだね」

「人生は一生精進ですよ」

 王妃とアリスの空になったカップに紅茶が注がれる。

「で……彼女を雇うことにしたのね」

「ええ、とても良い目を持っていますので」

 二人の視線の先には新たなアリスの専属侍女ーーー目力の強いカルラがいた。彼女は無言で王妃に頭を下げる。礼儀としてではない、母がしたことへの謝罪として。

「あなたが頭を下げる必要はないわ。本来ならば貴方がたに対する態度で私が頭を下げなければならないのでしょう。ですが、私は王妃です」

 いや、王妃は必要であれば頭を下げるタイプの人間だ。誤解は解けたとはいえ、単純に頭を下げたくないのだろう。

「恐れながら目障りではないでしょうか?」

 元とはいえ親友の愛人の娘。それにあの変態公爵の娘。

「アリスが誰を選ぼうと構わないわ」

「ほら、カルラも頭を上げなさい」

 カルラが頭を上げるのを確認したアリスは再び王妃に視線を向ける。

「次はお義母様のご実家ですね」

 次のターゲットは第二王子ユーリの想い人キャリーの生家伯爵家だ。

「また早期解決かしら?」

「そうしたいものです。メインディッシュに時間をかけたいものですから」

 ルカの婚約者にして、ブランクの想い人。今回の騒動で彼女を恐れるどころか、なんと愚かな者だと恐らく思っているだろう。ああいう者はそう考えるものだ。

 それで良い。それでこそ楽しめる。

 一人でニタニタ笑うアリスに周りはドン引きだ。まあ良い。今はそれよりも……

「伯爵家はどのように脅すの?」

「そうですねー……って脅しませんよ」

「あらそうなの」

「そうですよ」

 王妃の涼し気な微笑みに目をやる。それにしてもキャリーが嫁に来れないのは王妃のせいだろうに。自分でどうにかする気はないのだろうか。本当に面の皮も心も厚かましい。

 厚いというか硬いというのか……微笑みも心も頑丈な鉄で出来てるのだろうかと疑いたくなる。

「それじゃあ1週間後またここで」

「はい、ご機嫌よう」

 ってちょっと待て。一週間でどうにかしろと?この前の公爵の件は早期解決できたが、伯爵の方はまだ策もない。


 はーっとため息が漏れるアリス。まあしょうがないと歩み出す。


「アリス様、私にできることはありますか?」

 歩くアリスに声をかけるのはカルラだ。

「まあ大丈夫よ」

 ちらりとカルラを見るアリス。良い駒が手に入った。彼女は人を見る目が非情に優れている。そしてカリスマ性というのか人を従える何かを持っている。妃になったら案外活躍したかもしれないと思いつつ、本人が侍女にと強く希望するので雇った。

 イリスとフランクはあれでもなかなか忙しい。この前できた侍女二人はあれは恋愛に生きるタイプだ。きっと早々に寿退職するだろう。

 
 それにしても、第三のターゲット……愉しみだ。あの女はきっとこちらをとことん惨めなもののように扱ってくるだろう。なんでそんな勘違いができるのかと思うほどに……。

 結局本当に惨めな立場になるのは自分だというのに。


 カルラは目を見張る。

 アリスの嘲笑に。


 それはとても美しく、

 蕩けるような嘲笑だった。


 

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