【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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異世界転生編

第18話 戦士長

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「これは…聖女様ですか!?なぜここに…」

 建物に入った瞬間、門番のような役割をしていたであろう1人の騎士がラテラを見て驚いた声を出した。

───なんというか、想像通りの騎士様って感じだな。

 目の前で慌てふためいている騎士は、鉄製と思われる甲冑を身に纏っていた。フルプレートで頭にまで装備を付けているが、顔は見えるようになっている。
 個人を識別する為だろう。

 鎧の胸のあたりには何やら紋章が刻まれていた。おそらく、王国のものだ。

「いきなり来てしまい申し訳ありません。ところで、戦士長はいらっしゃいますか?」
「か、確認します…!」

 ラテラの対応は勿論丁寧なものだ。対して門番の騎士は緊張しているのか、ぎこちない動きで奥の方へと駆けていった。

───新人だろうな…門番なんてやらせてやるなよ…。

「アオイさん」
「はい」

 突如、横から名を呼ばれる。

「大丈夫だとは思いますが、今からお会いする方には出来る限り無礼のないようにお願いします」
「戦士長…でしたか。どんな方なんですか?」
「そうですね…王国の最高戦力、です」
「それは、騎士団が…ということですか?」

「いえ、彼一人が最高戦力なのです」

「なるほど」

 ラテラの説明によれば、個として強力な存在なのだろう。「無礼のないように」ということから身分差に厳しいのか。

───ならばさっきの騎士は新人ではなく聖女にビビっていただけ、という可能性もあるか。

「もちろん大丈夫です。安心してください」
「お話中でしたか、ラテラ殿」

 優しい男の声が、近付いてきた。
 それと同時、場の雰囲気が変わった。

 恐ろしい。

 それが率直に感じたことだった。
 何か巨大な獣が迫っているような。
 だが、獣など比ではないような重圧感がそこにはあった。

「これは戦士長。急におしかけてしまい申し訳ありません」

 これが、戦士長。
 一国の最強戦力になりうる、最強クラスの”個”。
 たしかに──恐ろしい。

「いえ、ラテラ殿には貸しもありますゆえ」

 だからこそ。

「ところでその少年は?」
「アオイ、と申します。はじめまして」

 俺は右手を前に出す。握手を待つように、手を広げながら、だ。

 戦士長は他の騎士たちと違い、甲冑を纏っていない。普段着のような姿だった。

 髪は単発で茶髪。年齢は40代だろう、渋い顔をしていた。渋いと言ってもイケメンであることに変わりはない。

 戦士長は差し出された右手を一瞥するも、すぐに俺の方に向き直った。

「アオイ殿、俺はレイ=アデラールと申す者……尤も、今では戦士長という名で呼ばれることがほとんどですが」

 朗らかに微笑みながら、戦士長は俺の右手を掴むように右手を出した。

 この世界にも存在するのかは分からないが、握手だ。

 戦士長はそれを快く受け入れた。とても身分差に厳しいような人には見えず、むしろ気にしないように思える。

「…<支配ドミネイト>」

 そして、俺は戦士長の手を握りながら静かに呟いた。

 普段着で手に何か装着しているわけでないのだから、成功するのは当たり前だ。



>固有スキル<生殺与奪>のスキルレベルをLv2からLv3に変更



 と同時に、固有スキルのレベルもアップした。

───レベルアップは経験値ではなく、条件か?今回は人の支配が条件になっている?

 あくまで憶測の域を出ないものの、初めての人間に対する<支配ドミネイト>でスキルのレベルが上がったことは偶然とは思えなかった。

───であれば…その条件を定めているのは誰だ?

 ”女神”という存在の疑念も浮かび始める。

───と、そのまえに。俺に対しては普通に接するように、と戦士長に命じて……

「それで、ラテラ殿。どのような用事でしたか?」

 戦士長は俺に<支配ドミネイト>されたことを勘付かれないよう、自然に会話の対象をラテラに変える。

「彼なのですが…何か困ったことがあった時、優先的に助けてあげてほしいのです」
「優先的、ですか。それは何故────いや、理解しました」

 彼らは何を理解したのか。

 なんであったとしても、俺に不利益のある話でないのならば問題ない。

「ありがとうございます」
「ラテラ殿の人を助ける癖は変わりませんね。本当に、尊敬しています」
「そんなことはないです。これでも、聖女ですから」

 それにしても、戦士長はラテラにどんな借りがあるのか。

 それともただ、元からお人好しなだけか。

───まぁ、どうでもいいか。

「それで他に何か用事が?」
「いえ、戦士長の紹介とここまでの道を彼に教えていただけです」

 無駄に口を挟むことも無いので俺は何も言わない。

 とりあえず、騎士たちの拠点を見渡す。

 ここは受付のようなものだろう。広さこそあるが、何かがあるわけでもない。カウンターのような場所はあるが、使用用途は不明だ。
 ラテラが言っていた通り、犯罪者の受け渡しはするのだろう。

 奥にはいくつか扉があるが、関係者以外立入禁止だろう。訓練場などがあってもおかしくないし、武器庫や倉庫が存在していてもおかしくない。

 後で戦士長に確認すれば良いことなので、今は気にしないことにする。

「そうなのですか。そういえば…そろそろ祈祷の時間では?」

 戦士長の言葉にハッとした顔で時計──室内に掛かっているものだ──を見るラテラ。

 そして何かに気付いたように、焦ったような口調で言った。

「あ!失念していました!アオイさん、申し訳ないのですが、急用がありますので失礼させて頂きます。またお会いしましょう」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 宗教が根付いてる文化なのだ。祈祷の時間──つまり毎日決まった時間に神へと祈りを捧げる習慣があってもおかしくない。

 パタパタと小走りでラテラは建物を出て行く。

 意外にも可愛らしいその姿を後ろから見送り、ラテラが建物から出たことを確認すると、俺と戦士長は向き合った。




・     ・     ・




「アオイ殿、魔術師ギルドをご存知ですか?」

 戦士長から唐突に話題を振られる。

 魔術師ギルド、という言葉を聞いたことはないが、名前からおよそ推測できるものだ。
 いわゆる、魔術師の集まり、魔術師組合のようなものだろう。

「詳しくは知りませんが、ある程度は知っています」
「でしたら、伺ってみることをオススメします」
「それはなぜですか?」

 冒険者ギルドや魔術師ギルド。そういった建物をいくつか見かけていた為、向かうことは可能だろう。

 ただ、なぜ魔術師ギルドなのかが分からない。

「いえ、とても剣を使うような方には見えなかったので、魔術師なのかと思っただけです。魔術師ギルドには面白い物もありますから、寄ってみるだけでも良いと思いますよ」

 たしかに俺は剣を使えない。

 ただ、となれば魔術師として偽った方が良いのか。それとも貴族として貫くか。

 貴族と言えば裏を取られる可能性も否定できない。魔術師としての地位は確立しておくべきなのかもしれない。

 最善は分からないが、今は魔術師として過ごすのがベストだと俺は思っている。

 わかった、と相槌を打ち、戦士長に魔術師ギルドの場所を聞く。案外地理感覚があるのか、全く知識のない俺にも分かりやすいように道を伝えた戦士長は、付け足して俺に言った。

「何か困ったことがあればまた来てください。そして…ゆっくり話でもしましょう、アオイ殿」

「それでは、行ってきます」

 戦士長の最後の言葉に軽く首を縦に振り、俺は騎士たちの拠点を出発した。
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