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異世界転生編

第15話 王都へ(2)

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 俺はラテラに付いて街の近くまで来ていた。ちなみにここは、タラス王国と言うらしい。

 近くにいる理由は単純で、入国審査の順番待ちだからだ。話に聞いていたとおりだが、実際異世界でもこういうことをするのかと感心はしていた。それと同時に、ただただ長い待ち時間にイライラもしていた。

 王国を外から見てはじめに連想した言葉は”要塞”だ。街全体が重厚な石の壁で囲まれており、魔獣はおろか、人一人さえ忍び込む隙はない。魔獣を恐れているのか、それとも戦争を恐れているのかは定かでないが、どちらにせよここまでの壁を作ることのできる”力”は大国のものであった。

 対外関係には慎重なのか、入国審査はほとんどの人が受けていた。一部、何か身分証のようなものを提示するだけで中に入っていく人も見受けられたが、彼らは仕事のために一時的に国を出ていた人たちなのだろう。
 国民ではない人たちの列は異常に長い。某夢の国のような行列と言えば伝わるだろうか。ただ、進む速度はスムーズなもので、この行列をテキパキと捌いていく手際は天晴なものである。

 並んでいて思ったのは、人間といえど、偏《ひとえ》に俺の想像していた”人間”だけではないということだ。
 例えば、色白でスラリとしたスタイルを持つ耳の長い人間。いわゆる”エルフ”と呼ばれる者たちだろう。
 人とは思えないほど深い毛と、獣のような耳尻尾、そして獰猛な歯を持つ、まるで獣をそのまま人にしたような姿をしているのは”獣人”か。
 低い身長とそれにしては盛り上がった筋肉。黒い肌でその身をより逞しく見せているのは”ドワーフ”。

 同じ人間であるのは慨形から明らかなものの、細かな違いを挙げればキリがない。

 そんな人種の人も複数人、列に並んでいる。皆がそれを普通だと流していることから、この世界では”亜人”もまた人と同じ扱いなのか、もしくはこの国では亜人差別がないのだろう。

「”亜人”がいるのですね」

 この世界には亜人がいる、という事実を述べた何気ない一言だったが、ラテラはそうは取らなかったらしい。

「────。あぁ、”亜人”とはこの国では呼ばないんですよ」

 亜人への嫌悪意識に見えたのか、少しの空白の後にラテラは答えた。

 たしかに「”亜人”がいる」という言葉は、亜人がいることが異常であるかのような言い回しだったと反省する。

「そうなんですか?」
「はい。他の国だと亜人に対して差別を行う国も聞きますが、この国では平等に扱われます。なので、生物学的には亜人と分類されていようと、社会的には差別を無くすため、エルフ、ブルート、ドワーフ等と種族名で呼びます」

 ラテラは視線をそれぞれの種族に向けながら説明した。ブルートは獣人のことだ。

 中にはラテラと俺の視線に気づいた者もいるようだが、特に気にした様子はない。

「そして私たちのことは、ヒューマンと呼ぶのですよ」
「なるほど」

 たしかに亜人とは差別的な言葉だ。全ての種族を種族と尊重して扱い、自分たちもその対象とする。

 他国では亜人差別もあるというから、必然的にこの国には多くの亜人が集まる。人種ごとの身体的特徴から、それぞれ得手不得手がある亜人。彼らが数多く集まれば、文化・技術の交流や適材適所の産業が発達し、国は豊かになる。おかげで、タラスはこんな重厚な壁が作れるほどに成長したのだろう。

「アオイさん、そろそろですよ」

 そんなことを考えていると、横から声がかかる。

 どうやら、そろそろ俺たちの番のようだ。

 俺はラテラに案内され、審査所まで歩いていった。




・     ・     ・




「おぉ…」

 予想を遥かに上回る街の発展ように、つい声が漏れる。

 石造りで四角い家が並んでいるだけの様子を想像していたが、現実は反対、レンガ造りの洒落た家が規則的に道沿いに並べられていた。同じような家といえど、個々人の趣味趣向が施されている家は、亜人を受け入れる文化ゆえか。

「すごいものでしょう?」

 自分が築き上げたものではないだろうに、なぜか自慢げに言うラテラ。

 実際すごいことは確かなので、「そうですね」と頷いておく。

「一応街までは案内したのですが…アオイさんは行く宛とかがあったり────しませんよね?」
「あ、はい。ないですね」
「でしたら宿まで案内します」
「ありがとうございます」

 最低限住めるところまでは案内してくれるというので、それに甘えてラテラに着いていくことにする。

 「では行きますよ」と言って歩き出すラテラの後ろにいながら俺は街を観察していた。

 街には店のようなものが数多くあるが、その殆どは家を拠点とするもの。つまり、大型ショッピングモールのような施設は見受けられない。

 ただし、所々で大きな建物があった。建物にはそれぞれ”冒険者ギルド”やら”魔術師ギルド”やら書いてあったので、ギルドと呼ばれる何かは、大きな施設を持てるだけの財力を持っているのだろう。

 そしてこれは予想通りというか、街ゆく人の数は多かった。道が混んでいて歩けないというほどではないが、大繁盛していることに変わりはない。休日の都会をイメージしてもらうと分かりやすい。

 亜人も分け隔てなく人々と関わっている。”亜人お断り”といった雰囲気もないし、本当に、平和な国なのだろう。

 広さは想像もつかない街だったが、真っ直ぐと前を見ると巨大な城が300メートル程先に見受けられた。もちろん、国王が居座る場所なのだろうが、その豪華さは群を抜いていて、レンガや石造り故に黒・白・茶色しかない町並みと比べ、城にところどころ装飾されている青は目立っていた。

 治安も悪くはない。衛兵のような甲冑を着た人たちがパトロールをしているようで、犯罪が起きる気配はなかった。起きたところで彼らがすぐに取り締まるだろう。

 ラテラが自慢するのも頷けるくらい、街は発展していた。中世くらいと予想していたから、そのインパクトは大きい。

───科学が発展している雰囲気はないけど。

 魔法中心で進んできた文化・技術だからだろう、科学の力を利用している形跡は見られなかった。

「アオイさん、そろそろ着きますよ」
「はい」

 ラテラが案内してくれたのは大きめの館のような場所。

 俺を貴族だと思っているからか、粗末な宿に案内するわけには行かないという気遣いをしてくれたのだろう。

───お金、ないんだけどな。

 宿に案内してもらえるのは良いが、俺は今一文無しだ。

 どうやって言い訳をしようかと考えながら、俺はラテラに続いて宿に入っていった。
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