21 / 76
異世界転生編
第21話 魔術師ギルド(3)
しおりを挟む
「その威勢がいつまで続くか…見物だね」
再び鉄球が落下する。
グシャッ
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ──────ッ!!」
足が潰され、激痛が走った。
今度は右足だ。
無慈悲にも、サブギルドマスターは表情一つ変えず、俺の足をまた潰したのだ。
床に転がる鉄球と、赤黒い液体。
かつて嗅ぐことのなかった血の匂い。
視覚と嗅覚から得る情報に、吐き気がする。
それでも無駄に冷静なのは、未だ女神の魔法の効果が残っているのだろうか。
痛みに対する発狂はあれど、精神が壊れることはなく、脱出する為の策を考える余裕もあった。
ただ、その冷静さ故に、痛みもちゃんと感じる。
「意外と冷静だね。<上位回復>」
ガーベラが回復の魔法を使う。
先程同様、傷も痛みも綺麗さっぱり無くなっていった。
まるで何も無かったかのように、体は元の状態に戻されていく。
床に散らばる俺の血肉のみが事実を物語っていた。
これを繰り返すうちに精神を崩壊させたいのだろうが、幸いにも、女神に施された精神平衡の魔法によって、俺は無駄に冷静だった。
「じゃあ、もう一度行こうか」
鉄球が落下する。
グシャッと。3度目の激痛が俺を襲った。
「あああああぁぁぁぁぁぁ──────ッ!」
痛みのあまり、体が跳ねる。
椅子は固定されていないのか、それに合わせて椅子の位置も移動した。
反射的に出る叫び声が、部屋の中で反響する。
視界には飛び散る血肉が、鼻からはリアルな血生臭さを感じていた。
じわじわと俺を蝕む痛みも、10秒経つ頃にはガーベラによって無に返される。
痛みがなくなったかと思えば、また激痛だ。
落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。
足が潰れる痛みに慣れることはない。慣れるはずがない。
痛みを治されれば、次に来るのは痛みだ。
治されるたびに、次の痛みに怯え、ビクビクとする。
───これが拷問か。
だが、内心はまだ冷静だった。
何か打開策はないか、模索する元気もある。
落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。────
グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。────
何度も何度も何度も何度も足を潰された。
今では足が機能するのかどうかさえ、怪しいところだ。
それでもやはり、精神は安定している。
女神はどれほど強力な魔法を使ったのか、少しも冷静さを欠いていない。
何度も足を潰される中、打開策を考え続けた。
「まだ言わないのか?目的は愚か、名前すら言われてないのだが」
「言わないさ」
もう少しだ。
あともう少し。
次でこの状況を打開する。
「そうか…ならば、もう一度だな」
鉄球が手から離され、落下する。
同時に、俺は足を少しずらす。
グシャッ
何度も聞いた音を上げ、たちまち俺の足は潰れた。
ただ、今回潰れたのは指3本程度だ。
足をずらしたおかげで、足の中心を鉄球から逃した。
「ああああぁぁぁぁああ────ッ!!」
それでも痛みは襲いかかる。
指が潰れただけとはいえ、激痛だ。
その激痛に耐えられないかの如く、俺は暴れ回った。
「うああああぁぁぁぁ────ッ!」
ガタンッ
椅子が倒れる。それでもお構いなしに俺は暴れ回る。
部屋には俺の叫び声と、椅子が転げ回る音だけが響いていた。
「サブギルドマスター、拘束しなさい」
だが、それを見てガーベラが焦ることはない。
拷問によってとうとう精神に異常を来した人間を、あくまで拘束さえしてしまえば解決なのだ。
言葉が話せないくらいに狂っていると困るが、その時は神官にでも協力を仰いでどうにかすれば良いだろう。
その程度の認識で、サブギルドマスターに指示を出した。
サブギルドマスターはガーベラの指示を受け、葵の元に近づくと、その腕を使って締め付けるように拘束した。
拘束系の魔法で捉えることが理想だが、拘束魔法は目標点の設定が難しいこともあり、ただ拘束するだけならば、物理的な方が早いのだ。
そういうわけで、椅子毎ガタガタと暴れ回っている葵は、サブギルドマスターによって羽交い締めにされている。
それでも、暴れることを辞める様子はなかった。
「ギルドマスター、こいつ、なかなか暴れるのを辞めませんよ」
「一旦気絶させても問題ない」
「えぇ、いいんですか?じゃあやっちゃいますね」
首を絞める力が強くなっていく。
「ぐっ…………かはっ……!」
俺はそれに抵抗するよう、手でサブギルドマスターの腕を解こうとするが、流石に筋肉量に差があり、解くことはできない。
首の骨が折れるギリギリの強さで、サブギルドマスターは首を絞め続けていた。
「…………<支配>」
拘束のタイミングは、必ず物理的な手を使ってくるだろうと思っていた。
ガーベラが拘束してきたら別の案を考えたが、先程からサブギルドマスターにばかり働かせていたことから、拘束もサブギルドマスターにさせるだろうと踏んでいたのだ。
ガタガタと椅子の暴れ回る音で煩い部屋で、一言小声で呟いただけの<支配>。それが当然ガーベラに聞こえるはずもなく、ノーリスクでサブギルドマスターの支配に成功した。
───名前は……エドワードと言うのか。
「エドワード、ガーベラに向かって一発魔法を放ち、そのまま椅子を破壊しろ」
サブギルドマスターは俺の指示に従い、何やら赤い魔法陣から炎の球をガーベラに向かい発射した。
ガーベラは呆気に取られて防御が遅れる。そのタイミングで椅子を破壊し、俺は自由を手に入れた。
「そのままガーベラを抑えていろ」
追撃の手がかからないうちに、とガーベラを戦わせ、逃げ切る。
逃げ切るというより、逃げ込む。
騎士の拠点に行けば、戦士長がいるのだ。
そこでガーベラと戦士長をぶつけ、ガーベラを倒す。
俺は横目でガーベラの状態を確認すると、窓から飛び出すように部屋を出た。
再び鉄球が落下する。
グシャッ
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ──────ッ!!」
足が潰され、激痛が走った。
今度は右足だ。
無慈悲にも、サブギルドマスターは表情一つ変えず、俺の足をまた潰したのだ。
床に転がる鉄球と、赤黒い液体。
かつて嗅ぐことのなかった血の匂い。
視覚と嗅覚から得る情報に、吐き気がする。
それでも無駄に冷静なのは、未だ女神の魔法の効果が残っているのだろうか。
痛みに対する発狂はあれど、精神が壊れることはなく、脱出する為の策を考える余裕もあった。
ただ、その冷静さ故に、痛みもちゃんと感じる。
「意外と冷静だね。<上位回復>」
ガーベラが回復の魔法を使う。
先程同様、傷も痛みも綺麗さっぱり無くなっていった。
まるで何も無かったかのように、体は元の状態に戻されていく。
床に散らばる俺の血肉のみが事実を物語っていた。
これを繰り返すうちに精神を崩壊させたいのだろうが、幸いにも、女神に施された精神平衡の魔法によって、俺は無駄に冷静だった。
「じゃあ、もう一度行こうか」
鉄球が落下する。
グシャッと。3度目の激痛が俺を襲った。
「あああああぁぁぁぁぁぁ──────ッ!」
痛みのあまり、体が跳ねる。
椅子は固定されていないのか、それに合わせて椅子の位置も移動した。
反射的に出る叫び声が、部屋の中で反響する。
視界には飛び散る血肉が、鼻からはリアルな血生臭さを感じていた。
じわじわと俺を蝕む痛みも、10秒経つ頃にはガーベラによって無に返される。
痛みがなくなったかと思えば、また激痛だ。
落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。
足が潰れる痛みに慣れることはない。慣れるはずがない。
痛みを治されれば、次に来るのは痛みだ。
治されるたびに、次の痛みに怯え、ビクビクとする。
───これが拷問か。
だが、内心はまだ冷静だった。
何か打開策はないか、模索する元気もある。
落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。落として、治して。────
グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。グシャッ。────
何度も何度も何度も何度も足を潰された。
今では足が機能するのかどうかさえ、怪しいところだ。
それでもやはり、精神は安定している。
女神はどれほど強力な魔法を使ったのか、少しも冷静さを欠いていない。
何度も足を潰される中、打開策を考え続けた。
「まだ言わないのか?目的は愚か、名前すら言われてないのだが」
「言わないさ」
もう少しだ。
あともう少し。
次でこの状況を打開する。
「そうか…ならば、もう一度だな」
鉄球が手から離され、落下する。
同時に、俺は足を少しずらす。
グシャッ
何度も聞いた音を上げ、たちまち俺の足は潰れた。
ただ、今回潰れたのは指3本程度だ。
足をずらしたおかげで、足の中心を鉄球から逃した。
「ああああぁぁぁぁああ────ッ!!」
それでも痛みは襲いかかる。
指が潰れただけとはいえ、激痛だ。
その激痛に耐えられないかの如く、俺は暴れ回った。
「うああああぁぁぁぁ────ッ!」
ガタンッ
椅子が倒れる。それでもお構いなしに俺は暴れ回る。
部屋には俺の叫び声と、椅子が転げ回る音だけが響いていた。
「サブギルドマスター、拘束しなさい」
だが、それを見てガーベラが焦ることはない。
拷問によってとうとう精神に異常を来した人間を、あくまで拘束さえしてしまえば解決なのだ。
言葉が話せないくらいに狂っていると困るが、その時は神官にでも協力を仰いでどうにかすれば良いだろう。
その程度の認識で、サブギルドマスターに指示を出した。
サブギルドマスターはガーベラの指示を受け、葵の元に近づくと、その腕を使って締め付けるように拘束した。
拘束系の魔法で捉えることが理想だが、拘束魔法は目標点の設定が難しいこともあり、ただ拘束するだけならば、物理的な方が早いのだ。
そういうわけで、椅子毎ガタガタと暴れ回っている葵は、サブギルドマスターによって羽交い締めにされている。
それでも、暴れることを辞める様子はなかった。
「ギルドマスター、こいつ、なかなか暴れるのを辞めませんよ」
「一旦気絶させても問題ない」
「えぇ、いいんですか?じゃあやっちゃいますね」
首を絞める力が強くなっていく。
「ぐっ…………かはっ……!」
俺はそれに抵抗するよう、手でサブギルドマスターの腕を解こうとするが、流石に筋肉量に差があり、解くことはできない。
首の骨が折れるギリギリの強さで、サブギルドマスターは首を絞め続けていた。
「…………<支配>」
拘束のタイミングは、必ず物理的な手を使ってくるだろうと思っていた。
ガーベラが拘束してきたら別の案を考えたが、先程からサブギルドマスターにばかり働かせていたことから、拘束もサブギルドマスターにさせるだろうと踏んでいたのだ。
ガタガタと椅子の暴れ回る音で煩い部屋で、一言小声で呟いただけの<支配>。それが当然ガーベラに聞こえるはずもなく、ノーリスクでサブギルドマスターの支配に成功した。
───名前は……エドワードと言うのか。
「エドワード、ガーベラに向かって一発魔法を放ち、そのまま椅子を破壊しろ」
サブギルドマスターは俺の指示に従い、何やら赤い魔法陣から炎の球をガーベラに向かい発射した。
ガーベラは呆気に取られて防御が遅れる。そのタイミングで椅子を破壊し、俺は自由を手に入れた。
「そのままガーベラを抑えていろ」
追撃の手がかからないうちに、とガーベラを戦わせ、逃げ切る。
逃げ切るというより、逃げ込む。
騎士の拠点に行けば、戦士長がいるのだ。
そこでガーベラと戦士長をぶつけ、ガーベラを倒す。
俺は横目でガーベラの状態を確認すると、窓から飛び出すように部屋を出た。
0
お気に入りに追加
1,096
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる