23 / 76
異世界転生編
第23話 ガーベラ(1)
しおりを挟む
俺は人の中を素早く駆けていく。
なるべく人目に付かないよう、目立たないよう、颯爽と戦士長の居る場所を目指していた。
ガーベラという人間に目をつけられてしまった以上、大事になることは避けられない。ただ、国全体から指名手配のような状況にはなりたくないのだ。
最善手は、ガーベラを<支配>してしまうこと。ただ、それにはガーベラの固有スキルを突破しなくてはならない。
彼女の固有スキルに関する情報は多くない故に、ここからは推測の域を出ないのだが、魔力をベールのように纏う時、体内にある魔力を使っているのだと思う。
というのも、そもそも体外の魔力を使えるならば、魔法陣は不要だからだ。魔法陣によって魔力に何らかの操作をしている以上、直接体外の魔力を扱うことは出来ない、もしくは効率が悪いのだろう。
そう考えると、彼女の魔力を使い切ってしまえばベールは無くなるのではないか、と思っている。ここで問題になってくるのはかどうやって魔力を使い切らせるか、だ。
考えは2つある。
1つ目は、文字通り魔力をすべて使い切らせるというもの。魔力を使い切るまで魔法を撃ちまくって貰い、枯渇したところを<支配>するということだ。
魔力を回復する薬なんかがあった場合、長期戦が不可避であり、リスクも高い。あまり良い方法とは言えないだろう。
2つ目は、ガーベラを拘束するというものだ。拘束して<支配>を使い続ければ、その抵抗に多少の魔力は消費するはず。それを繰り返し、ベールを剥がしてやろうというのだ。
尤も、気絶している時にベールは纏えない可能性もある。そういう意味で、2つ目の考えの方が良いと思っている。
欠点をあげるとすれば、拘束が困難なことだろう。
ただ、それを解決するために戦士長とガーベラをぶつける。
故に今、戦士長の元へ向かっているのだが。
「はぁ……はぁ……」
VITのステータスが低いからか、やはり全力疾走をすると直ぐに疲れが襲いかかる。
意識が途切れそうになるが、寸前で俺は留まる。ここで気絶してしまえば何もかもが終わりだ。俺の命という意味だけでなく、女神に復讐する計画も無くなってしまう。
身体が悲鳴を上げているのを精神の力で抑え込み、俺は再び足に力を入れる。
ガーベラをどれだけの時間押さえつけられるかは分からない。余裕があればエドワードの様子も確認したいところだが、疲労困憊の状態ではそれほどの余裕はなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
人目も気になるが、努めて気にしないようにする。
どれほど走っただろうか。
人の多い通りを抜け、徐々に人が減っていくのを感じた頃には貴族や大商人の住む街に居た。
それほど長時間、長距離走ったわけではないだろうが、感じる疲労の具合は長距離マラソン完走時のそれだ。
そして、感じる達成感も同じレベルのものだった。
俺の前には今、先程ラテラと訪れた騎士の拠点がある。
ふと後ろを振り返るが、ガーベラが迫ってくる様子はない。
少しの安心感を覚えると共に、多少の不安も覚え始めた。
───手はず通りならそろそろ…
ギィ…
「アオイ殿!大丈夫だろうか!?」
と、そこで戦士長が扉を開けて現れた。
───予定通りだ。
事前に戦士長に指示を出しておいて正解だった。<支配>の利点が上手く活きたと言って良い。
「いや、すまない。わざわざ出迎えてくれてありがとう」
戦士長は俺の体を見回す。
その視線はふと俺の足元で止まり、表情を強張らせた。
そのまま戦士長がこちらへ駆け寄ってくる。
「どうした?」
「いえ、取り敢えずこれを」
内心疑問を抱きつつも、戦士長が渡してきた小瓶を受け取る。中には赤い液体が入っており、およそ回復薬──ポーションだろうと予測が立った。
そこでふと思い立つ。言われてみればガーベラに潰されたままの足でここまで走ってきたのだ。正確には指だけなのだが。
───そう思うと急に痛みが……。
思い込みの力というやつだろう。
急激に痛みが襲ってきたかのような錯覚に、俺は手早くポーションを口にした。
「ありがとう、戦士長」
「いえいえ、それで、どうされますか?」
戦士長には事前に状況も説明してある。
つまりここで言う「どうする」とはガーベラを迎え撃つのかどうか、という判断を仰ぎたいのだろう。
答えはもちろん、
「ここでガーベラを迎え撃つ。準備を頼む」
肯定だ。
ここでガーベラを倒し、確実に<支配>する必要がある。
逃げても追いかけてくるだろうし、それしか手段はない。先程走る姿を多くの人に奇異の目で見られていたことだけが気がかりだ。
「では取り敢えず……中に入りますか」
「ああ、そうさせてもらう」
今は少しでも休息が欲しかった。
出来ればガーベラがこのまま追ってこなければ良いのに、という淡い希望を抱きつつ、俺は戦士長に付いて騎士たちの元へと向かった。
なるべく人目に付かないよう、目立たないよう、颯爽と戦士長の居る場所を目指していた。
ガーベラという人間に目をつけられてしまった以上、大事になることは避けられない。ただ、国全体から指名手配のような状況にはなりたくないのだ。
最善手は、ガーベラを<支配>してしまうこと。ただ、それにはガーベラの固有スキルを突破しなくてはならない。
彼女の固有スキルに関する情報は多くない故に、ここからは推測の域を出ないのだが、魔力をベールのように纏う時、体内にある魔力を使っているのだと思う。
というのも、そもそも体外の魔力を使えるならば、魔法陣は不要だからだ。魔法陣によって魔力に何らかの操作をしている以上、直接体外の魔力を扱うことは出来ない、もしくは効率が悪いのだろう。
そう考えると、彼女の魔力を使い切ってしまえばベールは無くなるのではないか、と思っている。ここで問題になってくるのはかどうやって魔力を使い切らせるか、だ。
考えは2つある。
1つ目は、文字通り魔力をすべて使い切らせるというもの。魔力を使い切るまで魔法を撃ちまくって貰い、枯渇したところを<支配>するということだ。
魔力を回復する薬なんかがあった場合、長期戦が不可避であり、リスクも高い。あまり良い方法とは言えないだろう。
2つ目は、ガーベラを拘束するというものだ。拘束して<支配>を使い続ければ、その抵抗に多少の魔力は消費するはず。それを繰り返し、ベールを剥がしてやろうというのだ。
尤も、気絶している時にベールは纏えない可能性もある。そういう意味で、2つ目の考えの方が良いと思っている。
欠点をあげるとすれば、拘束が困難なことだろう。
ただ、それを解決するために戦士長とガーベラをぶつける。
故に今、戦士長の元へ向かっているのだが。
「はぁ……はぁ……」
VITのステータスが低いからか、やはり全力疾走をすると直ぐに疲れが襲いかかる。
意識が途切れそうになるが、寸前で俺は留まる。ここで気絶してしまえば何もかもが終わりだ。俺の命という意味だけでなく、女神に復讐する計画も無くなってしまう。
身体が悲鳴を上げているのを精神の力で抑え込み、俺は再び足に力を入れる。
ガーベラをどれだけの時間押さえつけられるかは分からない。余裕があればエドワードの様子も確認したいところだが、疲労困憊の状態ではそれほどの余裕はなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
人目も気になるが、努めて気にしないようにする。
どれほど走っただろうか。
人の多い通りを抜け、徐々に人が減っていくのを感じた頃には貴族や大商人の住む街に居た。
それほど長時間、長距離走ったわけではないだろうが、感じる疲労の具合は長距離マラソン完走時のそれだ。
そして、感じる達成感も同じレベルのものだった。
俺の前には今、先程ラテラと訪れた騎士の拠点がある。
ふと後ろを振り返るが、ガーベラが迫ってくる様子はない。
少しの安心感を覚えると共に、多少の不安も覚え始めた。
───手はず通りならそろそろ…
ギィ…
「アオイ殿!大丈夫だろうか!?」
と、そこで戦士長が扉を開けて現れた。
───予定通りだ。
事前に戦士長に指示を出しておいて正解だった。<支配>の利点が上手く活きたと言って良い。
「いや、すまない。わざわざ出迎えてくれてありがとう」
戦士長は俺の体を見回す。
その視線はふと俺の足元で止まり、表情を強張らせた。
そのまま戦士長がこちらへ駆け寄ってくる。
「どうした?」
「いえ、取り敢えずこれを」
内心疑問を抱きつつも、戦士長が渡してきた小瓶を受け取る。中には赤い液体が入っており、およそ回復薬──ポーションだろうと予測が立った。
そこでふと思い立つ。言われてみればガーベラに潰されたままの足でここまで走ってきたのだ。正確には指だけなのだが。
───そう思うと急に痛みが……。
思い込みの力というやつだろう。
急激に痛みが襲ってきたかのような錯覚に、俺は手早くポーションを口にした。
「ありがとう、戦士長」
「いえいえ、それで、どうされますか?」
戦士長には事前に状況も説明してある。
つまりここで言う「どうする」とはガーベラを迎え撃つのかどうか、という判断を仰ぎたいのだろう。
答えはもちろん、
「ここでガーベラを迎え撃つ。準備を頼む」
肯定だ。
ここでガーベラを倒し、確実に<支配>する必要がある。
逃げても追いかけてくるだろうし、それしか手段はない。先程走る姿を多くの人に奇異の目で見られていたことだけが気がかりだ。
「では取り敢えず……中に入りますか」
「ああ、そうさせてもらう」
今は少しでも休息が欲しかった。
出来ればガーベラがこのまま追ってこなければ良いのに、という淡い希望を抱きつつ、俺は戦士長に付いて騎士たちの元へと向かった。
0
お気に入りに追加
1,096
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗
神尾優
ファンタジー
友人や先輩達と共に異世界に召喚、と言う名の誘拐をされた桂木 博貴(かつらぎ ひろき)は、キャラクターメイキングで失敗し、ステータスオール1の最弱勇者になってしまう。すべてがステータスとスキルに支配された理不尽な異世界で、博貴はキャラクターメイキングで唯一手に入れた用途不明のスキルでチート無双する。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる