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14.新たな婚約話

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 公爵家当主エレナ・カサバインの執務室にカサバイン家の面々が勢揃いしていた。豪勢ながら落ち着きのある執務机に頬杖をつき、長い脚をゆったりと組み椅子に腰掛けるエレナ。その正面に立つアリス。その後ろにはロナルドと6人の兄姉が並ぶ。彼らの表情は無や怒りに彩られている。

「アリス」

「はい、母様」

「あの小娘から慈悲とは名ばかりのカサバイン家を見下した縁談が来たわ」

 エレナの前に王家の紋章が押された開封済みの封筒と手紙があった。小娘とは王妃のこと。エレナはもう50過ぎ。王妃はまだ40手前。まあ小娘と言えなくもないがそんな年齢を意識する言い方をしなくても……と思いながら手を伸ばした瞬間に燃えた。

 ひっ……心が読まれた!

「ジュリアに来ていた縁談をアリスにだそうよ」

 違った。ほっと息を吐く。

「どうしたのアリス?」

「なんでもございません」

 もともとはジュリアに来ていた縁談話し。しかしオスカーとジュリアの燃え上がる恋によりつい先日立ち消えた。エレナが生み出した炎によって手紙も縁談話しのように燃えている。机の上で燃えているのに、机に焼け跡や傷一つ無いのをアリスは見つめる。

「どうしようかしら?」

「いいですよ。私が嫁ぎます」

「今までと同じではいけないわよ」

「わかっています」

 今までと同じお遊戯をするつもりはない。次は別のお遊戯をするのだ。

「おい、アリス」

「はい、ジャック兄様」

「お前はカサバイン家の一員という自覚はあるのか?」

 真っ直ぐ向けられる長兄ジャックの視線。

「もちろんあります」

 表面から見据えるアリス。

「ならばこれ以上公爵家に泥を塗るな」

「兄様……」

 長姉のエミリアがジャックを諌めるように呼ぶ。

「私達はアリスの行動に左右されるような安い存在ではないわ」

 見目も血筋も実力も何者にも侮られる物はもっていない。それがカサバイン家。王家さえも凌ぐ力、いや世の中で一番最強の家だと自他ともに認める存在。

「しかし……」

「ジャック兄様」

「……なんだ?アリス」

「婚家では変わります。真逆路線で行きます」

「………………」

 ジャックの目が泳ぐ。  

 それはそれで良いのか……?
 それはそれで問題なのでは………?

「まあまあまあまあ」

 次兄のミカエラが場を和ませるように口を出す。

「兄上、俺達兄弟はカサバイン家だ。兄上は支配力、運営力、経営力。俺は魔法。エミリアは治癒。アンジェとセイラは社交界の女帝であり流行を生み出す化け物だ。カイルは剣術馬鹿。アリスはまあ…………オールマイティ?」

 ごほんっと咳払いをすると、

「とにかく、別にアリスがどんなやつだろうとどれだけ泥を塗ろうと俺達には天才的な才能があり、食いっぱぐれることはない。公爵家だって兄上がいれば安泰だ。一人何か問題を起こしたって、他の奴らが天才ならそんなものどうとでもなる」

 アリスは思う。問題ありなのは自分だけではない。彼らは我が道を行く自由人タイプ。彼らは気づいていないがそれぞれ問題児扱いをされている。むしろ周りのものに迷惑をかけているのは兄姉たちだ。ただ強すぎるから誰も物申せないだけ。

「それに何より!うちには年齢不詳の女帝がおわすだろ!結構年を取ったのに体力、魔法と衰え知らず。むしろその恐ろしさは他家の者たちが視線が合った瞬間石化するほどに増すばかり。商売も上々。これ以上金を儲けてどうするんだと巷では銭婆(ぜにばあ)って呼ばれてる我らが女帝!」

 ばっとエレナを見るミカエラ。さー……っとその顔が青ざめる。

「いや、俺が銭婆って言ってるわけじゃないですから……世間の声です。いやぁ……本当に誰ですかね?こんなに美しくてお優しい母上のことを銭婆とか言うけしからんやつは」

「そうね。本当に誰かしらね。とりあえず目の前に一人いるわね」

 ニコニコしているがむしろその笑顔が怖い。ミカエラ以外は下がりなさいと言われ、皆がぞろぞろと室外に出る。ミカエラは目に涙が浮かぶが時既に遅し。バタンと閉められた部屋の中でどんな罰が待っているのか……皆素知らぬふり。

 そして、廊下にもう一人落ち込んでいるものがいた。

「なあ……ミカエラはワシのことには何も触れてくれなかったよな」

 ロナルドだ。自分だって大将軍を賜るくらい能力があるのに、と片腕で目元を隠しおいおいと泣く。執事がすっとハンカチを差し出してくれたので、受け取り涙をふく。そして顔を上げるが、愛しい我が子達は誰もいない。

 今度は一筋の涙がツーと静かにこぼれた。





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