22 / 186
22. 王妃と公爵
しおりを挟む
アリスを除くカサバイン家の面々が揃い食堂でディナーをとっている。音もさせずにフォークやナイフを器用に操る中、エレナが侍女長に声をかける。
「今日はありがとう」
「滅相もございません。むしろ私達には身に余る光栄な経験となりました」
「本当に王家の人間は面倒よね」
本当は一家総出でアリスを送り出すつもりだった。王妃の嫌がらせによる仕事などブッチしても良かったが、アリスが愉しそうに笑っていたので仕事に赴くことにした。特に命令を下した訳では無いが執事長と侍女頭が筆頭となりアリスを見送ってくれたようだった。
「王家というより王妃がだろう」
忌々しそうにいうロナルドを見るエレナ。王妃がアリスを虐げるのは、エレナに手を出せないから。王妃はカサバイン家を目の敵にしているがその根源はエレナだ。
王妃は別にエレナに何かされたことはない。じゃあなぜ?
自分の子供に絶大な権力をというのも偽りなき事実、でもそれだけではない。彼女は単純にエレナが羨ましいのだ。
優秀な子どもたち。
公爵家の当主。
美貌を持つ武力派夫。
子供は皇太子だって優秀だ。まあうちの子たちには遥か遠く及ばないが。王としては公爵家の身勝手餓鬼共たちよりもよほどふさわしいから羨む必要など無いのに。
当主……こればかりは致し方なし。この国では女性当主も認められている。王妃は弟との当主争いに敗れていた。実力で劣ったわけではない。とんとんだった。ただ、当時の皇太子、現在の王にちょうど見合った年齢で生まれた侯爵家の娘だったこと。それが当主になれない理由だった。
エレナには兄がいたが、これがまたなんというのか自由気ままな男だった。あっちへフラフラこっちへフラフラ、公爵領のことは気にせず旅立つことしばしば。最後はどこぞの国で流行り病を得て儚くなった。まあそんな環境だったからエレナが次期当主に推されるのは当然だった。
夫に当主の座を譲るということもできたが、エレナの領主としての実力、魔法の腕も格上。
そして何よりも…………なんか存在感がすご過ぎた。迫力満点過ぎて、誰かの後ろにいる姿など想像できなかった。そんななんかしょうもない理由で公爵となっていた。なんか王妃には申し訳ない。
ロナルド……麗しいエレナの夫。武人としても申し分ない。昔から彼は微妙にモテた。微妙がつくのは頭のほうが少々ということからだった。王妃はそんな彼に心を寄せていた……というわけではない。
王もなかなかの美貌を誇るがちょっとヒョロかった。それに比べロナルドは細マッチョというのか、ムキムキすぎないが引き締まった良い身体をしていた。
王妃は細マッチョが好きだった。ロナルドには別に興味ないが。自分の好みの男性(身体のみ)を夫にしていることが更に彼女の憎悪を募らせることになった。
エレナからするとえ~……としか思えなかった。何たる変な恨み。もはや我儘娘の癇癪だ。自分より優れたものは許せない我儘娘。
でもその原因には手が出せないから、自分より弱いものに手を出す。
本当にそれが弱い存在だったか判断する力もなく。
しょうもない……と思いつつ王妃を放置したのは、彼女が王妃としては申し分がなかったから。嫉妬は人を狂わせる。エレナは嫉妬という感情は当たり前にあるものだと思っている。貴族間で嫉妬による足の引っ張り合いなどよくあること。行き過ぎではあるが王妃もそういった類だと割り切っていた。
まあ一番の理由としては本人が申し出たとはいえ、その後虐められる度にアリスがめっちゃニタニタとしていたから。
「なんやかんやいって、あの子が一番ヤバいわよね……」
エレナの呟きに食堂にいた全ての人間がエレナを見た。彼女が視線を上げるとザッと皆視線を戻した。
ーーー何よ、私のせいだと言いたいの?
……まあ、ほっといたのは母親である自分だが。
「ああ、そういえば」
サッと再びエレナに視線が集中する。それを気にすることなく執事長に命令を下す。
「明日ホールに使用人たち全員を集めてくれる?」
かしこまりました。執事長が恭しく胸に手を当て頭を垂れる様子を視界に入れた面々の目が煌めき口角が上がる。
明朝は大掃除の時間だーーーーー。
エレナはため息を付く。ヤバい奴らはアリスだけではなかった。
「今日はありがとう」
「滅相もございません。むしろ私達には身に余る光栄な経験となりました」
「本当に王家の人間は面倒よね」
本当は一家総出でアリスを送り出すつもりだった。王妃の嫌がらせによる仕事などブッチしても良かったが、アリスが愉しそうに笑っていたので仕事に赴くことにした。特に命令を下した訳では無いが執事長と侍女頭が筆頭となりアリスを見送ってくれたようだった。
「王家というより王妃がだろう」
忌々しそうにいうロナルドを見るエレナ。王妃がアリスを虐げるのは、エレナに手を出せないから。王妃はカサバイン家を目の敵にしているがその根源はエレナだ。
王妃は別にエレナに何かされたことはない。じゃあなぜ?
自分の子供に絶大な権力をというのも偽りなき事実、でもそれだけではない。彼女は単純にエレナが羨ましいのだ。
優秀な子どもたち。
公爵家の当主。
美貌を持つ武力派夫。
子供は皇太子だって優秀だ。まあうちの子たちには遥か遠く及ばないが。王としては公爵家の身勝手餓鬼共たちよりもよほどふさわしいから羨む必要など無いのに。
当主……こればかりは致し方なし。この国では女性当主も認められている。王妃は弟との当主争いに敗れていた。実力で劣ったわけではない。とんとんだった。ただ、当時の皇太子、現在の王にちょうど見合った年齢で生まれた侯爵家の娘だったこと。それが当主になれない理由だった。
エレナには兄がいたが、これがまたなんというのか自由気ままな男だった。あっちへフラフラこっちへフラフラ、公爵領のことは気にせず旅立つことしばしば。最後はどこぞの国で流行り病を得て儚くなった。まあそんな環境だったからエレナが次期当主に推されるのは当然だった。
夫に当主の座を譲るということもできたが、エレナの領主としての実力、魔法の腕も格上。
そして何よりも…………なんか存在感がすご過ぎた。迫力満点過ぎて、誰かの後ろにいる姿など想像できなかった。そんななんかしょうもない理由で公爵となっていた。なんか王妃には申し訳ない。
ロナルド……麗しいエレナの夫。武人としても申し分ない。昔から彼は微妙にモテた。微妙がつくのは頭のほうが少々ということからだった。王妃はそんな彼に心を寄せていた……というわけではない。
王もなかなかの美貌を誇るがちょっとヒョロかった。それに比べロナルドは細マッチョというのか、ムキムキすぎないが引き締まった良い身体をしていた。
王妃は細マッチョが好きだった。ロナルドには別に興味ないが。自分の好みの男性(身体のみ)を夫にしていることが更に彼女の憎悪を募らせることになった。
エレナからするとえ~……としか思えなかった。何たる変な恨み。もはや我儘娘の癇癪だ。自分より優れたものは許せない我儘娘。
でもその原因には手が出せないから、自分より弱いものに手を出す。
本当にそれが弱い存在だったか判断する力もなく。
しょうもない……と思いつつ王妃を放置したのは、彼女が王妃としては申し分がなかったから。嫉妬は人を狂わせる。エレナは嫉妬という感情は当たり前にあるものだと思っている。貴族間で嫉妬による足の引っ張り合いなどよくあること。行き過ぎではあるが王妃もそういった類だと割り切っていた。
まあ一番の理由としては本人が申し出たとはいえ、その後虐められる度にアリスがめっちゃニタニタとしていたから。
「なんやかんやいって、あの子が一番ヤバいわよね……」
エレナの呟きに食堂にいた全ての人間がエレナを見た。彼女が視線を上げるとザッと皆視線を戻した。
ーーー何よ、私のせいだと言いたいの?
……まあ、ほっといたのは母親である自分だが。
「ああ、そういえば」
サッと再びエレナに視線が集中する。それを気にすることなく執事長に命令を下す。
「明日ホールに使用人たち全員を集めてくれる?」
かしこまりました。執事長が恭しく胸に手を当て頭を垂れる様子を視界に入れた面々の目が煌めき口角が上がる。
明朝は大掃除の時間だーーーーー。
エレナはため息を付く。ヤバい奴らはアリスだけではなかった。
515
お気に入りに追加
5,149
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね
ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる