【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
上 下
15 / 186

15. 遭遇

しおりを挟む
 こちらは王宮内の王妃の執務室。王妃、オスカー、エレナ、アリス、宰相、ジュリアが揃っていた。いや、正確には揃ってしまったと言うべきか。

「あら、宰相にジュリア早かったのね。そうよね!やっとオスカーと婚約できるのだもの。気持ちがはやってしまうわよね」

 婚約するのは王妃かと思ってしまうほど嬉しそうな様子にわざとか……と察する面々。若い乙女のようにキャッキャとしている様はとても一国の王妃とは思えない。愚かな……人の妬み、暗い感情とは恐ろしいとエレナは思う。

 宰相とジュリアは王妃の言葉に笑顔を浮かべつつ手はビッショリと濡れているのをお互いに感じていた。下手に言葉を発せば美しき獣が飛びかかってきそうな気がして……。

「ジュリア様」

 うおっ……心臓が跳ねる。かろうじて身体がビクつくのは我慢できた。無駄だろうが平静を装い返事をする。

「はい、公爵様」

 臆してはならない。彼女が呼び捨てから敬称を付けた呼び名に変えたことはとりあえず皇太子妃として認められたということ。だが、それも誠に意味のある敬称となるか、それともただの呼び名になるかは今後の自分次第だ。

「この度は皇太子との婚約おめでとうございます。誠に遺憾ながら王家と我が家との縁はなかったようですが、王家と宰相ご一家がさらなる繁栄を得ることを心より祈っております」

 エレナの言葉に見事なカーテシーで返すジュリア。エレナがすっと手にしていた扇を振ったので顔を上げる。次は宰相に視線を向けるエレナ。視線が交わる。扇で口元を覆ったエレナの目元が語る。

 ーーーーーどうなろうとうちには関係ないけれど……と。

 自国の問題をどうでも良いとは忠臣としては終わっていると思うが、それがカサバイン家。一騎当千の猛者揃い。自分たちに火の粉が降りかからなければそれで良し。皇太子妃の座を奪われたことなどカサバイン家にとってはどうでも良いことなのだ。

 目の前の美魔女を見る宰相。大将軍であるロナルドは武には優れていたがもともと書類仕事が得意ではなかった。他者に頼る姿がしばしば見られるほどだった。しかし、この目の前の女性と結婚して暫くするとお前は誰だと思うほど処理能力が上がった。まだ出仕前の自分にまでその噂は届いた。今ではお捌き将軍なんてあだ名までつけられて……。そんなあだ名羨ましくはないが……。目の前の女傑は一体どんな手を使ったのか。子どもたちもこの親にしてこの子ありという子供ばかり。

 皆がピリピリしている中、再び胸糞悪い声が聞こえてきた。

「それにしても……本当にありがとう。我が国のためにアリスを……」

 犠牲にしてくれてーーー言葉にはしないが、誰もが察した。

「アリス。あなたは皇太子妃教育を全てやり遂げた立派なレディよ。ダイラス国の王子と結婚しても王子妃として立派にやっていけるわ」

 すっとアリスの両手を握る王妃。

「ありがとうございます、王妃様。我が国とダイラス国の架け橋となれることを誇りに思い嫁ぎたいと思います」

 笑って言っているが、まじでそう思っているのかと疑わしいほどその瞳は冷たい。だからこそ、王妃の顔に笑みが花開く。

「ダイラス国は我が国より格下の国……だからあまり大々的に喜ばしく送ってあげると我が国に傷がついてしまう可能性があるわ。だから私達王家のものは見送りには行けないけれど……頑張ってね」

 これでお別れ……と音には出さず、口だけで紡ぐ。なんだその変な理屈は。見送りたくないだけだろうに。それに、ダイラス国にこの花嫁は蔑ろにしてよいと言っているようなものでもある。

 今の会話でわかるようにアリスは隣国のダイラス国に嫁ぐことになった。もとは同じような国力だったがカサバイン家の者たちにより国力に差ができてしまった。戦争にでもなったらボロ負けだろう。その為、ダイラス国から王女がいない王家の代わりに宰相家に縁談の申し入れがされた。カサバイン家に申し入れがなかったのは、どんなことになるかわからないから。
 
 王妃は溢れる笑みが抑えられない。恐ろしい一族の娘が王家に蔑ろにされながら嫁いでくる。それを家族も受け入れている。彼らはそれをどんなふうに受け取るだろうか。ダイラス国でどのような扱いを受けるか目に浮かぶよう。


 王妃はアリスに視線を向けるとその目を見開いた。

 アリスは王妃を蕩けるような顔で見ていた。

 愉しくて愉しくてしょうがない顔。


 
 ゆっくりとアリスは音もなく口を開く。

 ご・め・ん・な・さ・い


 王妃は訝しげな顔になる。

 

 フフッおもしろい。期待しているところ申し訳ないが王妃の考えはただの妄想で終わるだろう。王妃が妄想でニヤニヤしているさまが無様でおもしろくて仕方がない。

 それにアリスは楽しみで仕方ないのだ。ダイラス国で出会うであろう愚か者たちとのやり取りが。

 様子に気づいた王妃とアリス以外のものたちは二人からさり気なく距離を取っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

処理中です...