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23. 大掃除①
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朝早くから公爵邸の広い玄関ホールに集まる全ての使用人たち。その顔は皆期待に満ちている。今までの玄関ホールでの招集は執事や侍女に格上げされたり、配置換え等、いわゆる人事異動に関することばかりだったからだ。
「おはよう。朝早くからごめんなさいね。でも人事に関することはさっさと伝えるべきでしょう?」
ザワザワとしていた玄関ホールにエレナとジャック、エミリア、アンジェ、セイラが現れ、場は静まりかえる。しかしエレナの言葉に一部の者が期待に目を輝かせ声を上げる。
侍女長の鋭い視線で再び静かになったホール。エレナは使用人たちを見回すとすっと優雅に半数くらいの男女を扇子で指し示す。
呼ばれた者たちは意気揚々と周りに優越感たっぷりの態度で前に出てきた。エレナは眼の前に立つ者に向かってニッコリと微笑むと扇子で自分の首を切る仕草をした。
「クビね」
「「えっ!?」」
「もちろん紹介状も書くつもりはないわ。むしろあなたたちを雇ってほしいと頼んできた人たちに抗議したいくらいよ。まあ面倒だからしないけど。とりあえず今日中にこの屋敷を出ていってちょうだい」
彼女たちはカサバイン家に気に入られようとする低位貴族から預かっている者たちや紹介者ばかりだった。
「「っ!お待ち下さい!!なぜ私がクビなのですか?」」
かつてアリスの部屋の清掃をさぼったりアクセサリーを盗んだ……いや、今もしている女が声を上げる。しかしそんな言葉など聞こえないとでも言うように、さっさとその場からいなくなるエレナ。
「「お待ち下さい!!」」
もうエレナの姿は見えないのに声を張り上げる解雇を言い渡された面々。なぜ……?先程まで自分たちの華々しい姿しか思い浮かべることしかできなかったのに。なぜ自分は今こんなふうに床に膝をついて焦っているのだろうか……。
「いやいや~何その焦った顔?自分の今までの行いを振り返ると当たり前だと思わないわけ?」
アンジェの言葉に余計に頭が混乱する。その様子に心底呆れたような顔をするカサバイン家のでかい子どもたち。
「いやいや、普通に仕事してないし」
仕事してないし……?毎日嫌われ者の世話をしていた。むしろ誰もやりたがらないのにわざわざ部屋まで毎日赴いただけでも感謝して欲しい……。
「フフッ……仕えるべき人間を敬いもせず、蔑ろにするなどありえないわ」
「世の中には主人とは思えないクソ人間もいるけどね。まさかこの国に多大なる貢献をしている我らカサバイン家の人間がそんな者だと言いたいのかしら?」
彼女たちが何を言っているのかわからない。むしろ逆だ。尊敬しているし、彼女たちの侍女になれたらどれだけ光栄か。他者に自慢できることか。
「そんなことは思っていません!ただあの女だけは違いますが。……ああ!それでサボっていると思われたんですね。違います!私は皆様の思いを考慮し行動をしていたまでです!皆様の妹でありながらなんの能力もないあの女は邪魔ですよね?このカサバイン家にふさわしくありません!カサバイン家の人間として扱われる資格のない人間を皆さんと同等の扱いをするなどこの栄誉あるカサバイン家で働く者としてとてもできませんでした」
「黙れ」
ジャックの静かな声がホールに響き渡る。
「お前ごときがカサバイン、カサバインと何様のつもりだ」
「……っ!私もカサバイン家の立派な使用人です!」
確かに今は一使用人でしかないかもしれない……。でもいつかは侍女になり、良い相手に嫁ぐのだ。もしかしたら本当にカサバイン家の一員になる可能性だってあると思っている。
何をふざけたことを自分を年若い乙女だとでも思ってるのだろうか。そんなの十数年も使用人のまま侍女になれていない人間には無理だと思われるが自分に都合の良い考えをする者には常識というものがないからわからないのだろうか。ふー……と息を吐く。
「立派な使用人は家のものを決して蔑ろにはしない。それに我らは誰一人としてアリスのことを邪魔だと思ったことなどない。まして無能だと思っているものなどいないだろう。どんな事情があるにしろ、自分だって言っていただろう使用人だと。使用人としての仕事をしない、可愛い妹を蔑むやつを使いたいと思う者は我らカサバイン家にはいない」
なぜ?なぜ?あんなに妹に冷たくしていたのに。心には焦りばかりが募る。
そのときたまたまだろうが、リリアがホールを横切ろうとしているのが目に入った。
「リリア様!!!」
何やらヤバ気な雰囲気のところに出くわしたリリアは存在感を消して通り過ぎようとしていたのに、声をかけられ身体がビクーッとはねた。足を止めそろ~っと視線を騒ぎの方にやると、使用人がこちらに向かって足をもつれさせながらかけてくる。ガシッとスカートを掴まれて身動きが取れない。
「……えっ……と……。……どうなさったの?」
とりあえず問いかけたものの超絶美形たちからの視線に冷や汗が吹き出る。逃げたい。とにかく手を離してほしい。そんな気持ちなど察せない彼女はリリアを救いの女神様を見るかのように目を輝かせ見てくる。
「リリア様!何やら誤解があるようなのです!兄君姉君に解雇を取り下げてくださるようにお願いしてくださいませんか?……あっ!リリア様の専属にしてください。誠心誠意お仕えしますから!」
彼女はリリアの手をガシッと掴み言葉を連ねる。お優しいリリア様ならなんとかしてくださる!そう考える使用人の瞳が驚愕に彩られていく。
「おはよう。朝早くからごめんなさいね。でも人事に関することはさっさと伝えるべきでしょう?」
ザワザワとしていた玄関ホールにエレナとジャック、エミリア、アンジェ、セイラが現れ、場は静まりかえる。しかしエレナの言葉に一部の者が期待に目を輝かせ声を上げる。
侍女長の鋭い視線で再び静かになったホール。エレナは使用人たちを見回すとすっと優雅に半数くらいの男女を扇子で指し示す。
呼ばれた者たちは意気揚々と周りに優越感たっぷりの態度で前に出てきた。エレナは眼の前に立つ者に向かってニッコリと微笑むと扇子で自分の首を切る仕草をした。
「クビね」
「「えっ!?」」
「もちろん紹介状も書くつもりはないわ。むしろあなたたちを雇ってほしいと頼んできた人たちに抗議したいくらいよ。まあ面倒だからしないけど。とりあえず今日中にこの屋敷を出ていってちょうだい」
彼女たちはカサバイン家に気に入られようとする低位貴族から預かっている者たちや紹介者ばかりだった。
「「っ!お待ち下さい!!なぜ私がクビなのですか?」」
かつてアリスの部屋の清掃をさぼったりアクセサリーを盗んだ……いや、今もしている女が声を上げる。しかしそんな言葉など聞こえないとでも言うように、さっさとその場からいなくなるエレナ。
「「お待ち下さい!!」」
もうエレナの姿は見えないのに声を張り上げる解雇を言い渡された面々。なぜ……?先程まで自分たちの華々しい姿しか思い浮かべることしかできなかったのに。なぜ自分は今こんなふうに床に膝をついて焦っているのだろうか……。
「いやいや~何その焦った顔?自分の今までの行いを振り返ると当たり前だと思わないわけ?」
アンジェの言葉に余計に頭が混乱する。その様子に心底呆れたような顔をするカサバイン家のでかい子どもたち。
「いやいや、普通に仕事してないし」
仕事してないし……?毎日嫌われ者の世話をしていた。むしろ誰もやりたがらないのにわざわざ部屋まで毎日赴いただけでも感謝して欲しい……。
「フフッ……仕えるべき人間を敬いもせず、蔑ろにするなどありえないわ」
「世の中には主人とは思えないクソ人間もいるけどね。まさかこの国に多大なる貢献をしている我らカサバイン家の人間がそんな者だと言いたいのかしら?」
彼女たちが何を言っているのかわからない。むしろ逆だ。尊敬しているし、彼女たちの侍女になれたらどれだけ光栄か。他者に自慢できることか。
「そんなことは思っていません!ただあの女だけは違いますが。……ああ!それでサボっていると思われたんですね。違います!私は皆様の思いを考慮し行動をしていたまでです!皆様の妹でありながらなんの能力もないあの女は邪魔ですよね?このカサバイン家にふさわしくありません!カサバイン家の人間として扱われる資格のない人間を皆さんと同等の扱いをするなどこの栄誉あるカサバイン家で働く者としてとてもできませんでした」
「黙れ」
ジャックの静かな声がホールに響き渡る。
「お前ごときがカサバイン、カサバインと何様のつもりだ」
「……っ!私もカサバイン家の立派な使用人です!」
確かに今は一使用人でしかないかもしれない……。でもいつかは侍女になり、良い相手に嫁ぐのだ。もしかしたら本当にカサバイン家の一員になる可能性だってあると思っている。
何をふざけたことを自分を年若い乙女だとでも思ってるのだろうか。そんなの十数年も使用人のまま侍女になれていない人間には無理だと思われるが自分に都合の良い考えをする者には常識というものがないからわからないのだろうか。ふー……と息を吐く。
「立派な使用人は家のものを決して蔑ろにはしない。それに我らは誰一人としてアリスのことを邪魔だと思ったことなどない。まして無能だと思っているものなどいないだろう。どんな事情があるにしろ、自分だって言っていただろう使用人だと。使用人としての仕事をしない、可愛い妹を蔑むやつを使いたいと思う者は我らカサバイン家にはいない」
なぜ?なぜ?あんなに妹に冷たくしていたのに。心には焦りばかりが募る。
そのときたまたまだろうが、リリアがホールを横切ろうとしているのが目に入った。
「リリア様!!!」
何やらヤバ気な雰囲気のところに出くわしたリリアは存在感を消して通り過ぎようとしていたのに、声をかけられ身体がビクーッとはねた。足を止めそろ~っと視線を騒ぎの方にやると、使用人がこちらに向かって足をもつれさせながらかけてくる。ガシッとスカートを掴まれて身動きが取れない。
「……えっ……と……。……どうなさったの?」
とりあえず問いかけたものの超絶美形たちからの視線に冷や汗が吹き出る。逃げたい。とにかく手を離してほしい。そんな気持ちなど察せない彼女はリリアを救いの女神様を見るかのように目を輝かせ見てくる。
「リリア様!何やら誤解があるようなのです!兄君姉君に解雇を取り下げてくださるようにお願いしてくださいませんか?……あっ!リリア様の専属にしてください。誠心誠意お仕えしますから!」
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