23 / 186
23. 大掃除①
しおりを挟む
朝早くから公爵邸の広い玄関ホールに集まる全ての使用人たち。その顔は皆期待に満ちている。今までの玄関ホールでの招集は執事や侍女に格上げされたり、配置換え等、いわゆる人事異動に関することばかりだったからだ。
「おはよう。朝早くからごめんなさいね。でも人事に関することはさっさと伝えるべきでしょう?」
ザワザワとしていた玄関ホールにエレナとジャック、エミリア、アンジェ、セイラが現れ、場は静まりかえる。しかしエレナの言葉に一部の者が期待に目を輝かせ声を上げる。
侍女長の鋭い視線で再び静かになったホール。エレナは使用人たちを見回すとすっと優雅に半数くらいの男女を扇子で指し示す。
呼ばれた者たちは意気揚々と周りに優越感たっぷりの態度で前に出てきた。エレナは眼の前に立つ者に向かってニッコリと微笑むと扇子で自分の首を切る仕草をした。
「クビね」
「「えっ!?」」
「もちろん紹介状も書くつもりはないわ。むしろあなたたちを雇ってほしいと頼んできた人たちに抗議したいくらいよ。まあ面倒だからしないけど。とりあえず今日中にこの屋敷を出ていってちょうだい」
彼女たちはカサバイン家に気に入られようとする低位貴族から預かっている者たちや紹介者ばかりだった。
「「っ!お待ち下さい!!なぜ私がクビなのですか?」」
かつてアリスの部屋の清掃をさぼったりアクセサリーを盗んだ……いや、今もしている女が声を上げる。しかしそんな言葉など聞こえないとでも言うように、さっさとその場からいなくなるエレナ。
「「お待ち下さい!!」」
もうエレナの姿は見えないのに声を張り上げる解雇を言い渡された面々。なぜ……?先程まで自分たちの華々しい姿しか思い浮かべることしかできなかったのに。なぜ自分は今こんなふうに床に膝をついて焦っているのだろうか……。
「いやいや~何その焦った顔?自分の今までの行いを振り返ると当たり前だと思わないわけ?」
アンジェの言葉に余計に頭が混乱する。その様子に心底呆れたような顔をするカサバイン家のでかい子どもたち。
「いやいや、普通に仕事してないし」
仕事してないし……?毎日嫌われ者の世話をしていた。むしろ誰もやりたがらないのにわざわざ部屋まで毎日赴いただけでも感謝して欲しい……。
「フフッ……仕えるべき人間を敬いもせず、蔑ろにするなどありえないわ」
「世の中には主人とは思えないクソ人間もいるけどね。まさかこの国に多大なる貢献をしている我らカサバイン家の人間がそんな者だと言いたいのかしら?」
彼女たちが何を言っているのかわからない。むしろ逆だ。尊敬しているし、彼女たちの侍女になれたらどれだけ光栄か。他者に自慢できることか。
「そんなことは思っていません!ただあの女だけは違いますが。……ああ!それでサボっていると思われたんですね。違います!私は皆様の思いを考慮し行動をしていたまでです!皆様の妹でありながらなんの能力もないあの女は邪魔ですよね?このカサバイン家にふさわしくありません!カサバイン家の人間として扱われる資格のない人間を皆さんと同等の扱いをするなどこの栄誉あるカサバイン家で働く者としてとてもできませんでした」
「黙れ」
ジャックの静かな声がホールに響き渡る。
「お前ごときがカサバイン、カサバインと何様のつもりだ」
「……っ!私もカサバイン家の立派な使用人です!」
確かに今は一使用人でしかないかもしれない……。でもいつかは侍女になり、良い相手に嫁ぐのだ。もしかしたら本当にカサバイン家の一員になる可能性だってあると思っている。
何をふざけたことを自分を年若い乙女だとでも思ってるのだろうか。そんなの十数年も使用人のまま侍女になれていない人間には無理だと思われるが自分に都合の良い考えをする者には常識というものがないからわからないのだろうか。ふー……と息を吐く。
「立派な使用人は家のものを決して蔑ろにはしない。それに我らは誰一人としてアリスのことを邪魔だと思ったことなどない。まして無能だと思っているものなどいないだろう。どんな事情があるにしろ、自分だって言っていただろう使用人だと。使用人としての仕事をしない、可愛い妹を蔑むやつを使いたいと思う者は我らカサバイン家にはいない」
なぜ?なぜ?あんなに妹に冷たくしていたのに。心には焦りばかりが募る。
そのときたまたまだろうが、リリアがホールを横切ろうとしているのが目に入った。
「リリア様!!!」
何やらヤバ気な雰囲気のところに出くわしたリリアは存在感を消して通り過ぎようとしていたのに、声をかけられ身体がビクーッとはねた。足を止めそろ~っと視線を騒ぎの方にやると、使用人がこちらに向かって足をもつれさせながらかけてくる。ガシッとスカートを掴まれて身動きが取れない。
「……えっ……と……。……どうなさったの?」
とりあえず問いかけたものの超絶美形たちからの視線に冷や汗が吹き出る。逃げたい。とにかく手を離してほしい。そんな気持ちなど察せない彼女はリリアを救いの女神様を見るかのように目を輝かせ見てくる。
「リリア様!何やら誤解があるようなのです!兄君姉君に解雇を取り下げてくださるようにお願いしてくださいませんか?……あっ!リリア様の専属にしてください。誠心誠意お仕えしますから!」
彼女はリリアの手をガシッと掴み言葉を連ねる。お優しいリリア様ならなんとかしてくださる!そう考える使用人の瞳が驚愕に彩られていく。
「おはよう。朝早くからごめんなさいね。でも人事に関することはさっさと伝えるべきでしょう?」
ザワザワとしていた玄関ホールにエレナとジャック、エミリア、アンジェ、セイラが現れ、場は静まりかえる。しかしエレナの言葉に一部の者が期待に目を輝かせ声を上げる。
侍女長の鋭い視線で再び静かになったホール。エレナは使用人たちを見回すとすっと優雅に半数くらいの男女を扇子で指し示す。
呼ばれた者たちは意気揚々と周りに優越感たっぷりの態度で前に出てきた。エレナは眼の前に立つ者に向かってニッコリと微笑むと扇子で自分の首を切る仕草をした。
「クビね」
「「えっ!?」」
「もちろん紹介状も書くつもりはないわ。むしろあなたたちを雇ってほしいと頼んできた人たちに抗議したいくらいよ。まあ面倒だからしないけど。とりあえず今日中にこの屋敷を出ていってちょうだい」
彼女たちはカサバイン家に気に入られようとする低位貴族から預かっている者たちや紹介者ばかりだった。
「「っ!お待ち下さい!!なぜ私がクビなのですか?」」
かつてアリスの部屋の清掃をさぼったりアクセサリーを盗んだ……いや、今もしている女が声を上げる。しかしそんな言葉など聞こえないとでも言うように、さっさとその場からいなくなるエレナ。
「「お待ち下さい!!」」
もうエレナの姿は見えないのに声を張り上げる解雇を言い渡された面々。なぜ……?先程まで自分たちの華々しい姿しか思い浮かべることしかできなかったのに。なぜ自分は今こんなふうに床に膝をついて焦っているのだろうか……。
「いやいや~何その焦った顔?自分の今までの行いを振り返ると当たり前だと思わないわけ?」
アンジェの言葉に余計に頭が混乱する。その様子に心底呆れたような顔をするカサバイン家のでかい子どもたち。
「いやいや、普通に仕事してないし」
仕事してないし……?毎日嫌われ者の世話をしていた。むしろ誰もやりたがらないのにわざわざ部屋まで毎日赴いただけでも感謝して欲しい……。
「フフッ……仕えるべき人間を敬いもせず、蔑ろにするなどありえないわ」
「世の中には主人とは思えないクソ人間もいるけどね。まさかこの国に多大なる貢献をしている我らカサバイン家の人間がそんな者だと言いたいのかしら?」
彼女たちが何を言っているのかわからない。むしろ逆だ。尊敬しているし、彼女たちの侍女になれたらどれだけ光栄か。他者に自慢できることか。
「そんなことは思っていません!ただあの女だけは違いますが。……ああ!それでサボっていると思われたんですね。違います!私は皆様の思いを考慮し行動をしていたまでです!皆様の妹でありながらなんの能力もないあの女は邪魔ですよね?このカサバイン家にふさわしくありません!カサバイン家の人間として扱われる資格のない人間を皆さんと同等の扱いをするなどこの栄誉あるカサバイン家で働く者としてとてもできませんでした」
「黙れ」
ジャックの静かな声がホールに響き渡る。
「お前ごときがカサバイン、カサバインと何様のつもりだ」
「……っ!私もカサバイン家の立派な使用人です!」
確かに今は一使用人でしかないかもしれない……。でもいつかは侍女になり、良い相手に嫁ぐのだ。もしかしたら本当にカサバイン家の一員になる可能性だってあると思っている。
何をふざけたことを自分を年若い乙女だとでも思ってるのだろうか。そんなの十数年も使用人のまま侍女になれていない人間には無理だと思われるが自分に都合の良い考えをする者には常識というものがないからわからないのだろうか。ふー……と息を吐く。
「立派な使用人は家のものを決して蔑ろにはしない。それに我らは誰一人としてアリスのことを邪魔だと思ったことなどない。まして無能だと思っているものなどいないだろう。どんな事情があるにしろ、自分だって言っていただろう使用人だと。使用人としての仕事をしない、可愛い妹を蔑むやつを使いたいと思う者は我らカサバイン家にはいない」
なぜ?なぜ?あんなに妹に冷たくしていたのに。心には焦りばかりが募る。
そのときたまたまだろうが、リリアがホールを横切ろうとしているのが目に入った。
「リリア様!!!」
何やらヤバ気な雰囲気のところに出くわしたリリアは存在感を消して通り過ぎようとしていたのに、声をかけられ身体がビクーッとはねた。足を止めそろ~っと視線を騒ぎの方にやると、使用人がこちらに向かって足をもつれさせながらかけてくる。ガシッとスカートを掴まれて身動きが取れない。
「……えっ……と……。……どうなさったの?」
とりあえず問いかけたものの超絶美形たちからの視線に冷や汗が吹き出る。逃げたい。とにかく手を離してほしい。そんな気持ちなど察せない彼女はリリアを救いの女神様を見るかのように目を輝かせ見てくる。
「リリア様!何やら誤解があるようなのです!兄君姉君に解雇を取り下げてくださるようにお願いしてくださいませんか?……あっ!リリア様の専属にしてください。誠心誠意お仕えしますから!」
彼女はリリアの手をガシッと掴み言葉を連ねる。お優しいリリア様ならなんとかしてくださる!そう考える使用人の瞳が驚愕に彩られていく。
501
お気に入りに追加
5,149
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね
ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる