12 / 186
12. アリス 10歳②
しおりを挟む
ジュリアが身につけているのは胸元とスカートの裾に可愛らしいフリルがついたオレンジ色のドレスだった。動くたびにキラキラと輝くのは小さいダイヤモンドが散りばめられているから。そのジュリアの後ろには他の家族の面々が揃っていた。
「フフッ、相変わらずジュリアはご家族から大切にされているようね」
チラッとアリスの方に視線を向ける。あなたと違って……とその瞳が雄弁に語っている。そんな視線に慣れっこのアリスはエベレスク一家を見る。
皆見事な赤銅色の髪の毛と瞳。いとこ同士ということもあり、夫妻共にその色だった。彼らの視線の先にはジュリアがおり、その瞳は温かな愛情が見て取れる。
「はい。ジュリアは私の……私達の宝です。いやはや娘がこんなに可愛いものだとは。勉学も一番上の兄と同じレベルのことを行い、成績も兄よりも優秀なんです。見目もこの通り可愛らしく、嫁になどいかずずっと我が家にいて欲しいくらいですな」
宰相が答え、他の家族がうんうんと頷いている。親バカ兄バカだ。親バカ、兄バカがここにいる。皆思ったが、口には出さない。
「……お嫁にださないなどと、将来の青年たちがどれほど涙を呑むことか……」
一瞬ひきつった顔になってしまったが、慌てて笑顔を取り繕う王妃。ねえ、と皇太子に視線を向ける。皇太子はアリスではなくジュリアと顔を薄く赤らめ微笑み合っていた。周りの大人たちも気付き、アリスに邪魔者だと視線を向ける。
「いえいえお嫁に出したらそんな小僧共よりも、私の涙が枯れ果ててしまうことでしょう」
至極真面目な顔をして言う宰相。空気を読んで欲しい。皆が微妙な空気になる中王妃が咳払いする。
「皇太子。ジュリアとお話しでもしてきたら?」
「はい、王妃様。ジュリア嬢庭園の花でも一緒にいかがですか?」
すっと手を差し出す皇太子。微笑ましい光景だ。皇太子の傍らにアリスという婚約者がいなければ、だが。
「はい、喜んで」
差し出された手を両手でギュッと握ったかと思うとすぐに片手を離し、アリスの腕に片腕を絡める。
「アリスも行きましょ」
その様子に周りにいた者たちはジュリアに称賛を送り、アリスに邪魔者の称号を送った。大人たちの視線を無視して皇太子、ジュリア、アリスは庭園に向かう。子どもたちの姿を見送る王妃とエベレスク家の面々。
「ジュリアは本当に聡明で優しく、慈悲深い子ですね」
「慈悲深い……ですか?」
「ええ、そうでしょう?」
だって、あんな誰からも嫌われているような子を気にかけているのだから。想い合っている二人の邪魔者でしか無いのに……。言葉には出ていないがそんな思いが伝わってくる。
「ははっ!娘を褒められて悪い気はしませんな。ジュリアはかわいそうなものや憐れなものに弱いようでして……。王妃様を長時間独占していてはいけませんな。もうそろそろ我らは御前失礼させていただきます」
スッと庭園の方に視線を向ける。その言葉に満足したのか王妃は別の者に挨拶に向かった。
「旦那様」
宰相の妻が宰相に呼びかける。
「妻よ……王妃様の考えはわかっただろう。それにあの子もそれを望んでいる。あの子にもそれなりの覚悟をさせなければならないようだな」
「しかし……」
相手はあのカサバイン家のご令嬢。一人一人の戦力が半端ない化け物一家。そんな家の娘から婚約者を奪ったとなれば……身体が震える。
「大丈夫だ。カサバインの者はうちには何もしてこない」
それは彼女が蔑ろにされているからなのか……。それとも他に何か理由があるのか……。なぜそのように言い切ることができるのか疑問に思いながらも深くは聞けない夫人だっだ。
~~~~~
庭園にて
皇太子を挟むように座るアリスとジュリア。目の前のテーブルには女の子が好むような可愛らしいデザートがたくさん並ぶ。……ジュリア好みのものばかり。皇太子付きの侍女は王妃の手のものばかり……そりゃあ、アリスよりもジュリア優先になる。婚約者はアリスだから当然というのはおかしいが。
見た目も味も甘ったるいお菓子たち、アリスはまだしも甘いものがあまり好きではない皇太子には胸焼けする光景だろうに、文句の一つも言わない。
どころかジュリアを見て嬉しそうにあま~いケーキを口に運ぶ12歳皇太子オスカーの恋愛脳に将来がどうなっていくのか少々心配になるアリス。
侍女や執事が見守る中、主に皇太子とジュリアで話しが進み、アリスはたまに口を挟む程度。二人が話している時は12歳と10歳の淡い恋模様に微笑ましく温かい空気が漂う。しかし、アリスが言葉を発する度にうざそう~~~に見てくる使用人たち。本当にうざ~~~いのはどちらだろう、とアリスは思う。
まあいつものことだとお茶を飲む。
しぶ~~~~~~~~い。
10歳の子供に出すものではない。
嫌がらせだろうがアリスとしては助かっている。異常に甘いお菓子に激渋茶はよく合うのだ。
これは誰にも…………内緒。
彼女は再びお茶を口に含むと誰にもさとられないように口元を笑みの形に彩った。今日も皆様いらぬ苦労お疲れ様です。
「フフッ、相変わらずジュリアはご家族から大切にされているようね」
チラッとアリスの方に視線を向ける。あなたと違って……とその瞳が雄弁に語っている。そんな視線に慣れっこのアリスはエベレスク一家を見る。
皆見事な赤銅色の髪の毛と瞳。いとこ同士ということもあり、夫妻共にその色だった。彼らの視線の先にはジュリアがおり、その瞳は温かな愛情が見て取れる。
「はい。ジュリアは私の……私達の宝です。いやはや娘がこんなに可愛いものだとは。勉学も一番上の兄と同じレベルのことを行い、成績も兄よりも優秀なんです。見目もこの通り可愛らしく、嫁になどいかずずっと我が家にいて欲しいくらいですな」
宰相が答え、他の家族がうんうんと頷いている。親バカ兄バカだ。親バカ、兄バカがここにいる。皆思ったが、口には出さない。
「……お嫁にださないなどと、将来の青年たちがどれほど涙を呑むことか……」
一瞬ひきつった顔になってしまったが、慌てて笑顔を取り繕う王妃。ねえ、と皇太子に視線を向ける。皇太子はアリスではなくジュリアと顔を薄く赤らめ微笑み合っていた。周りの大人たちも気付き、アリスに邪魔者だと視線を向ける。
「いえいえお嫁に出したらそんな小僧共よりも、私の涙が枯れ果ててしまうことでしょう」
至極真面目な顔をして言う宰相。空気を読んで欲しい。皆が微妙な空気になる中王妃が咳払いする。
「皇太子。ジュリアとお話しでもしてきたら?」
「はい、王妃様。ジュリア嬢庭園の花でも一緒にいかがですか?」
すっと手を差し出す皇太子。微笑ましい光景だ。皇太子の傍らにアリスという婚約者がいなければ、だが。
「はい、喜んで」
差し出された手を両手でギュッと握ったかと思うとすぐに片手を離し、アリスの腕に片腕を絡める。
「アリスも行きましょ」
その様子に周りにいた者たちはジュリアに称賛を送り、アリスに邪魔者の称号を送った。大人たちの視線を無視して皇太子、ジュリア、アリスは庭園に向かう。子どもたちの姿を見送る王妃とエベレスク家の面々。
「ジュリアは本当に聡明で優しく、慈悲深い子ですね」
「慈悲深い……ですか?」
「ええ、そうでしょう?」
だって、あんな誰からも嫌われているような子を気にかけているのだから。想い合っている二人の邪魔者でしか無いのに……。言葉には出ていないがそんな思いが伝わってくる。
「ははっ!娘を褒められて悪い気はしませんな。ジュリアはかわいそうなものや憐れなものに弱いようでして……。王妃様を長時間独占していてはいけませんな。もうそろそろ我らは御前失礼させていただきます」
スッと庭園の方に視線を向ける。その言葉に満足したのか王妃は別の者に挨拶に向かった。
「旦那様」
宰相の妻が宰相に呼びかける。
「妻よ……王妃様の考えはわかっただろう。それにあの子もそれを望んでいる。あの子にもそれなりの覚悟をさせなければならないようだな」
「しかし……」
相手はあのカサバイン家のご令嬢。一人一人の戦力が半端ない化け物一家。そんな家の娘から婚約者を奪ったとなれば……身体が震える。
「大丈夫だ。カサバインの者はうちには何もしてこない」
それは彼女が蔑ろにされているからなのか……。それとも他に何か理由があるのか……。なぜそのように言い切ることができるのか疑問に思いながらも深くは聞けない夫人だっだ。
~~~~~
庭園にて
皇太子を挟むように座るアリスとジュリア。目の前のテーブルには女の子が好むような可愛らしいデザートがたくさん並ぶ。……ジュリア好みのものばかり。皇太子付きの侍女は王妃の手のものばかり……そりゃあ、アリスよりもジュリア優先になる。婚約者はアリスだから当然というのはおかしいが。
見た目も味も甘ったるいお菓子たち、アリスはまだしも甘いものがあまり好きではない皇太子には胸焼けする光景だろうに、文句の一つも言わない。
どころかジュリアを見て嬉しそうにあま~いケーキを口に運ぶ12歳皇太子オスカーの恋愛脳に将来がどうなっていくのか少々心配になるアリス。
侍女や執事が見守る中、主に皇太子とジュリアで話しが進み、アリスはたまに口を挟む程度。二人が話している時は12歳と10歳の淡い恋模様に微笑ましく温かい空気が漂う。しかし、アリスが言葉を発する度にうざそう~~~に見てくる使用人たち。本当にうざ~~~いのはどちらだろう、とアリスは思う。
まあいつものことだとお茶を飲む。
しぶ~~~~~~~~い。
10歳の子供に出すものではない。
嫌がらせだろうがアリスとしては助かっている。異常に甘いお菓子に激渋茶はよく合うのだ。
これは誰にも…………内緒。
彼女は再びお茶を口に含むと誰にもさとられないように口元を笑みの形に彩った。今日も皆様いらぬ苦労お疲れ様です。
459
お気に入りに追加
5,154
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~
ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結保証】ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ
ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる