【2章完結】女神にまで「無能」と言われた俺が、異世界で起こす復讐劇

騙道みりあ

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異世界転生編

第16話 宿屋(1)

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「おう、ラテラちゃんか。それと───そこの小僧は?」

 高級な宿=ホテル、と想像していたが、どうやら違うようだ。店に入って最初に話しかけてきたおっさんからは、ホテルの接待のような上品さは感じない。

 現代日本と比べれば服装も大して豪華な事はなく、男向けにアレンジされたエプロンのようなもの。筋肉質なおっさんが着ているにも関わらず、何故かそれが絵になっている。

 エントランスのようなところは、酒場みたいになっていた。木の机と椅子がいくつか規則的に並べられており、そこにはかなりの人が座っている。老若男女問わず、決して金持ちそうな人ばかりではない。

 大きめの木のコップで酒を飲んでいる人までいる。本当に酒場のようだ。

 本当にここは高級なのか?と疑問に思いつつも、店自体はかなり広いし、部屋の豪華さは外見だけでは分からない。

「彼は──アオイさんと言って、死の森に迷っていたところを救出しました」

 ラテラはおっさんが居るカウンターの方へ歩いていき、事情を説明した。”死の森”という単語が出ると、おっさんの顔は一瞬驚愕へと変わったが、腐っても接客業のプロなのか、表情は一瞬で戻る。

「ほう?死の森に迷ってた、と。助けたならそのまま衛兵のところに────なるほど」
「すみません、ご迷惑をおかけします」

 何やら含みのある言い方を小声でする二人に俺はついていけない。が、およそ俺が衛兵に渡していいような存在ではないから、という説明でもしてるつもりなのだろう。

「お代は私が持ちます」
「何日だ?」
「それがよく分からなくて……とにかく彼を匿ってくれるところが見つかるまではお願いしたいのです」

 おっさんの顔が難しくなる。

「良いけどよ……大丈夫なのか?」
「大丈夫、とは?」
「ラテラちゃん、聖女だろ?」

 「ああ」と納得した顔になるラテラだが、決断は変わらないようだった。

「だからこそ、多くの人を救いたいのです」
「まぁ、良いけどよ……。危なくない程度にやれよ?」
「それは分かっていますよ」

 二人は旧知の仲なのか、会話は淡々と進んでいった。お互いの状況や立場を理解しているからか、無駄な言葉も省かれている。

「ま、とりあえず宿の勝手は説明するぞ」
「はい、お願いします」

 ここに来てようやく、会話が俺に向けられる。おっさんの俺を見る目線はラテラに向けているようなものではなく、むしろ警戒するようなものだった。
 ”死の森”なんていう物騒なところにいた人間なのだから、当たり前だろう。

「とりあえず、ここの宿の値段は一晩銀貨10枚だ。他の宿に比べりゃ高いが、安全は保証する。朝昼晩飯付きだがあくまで任意だ。外で食いたきゃ好きにしろ、いちいち報告はしなくていい」
「はい」

 物価についての調査もしなくてはならない。

 銀貨があるということは、銅貨や金貨もあるのだろう。宿の値段から考えて、銀貨は1枚10000円くらいの価値に相当しそうだ。

「それと、他の利用者との揉め事は勘弁だ。そうなった場合は悪いが宿からは出ていって貰う。当然返金はなしだ。まぁ、悪いことは考えないでくれ。腕利きの護衛を何人も宿っているからな」

 宿の値段が高い理由は安全性にあったのか、と納得する。どんな高級な家具、豪華な部屋よりも、身の安全の方を誰しもが重要視する。もちろん、こんな世界だから命の値段は嗜好品に比べれば高くないだろう。だが、だからこそ命を守れる場所や存在は高く値が付き、それを生業とする者が居るのも当然のことだ。

「飯は部屋までは届けない。決まった時間にここで提供することになっている。時間に遅れたら無いから注意しろ。時間はあそこに書いてある」

 おっさんはそう言いながらカウンターのような場所を指差した。ここからでもキッチンが見える。厨房だろう。

 少し上を見れば木の看板のようなものが付いていた。そこには飯の時間と内容が書いてある。

「ざっとこんなところだな。雑貨なんかは宿の隣に店があるから使うといい。宿利用者には割引がつくからな」

 話しながらおっさんは引き出しをいじり始める。
 ガチャガチャと金属のぶつかる音がして、1つの物が取り出された。

 鍵だ。

 部屋の鍵と思われる金属の棒に、小さな木の板で番号が振られたものを付けている。鍵と言っても現代日本で想像するようなちゃんとしたものではなく、もっと簡素な作りである。

 無造作に取り出されたそれを俺に押し付けるように渡し、おっさんはラテラの方へ再び視線を向けた。

「まぁ、こんなところだ。部屋の中にあるものは自由に使っていいが、破損とかはやめろよ」
「分かりました」

 説明は終わったようで、おっさんはもう話すことがないというように作業を始めた。

 俺はラテラの方を向く。

 視線に気づいたラテラもまた、俺の方に振り向いた。

「まずは部屋へ行きましょうか」
「はい」

 わいわいと騒いでいる他の客の合間を抜け、2階にある宿泊部屋へと足を運んだ。
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