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37. 女の戦い
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疲れ切った表情をしている大臣たち。会合はもう終わったのだからさっさとここから立ち去りたい。が、王族がまだいるから立ち去ることはできない。
「王妃参ろうか」
王が立ち上がり声を掛けるが王妃は立ち上がらない。訝しげな顔で母を見る王子たち。
「母上、どうされましたか?」
マキシムの言葉にも反応しない王妃。よく見ると扇を持った手が小刻みに震えている。
役に立たないオヤジ共が……何を疲れ切った顔をしているの。ただ野次を飛ばしていただけでしょうが。そもそも頭を使っていないのになぜハゲるのよ。部下に全て仕事をさせて自分は接待からの女遊び、豪遊、賄賂、仕事以上の給料をもらってるくせに……その金でいいもん食って……なんなのよその狸みたいなお腹は。化かすのが上手な狸の方がよっぽど優秀だし、見た目も癒やされるわ!………………etc.
口に出してはならない悪態を心の中でつく王妃。王や王子たち、大臣たちも声を掛けるが一向に立ち上がる気配がない。
「王妃様」
凛としたよく通る声に皆が静まる。王妃はそちらに視線を向ける。心の中の罵詈雑言が止まった。
「陛下」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「私はアリス嬢と話したいことがあるので、先にお戻りになっていただけますか?ああ、ザラも王子たちもよ。他の者たちもご苦労さま下がって良いわよ」
「王妃。また後日で良いのではないか?」
先程の震えに気づいていた王が心配して言う。冷静に話せる状態のときにするべきだ。
「陛下。私に初めて義娘ができたのです。お話ししたいと思うのは当然でしょう?ああ、アリス嬢。王家に生まれた子は全て私の子、その妻も私の子です。ブランクはとても礼儀正しいので、私のことを王妃と呼びます。なのであなたも王妃と呼ぶべきでしょう。しかし、あなたは私の義娘です。呼び方は王妃でも母と思ってちょうだいね」
いつものおっとりとは違い早口で話す王妃に呆気に取られる面々。
「おっ……王妃…………大丈夫か?」
王妃は答えない。いや、聞こえていない。彼女が見据えているのはアリスのみ。アリスは口を開く。
「まあ!こんなに美しく若い母ができるなんて光栄ですわ」
美しい……?嫌味か。実母エレナといえば絶世の美女。
「美しいなどと、エレナ様を間近で見ていたあなたには私の顔など……」
おっとりとした口調に戻る王妃。思ってもいないことを口に出すなど墓穴を掘ったな。皆に軽蔑の視線を向けられるが良い。
「おほほほほ、御冗談を」
「「「!!!」」」
皆がアリスの高笑いに愕然とする。
「確かに美しいですが、今はもう孫もいるお祖母様ですよ。それによく見るとシワが……。それに巷では銭婆と呼ばれているとか。婆ですよ婆。はあ……我が母ながら、巷でも婆と呼ばれる年なのですね」
本気だ。本気でアリスはエレナのことをディスっている。イリスもフランクも含めゾッとした。カサバイン家の女帝エレナといえば知らないものはいない。そのエレナをディスれるなんて……娘といえども怖いもの知らずだ。
引きつった笑みを浮かべる王妃。もう次の話しにいこう。
「あら、皆様方まだ戻られないのですか?まだ何か御用でも?」
「いや、そういう訳では無いが。後日にしたら……」
王の言葉がバシッと扇を手に叩きつける音に遮られる。
「私は大丈夫だと申しております。それに、ここからは女性同士の話し合いですわ」
男はひっこんでろ!!!とその目が強く言い放っている。
「そっ、そうか。では皆の者行こうか」
ぞろぞろと出ていく王、王子、大臣、侍従たち等。
残ったのは王妃とその侍女2人、アリスとイリス、フランクだ。
「アリス様」
フランクがアリスに近づき、その耳に口を寄せる。
「男の俺がいたらヤバイっすかね」
先程の王妃の女性同士の話し合い発言を気にしているよう。今更?
ガルベラ王国から来たアリスの護衛、側近として大事な話しも共有してもらわねばと思い残ったが、部屋を見回して気付いた。男一人じゃん、と。そりゃそうだ王妃が女の話し合いと言ったのだから。
ブッと噴き出す音が聞こえた。王妃だ。
「面白い男が側にいるようね。女性の話し合いと言ったのに残っているから厚かましい者かと思ったら、今になって女性しかいないことに気づくとは」
天然?と笑う。
「いえ、アリス嬢のことをそれだけ思っているということね……」
一転して寂しげな顔になる王妃。
「王妃様のことを心配するものはたくさんいると思いますが」
「弱々しく可憐な表の顔の王妃にね」
「少なくとも今残っている侍女お二人は裏の顔の王妃様を知っているうえで側にいるのでは?」
「ふふっ確かにそうね。周りにたくさん人がいるのに本当の私を見ようとしないものが多いから、寂しく感じてしまったわ」
「贅沢です。それに腹黒さは隠せれていませんよ。何人かはわかったうえであなたに信頼を寄せているのだと思います」
「あら、私の演技にクレーム?」
たわいない話を続ける二人に王妃の侍女が声を掛ける。
「そうね。もうそろそろ、内緒話を始めましょうか?」
王妃とアリスの視線が静かに交わった。
「王妃参ろうか」
王が立ち上がり声を掛けるが王妃は立ち上がらない。訝しげな顔で母を見る王子たち。
「母上、どうされましたか?」
マキシムの言葉にも反応しない王妃。よく見ると扇を持った手が小刻みに震えている。
役に立たないオヤジ共が……何を疲れ切った顔をしているの。ただ野次を飛ばしていただけでしょうが。そもそも頭を使っていないのになぜハゲるのよ。部下に全て仕事をさせて自分は接待からの女遊び、豪遊、賄賂、仕事以上の給料をもらってるくせに……その金でいいもん食って……なんなのよその狸みたいなお腹は。化かすのが上手な狸の方がよっぽど優秀だし、見た目も癒やされるわ!………………etc.
口に出してはならない悪態を心の中でつく王妃。王や王子たち、大臣たちも声を掛けるが一向に立ち上がる気配がない。
「王妃様」
凛としたよく通る声に皆が静まる。王妃はそちらに視線を向ける。心の中の罵詈雑言が止まった。
「陛下」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「私はアリス嬢と話したいことがあるので、先にお戻りになっていただけますか?ああ、ザラも王子たちもよ。他の者たちもご苦労さま下がって良いわよ」
「王妃。また後日で良いのではないか?」
先程の震えに気づいていた王が心配して言う。冷静に話せる状態のときにするべきだ。
「陛下。私に初めて義娘ができたのです。お話ししたいと思うのは当然でしょう?ああ、アリス嬢。王家に生まれた子は全て私の子、その妻も私の子です。ブランクはとても礼儀正しいので、私のことを王妃と呼びます。なのであなたも王妃と呼ぶべきでしょう。しかし、あなたは私の義娘です。呼び方は王妃でも母と思ってちょうだいね」
いつものおっとりとは違い早口で話す王妃に呆気に取られる面々。
「おっ……王妃…………大丈夫か?」
王妃は答えない。いや、聞こえていない。彼女が見据えているのはアリスのみ。アリスは口を開く。
「まあ!こんなに美しく若い母ができるなんて光栄ですわ」
美しい……?嫌味か。実母エレナといえば絶世の美女。
「美しいなどと、エレナ様を間近で見ていたあなたには私の顔など……」
おっとりとした口調に戻る王妃。思ってもいないことを口に出すなど墓穴を掘ったな。皆に軽蔑の視線を向けられるが良い。
「おほほほほ、御冗談を」
「「「!!!」」」
皆がアリスの高笑いに愕然とする。
「確かに美しいですが、今はもう孫もいるお祖母様ですよ。それによく見るとシワが……。それに巷では銭婆と呼ばれているとか。婆ですよ婆。はあ……我が母ながら、巷でも婆と呼ばれる年なのですね」
本気だ。本気でアリスはエレナのことをディスっている。イリスもフランクも含めゾッとした。カサバイン家の女帝エレナといえば知らないものはいない。そのエレナをディスれるなんて……娘といえども怖いもの知らずだ。
引きつった笑みを浮かべる王妃。もう次の話しにいこう。
「あら、皆様方まだ戻られないのですか?まだ何か御用でも?」
「いや、そういう訳では無いが。後日にしたら……」
王の言葉がバシッと扇を手に叩きつける音に遮られる。
「私は大丈夫だと申しております。それに、ここからは女性同士の話し合いですわ」
男はひっこんでろ!!!とその目が強く言い放っている。
「そっ、そうか。では皆の者行こうか」
ぞろぞろと出ていく王、王子、大臣、侍従たち等。
残ったのは王妃とその侍女2人、アリスとイリス、フランクだ。
「アリス様」
フランクがアリスに近づき、その耳に口を寄せる。
「男の俺がいたらヤバイっすかね」
先程の王妃の女性同士の話し合い発言を気にしているよう。今更?
ガルベラ王国から来たアリスの護衛、側近として大事な話しも共有してもらわねばと思い残ったが、部屋を見回して気付いた。男一人じゃん、と。そりゃそうだ王妃が女の話し合いと言ったのだから。
ブッと噴き出す音が聞こえた。王妃だ。
「面白い男が側にいるようね。女性の話し合いと言ったのに残っているから厚かましい者かと思ったら、今になって女性しかいないことに気づくとは」
天然?と笑う。
「いえ、アリス嬢のことをそれだけ思っているということね……」
一転して寂しげな顔になる王妃。
「王妃様のことを心配するものはたくさんいると思いますが」
「弱々しく可憐な表の顔の王妃にね」
「少なくとも今残っている侍女お二人は裏の顔の王妃様を知っているうえで側にいるのでは?」
「ふふっ確かにそうね。周りにたくさん人がいるのに本当の私を見ようとしないものが多いから、寂しく感じてしまったわ」
「贅沢です。それに腹黒さは隠せれていませんよ。何人かはわかったうえであなたに信頼を寄せているのだと思います」
「あら、私の演技にクレーム?」
たわいない話を続ける二人に王妃の侍女が声を掛ける。
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王妃とアリスの視線が静かに交わった。
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