35 / 186
35. 婚姻条件①
しおりを挟む
先日お邪魔した客室に再び訪れたアリス。先日と同じくガルベラ王国とダイラス国の者に分かれて座っている。
ダイラス国側には王、王妃、ザラ、4人の王子、宰相、外務大臣、その他なんちゃら大臣や補佐が。ガルベラ王国側にはアリスのみが座っている。イリスとフランクはアリスの後ろに控える。
「これはこれは。アリス殿が一人で交渉の席に着くとは聞いておりましたが、まさか事実だとは。ガルベラ王国は何を考えているのか」
イリスはハゲジジイが生意気な……と思うが、ここはダイラス国。周りはアリスの敵ばかり。16歳の小娘が国のトップや大臣たちの前で発言することもできずに終わるんじゃないか、と下卑た笑みを浮かべるハゲジジイの更なる言葉にそうですなと笑いながら答えるその他ジジイたち。彼らの中では国から見捨てられた娘に見えるのだろう。
「陛下、これは我が国に有利な契約が結べそうですね」
そこの側近聞こえているぞ。もっと小さい声で言え。あからさまにこちらを下に見ている態度にいつも朗らかなフランクの顔がマネキンのように固まっている。これは彼が怒っているときの表情だ。
イリスはアリスに視線を向ける。最側近である侍女と護衛をよそに一人の人物をニタニタしながらひたすらじーーーっと見つめている。
なにこの娘……さっきからこっちばかり見て……………不気味だわ。視線を一身に浴びる王妃は内心の不快さを隠してアリスから視線を逸らさず微笑みも絶やさない。
王、ザラ、王子たちと宰相は女二人のにこやかなガンの飛ばし合いとそれに気づかず勝手を言う大臣たちに引き気味だった。
「んんっ……!こちらが我が国が要求したいことだ。確認してもらえるだろうか?」
「承知いたしました陛下」
王の側近から差し出された紙にざっと目を通すアリス。
ふむ…………。
「この他国から狙われた際の武力提供と有事の際の支援は良いですが、それ以外は却下ですね」
「「「なっ!?」」」
アリスの言葉にざわつく室内。
それでは婚姻の意味がないではないか!
我が国をバカにしている!
カサバイン家の娘だからと生意気だ!
無能娘が何様だ!
等々罵声が飛ぶ。
「お前など国に帰ってしまえ!!!」
その言葉に涼しい顔をしていた表情から一変、底意地の悪い悪女面に変わるアリス。実にあくどい笑顔だ。
「帰ってしまおうかしら…………?」
アリスの言葉に一人を除き静まり返る。たった一人言い返してくるのはもちろん先程帰れと言った大臣。
「なっ………………帰れるものならば帰れば良いではないか。戻る場所もないくせに!」
なんと愚かな。彼は帰れないと思っているのだ。更に言い募ろうとする大臣に王妃が手を上げ制する。
「アリス嬢無礼な発言、その者に代わり謝罪いたします。しかし、他の条件も今一度考えていただけないでしょうか?これからアリス嬢もダイラス国の人間になるのです。我が国がより良いものになるように協力していただきたいわ」
アリスはチラリと条件書を見る。
「金銭的に我が国ほど豊かではないかもしれませんが他国と比べればとても豊かです。援助する程困窮しているようには見受けられません。陛下と王妃様、そして側妃様の手腕はお見事としか言いようがございません」
「過分なお言葉光栄ですわ。ですがあればある程良いものです。いつ何が起きるかわからぬのがこの世というもの」
「有事には金銭及び物資を支援致します」
「備えたいと言っているのです」
「今ある予算で備えればよろしいのでは?」
「アリス様、国民の水準を保つのに予算はギリギリです」
財務大臣の言葉にアリスはハッと笑う。
「大臣や貴族たちに払う給金を減らせばよいのでは?この国では功績がないにも関わらず高額な給金をもらっている者が多いようです。下手したら我が国の宰相よりも多い者もいるようですが……」
懐かしい……。宰相であるジュリアの父。幼き日に執務室に行ったときの嫌そうな顔。その顔が面白くて次の日朝一から執務が終わるまで堂々と居座った。彼は朝一からずっと同じ姿勢で書類を裁いていた。裁いても裁いても持ち込まれる減らない書類。問題です!と駆け込んでくる部下たち。終わったのは日付が変わる頃。
これが社畜か、と目の当たりした6歳のあの日。
そんな宰相の受け取る給与額を見たとき、あの苦労に対する対価がこれかとポロリと涙が出そうだった1ヶ月後のあの日。
この弱国の人間があの苦労性の宰相よりも給与が高いなど許すまじ。
アリスの表情から幻聴が聞こえてくるイリスは遠い目をする。いや、社畜だがあの額が貰えれば十分だと思う。カサバイン家の貢献がデカすぎて給与が多すぎるから少なく感じているだけです。
「なっ、なぜそんなことがわかるのですかっ!?」
「知りたいです?」
ニコリと笑うアリスに首を横に振る大臣。
「アリス嬢。確かにそこは見直す点かもしれませんね。経済支援は諦めましょう。しかしこのままではアリス嬢に割り当てる予算が……」
悲しそうに瞼を伏せる王妃。おいおい、口元はニヤけているぞ。腹黒い本性が垣間見えている。支援がないと予算がないと脅してくるとは。
「ああ、それは別に結構です」
「結構?」
お金がいらないなんて……と驚愕する王妃。
あら、意外と銭ゲバタイプ?
ダイラス国側には王、王妃、ザラ、4人の王子、宰相、外務大臣、その他なんちゃら大臣や補佐が。ガルベラ王国側にはアリスのみが座っている。イリスとフランクはアリスの後ろに控える。
「これはこれは。アリス殿が一人で交渉の席に着くとは聞いておりましたが、まさか事実だとは。ガルベラ王国は何を考えているのか」
イリスはハゲジジイが生意気な……と思うが、ここはダイラス国。周りはアリスの敵ばかり。16歳の小娘が国のトップや大臣たちの前で発言することもできずに終わるんじゃないか、と下卑た笑みを浮かべるハゲジジイの更なる言葉にそうですなと笑いながら答えるその他ジジイたち。彼らの中では国から見捨てられた娘に見えるのだろう。
「陛下、これは我が国に有利な契約が結べそうですね」
そこの側近聞こえているぞ。もっと小さい声で言え。あからさまにこちらを下に見ている態度にいつも朗らかなフランクの顔がマネキンのように固まっている。これは彼が怒っているときの表情だ。
イリスはアリスに視線を向ける。最側近である侍女と護衛をよそに一人の人物をニタニタしながらひたすらじーーーっと見つめている。
なにこの娘……さっきからこっちばかり見て……………不気味だわ。視線を一身に浴びる王妃は内心の不快さを隠してアリスから視線を逸らさず微笑みも絶やさない。
王、ザラ、王子たちと宰相は女二人のにこやかなガンの飛ばし合いとそれに気づかず勝手を言う大臣たちに引き気味だった。
「んんっ……!こちらが我が国が要求したいことだ。確認してもらえるだろうか?」
「承知いたしました陛下」
王の側近から差し出された紙にざっと目を通すアリス。
ふむ…………。
「この他国から狙われた際の武力提供と有事の際の支援は良いですが、それ以外は却下ですね」
「「「なっ!?」」」
アリスの言葉にざわつく室内。
それでは婚姻の意味がないではないか!
我が国をバカにしている!
カサバイン家の娘だからと生意気だ!
無能娘が何様だ!
等々罵声が飛ぶ。
「お前など国に帰ってしまえ!!!」
その言葉に涼しい顔をしていた表情から一変、底意地の悪い悪女面に変わるアリス。実にあくどい笑顔だ。
「帰ってしまおうかしら…………?」
アリスの言葉に一人を除き静まり返る。たった一人言い返してくるのはもちろん先程帰れと言った大臣。
「なっ………………帰れるものならば帰れば良いではないか。戻る場所もないくせに!」
なんと愚かな。彼は帰れないと思っているのだ。更に言い募ろうとする大臣に王妃が手を上げ制する。
「アリス嬢無礼な発言、その者に代わり謝罪いたします。しかし、他の条件も今一度考えていただけないでしょうか?これからアリス嬢もダイラス国の人間になるのです。我が国がより良いものになるように協力していただきたいわ」
アリスはチラリと条件書を見る。
「金銭的に我が国ほど豊かではないかもしれませんが他国と比べればとても豊かです。援助する程困窮しているようには見受けられません。陛下と王妃様、そして側妃様の手腕はお見事としか言いようがございません」
「過分なお言葉光栄ですわ。ですがあればある程良いものです。いつ何が起きるかわからぬのがこの世というもの」
「有事には金銭及び物資を支援致します」
「備えたいと言っているのです」
「今ある予算で備えればよろしいのでは?」
「アリス様、国民の水準を保つのに予算はギリギリです」
財務大臣の言葉にアリスはハッと笑う。
「大臣や貴族たちに払う給金を減らせばよいのでは?この国では功績がないにも関わらず高額な給金をもらっている者が多いようです。下手したら我が国の宰相よりも多い者もいるようですが……」
懐かしい……。宰相であるジュリアの父。幼き日に執務室に行ったときの嫌そうな顔。その顔が面白くて次の日朝一から執務が終わるまで堂々と居座った。彼は朝一からずっと同じ姿勢で書類を裁いていた。裁いても裁いても持ち込まれる減らない書類。問題です!と駆け込んでくる部下たち。終わったのは日付が変わる頃。
これが社畜か、と目の当たりした6歳のあの日。
そんな宰相の受け取る給与額を見たとき、あの苦労に対する対価がこれかとポロリと涙が出そうだった1ヶ月後のあの日。
この弱国の人間があの苦労性の宰相よりも給与が高いなど許すまじ。
アリスの表情から幻聴が聞こえてくるイリスは遠い目をする。いや、社畜だがあの額が貰えれば十分だと思う。カサバイン家の貢献がデカすぎて給与が多すぎるから少なく感じているだけです。
「なっ、なぜそんなことがわかるのですかっ!?」
「知りたいです?」
ニコリと笑うアリスに首を横に振る大臣。
「アリス嬢。確かにそこは見直す点かもしれませんね。経済支援は諦めましょう。しかしこのままではアリス嬢に割り当てる予算が……」
悲しそうに瞼を伏せる王妃。おいおい、口元はニヤけているぞ。腹黒い本性が垣間見えている。支援がないと予算がないと脅してくるとは。
「ああ、それは別に結構です」
「結構?」
お金がいらないなんて……と驚愕する王妃。
あら、意外と銭ゲバタイプ?
498
お気に入りに追加
5,206
あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる