【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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51. 一件落着

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「皆が私をどう思っているか、わかった……」

 可哀想なほど項垂れている公爵。

「陛下」

 公爵を見る王。いや、なんかあまり顔を見たくないから首元あたりを見ておこう。

「このようなことになり申し訳ございません。全て私の責任にございます。我が家の妾の子を殿下方の妃にと申しておりましたが撤回致します。マリーナに関しましては可能であれば……このまま皇太子妃にしていただきたくお願い申し上げます」

 なっ……図々しいと少数の声が上がる。未来の王妃の親になる野望を持つ者だ。が、正式な抗議が上る前に王妃が先制パンチをかます。

「もちろんです。マリーナほど皇太子妃にふさわしいものはおりません。マリーナほど完璧に妃教育を終えたものはおりませんのよ」

 お前らの娘では能足りん。

「ありがとうございます。…………そして私は公爵を引退し、王宮からも去りたいと思います」

 契約違反、監禁まがい。非人道的な行いだが相手は平民。それにそもそも愛人契約自体は同意されており、生活も足枷以外は高待遇。悲しいかな罪としては少々弱い。彼女たちへの慰謝料も公爵家を傾けさせるほどのものではない。

 では何が一番ヤバイって?公爵のメンタル、羞恥心だ。これだけ皆の前で醜態を晒したのだ。もうここにいたくないと思うのは当然のこと。王も同じ男……なんか性癖とか暴露された日には彼と同じ決断をするだろう。

「許可す「「ダメです」」」

 仲良く二人の女声の声がする。こんな非情なことを言うのはこの二人以外にはいない。

「王妃……、アリス……」

「性癖がなんですか!?女を失ったからなんですか!?あなたにはまだ政治力があります!それに王妃には実家の力も必要です。マリーナの役に立つべきです!それに公爵が退いたら夫人まで隠居しなくてはならないでしょう」

 久しぶりに会えた親友。公爵と離婚する気はなさそうだが、本音を言ったぶん仲良くなるのかむしろ悪くなるのかはわからない。だが足が動くなら外に出られることも増えそうだ。今までの分もたくさん交流するつもりなのに。

「大丈夫ですよ公爵。やったことは非人道的な行い。ですが、彼女たちは感謝もしているのです。ただ相手の気持ちをすべて無視するような鬼畜のごとく所業をしたわけではないのですから!そんなに恥ずかしがらなくても良いのですよ!」

 妾たちがうんうんと頷く。間違いなく娼館に売られるよりも幸せな生活だった。でも、契約期間過ぎてるし、足枷つけるし、なんかただのエロオヤジじゃね?とか思ってしまい気持ち悪くなってしまったのだ。

「いや、でも……」

 いやいや、普通に嫌なんですけど。大臣たちも目がキョドっているじゃないか。

「え~~~~~い、やかましい!私にはまだ父上が必要なのです!恥ずかしい思いをするのがなんですか!?色々な方に迷惑をかけたのですから、何か利益を生み出してから去ってください!それに王妃になったときに後ろ盾や金がなければ私が惨めではないですか!変態だろうが政治力はあるんですからいいんですよ!」

 マリーナが叫んだ。最後のが本音と言ったところだろう。いつも穏やかなマリーナから銭ゲバ発言が出たことで大臣たちは口がぽかーんと開いている。

「大丈夫ですよ公爵」

「アリス様……?」

「ここにいる殿方たちの中には特殊な性癖を持った者がたくさんおります。うまく隠しているだけ。きっと公爵に色々言ってくるものもおりましょう。そのときは私におっしゃってください。その方たちの恥ずかしい秘密を教えて差し上げます」

 大臣たちの顔が青ざめる。ハハッそんなことができるものかと強気なものもいるよう。だが賢いものはアリスの目を見て本気だと悟る。

「アリス様……」

 公爵の目が潤む。

「良いのですよ。マリーナ様が結婚されたら私達は家族になるのですから」

 アリスの慈愛の笑み。

 誰がそんな言葉と笑みに絆されるか。そもそもこんなふうに辱めをうけているのはアリスのせい。目が潤んでいるのは羞恥心から。

「公爵よ。私にはまだお前が必要だ。マリーナにも」

「陛下」

 なぜ視線を逸らして言うのですか。しかし、と大臣たちをちらっと見る。自分の利益ばかりを考える者の多いこと。自分も女性のことでは利己的だが、国のことは第一に考えているつもりだ。

「畏まりました。ですが、なんのお咎めもなしというわけには参りません。しばらく謹慎したいと思います」

「あと、1年の減給でしょうか。こうしてあなたの私的な事情で会議が開かれたのですから、その迷惑料を国に払うのです」

 アリス様……騒ぎを起こしたのはあなたですが……。

 が、原因は自分だ。自分の愚かな行いのせい。

 深々と頭を下げる。



「それでは、解散としよう」

 王が疲れ切った声で告げる。

 皆も何か疲れ切った顔をしていた。




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