【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
37 / 186

37. 女の戦い

しおりを挟む
 疲れ切った表情をしている大臣たち。会合はもう終わったのだからさっさとここから立ち去りたい。が、王族がまだいるから立ち去ることはできない。

「王妃参ろうか」

 王が立ち上がり声を掛けるが王妃は立ち上がらない。訝しげな顔で母を見る王子たち。

「母上、どうされましたか?」
 
 マキシムの言葉にも反応しない王妃。よく見ると扇を持った手が小刻みに震えている。



 役に立たないオヤジ共が……何を疲れ切った顔をしているの。ただ野次を飛ばしていただけでしょうが。そもそも頭を使っていないのになぜハゲるのよ。部下に全て仕事をさせて自分は接待からの女遊び、豪遊、賄賂、仕事以上の給料をもらってるくせに……その金でいいもん食って……なんなのよその狸みたいなお腹は。化かすのが上手な狸の方がよっぽど優秀だし、見た目も癒やされるわ!………………etc.

 口に出してはならない悪態を心の中でつく王妃。王や王子たち、大臣たちも声を掛けるが一向に立ち上がる気配がない。

「王妃様」

 凛としたよく通る声に皆が静まる。王妃はそちらに視線を向ける。心の中の罵詈雑言が止まった。

「陛下」

「どうした?具合でも悪いのか?」

「私はアリス嬢と話したいことがあるので、先にお戻りになっていただけますか?ああ、ザラも王子たちもよ。他の者たちもご苦労さま下がって良いわよ」

「王妃。また後日で良いのではないか?」

 先程の震えに気づいていた王が心配して言う。冷静に話せる状態のときにするべきだ。

「陛下。私に初めて義娘ができたのです。お話ししたいと思うのは当然でしょう?ああ、アリス嬢。王家に生まれた子は全て私の子、その妻も私の子です。ブランクはとても礼儀正しいので、私のことを王妃と呼びます。なのであなたも王妃と呼ぶべきでしょう。しかし、あなたは私の義娘です。呼び方は王妃でも母と思ってちょうだいね」

 いつものおっとりとは違い早口で話す王妃に呆気に取られる面々。

「おっ……王妃…………大丈夫か?」

 王妃は答えない。いや、聞こえていない。彼女が見据えているのはアリスのみ。アリスは口を開く。

「まあ!こんなに美しく若い母ができるなんて光栄ですわ」

 美しい……?嫌味か。実母エレナといえば絶世の美女。

「美しいなどと、エレナ様を間近で見ていたあなたには私の顔など……」

 おっとりとした口調に戻る王妃。思ってもいないことを口に出すなど墓穴を掘ったな。皆に軽蔑の視線を向けられるが良い。

「おほほほほ、御冗談を」

「「「!!!」」」

 皆がアリスの高笑いに愕然とする。

「確かに美しいですが、今はもう孫もいるお祖母様ですよ。それによく見るとシワが……。それに巷では銭婆と呼ばれているとか。婆ですよ婆。はあ……我が母ながら、巷でも婆と呼ばれる年なのですね」

 本気だ。本気でアリスはエレナのことをディスっている。イリスもフランクも含めゾッとした。カサバイン家の女帝エレナといえば知らないものはいない。そのエレナをディスれるなんて……娘といえども怖いもの知らずだ。

 引きつった笑みを浮かべる王妃。もう次の話しにいこう。

「あら、皆様方まだ戻られないのですか?まだ何か御用でも?」

「いや、そういう訳では無いが。後日にしたら……」

 王の言葉がバシッと扇を手に叩きつける音に遮られる。

「私は大丈夫だと申しております。それに、ここからは女性同士の話し合いですわ」

 男はひっこんでろ!!!とその目が強く言い放っている。

「そっ、そうか。では皆の者行こうか」

 ぞろぞろと出ていく王、王子、大臣、侍従たち等。

 残ったのは王妃とその侍女2人、アリスとイリス、フランクだ。

「アリス様」

 フランクがアリスに近づき、その耳に口を寄せる。

「男の俺がいたらヤバイっすかね」

 先程の王妃の女性同士の話し合い発言を気にしているよう。今更?

 ガルベラ王国から来たアリスの護衛、側近として大事な話しも共有してもらわねばと思い残ったが、部屋を見回して気付いた。男一人じゃん、と。そりゃそうだ王妃が女の話し合いと言ったのだから。

 ブッと噴き出す音が聞こえた。王妃だ。

「面白い男が側にいるようね。女性の話し合いと言ったのに残っているから厚かましい者かと思ったら、今になって女性しかいないことに気づくとは」

 天然?と笑う。

「いえ、アリス嬢のことをそれだけ思っているということね……」

 一転して寂しげな顔になる王妃。

「王妃様のことを心配するものはたくさんいると思いますが」

「弱々しく可憐な表の顔の王妃にね」

「少なくとも今残っている侍女お二人は裏の顔の王妃様を知っているうえで側にいるのでは?」

「ふふっ確かにそうね。周りにたくさん人がいるのに本当の私を見ようとしないものが多いから、寂しく感じてしまったわ」

「贅沢です。それに腹黒さは隠せれていませんよ。何人かはわかったうえであなたに信頼を寄せているのだと思います」

「あら、私の演技にクレーム?」

 たわいない話を続ける二人に王妃の侍女が声を掛ける。


「そうね。もうそろそろ、内緒話を始めましょうか?」


 王妃とアリスの視線が静かに交わった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

処理中です...