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異世界転生編
第10話 一方、勇者(2)
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全員が武器を選び終わったところで、各々の部屋に案内された。
部屋は1人1つ用意されていた。勇者様と言っているだけあって、高校生の一人部屋にしてはやけに広い部屋が用意されていた。
屋敷は3階建てで、広さは歩いただけでは計り知れないほどだった。大型ショッピングモール程はあるんじゃないかと思われるその屋敷では、道中でかなり多くの使用人とすれ違った。
俺たちの部屋があるのは2階だ。余った部屋がこれしかなかったということで、部屋は端っこから9つ用意されていた。ただ、余った部屋とは思えないような広さがあった。
部屋は向かい合うように配置されていて、向かいの部屋とは廊下を挟んで直ぐだ。廊下は幅4メートルほど。近いようで遠い距離が取られていた。
部屋は奥から駿河屋光輝、桃原愛美、北条海春、夏影陽里、角倉翔、夢咲叶多、空梅雨茜、そして俺が使うことになった。
部屋の内装はどの部屋も同じだから、言い合いになることは決してない。そもそも女神の前で喧嘩を起こすほど馬鹿ではない。
はじめに部屋に入って覚えたのは安心感だ。それは魔法が施されているとかではなく、急に異世界に連れてこられてからの初めての休息だったからだ。
遅れてやって来たのが驚愕。これは部屋の広さに対してだ。軽く高級ホテルの一室程度はあるだろう。
部屋に入って奥へ行くとリビングがあり、更に進めば寝室がある。リビングと寝室はちゃんと扉で仕切られている。リビングの手前には洗面所がある。洗面所には風呂も着いている。
ただ、何よりも驚いたのはトイレだ。汲み取り式ではなく、水洗トイレだったのだ。
屋敷という概念から文化レベルは中世だとばかり思っていたが、どうやら魔法によって進むところは進んでいるらしい。
女神にはしばらく休息の時間だと言われていた。部屋から窓を見ると外は黄昏時。もう直に暗くなるだろう。
およそ1時間後に夕食だから使用人が呼びに来る、と話は聞いている。それまでは自由時間なのだろうが、部屋の中が監視されているとも分からない現状では自由とは言えなかった。
「特に気にしなくてもいいか?」
俺はどうしても確かめたいこととやっておきたいことがあった。それは周りに誰かがいる状態ではとてもリスクが高くてできない行為だ。
そもそも俺は他の勇者と女神を信頼していない。女神は詐欺師のような印象があるし、勇者はそれに上手く騙されているように見えるからだ。
だから、手の内を簡単に晒すわけにはいかない。固有スキル<陰陽聖魔>についての検証は一人でいる時に済ませたいのだ。
本来であれば夕食も一人で摂りたいところだが、女神に呼び出されてしまっては仕方がない。できる限り、”女神に騙されている人間”を演じ続ける必要がある。
───時間もないし、始めるか。
俺の固有スキル<陰陽聖魔>の能力は、現状で2つある。
1つは<闇空間>。これは指定座標に無生物を転送する能力。
そしてもう1つは<光次元>。これは光源の光量を調整する能力だ。
お世辞にも能力は強力とは言えないが、<陰陽聖魔>の真価は聖属性と魔属性を兼ねて習得できる点だ。
まずは<光次元>を試す。
自室の天井にあるのは小さな光。電球と似ているが別物だろう。その光は眩しく部屋全体を照らしており、生活に困ることはない。
だが、部屋内にその光量を調節できるような仕掛けは見当たらなかった。
つまり、この光はオンオフこそできるが、光量を自在に変えることは出来ないということになる。
「<光次元>」
そんな電球(仮称)に向かい、俺はスキルを行使した。
使い方は───なんと言えばよいのか。呼吸を意識してすることがないように、このスキルによる光量の調整も意識せずにできる。
───少し暗くして、と。
少し暗くするように使えば、光量は狙い通りに低くなった。能力のチェックは完了だ。
───元の明るさに戻すか。
怪しまれるのを防ぐため、電球の明るさは元に戻しておく。
「あとは……<闇空間>の方か」
武器庫で余分に剣を貰ったのはそのためだった。この剣をどこかに転送するのは勿体無いと考える人もいるだろうが、俺には送るべき座標は決まっていたために勿体無いとは思わない。
部屋に入ったきり玄関に立て掛けておいた剣に俺は腕を伸ばす。
透明な銀に光るその剣が、俺が腕を伸ばすとそれに対応するようにきらと光ったような感覚に襲われる。
「まあ…送るか。───<闇空間>」
スキルを発動すると、突如剣の周りに紫色の粒子が舞い始める。
その粒子に釣られるかのように、剣もまた、先端からその身を紫の粒子に分解していった。
「派手だな…エフェクト…」
そんな神秘的とも幻想的とも言える光景は長くは続かず、やがて剣の全身が粒子に変わる。
すべてが粒子になると、蜘蛛の子を散らすようにそれらは霧散した。
「成功と見ていいのか?」
あたりを見渡して見ても剣はどこにもない。一先ず、この部屋から消えてなくなったのは確かなようだ。
「屋敷で見つからなければ成功か」
送り先とどれほど距離が離れているかは分からないが、距離の制約はなさそうだ。それに、実際に見たことや行ったことがない場所でも転送は可能。
「かなり便利な能力だな」
コンコンッ
「ん?」
<闇空間>が発動し、その効果の考察をしていたタイミングでドアがノックされる。
もう一時間も経ったか?と内心訝しみながらもドアの方まで歩いていく。
「駿河屋光輝です。少し皆さんでお話したいことがあるので集まりませんか?」
てっきり夕食だと呼びに来た使用人だと思ったが、俺の部屋に来たのはもっと厄介な奴だった。
部屋は1人1つ用意されていた。勇者様と言っているだけあって、高校生の一人部屋にしてはやけに広い部屋が用意されていた。
屋敷は3階建てで、広さは歩いただけでは計り知れないほどだった。大型ショッピングモール程はあるんじゃないかと思われるその屋敷では、道中でかなり多くの使用人とすれ違った。
俺たちの部屋があるのは2階だ。余った部屋がこれしかなかったということで、部屋は端っこから9つ用意されていた。ただ、余った部屋とは思えないような広さがあった。
部屋は向かい合うように配置されていて、向かいの部屋とは廊下を挟んで直ぐだ。廊下は幅4メートルほど。近いようで遠い距離が取られていた。
部屋は奥から駿河屋光輝、桃原愛美、北条海春、夏影陽里、角倉翔、夢咲叶多、空梅雨茜、そして俺が使うことになった。
部屋の内装はどの部屋も同じだから、言い合いになることは決してない。そもそも女神の前で喧嘩を起こすほど馬鹿ではない。
はじめに部屋に入って覚えたのは安心感だ。それは魔法が施されているとかではなく、急に異世界に連れてこられてからの初めての休息だったからだ。
遅れてやって来たのが驚愕。これは部屋の広さに対してだ。軽く高級ホテルの一室程度はあるだろう。
部屋に入って奥へ行くとリビングがあり、更に進めば寝室がある。リビングと寝室はちゃんと扉で仕切られている。リビングの手前には洗面所がある。洗面所には風呂も着いている。
ただ、何よりも驚いたのはトイレだ。汲み取り式ではなく、水洗トイレだったのだ。
屋敷という概念から文化レベルは中世だとばかり思っていたが、どうやら魔法によって進むところは進んでいるらしい。
女神にはしばらく休息の時間だと言われていた。部屋から窓を見ると外は黄昏時。もう直に暗くなるだろう。
およそ1時間後に夕食だから使用人が呼びに来る、と話は聞いている。それまでは自由時間なのだろうが、部屋の中が監視されているとも分からない現状では自由とは言えなかった。
「特に気にしなくてもいいか?」
俺はどうしても確かめたいこととやっておきたいことがあった。それは周りに誰かがいる状態ではとてもリスクが高くてできない行為だ。
そもそも俺は他の勇者と女神を信頼していない。女神は詐欺師のような印象があるし、勇者はそれに上手く騙されているように見えるからだ。
だから、手の内を簡単に晒すわけにはいかない。固有スキル<陰陽聖魔>についての検証は一人でいる時に済ませたいのだ。
本来であれば夕食も一人で摂りたいところだが、女神に呼び出されてしまっては仕方がない。できる限り、”女神に騙されている人間”を演じ続ける必要がある。
───時間もないし、始めるか。
俺の固有スキル<陰陽聖魔>の能力は、現状で2つある。
1つは<闇空間>。これは指定座標に無生物を転送する能力。
そしてもう1つは<光次元>。これは光源の光量を調整する能力だ。
お世辞にも能力は強力とは言えないが、<陰陽聖魔>の真価は聖属性と魔属性を兼ねて習得できる点だ。
まずは<光次元>を試す。
自室の天井にあるのは小さな光。電球と似ているが別物だろう。その光は眩しく部屋全体を照らしており、生活に困ることはない。
だが、部屋内にその光量を調節できるような仕掛けは見当たらなかった。
つまり、この光はオンオフこそできるが、光量を自在に変えることは出来ないということになる。
「<光次元>」
そんな電球(仮称)に向かい、俺はスキルを行使した。
使い方は───なんと言えばよいのか。呼吸を意識してすることがないように、このスキルによる光量の調整も意識せずにできる。
───少し暗くして、と。
少し暗くするように使えば、光量は狙い通りに低くなった。能力のチェックは完了だ。
───元の明るさに戻すか。
怪しまれるのを防ぐため、電球の明るさは元に戻しておく。
「あとは……<闇空間>の方か」
武器庫で余分に剣を貰ったのはそのためだった。この剣をどこかに転送するのは勿体無いと考える人もいるだろうが、俺には送るべき座標は決まっていたために勿体無いとは思わない。
部屋に入ったきり玄関に立て掛けておいた剣に俺は腕を伸ばす。
透明な銀に光るその剣が、俺が腕を伸ばすとそれに対応するようにきらと光ったような感覚に襲われる。
「まあ…送るか。───<闇空間>」
スキルを発動すると、突如剣の周りに紫色の粒子が舞い始める。
その粒子に釣られるかのように、剣もまた、先端からその身を紫の粒子に分解していった。
「派手だな…エフェクト…」
そんな神秘的とも幻想的とも言える光景は長くは続かず、やがて剣の全身が粒子に変わる。
すべてが粒子になると、蜘蛛の子を散らすようにそれらは霧散した。
「成功と見ていいのか?」
あたりを見渡して見ても剣はどこにもない。一先ず、この部屋から消えてなくなったのは確かなようだ。
「屋敷で見つからなければ成功か」
送り先とどれほど距離が離れているかは分からないが、距離の制約はなさそうだ。それに、実際に見たことや行ったことがない場所でも転送は可能。
「かなり便利な能力だな」
コンコンッ
「ん?」
<闇空間>が発動し、その効果の考察をしていたタイミングでドアがノックされる。
もう一時間も経ったか?と内心訝しみながらもドアの方まで歩いていく。
「駿河屋光輝です。少し皆さんでお話したいことがあるので集まりませんか?」
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