【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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異世界転生編

第24話 ガーベラ(2)

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「戦士長...」
「投降しろ、ガーベラ。大人しく支配を受け入れれば戦わずに済む」

 俺の発言に、ガーベラは渋い顔をした。

「私は戦士長より強いが?」

 それでも尚強気に言うガーベラ。
 だが、その返答は予想通りだ。

 実際、ガーベラにも勝算はあるだろう。ただそれは、万全の状態だったら、だ。

「さぁ、どうかな。サブギルドマスターを相手にして万全でない状態のお前に何が出来る?それに俺も居るんだぞ?」
「貴様は魔力がもう残っていないだろう」

 ガーベラは確信して言葉を発する。その根拠はどこから来ているのか、答えは簡単だ。

 あの手枷と足枷の効果は魔力を吸い取ることにあったのだろう。

 弱体化させるものかと思っていたが、吸収することで無力化するタイプ。

 元々俺の魔力量が少ないこともあり、実害を感じるには至らなかった。

 それに気づいていない様子を見ると、吸収した魔力量までは分からないようだ。

 それでも魔力が枯渇していると言い切れるのは、割合吸収だからか。

「魔力を回復する術がないとでも?」
「いや、それは嘘だ。貴様は魔力回復薬を所持していなかったし、騎士たちの保持しているものを使わせるわけが───まさか、貴様...」

 ようやく俺が戦士長を支配していることに気付いたようだ。戦士長が「支配」という単語を使った時にバレたかと思ったが、耳に入っていないのか。

 それとも動揺して上手く理解できなかったのか。

「......自分が何をしているか分かっているのか?それは──この国だけでなく、大陸全体を敵に回す行為だぞ?」
「あぁ、そうかもな」

 そんな脅し文句は意味を成さない。
 そもそも、明るみになることが無いのだから。

「それは、女神を敵に回す行為と等しいのだぞ?分かっているのか!」

───女神を敵に回す、か。

 そんな今更なこと、何も怖くない。
 むしろ、女神の下で媚びを売って生きていくくらいなら、死んだ方がマシだ。

「女神の下でヘコヘコ生きるなんてごめんだ。あいつと敵対してるなんて、今更なんだよ」
「この情報を今すぐ持ち帰ることも出来るんだぞ!」
「ならばなぜそれを今すぐしない?それはできないからだ。分かってんだよ」

 何を言おうと無駄だと悟ったか、ガーベラの焦った表情も次第に消えていった。

「はっ!ならば貴様を殺せば良いだけっ!」

 ガーベラは右手を前に突き出す。
 それは、魔法を発動する時の構え。

 だが、魔法を撃たせはしない。

「やれ」

 短い合図。

 その一言で、ガーベラの後ろから3人の騎士が現れ、静かに彼女に斬りかかった。

 聞こえるのは鎧が擦れるカチャカチャという音だけ。

 着実に殺せる箇所を狙い、騎士たちは斬りかかったのだ。

 ただ、それで容易に殺せるガーベラではない。

「───ッ!<炎闘牛鬼イグニ>ッ!」

 ガーベラの手に赤い魔法陣が現れ、そこから炎で出来た牛頭が3つ現れる。

 さすがは魔術師ギルドマスターか。僅かな鎧の音を聞き取り、魔法の標準をすぐさま後ろに変えていた。

 殺すつもりは無いのか、牛頭は騎士たちに掠る程度だ。
 それでもその威力は凄まじく、鎧が一部溶けていた。

「まぁ、そう上手くは行かないよな。戦士長」
「了解した」

 奇襲で上手く行けば良いと思っていたが、なかなかそうは行かないようだ。

 だから、魔術師ギルドマスターと戦士長をぶつける。

 1対1で、セオリー通りならば、戦士長が有利だ。距離を詰めれば魔術師は無力な上、耐久力・防御力ともに戦士と魔術師では雲泥の差がある。

「戦士長。集団戦を得意とするあなた方が、1対1で私に勝てると?」

───あまり疲れていないのか?肩が上がる様子もないが…あの魔法は強力なものではない?

 向かい合う二人は、10メートルほど距離を開けていながらも、やや険悪な雰囲気で話している。

「確かに万全の状態であれば厳しかったかもしれない。だが、俺が装備万全なのに対し、ガーベラ殿はその装備。それに葵殿から聞いた話ではここまでに消耗をしてきたと言う。俺が負ける道理などないさ」

 戦士長とガーベラを見る。

 戦士長は白に金が編み込まれた色のフルプレートを装備している。

 対してガーベラはローブ1枚を羽織っているのみ。腰にある短杖も、大して上級品には見えなかった。

 話と態度を見聞きしている限り、優勢なのは戦士長。
 ガーベラは警戒する姿勢で、冷や汗まで流れている。

 尤も、敵地のど真ん中に消耗した状態、装備も万全じゃない状態で居たら、そうなるのが普通だろう。

「いや、私が一発どでかい魔法を放てば終わりだね。それくらい分かるだろう?」
「さすが”破壊の魔術師”の二つ名を持っているだけはある。だが、貴殿にそれができるのか?詠唱を始めた瞬間、首が飛ぶぞ?」

 ガーベラの脅し文句も真に受けない戦士長は、やはり冷静なタイプだ。

 無駄に脳筋だったり、突っ走るタイプだったらどうしようかと思ったが、一国の軍を任せられているだけあって心強い。

 それにしても、”破壊の魔術師”とは、中々物騒な二つ名だ。

「……本当にやるのか?」
「無論。アオイ殿に言われてしまっては仕方あるまい」

 向かい合う戦士長とガーベラ。

 今にも死闘を始めそうな勢い。

 が、

───ガーベラは殺すなよ。

 俺は脳内で指示を出しておく。

「ならば…手加減はしないぞ」

 腰から短杖を取り、手に持つガーベラ。

 戦士長もそれに応えるよう、腰に差していた剣を抜いた。
 長くて重そうな剣だ。刀身1メートルはあるだろう剣を、戦士長は両手で構えていた。

「<炎闘牛鬼イグニ>ッ!」

 初手、打って出たのはガーベラだ。

 彼女の持つ短杖の先に魔法陣が描かれる。

「<魔術拒否ルフュー>」

 魔法陣の光が強くなり、魔法が発動されると思われた瞬間、戦士長は剣を地面に突き刺した。

 それに呼応するよう、ガーベラの短杖の先に現れた魔法陣は霧散していく。やがて、魔法は発動することなく効果を終了した。

───魔法陣を破壊するスキルか?魔力消費はどうなるんだ?

「チッ──!<魔法陣強化・炎闘牛鬼イグニ>ッ!」

 再び同じ魔法を繰り出すガーベラ。

 ただ、先程とは違い、魔法陣が少し複雑になっている気がする。

 魔法陣が光を増していく。

 魔法名を呟いた瞬間からワンテンポ遅れ、魔法陣から魔法が射出された。

 巨大な紅の炎が戦士長目掛け、一直線に向かていった。

───なぜ戦士長はさっきのスキルを使わなかった?回数制限?クールタイムか?それとも複雑な魔法陣に意味が?

 基本的な知識がない俺からすると、戦士長とガーベラの駆け引きは分からない。ただ、戦士長のスキルに対し、ガーベラが何らかの対策をしたように見えていた。

「……<黄金要塞ロイヤルガード>」

 魔法が発動されたにも関わらず、戦士長は地面に刺した剣を抜くことはない。

 そのままスキル名を呟くと、戦士長の周りに透明な金色の壁が出来始めた。

 炎は金色の壁にぶつかると、それを壊さんと喰らいつくが、壁が壊れることはない。

 炎がすべて消えるまで、黄金の壁が消えることはなかった。

「いつ見ても厄介だ」

 愚痴を吐くガーベラ。

 口振りからして、かつて戦士長のスキルを見たことがあるのだろう。

 素人目で見ても厄介な防御系のスキルだ。防御力は分からないが、ガーベラでは相性が悪いのも頷ける。

「では、俺から行かせてもらおう」

 ガーベラの愚痴など気にも留めず、戦士長は地面に刺していた剣を抜いた。

 それに合わせ、ガーベラも警戒するように短杖を前に出し、構える。

「──<亜空斬>」

 剣を縦に振る。

 切先が軌道を描き、それが宙を切り裂く。

 そして、その一直線の空間にズレが発生した。

「<真護結界トゥルー・アミュレット>」

 ガーベラもそれを防がんと結界魔法を使う。

 一瞬の判断。
 見事反応に成功したガーベラは結界を構築することに成功する。


 だが────


 バリンッ


 現れた結界は戦士長のスキルにより、一瞬で粉砕されてしまった。

「なんだッ!」

 ガーベラは狼狽する。

 しかし、戦士長のスキルはそれで終わりではない。

 時空ごとを切り裂く切先は、結界を破壊してもなお、ガーベラに襲いかかる。


 ズシャッ


「ぐっ───あッ!!」

 空間のズレがガーベラの左腕を切り裂いた。

 ボトリ、と腕が落ちる。
 血が噴き出し、ガーベラの顔が苦痛に歪む。

「な──んだ、それはッ!」

 叫ぶガーベラを、戦士長が気にした様子はない。

「呆気ないものだな」

───剣の軌道の一直線上を切り裂くスキルか?それも防御系を貫通、予想してたより強いな。

「ガーベラ殿、貴殿ら魔術師は知識を武器として戦うが、逆に言えば知識にない攻撃には対処できまい」

 右手で左腕を抑えながら、ガーベラはその場にとどまっている。動くことさえしんどいのだろう。

 対して戦士長は消耗もしていないのか、剣を持ってガーベラの元へと歩いていた。

「ぐっ!!<黒雷帝インドラ>ッ!」

 腕を切られてもなお抵抗する意思はあるのか、懸命に魔法を使おうとするガーベラ。

 だが、戦士長がそれを許すはずもなく、

「ふんっ!」

 魔法陣が構築される一瞬の隙でガーベラに肉薄し、手にしていた杖を叩き割った。

「くっ...」
「それで、どうする?まだ続けるならばお相手しよう」
「………<蒼氷塊グラスーア>ッ!!」

 戦士長の言葉を無視し、ガーベラは魔法を使う。
 折れた杖の代わりに右手に藍色の魔法陣が現れ、青緑エメラルドグリーンの氷が放たれる。

 ほぼゼロ距離に居た戦士長は──魔法に反応するのが遅れてしまった。

 氷が意思を持っているかのように戦士長にぶつかる。
 鉄と鉄がぶつかるような音を上げ、戦士長の身につけている鎧に傷がついているのが分かった。

「はっ」

 狼狽える戦士長を他所に、ガーベラはその場から大きく後退しようと試みた。一度、立て直す為だろう。

───さすがの戦士長もまずいか?

 ガーベラは後退しようとバックステップを踏む。


 ガシッ


 瞬間、何かがガーベラの腕を強く掴んだ。

 戦士長の手だ。

「なっ!?有り得んだろう!!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

 ガーベラに露見する驚愕の表情。

 ただ、戦士長はそれを全く気にした様子もなく、勢いのままガーベラを思い切り地面に叩きつけた。

 ドゴォンッ!!

 そんな豪快な音が上がる。突風が吹いたかのような錯覚と共に土煙が巻き起こり、俺の視界を一瞬奪った。

 つい、両腕で顔を覆う。ゴォという音と共に、突風は俺の元を通り過ぎていく。

 凄まじい音、そして人間とは思えない力。

 俺は恐る恐る目を開ける。

 そこには多少凹んだ地面に伏したガーベラがいた。

 この地面の凹みはどうやってできたのか。聞くまでもない。ガーベラの魔法によるもの、と言われたほうが納得できるが、実際には戦士長の筋力によってのみで作られたものである。

「すまない、アオイ殿。少し手こずってしまった」

 対する戦士長は、ほぼ無傷。

 ダメージは蓄積されていないのか、なぜ鎧が綺麗なままなのか、全ての出来事が一瞬で起こり、俺にはとても理解できないことが多かった。

 それはどうやら周りの騎士たちも同じようで、どう対応すればいいのか戸惑っているようだ。

「いや、ありがとう」

 俺は極力平静を保ちながら返事をする。

 支配する側の威厳とでも言うのだろうか。そういう謎のプライドが俺をかろうじて平静な状態にしていた。

「ところで──ガーベラはどうするのだ?」

 気絶していてもなおガーベラを警戒しているのか、戦士長はガーベラからあまり距離を取らずに俺と話をしていた。

 こういった細かい配慮もさすがは戦士長と言うだけあるのだろう。やっているのを見れば気づくが、自分からしようとは思えない立ち回り。意識的に行うことがどれほど難しいことか。

「あぁ、ガーベラは────」

 そして俺は、これからの動きを戦士長に話し始めた。




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 お読みいただきありがとうございます。

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 1章にて1復讐が終わりますのでお楽しみに。
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