【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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異世界転生編

第37話 あるメイドの話(4)

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「アオイさんは魔術師なのですか?」

 隣を歩くメイから質問が投げかけられる。
 ローブを着ているからそう思ったのだろう。

 その質問は想定のうちだ。

「魔術師ではありませんが、魔法の研究をしています」
「研究者の方でしたか。でしたら紹介したい店があります」
「店、ですか?」
「はい。宝石を取り扱ってる店なのですが、錬金術はご存知ですか?」

 錬金術。
 ある物質から全く異なる別の物質を作り出す魔術のことだ。

 これは地球でもある知識だ。もちろん、この世界の錬金術には詳しくない。

「はい、知っていますが…専門ではないので詳しくはないです」
「錬金術は宝石と密接に関わりますから……それ以外の魔術も石との関わりは大きいものですが。どういった研究をされているのですか?」

 これも想定内だ。
 答えは予め用意していた。

「魔法に対抗する魔法を研究しています。魔法と魔法をぶつけることで魔法を相殺するのではなく、魔法陣自体に影響を与え、魔法の発動をキャンセルさせるようなものです」

 ここで<魔術拒否ルフュー>の話を出しても良かったのだが、<魔術拒否ルフュー>は戦士長の固有スキルが有する能力の1つらしく、軽々しく他人に言うのは良くないため、控えている。

「そのような研究が行われているのですか。それはアマツハラの大陸では有名なのでしょうか?」
「いえ、俺が個人で行っているだけです」

 ふむふむ、と興味深そうに話を聞くメイ。
 彼女も魔法に興味があるのだろうか。

「なるほど、そうだったんですね。でしたら尚更、石というのは触れてみると良いかもしれません。我が大陸でしか採れない物もあります」

───特産物のような物か?貴金属…レアメタルのような概念はあるのか?

「それは興味深いです。案内してもらっても?」
「はい、任せてください」

───テンションが少し高い?魔術研究に興味を示してくれている?

 メイにとって、宝石集めは趣味のようなものだ。
 キラキラしていて可愛いというのが理由で、決して魔術的なコレクションではない。
 彼女の部屋には宝石たちを飾るショーケースがあり、そこには各大陸の珍しい宝石までもが集められていた。


 俺は彼女に着いて歩く。

 食事をとった店よりも更に貴族街に寄っているのだが、宝石を購入する層を考えればそれも当然のことだろう。

「そろそろです」

 歩き始めて数分。
 慣れた足取りで歩く彼女の後ろに付いていくと、宝石店というには質素な店に辿り着いた。

 その質素さは逆に、貴族街の店々と比べれば浮いているほどだ。

「この店です。入りましょう」

 店は外観も大事だが、それでも彼女が行きつけというくらいの店なのだから、品揃えはちゃんとしているのだろう。

 メイが店の扉を開け、俺がそれに譲られる形で店へと入る。
 本来男性がするべきエスコートだな、という思いも生まれるが、その思いは店内を見た途端、かき消えてしまった。

 キラキラと光る宝石が360度あらゆる場所に飾られている。

 赤、青、緑、紫。金、銀、黒。

 ありとあらゆる色が飾られていた。

「いらっしゃい──メイちゃん、久しぶりだねぇ」
「お久しぶりです」

 店主はおばさんだ。
 話し方や気の良さは近所のおばちゃんと言ったところか。メイは常連なのか、挨拶をしていた。

───というか、この店の常連ということは金持ち?所作や言動から貴族のメイドのような立ち位置か?

 正体不明の女だったメイだが、ようやく実態が掴めてきた気がする。
 この財力は、かなりの大物貴族のメイド──しかもメイドの中でも立場は上の方だろう。

 そうなると、今日は休日か。

 店主と話すメイへの気遣いは要らないだろうと考え、俺は店内を回る。

 向こうから「あの子は?」のような会話が聞こえるが、努めて無視だ。

 入り口付近から店内の宝石を網羅するように見ていく。

 そこで、1つの宝石に目が留まった。


 それは黄金色の宝石だった。

 大きさは親指の爪くらいか。

 あらゆる光を吸い込むような輝き。
 まるで自分が主役だと主張するかのような色。

 そして──見る者を誘惑する”何か”を持っていた。

「坊っちゃん、それが気になるのかい?」

 後ろから声が掛けられ、肩がビクッと跳ね上がる。
 集中していたが為に後ろの視線に気付いていなかった。

「はい。これは?」
「これは悪魔の石デモンソウルという石さ。世界でも産出量は数少ないんだ。それに目を付けるとは中々お目が高いねぇ。石と精通しているのかい?」
「魔術の研究を少々、と言ったところです。これは幾らなんですか?」
「金貨50枚と言ったところさ。産出量の割には格安なんだよ、こいつはね」

 銀貨は聞いたことがあるが、金貨は分からない。

「なぜ安いんですか?」
悪魔の石デモンソウルは縁起の悪い宝石なのさ。だからこんな名前が付けられている。産出量が少ないが、それ故に掘り当てた者は不幸者と呼ばれるんだよ。実際、これを掘り当てた奴は全員もれなく死んでいるのさ」
「そんな危険なものをなぜ?」
「コレクターだからさね。一度、実物を見たかっただけさ」

 さしずめ呪いの石と言ったところか。

「アオイさん、その宝石で良いのですか?」
「良いというのは?」

 後ろで話だけを聞いていたメイが声をかけてきた。

「お礼です。何か一つ贈らせてください。遠慮はいりません」

 断るべきか、否か。

 断らないでおこう。
 善意を無駄にするのも気が引けるし、何よりこの石は凄く気になる。

「この石が欲しいです」
「本気かい?死んでも文句は言われちゃ困るよ」
「はい、大丈夫です」

 なぜか分からないが、この石からは魅力を感じた。
 まるで石がこちらに語りかけているかのような錯覚さえ覚える。

───やっぱりメイさんは金持ちのところのメイドか、お嬢様だったりするのか。お嬢様は一人で出歩かないだろうし…メイドで確定だな。

 宝石を贈ると軽く言うメイの素性はほぼ明らかだ。

「分かりました。ではこちらを頂けますか?」
「はいよ、金貨50枚だが……48枚と銀貨50枚に負けるさ」
「それはどうも、ありがとうございます」

 メイは袋のようなものを懐から取り出し、店主に直接渡した。

 あんなものをどこに隠し持っていたのか。
 見るからに重そうだし、今まで持っている気配は無かった。

 それと、金貨48枚と銀貨50枚。この言い方から、銀貨は100枚で金貨1枚になるのだろうと推測が付いた。

「それじゃあ、持っていきな」

 おばちゃんは丁寧な動作で宝石をショーケースから取り出し、小さな箱へと入れ替えた。
 それをゆっくりと俺に手渡しする。

「メイさん、ありがとうございます」
「いえいえ、これはお礼ですから」

 人に高いものを買わせてしまった申し訳なさが残る。
 メイを一瞥するも、そこまで気にした様子がなさそうなのが救いだ。

「ありがとうございました。また来ます」
「はいよ、またいつでもおいで」

 そうして、俺とメイは店から出た。



 それから俺はメイに案内され、5件ほど店を回った。
 何か買うことはなく、紹介してもらっているという感じだ。

 衣服や道具を揃えるための店がほとんどだった。
 この街での勝手に困らないための計らいだろう。
 俺はそんなメイの思いやりに感謝しつつ、街を回っていた。



 メイの紹介が終わった頃には、既に夕方になっていた。 
 太陽も沈み出し、空は切ない色で染まっていた。

「今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ助けて頂きありがとうございます。救われました」

 解散、という雰囲気になり、俺たちは互いに感謝を述べ合う。

「またどこかでお会いしましょう」
「そうですね。その日を楽しみにしています」

 何だか社交辞令臭いが、俺たちはそのまま別れた。

 互いに連絡手段を確立するわけでも、身分を明かすわけでもなく。

 ただ、この一日は不思議と、異世界に来てから始めてゆっくりと出来た気がする。

 心落ち着く一日を過ごした俺は、メイがある程度まで離れるのを見届けた後、帰路についた。




・     ・     ・




「只今帰りました、ベール様」
「あら、おかえりなさい、メイ……と、どうしたのです?」
「何がですか?」

 普段のメイとは違った表情にベールは気付く。
 街でなにかがあったのだろうと推測するが、それは想像もつかない。

「何だかいつもとは違って見えますので、何かあったのかなぁと」
「特に、そういうことはありません。ただ──」

 メイは今日出会った男について語り始めた。

 街で不良に絡まれたこと。
 そこをその男に助けてもらったこと。
 アマツハラで魔術の研究をしているらしいこと。
 などだ。

 それを聞いたベールはにやにやとした表情を作る。

「メイが男と食事なんて──初めてでは?」
「からかわないでください、ベール様。ただお礼をしただけですので」

 宝石を贈った話はしていない。
 そんな話をすればベールにからかわれることを分かっているからだ。

「メイにも春が来ますかねぇ~」
「ベール様、おふざけはお辞めください」

 低いトーンで注意するメイに負け、ベールは「はいはい」と返事をする。
 それすらもからかう口調であるのだが。

「まったくもう…」

 メイにとって、彼への行為は全て礼なのだ。
 あそこで助けてもらえなければ──後々かなり面倒なことになっていた。

 ただ、殿方に助けてもらったのが初めてで、礼の度合いを間違えてしまっただけで。

 深い意味など、本当に無かったのだ──。
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