【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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26. 大掃除④

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 エミリアはまだ女の目に光があることに気づく。

 (本当の愚か者ね……。…………?)

 扉の方から人が近づいてくる気配がする。

「ロナルド様!解雇とはどういうことですか!?」

 現れたのはロナルド、ミカエラ、カイル。そして”元”カサバイン家お抱えの騎士たち。

「解雇だ。自分でも言っただろう」

「そういう意味ではございません!どうして解雇なのですか!?」

「ああ、それはアリ「私は自分で言うのもなんですが優秀だと思います!誰よりも多くの魔物や悪党を退治してきました!」」

 そこに居合わせた者たち(元騎士と元使用人は除く)は呆気に取られた。主人(厳密には主人の配偶者)の言葉を遮るなどあってはならないこと。

「アリス嬢が結婚することになり、班は解散。自分の実力ならもちろんカイル様の班になると自信がありました」

 班……カサバイン家は全員が騎士を管理している。しかし、兄弟たちの中で最も精鋭の騎士が揃っていると言われているのは剣バカのカイルのところだった。

 リリアは安堵した。この男……様ではないがちゃんと嬢をつけている。自分よりも若い女性、しかも上司ということでどうしても反発心が捨てられないよう。無駄なプライドとしか思えないが。

 チラリと異母兄姉たちを見るがやや不満そうな顔をしている。そんなことを考えていると目の前の愚者とは違い、話をすべて聞き終えたミカエラが話し出す。

「解雇の理由は指揮官の言う事を聞かないからだ!以上!」

 ミカエラの短い言葉に一瞬キョトンとすると顔を真っ赤にして食って掛かる。

「指揮官も何もアリス嬢が指揮を執り始めたのは8歳の頃です。まだ未成年ですよ。どうしてそんな幼い者の言う事を聞けますか?命を預けられるでしょうか?」

 男の言葉に他の元騎士たちもうんうんと頷いている。

「まあアリスが幼い頃に指揮官になったのは事実。お前たちが不安になるのは当たり前だ。普通に幼児……いや、自分の年齢の半分にも達していない少女に戸惑うのもわかる。だが、今まで共に戦ってきたお前たちがそんなことを言うとはな……」

「「「!?」」」

 途中までわかるわーと言いたげにうんうんと頷いていたのに最後に急に冷たい視線を向けられ、ゾッとする。しかしそれを振り払うかのように大きな声で反論する男。

「アリス嬢が初めて陣頭指揮を執ったとき命令違反をした私にカイル様は怒らずアリス様に怒りを向けておられました。その後も私はアリス嬢の指示には従いませんでしたが誰も苦言を呈するものはおりませんでした。それは、私の行動は間違ってないということではないのですか?」

 名前を出されたカイルはなんのことかと思ったが暫くするとああ……と小さく声をもらした。

「確かに俺はアリスを叱ったな。でもそれは怪我人が出た以上責任を取るのがリーダーの役目だからだ。そもそもお前のせいでフランクは怪我したんだろ。あいつは腕も良いし性格も良い。オレも欲しかったんだがな。アリスのやつがちゃっかり自分の護衛にして手が出せなかったんだよ……。お前謝りもしなかっただろ。それどころか自分の誤りを反省することもなく同じことを……いや、もっと傲慢な態度をとり続けていたな」

「えっ……?」

 静かに紡がれる言葉だが確かに感じる強い怒り。

「そんなふうに傲慢な行動をしていたのはお前だけじゃない。そいつらもだ。言う事を聞かないやつを聞かせるには圧倒的な権力……実力……暴力……精神支配……とかか?しかし、お前たちも認めたくはなかっただろうが理解していたはずだ。あいつは天才だ。魔法においてお前たちの何百倍何千倍と実力があった。指揮者としても立派だった。実力があるからこそ幼くてもあいつをリーダーに据えたんだ。じゃなければ誰が8歳の子供に指揮を任せる?だが、お前たちはあいつを侮り続けた。なぜか……ただ女であり、あまりにも幼すぎたからだ。だったら暴力か精神攻撃で屈伏させるしかない。だが、アリスはどれもしなかった」

 カイルの視線は哀れなものを見る目だった。己の器の小ささを見透かすような目。

「あの後からアリスの隊で大きなケガをしたものは出なかっただろ。まあ危険な魔物が少なかったというのもあるが、魔物の群れは何度か押し寄せてきたはず。なのになぜ怪我人がいないんだ?」

「それは私達の力「んなわけないだろ」」

 話を遮られ不機嫌そうな顔をする男。先程自分も同じことをしただろう……。

「お前たちの力で魔物の群れを抑え込めたなんて自惚れてるのか?アリスがお前たちの行動や性格を考慮し指揮をしていたからに決まってるだろ。あとはマジでヤバイ時はアリスがフォローしたり、戦闘途中でも治癒してたんだろ」

 男は最初憤慨していたが、よく振り返るとカイルの言う通りだったような気がする。突っ走ってケガをしたもののアリスに触れられるとケガがなくなっていた、目の前で牙を剥く魔物が急に消えたことが何度もあった。当たり前過ぎてありがたいと思ったことなどなかった。

「まあなんにしても、アリスがいない今お前たちは解雇だ。俺等カサバインの者でお前たちを引き取りたいと言うやつがいないからな。命令違反なんてされたら普通にムカツクし。的確な意見や機転の効いた行動なら良いけど、お前たちのはただの自意識過剰な自分勝手な行動だ。それに……可愛い妹を蔑ろにするやつなんかいらないだろ」

 可愛い妹……可愛いと思うのなら普通あんなに幼い子を戦場に出すべきではない。そんな心の声が聞こえたのか大将軍にして彼らの父親であるロナルドの視線が男を射抜く。

「カサバインの人間は普通の人間にあらず。天才、人外、化け物と呼ばれるべし」

 なんだそれは?

「幼いからなんだ?力があるなら振るうべきだ。アリスにはそれだけの力がある」

 このカサバイン家の副長(長はエレナ)に力があると言われるなんてどれだけの実力者なのか。

「まあ……力だけじゃなくていろいろと中身もヤバイんだけどな……」

 ぼそっとカイルが呟く。彼女が人から蔑ろにされているのは彼女がそう振る舞っているからに他ならない。そうして勘違い野郎たちの行動を裏で愉しそうに笑うのがアリスの趣味。趣味が悪いにも程がある。

 なんかいろいろと悟ってしまった騎士は黙ってしまった。ここに来てやっと自分の行動を反省したようだ。

 ごちゃごちゃ言ったが一応そこそこの実力はあるやつらばかり。本当に反省していれば他所でうまくやっていけるだろう。

 それを邪魔する気はない。


 ………………まあ、紹介状はあげないけど。

 

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