【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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聖女暗殺編

第56話 女神の計画

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───クソッ!クソッ!!クソクソクソッ!!!

「なんで……なんでそうなる!!」

 ダンッ

 机を叩きつけるも、部屋に反応する人はいない。
 ベールは執務室で一人、頭を抱えていた。

 原因は始まりの獣ラストビーストによる襲撃。

 ここまで頭を抱える理由は──その情報が事前に知らされていなかったから、だ。

 女神の持つ魔王軍へのスパイ。
 それが機能していないか、向こうに勘付かれている。
 それどころか、裏切りの可能性もあるのではないか。

───いや、裏切りだけはない。入念に準備したし…固有スキルを使用している…。

 裏切りだけは無いだろうと、女神は信じたい。
 だが、信じたいと心の中で思えば思うほど、疑念というのは積み重なっていくものだ。

 もしも、裏切りだったら。
 もしも、自分に流していた情報が嘘だったら。

 そんなifを考えると、途方もない気持ちにやられる。

「裏切りは…ありえないはず……。裏切りだとしたらどうする?どうすればいい?計画が全て狂う…」

 魔王軍から得た情報。
 そこには魔王軍の正確な戦力まであった。

 だからこそ、その戦力を十分に叩き潰せるような戦力を用意したのだ。

 それが嘘だとしたら──女神が用意した戦力では不足するのか。

 不足した戦力を用意させるために、わざわざ詳細に嘘をついた可能性まで考えられてくる。

───最初から全て罠だった、とでも?

 ここまで来ると、どうしようもない。

───もう一度最初からやり直すか?

 それが最も堅実な手段だろう。

 ただ、始まりの獣ラストビーストが攻めて来た件を考えると、魔王はこの時期に進軍を開始するつもりなのか。
 駿河屋光輝スルガヤコウキを無くし、戦力が大幅に落ちている今、それだけは辞めてほしいというのが本音だ。

 勇者も他国へと送っている者が多い。

───もしかして、読まれている?

 まるで、こちらの動きを全て読んでいるかのようだ。
 好戦的でないのも、そう思わせるための罠で。
 ずっと、戦力を蓄え続けてきただけだとしたら。

───まずい。本当にまずい。

 どんな智者が相手に付いたというのか。

 もちろん、勝利する術はある。
 女神の切り札を使えば、一発逆転も可能だ。
 最悪、ヤマトに頼っても良い。彼は性格こそ気まぐれだが、相応の報酬を与えれば動いてくれるだろう。

 第一、自分の固有スキルが失敗している可能性は無いだろうとも思っている。
 戦士長、ガーベラ、勇者たち。通じなかった者は──数名を除き、存在しない。
 その数名は十分な異常イレギュラーであり、普通ならばどんな強者にも通用する。

 スパイはその異常イレギュラーには含まれない。
 あり得るのは、魔王が異常イレギュラーであるということ。
 だが、それも無いだろう。調査済みであった。

 その調査さえ間違っている…とまで考えればキリがない。
 そこまで言ってしまえば全てを疑うことになる。

───現状、信じられる駒は…いくつある?

 それにしても、いくつかは裏切りを考えて行動すべきだろう。

 戦士長、ガーベラ、1名を除いた勇者たち、そしてメイ。
 それらは信頼できる駒として扱って良い。
 スパイの魔族は──切っておくべきだ。裏切りのリスクが高すぎる上、既に始まりの獣ラストビーストの襲撃を知らせなかった前科がある。

───まさか…始まりの獣ラストビーストの襲撃が独断で、魔王の意思ではない?

 それならば裏切りの可能性は無いのだが、あまりにも希望的観測過ぎるか。
 ベールの固有スキルから考えれば、この可能性が最も高そうなのだが…、今になってもその魔族が自分の元に報告をしに来ない時点で、裏切りの可能性は濃厚だろう。

 切り札をヤマトに使ってしまうのも手だ。
 そもそもヤマトが使わせてくれるのか、という問題はあるが、使えれば強力な駒になることは間違いない。

 それならば魔王は倒せる。
 ただ、魔王を倒しただけで終わってしまうのが問題なのだ。

「せめて……もう少し勇者が成長するまで待つ、とか…」

 あまりにもタイミングが完璧すぎた。

 勇者の成長をある程度まで待ったのは、他国に分散するのを待つためか。
 魔族にしては妙に、”勇者の役割”を知っているような手口だ。

 現状、王都に残っている勇者は3名。

 魔夜中紫怨マヨナカシオン桃原愛美モモハラアミ夢咲叶多ユメサキカナタだ。
 加えて戦士長、魔術師ギルドマスター、冒険者ギルドマスター、”黒魔”のアギトが揃っている。

 他の勇者は他国へと送っていた。

 桃原愛美モモハラアミは戦闘を行う気がないから良いとして──他の6人がいれば、誰かしらは始まりの獣ラストビーストの襲撃にも対応できたのではないか。

 ものの5分で去ったのは、ベールへの警戒だろう。ただ、もしも勇者が居れば時間稼ぎくらいはできたかもしれない。

 腐っても、彼らは勇者だ。

 油断さえしなければ、始まりの獣ラストビーストが相手でも数分は持つ。

 今更そんな話をしてもしょうがないのだが。

「さて……どうしますか…」

 徐々に落ち着いてきたベールの頭が回り始める。

 アマツハラから借りている戦力もあるが、あれは対魔王戦まで使いたくない。というか、使えない。

 メイを投入する手もある。彼女であれば勇者1人分くらいの働きをするかもしれない。
 メイでなくとも、女神の配下の者を使っても良い。


 そんなことを考えていた時──

 コンコン、と。

 優しく、流暢に扉がノックされた。

「どうぞ、入ってきてください」

 扉の先にいる人物は分かっている。
 メイだ。

 それは良いのだが──彼女には火急の用がない限りの入室を禁じている。


 それが意味することは、つまり────

「ベール様、至急報告させてください」
「はい。どうされましたか?」

 何か、緊急事態が起きたということ。

 この忙しい、最悪のタイミングでなんだと言うのか。
 貴族なんかであれば、その首をもぎ取ってやろうとまで思う。


 だが、メイからの報告はそんな生温くはなかった。

「王都が……魔獣の軍勢に囲まれています」

 久しぶりに焦った様子のメイが、矢継ぎ早に伝えたこと。
 それは、タイミングが最悪で、まるで見計らったかのような──そして、最悪な内容のものだった。
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