62 / 76
聖女暗殺編
第62話 聖女暗殺計画
しおりを挟む咄嗟に、否定しようと思った。
だって私は、そんな大それたこと思っていい身分じゃない。
新撰組に、この名が残っていないんだから。
いつかは未来に帰るのだ。
ううん、未来に、帰らなくてはいけないんだ。
「ち、が……」
どうして。
言葉が、うまく綴れない。
「……ち、がうよ……そんなわけ、ないじゃない……」
一言一言。
口から押し出すたびに、胸が軋むように痛む。
「………璃桜…」
「……あ、ほんとだよ? 歳三なんて、……どうも思ってないし?」
例えそれが、私にとって、嘘と欺瞞でも構わない。
平ちゃんを、周りを、……自分を。
欺いて、言い聞かせて、真実だと信じ込ませることが出来るのなら。
言葉を、押し出そう。
「璃桜。前向け」
自然と俯いてしまっていた私の顎を掬い上げるように持ち上げて。
「……そんな、…辛そうな顔してんじゃねーよ」
そう言って、私の頬にそっと手を触れる。
潤んだ視界でその顔を見れば、へにゃりと眉を困ったようにさげて、優しく笑う貴方がいた。
「認めて、やれよ」
「……え」
「自分の事を、だよ」
その言葉に、心が僅かに音をたてる。
私は、この時代では好きな人なんか作っちゃいけないのに。
大切な人を、失うのはもうあの時だけで十分なのだから。
それなのに。
「璃桜、璃桜はいつだって俺の好きなやつなんだよ。変わらねぇよ、それは」
――――――だから。
そう呟いて、優しく口角を上げ、両手で頬を包み込んだ。
「…………璃桜は、璃桜だ」
「へい、ちゃ……」
「土方さんの雑用してるのも、稽古をしているのも、食事の支度をしてるのも……何処にいたって、何をしていたって、璃桜は璃桜なんだ」
どうして、貴方はそんなに柔く優しく、けれどひどく残酷な方向に私の背を押すのだろう。
まるで私が。
この時代での私自身の恋を、認めることができない理由を知っているかのように。
「総司のことだって、同じだろ?」
ほら、また。
切り口をえぐるように、核心をついてくる。
「……そうちゃんとも、何もないよ」
「嘘つけよ。ちゃんと話せてないだろ?」
目を覗きこまれて、図星過ぎて何も言えなくなった。
「……璃桜は、総司が怖いの?」
ぐ、と喉が鳴る。
「そんな、こと」
ない……って、言えない自分に直面した。
そう、私はこれを恐れていたの。
そうちゃんが、“沖田総司”だって、あの冷徹な剣士……あんな恐ろしいことをしても普通にいられる人だって、認めるのが怖かった。
ぶわりと涙をにじませた瞳で見上げれば、困ったように頬に手を滑らせて涙を拭った。
0
お気に入りに追加
1,096
あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

無能なオタクの異世界対策生活〜才能はなかったが傾向と対策を徹底し余裕で生き抜く〜
辻谷戒斗
ファンタジー
高校三年生で受験生の才無佐徹也は難関国立大学の合格を目指し猛勉強中だったが、クラスメートと共に突然異世界に召喚されてしまう。
その世界には人の才能を見抜く水晶玉があり、他のクラスメートたちにはそれぞれ多種多様な才能が表れたが、徹也は何も表れず才能がない『無能』であると判定された。
だが、徹也はこの事実に驚きはしたものの、激しく動揺したり絶望したりすることはなかった。
なぜなら徹也はオタクであり、異世界クラス召喚の傾向はすでに掴んでいたからだ。
そして徹也はその傾向を元にして、これから起こり得るであろうことへの対策を考える。
これは、『無能』の徹也が傾向と対策で異世界を生き抜いていく物語である――。
*小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+でも連載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった…
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

母のギフトがすごいんです
江田真芽
ファンタジー
幼き頃に亡くなった母から毎年届くギフト。
『日本で言えば亡くなった親が子どもの誕生日に先撮りしていたビデオレターでお祝いするとか、そんな感じよ』と母はギフト内で語っていた。
友人らが受け取るギフトは毎年一言。でも俺が受け取るギフトは何時間にも及ぶ内容。
今年のギフトで母は言った。
『実はお母さんもあんたも日本という国から来た異世界人なのよ。聖女召喚の儀でこの世界に呼ばれちゃったの。異世界人だから、ステータス画面が見れたりするのよ。便利よね』と。
※最初しばらく暗いですw
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる