【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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異世界転生編

第23話 ガーベラ(1)

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 俺は人の中を素早く駆けていく。
 なるべく人目に付かないよう、目立たないよう、颯爽と戦士長の居る場所を目指していた。

 ガーベラという人間に目をつけられてしまった以上、大事になることは避けられない。ただ、国全体から指名手配のような状況にはなりたくないのだ。

 最善手は、ガーベラを<支配ドミネイト>してしまうこと。ただ、それにはガーベラの固有スキルを突破しなくてはならない。

 彼女の固有スキルに関する情報は多くない故に、ここからは推測の域を出ないのだが、魔力をベールのように纏う時、体内にある魔力を使っているのだと思う。

 というのも、そもそも体外の魔力を使えるならば、魔法陣は不要だからだ。魔法陣によって魔力に何らかの操作をしている以上、直接体外の魔力を扱うことは出来ない、もしくは効率が悪いのだろう。

 そう考えると、彼女の魔力を使い切ってしまえばベールは無くなるのではないか、と思っている。ここで問題になってくるのはかどうやって魔力を使い切らせるか、だ。

 考えは2つある。

 1つ目は、文字通り魔力をすべて使い切らせるというもの。魔力を使い切るまで魔法を撃ちまくって貰い、枯渇したところを<支配ドミネイト>するということだ。
 魔力を回復する薬なんかがあった場合、長期戦が不可避であり、リスクも高い。あまり良い方法とは言えないだろう。

 2つ目は、ガーベラを拘束するというものだ。拘束して<支配ドミネイト>を使い続ければ、その抵抗に多少の魔力は消費するはず。それを繰り返し、ベールを剥がしてやろうというのだ。
 尤も、気絶している時にベールは纏えない可能性もある。そういう意味で、2つ目の考えの方が良いと思っている。

 欠点をあげるとすれば、拘束が困難なことだろう。

 ただ、それを解決するために戦士長とガーベラをぶつける。

 故に今、戦士長の元へ向かっているのだが。

「はぁ……はぁ……」

 VITのステータスが低いからか、やはり全力疾走をすると直ぐに疲れが襲いかかる。

 意識が途切れそうになるが、寸前で俺は留まる。ここで気絶してしまえば何もかもが終わりだ。俺の命という意味だけでなく、女神に復讐する計画も無くなってしまう。

 身体が悲鳴を上げているのを精神の力で抑え込み、俺は再び足に力を入れる。

 ガーベラをどれだけの時間押さえつけられるかは分からない。余裕があればエドワードの様子も確認したいところだが、疲労困憊の状態ではそれほどの余裕はなかった。

「はぁっ……はぁっ……」

 人目も気になるが、努めて気にしないようにする。

 どれほど走っただろうか。

 人の多い通りを抜け、徐々に人が減っていくのを感じた頃には貴族や大商人の住む街に居た。

 それほど長時間、長距離走ったわけではないだろうが、感じる疲労の具合は長距離マラソン完走時のそれだ。

 そして、感じる達成感も同じレベルのものだった。

 俺の前には今、先程ラテラと訪れた騎士の拠点がある。

 ふと後ろを振り返るが、ガーベラが迫ってくる様子はない。

 少しの安心感を覚えると共に、多少の不安も覚え始めた。

───手はず通りならそろそろ…

 ギィ…

「アオイ殿!大丈夫だろうか!?」

 と、そこで戦士長が扉を開けて現れた。

───予定通りだ。

 事前に戦士長に指示を出しておいて正解だった。<支配ドミネイト>の利点が上手く活きたと言って良い。

「いや、すまない。わざわざ出迎えてくれてありがとう」

 戦士長は俺の体を見回す。

 その視線はふと俺の足元で止まり、表情を強張らせた。

 そのまま戦士長がこちらへ駆け寄ってくる。

「どうした?」
「いえ、取り敢えずこれを」

 内心疑問を抱きつつも、戦士長が渡してきた小瓶を受け取る。中には赤い液体が入っており、およそ回復薬──ポーションだろうと予測が立った。

 そこでふと思い立つ。言われてみればガーベラに潰されたままの足でここまで走ってきたのだ。正確には指だけなのだが。

───そう思うと急に痛みが……。

 思い込みの力というやつだろう。
 急激に痛みが襲ってきたかのような錯覚に、俺は手早くポーションを口にした。

「ありがとう、戦士長」
「いえいえ、それで、どうされますか?」

 戦士長には事前に状況も説明してある。
 つまりここで言う「どうする」とはガーベラを迎え撃つのかどうか、という判断を仰ぎたいのだろう。

 答えはもちろん、
「ここでガーベラを迎え撃つ。準備を頼む」
 肯定だ。

 ここでガーベラを倒し、確実に<支配ドミネイト>する必要がある。

 逃げても追いかけてくるだろうし、それしか手段はない。先程走る姿を多くの人に奇異の目で見られていたことだけが気がかりだ。

「では取り敢えず……中に入りますか」
「ああ、そうさせてもらう」

 今は少しでも休息が欲しかった。

 出来ればガーベラがこのまま追ってこなければ良いのに、という淡い希望を抱きつつ、俺は戦士長に付いて騎士たちの元へと向かった。
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