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異世界転生編

第21話 魔術師ギルド(3)

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「その威勢がいつまで続くか…見物だね」

 再び鉄球が落下する。


 グシャッ


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ──────ッ!!」

 足が潰され、激痛が走った。
 今度は右足だ。

 無慈悲にも、サブギルドマスターは表情一つ変えず、俺の足をまた潰したのだ。

 床に転がる鉄球と、赤黒い液体。
 かつて嗅ぐことのなかった血の匂い。

 視覚と嗅覚から得る情報に、吐き気がする。

 それでも無駄に冷静なのは、未だ女神の魔法の効果が残っているのだろうか。

 痛みに対する発狂はあれど、精神が壊れることはなく、脱出する為の策を考える余裕もあった。

 ただ、その冷静さ故に、痛みもちゃんと感じる。

「意外と冷静だね。<上位回復エクストラヒール>」

 ガーベラが回復の魔法を使う。
 先程同様、傷も痛みも綺麗さっぱり無くなっていった。

 まるで何も無かったかのように、体は元の状態に戻されていく。

 床に散らばる俺の血肉のみが事実を物語っていた。

 これを繰り返すうちに精神を崩壊させたいのだろうが、幸いにも、女神に施された精神平衡の魔法によって、俺は無駄に冷静だった。

「じゃあ、もう一度行こうか」

 鉄球が落下する。

 グシャッと。3度目の激痛が俺を襲った。

「あああああぁぁぁぁぁぁ──────ッ!」

 痛みのあまり、体が跳ねる。
 椅子は固定されていないのか、それに合わせて椅子の位置も移動した。

 反射的に出る叫び声が、部屋の中で反響する。

 視界には飛び散る血肉が、鼻からはリアルな血生臭さを感じていた。

 じわじわと俺を蝕む痛みも、10秒経つ頃にはガーベラによって無に返される。

 痛みがなくなったかと思えば、また激痛だ。


 落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。


 足が潰れる痛みに慣れることはない。慣れるはずがない。

 痛みを治されれば、次に来るのは痛みだ。

 治されるたびに、次の痛みに怯え、ビクビクとする。

───これが拷問か。

 だが、内心はまだ冷静だった。

 何か打開策はないか、模索する元気もある。


 落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。────


 グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。────


 何度も何度も何度も何度も足を潰された。

 今では足が機能するのかどうかさえ、怪しいところだ。

 それでもやはり、精神は安定している。
 女神はどれほど強力な魔法を使ったのか、少しも冷静さを欠いていない。

 何度も足を潰される中、打開策を考え続けた。

「まだ言わないのか?目的は愚か、名前すら言われてないのだが」
「言わないさ」

 もう少しだ。
 あともう少し。

 次でこの状況を打開する。

「そうか…ならば、もう一度だな」

 鉄球が手から離され、落下する。
 同時に、俺は足を少しずらす。

 グシャッ

 何度も聞いた音を上げ、たちまち俺の足は潰れた。

 ただ、今回潰れたのは指3本程度だ。
 足をずらしたおかげで、足の中心を鉄球から逃した。

「ああああぁぁぁぁああ────ッ!!」

 それでも痛みは襲いかかる。
 指が潰れただけとはいえ、激痛だ。

 その激痛に耐えられないかの如く、俺は暴れ回った。

「うああああぁぁぁぁ────ッ!」

 ガタンッ

 椅子が倒れる。それでもお構いなしに俺は暴れ回る。

 部屋には俺の叫び声と、椅子が転げ回る音だけが響いていた。

「サブギルドマスター、拘束しなさい」

 だが、それを見てガーベラが焦ることはない。

 拷問によってとうとう精神に異常を来した人間を、あくまで拘束さえしてしまえば解決なのだ。

 言葉が話せないくらいに狂っていると困るが、その時は神官にでも協力を仰いでどうにかすれば良いだろう。

 その程度の認識で、サブギルドマスターに指示を出した。

 サブギルドマスターはガーベラの指示を受け、葵の元に近づくと、その腕を使って締め付けるように拘束した。

 拘束系の魔法で捉えることが理想だが、拘束魔法は目標点の設定が難しいこともあり、ただ拘束するだけならば、物理的な方が早いのだ。

 そういうわけで、椅子毎ガタガタと暴れ回っている葵は、サブギルドマスターによって羽交い締めにされている。

 それでも、暴れることを辞める様子はなかった。

「ギルドマスター、こいつ、なかなか暴れるのを辞めませんよ」
「一旦気絶させても問題ない」
「えぇ、いいんですか?じゃあやっちゃいますね」

 首を絞める力が強くなっていく。

「ぐっ…………かはっ……!」

 俺はそれに抵抗するよう、手でサブギルドマスターの腕を解こうとするが、流石に筋肉量に差があり、解くことはできない。

 首の骨が折れるギリギリの強さで、サブギルドマスターは首を絞め続けていた。

「…………<支配ドミネイト>」

 拘束のタイミングは、必ず物理的な手を使ってくるだろうと思っていた。

 ガーベラが拘束してきたら別の案を考えたが、先程からサブギルドマスターにばかり働かせていたことから、拘束もサブギルドマスターにさせるだろうと踏んでいたのだ。

 ガタガタと椅子の暴れ回る音で煩い部屋で、一言小声で呟いただけの<支配ドミネイト>。それが当然ガーベラに聞こえるはずもなく、ノーリスクでサブギルドマスターの支配に成功した。

───名前は……エドワードと言うのか。

「エドワード、ガーベラに向かって一発魔法を放ち、そのまま椅子を破壊しろ」

 サブギルドマスターは俺の指示に従い、何やら赤い魔法陣から炎の球をガーベラに向かい発射した。

 ガーベラは呆気に取られて防御が遅れる。そのタイミングで椅子を破壊し、俺は自由を手に入れた。

「そのままガーベラを抑えていろ」

 追撃の手がかからないうちに、とガーベラを戦わせ、逃げ切る。

 逃げ切るというより、逃げ込む。

 騎士の拠点に行けば、戦士長がいるのだ。
 そこでガーベラと戦士長をぶつけ、ガーベラを倒す。

 俺は横目でガーベラの状態を確認すると、窓から飛び出すように部屋を出た。
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