【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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4. ライバル?&皇太子誕生

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 場所はガルベラ王国に戻りこちらはエベレスク侯爵邸。代々ガルベラ王国にて宰相を排出してきた名家である。

「かわいいな~」

 ほんの1時間前に産まれた我が子をデレデレとした顔で何度もつつくのは当主であるガルベラ王国の宰相だ。赤銅色の髪の毛と瞳を持つ少々お顔が厳つい御人。宰相というより軍人の方が似合いそうな風体だが魔法も剣術もからっきしの根っからの文人体質。

「ちちうえ~、ぼくもさわりたい」

 3歳の男の子が元気に腕をパタパタ。

「あっ!おにいたまずるい。ぼくがちゃち~」

 2歳の男の子が元気に腕をパタパタ。

「…………ぱぱ」

 ぱぱもとい宰相を見上げて赤子に向かって短い両手を懸命に伸ばす1歳男児。

 上から順に3才2才1才見事な年子。他家からは仲睦まじいと微笑ましくみられることしばしば。絶えず妊娠時期が続く奥方に同情の視線が向けられることしばしば。

 宰相は我先にと妹に触りたいと騒ぐチビッコたちを抱きしめながら顔に似合ったハスキー低温ボイスに暖かみを乗せた声音で彼らに語りかける。

「この子の名はジュリアだ。ジュリア・エベレスク。お前たちの妹だ。お前たちより小さいんだ。大事に大事に可愛がるんだぞ」

「「「は~~~い」」」

 元気に片手をあげるチビッコたち。

 こうしてアリスの友にしてライバル……?となるジュリアは家族に祝福されながらこの世に生を受けた。


~~~~~


 またまた場所は変わりこちらはガルベラ王国の王宮にある後宮。

「王妃よ……よくやった。次代の王の誕生だ」

「はい陛下……」

 短い言葉でありながら喜びを噛みしめる二人の金髪碧海色の目には涙が光る。結婚して6年目にしてやっと誕生した我が子、しかも男の子の誕生に胸が一杯になる王。対してむしろ胸の思いが軽くなる王妃。胸に抱えていた泥のようなものが溢れ出す。ざまあみろ……私の子を見るがいい、と数々の憎き相手が脳裏にぽんぽんと浮かぶ。

 ネチネチネチネチ、ネチネチネチネチ不妊だなんだと口やかましく責めてくる今は亡き前王妃……いや鬼姑。先王も先の王妃も40代という若さで儚くなった。憎まれっ子世に憚るわけではないのね、と当時は鼻で笑ったものだ。

 王に側室を勧める狸大臣共……ひどいやつは王妃の交代を言い出す腐れ大臣もいた。国のためを思って言っている者もいたが、王妃からしたら余計なお世話というものだった。

 愛妻家の王。他の女性を娶って王妃を悲しませるぐらいなら兄弟やその子らに王位を譲ればよいと考えていた。王妃も王と同意だった。血筋が大切というならば王と同じ血をひく者で十分だと。

 しかし……と自分の腕で気持ちよく眠る息子に目をやる。この子に王座を……安寧の座を与えてやりたい。幼い頃から相思相愛であった王と王妃。侯爵家出身と高位貴族であったことでなにも揉めることなく王妃につけた。だがなかなか子ができず最愛の人と引き離される恐れがあったところに現れた救世主、まさに愛の結晶。

 他国と比べ圧倒的な力を誇るガルベラ王国。しかし王家にはあまり力がない。カリスマ性がないと言うべきか。ではなぜ力があるのか?ーーー優秀な家臣が何人もいるから。国とは王家に優秀なものがいなくとも、愚王・暴君でなければ、優秀な家臣が凡庸な王家を盛り上げてくれる。

 ちなみにその筆頭はカサバイン家だ。もはやあそこは化物一家。天才が8人も集まっている。少々特殊なお考えを持っているから王家を狙っている様子はない。権力を集めている様子もない。ただ能力がありすぎて自然と権力を握っているが……。

 それで良い……と今まで思っていた。しかしこの子を見たときに彼女は思った。誰もが心から敬う誰もが心からひれ伏す王にしたい。この子なしでは国が立ち行かなくなるようにしたい……。優秀な家臣たちが浴びている称賛をこの子にーーーーー。

「あなたの名はオスカーよ。オスカー・ガルベラ。ガルベラ王国の唯一の王子。誰もがあなたの前ではひれ伏す……あなたは至高の存在……」

 うっとりと一人呟く王妃。

 王子が産まれたことに浮かれ、執事や側近と盛り上がっている王も。出産後いろいろな雑事に追われている使用人も。穏やかにひたすら愛おしげに王子を見つめる王妃を感無量の思いで見つめる侍女も気づかなかった。

 彼女の瞳に狂気の暗い光が宿ったのをーーーーー。

 


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