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異世界転生編
第1話 異世界転生(1)
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朝早く起きて、支度をし、学校に行くだけの平凡な毎日。
来る日も来る日も同じ行為を繰り返す。すると、それは立派な日常となってくる。
そんな平凡な日常に、少しの非日常は付き物だ。
家から出たらお隣さんとバッタリ鉢合わせただとか、登校中に100円玉を拾っただとか、近隣で変質者が出ただとか。
大きな日常に比べれば小さな違いでも、非日常は俺たちの生活の良きスパイスとなる。
だが、もしも。
もしも、その非日常が日常よりも大きかったら。
例えば、”異世界に召喚された”、とか───。
・ ・ ・
俺こと”枷月葵”は、一般的な男子高校生だ。
普通に学校へ行き、普通に家に帰る。特別勉強が出来るわけでもなければ、運動がズバ抜けて得意なわけでもない。まさに普通。真ん中をいく男である。
そんな俺の趣味は漫画や小説を読むこと。平凡な毎日を送っている俺だからこそ、物語の中で描かれる非日常に憧れと興味を抱いた。
だからといって────
自分が異世界に召喚されたいと思ったことはない。
ここが異世界なのかはともかく、身に覚えのない場所に居ることは確かだった。
上を見れば、大理石でできた天井がある。とても広いとは言えない部屋に、俺は今閉じ込められていた。
灯りは壁にかかったいくつかの蝋燭のみ。部屋にあえて特徴があると言うならば、床に描かれている薄暗く奇妙な魔法陣のようなものだけだ。
そして、俺の周りには8人の高校生。
高校生と分かるのは、全員が制服らしき服装だからである。ただ、その制服はとても見慣れたものではなく、同じ地域、同じ県のものではない。
彼らも俺と同じく、この状況を不審がっているようだった。
「皆さん。少し良いですか?」
と、そこで一人の男が声を出す。身長は180あるかないかくらいの良スタイルのイケメン男子だ。髪は黒。真面目な陽キャ高校生というイメージを受ける。
訝しげな表情をしながらも、全員が彼の方に振り向いた。
「ありがとうございます。まずは、状況を確認しましょう」
彼は冷静なリーダータイプのようだ。
「僕の名前は駿河屋光輝。東京の高校に通っていて、朝起きて家を出たらここに居ました」
はじめは訝しげだった他の高校生も、彼も同じ状況だと理解したのか、次々と自己紹介をしていく。
「俺は魔夜中紫怨。京都の高校に通っている。家を出たらここに居たのは同じだ」
中々な高身長──およそ180センチほどだろう、落ち着いた紫の髪をしたイケメンがそう言う。
「私は桃原愛美。光輝くんと同じ、東京の高校に通ってるよ。ここに居た状況はだいたい同じ感じかな」
次に言ったのは桃色の髪をした低身長の女子。身長は150代前半といったところだろうか。”小動物のような可愛さ”という言葉がピッタリ似合っている。
そこから、他の5人も自己紹介をしていった。
それぞれ、夏影陽里、夢咲叶多、空梅雨茜、角倉翔、北条海春。
夏影陽里は黒髪ロングの高身長女子だ。身長はおよそ170センチほどか。眼鏡はかけていないが、キリッとしてるその目は、彼女に知的な印象を与えている。
夢咲叶多は、中性的な男だ。一人称が”俺”であることから、一応男として過ごす気はあるのだろう。だが、その可愛らしい顔立ちと、声変わりが来てるのか分からない中性的な声質、女だったらベリーショートくらいの髪型が、彼を女ではないかと思わせる。髪は黒で、青メッシュである。
そして、空梅雨茜は夏影陽里ナツカゲヒカリとは反して、見た目は所謂ギャルと呼ばれる部類だ。薄く金色の髪は、先端が上手に巻かれている。身長は160後半くらいか。服装は制服でも、胸元は開いているし、スカートは短い。今どきというよりは、一世代前のギャルのような印象だ。ただ、ルーズソックスじゃないことが唯一の救いか。
角倉翔は、ガッシリとした体格をした男だ。ラグビー部に所属していそうな見た目、と言えば想像がつきやすいだろう。髪色は黒で、髪型はツーブロック。濃い目の顔立ちをしたイケメンである。
最後に、北条海春は桜色の髪をした女子だ。桃原愛美モモハラアミの髪色が派手なピンクなら、北条海春ホクジョウミハルの髪色は落ち着きのある桜色といった感じ。髪は綺麗に切り揃えられていて、大和撫子を思わせる顔立ちをしている。
皆、ここに来た経緯は同じようだった。
「最後になったが、俺は枷月葵。宮城の高校に通っていて──状況は8人と同じだ」
ガチャッ
最後に俺が自己紹介を終えたところで、どこにあったのか、部屋の扉が開いた。部屋を見渡した時はなかったので、何らかのギミックによる隠し扉だったりするのだろう。
扉から部屋に入ってきたのは、一人の女性。白い布で体を包み、髪は銀。その美しさはミスコン優勝は確実なレベルだろう。そして何より、男ウケの良さそうな体付きをしていた。
しかし、この中に彼女をいやらしい目で見る者は居ない。それは、彼女がエロという目線で見るにはあまりにも神々しいからであった。
「お待たせして申し訳ありません、勇者様方」
そして彼女はその透き通った声で確かに、俺たちを勇者と呼んだ。
・ ・ ・
それから俺たちは彼女に連れられ、客室のような場所へ連れてこられた。道中を見ていると、この建物は屋敷、それもかなり大きな屋敷のようだった。
人生でこんな壮大な建物を見たことがない俺は、みっともないとは自覚していながらも、辺りをキョロキョロと見てしまうことを辞められなかった。
そして案内しながら、彼女は自分が女神だと名乗った。信憑性は無かったが、彼女の神々しさから、つい本当なのではないかと思ってしまう。俺たちのそんな表情を見て、女神は苦笑いをしていた。
客室は俺たち9人が入るには丁度いい広さだった。つまり、俺たちをここに連れてきたのは女神、もしくは女神の関係者で間違いはないだろう。
俺たちは一つのテーブルを囲むように座った。一人につき一つ、計10個の椅子が用意されていて、それが大きなテーブルを囲むように配置されていた。女神もそのうちの一つに座った。
「いきなりお呼びして申し訳ありません。まず、皆様が突然暴れないよう、精神平衡の魔法をかけていることをご了承ください」
”お呼びする”という発言は、彼女が俺たちを連れてきたことを証明する言葉としては十分なものだ。ただ、それよりも意識すべき発言を彼女はしていた。
魔法。
科学とは違った神秘的な作用によって、超自然的な現象を起こすもの。ファンタジーには付き物のアレだ。
魔法が存在するなら───俺たちをここに連れてきたのも魔法の類だと考えられる。それも、考え得る限り最もあり得る答えは召喚系の魔法。
もちろん、そんなものがあるかは定かでない。
だが、この世界の法則が俺たちの常識で押し測れないことは確かだった。
「はい、わかりました」
ここで誰も口を開かないのは良くないと思ったか、光輝が代表して返事をする。
「そして皆様にお伝えしたいことがあります。それは、皆様は選ばれたということです」
「選ばれた?」
訝しむ俺たちに女神は続けて言う。
「はい、選ばれたのです。この世界に呼ぶにあたって、能力への適正などの観点から皆様を選びました。いわば、特別なのです」
この時、なんとなく思ったことがある。それは、この女神は話が上手く、それも、その気にさせるのが上手いということだ。
特別という言葉で嫌な思いをする人間は居ない。それを利用して無理にでもこの場を収め、拉致したことをスルーさせる。それに、もしこの後女神が要望をするならば、それを俺たちはイエスと言いやすい。
さらには俺たちの対抗意識を生むこともできる。それぞれが、自分が1番で居たいと思う。
現に、この場にいる高校生──俺と魔夜中紫怨を除く──は嫌な顔はしていない。心無しか、むしろ少し嬉しそうな顔をしているようにまで見える。
交渉術──いや、煽動術とでも言おうか。何せ、”神”を名乗っているにしては、名乗っているからこそか、人間の扱いに長けているような印象を抱いた。
「そこで、皆様にお願いがあります。現在、この世界は魔王、及び邪神に支配されています。このままでは……世界は滅びてしまうのです」
「魔王?邪神?」
女神の話には知らない言葉がどんどんと出てきた。
ただ、説明する気はあるらしく、女神は続けて発言をする。
「この世界には魔獣と呼ばれる生物と魔族と呼ばれる生物が居ます。魔獣とは、人ならざるもののことを、そして魔族とは、魔獣の中でも比較的知能が高いものを指します。
魔王とは、魔獣、魔族の頂点に君臨する存在です」
ここらへんはありがちなパターンと考えて良さそうだ。ドラゴンや悪魔などが魔獣、魔族に入るということだろう。
言い分的には、人間の補集合のような捉え方もできる。
「魔王が居ると世界が滅びるのは何故ですか?」
「それは、魔王の行動理念が人々を滅ぼすことだからです。魔獣、魔族は魔王の元で統治を行っており、魔王は戦力を揃えては人間の国に攻め入ってきます」
一応全員納得はいったようだった。
確かに理に適っている。
しかし、不安が拭えたというわけではない。
「ですが僕たちは元の世界で強かったわけではありません」
「それは心配に及びません。まず召喚にあたり、強力な能力がランダムで付与されています。また、戦闘の訓練などもこちらで手配します」
とんだ好待遇だった。女神はそこまでして魔王を殺したいのか。
そもそも女神が世界を滅ぼそうとしている可能性だってあるし、俺たちを騙しているという可能性もある。だがここで女神を疑ったところで、俺たちには抵抗する力もない。
「能力…ですか?」
”強力な能力”という言葉に召喚された俺たちの顔に期待が浮かび上がる。それはそうだろう。よくわからない世界に召喚され、普通の人間として魔王を討伐する必要があるなど、ハードモードにも程がある。
「はい。……勇者様方が居た世界にはない概念だと思うのですが…”ステータス”と呟いてみてください」
女神の言葉を合図としたように、各々がその場で”ステータス”と呟く。
「ステータス」
俺も同じく、その言葉を呟いた。
すると、目の前の宙に青白い半透明な板のようなものが表れ、そこに文字が書かれていた。
他の8人の前に青白い板は見えないので、これは本人にしか見えないと考えて良さそうだ。
名前:枷月葵 Lv1
ステータス:STR…E
INT…A
DEX…D
AGI…E
VIT…E
どうやら能力はアルファベットで表されるようだった。高い順からABCDEと考えて良いだろう。尤も、Aの上にSがある可能性は十分にあるから、決めつけるのは危険だ。
Lvとはそのまま、レベルを示すと見て良いだろうか。レベルが上がればステータスも上がると予想できる。
また、STRとはStrength、力強さを表し、INTはIntelligence、知能を示す。DEXはDexterity、器用さであり、AGIはAgility、俊敏さ、最後のVITはVitalityで生命力を表している。
つまり、このステータスを見れば、その人物の力はどの程度なのか、俊敏さはどの程度なのか、器用さはどの程度なのか、そう言った情報を簡単に測ることができるというわけだ。
「それが基本的なステータスです。それ以外にも能力には天職や固有スキルと呼ばれるものがあります。それらをこちらの鑑定盤にて調べさせていただきたいのです」
パチンッ
女神が指を鳴らすと、机の上に一辺40センチほどの正方形の石盤が現れた。どこから現れたのか、俺たちの顔に一瞬驚愕の表情が見られるも、”魔法”という言葉で納得する。
石盤には何やら知らない言語が刻まれているようで、その文字は青く光っている。
まさにファンタジーという感じ。鑑定盤という名前から、俺たちの世界とはまた違う概念が存在するのだろう。
「手を乗せるだけで能力が分かるスグレモノです。あ、前もって言っておきますが、私が下手に出ているからといって反抗したりするようでしたら……即座に殺しますよ?」
一瞬の静寂。
布が擦れる音すらも、この部屋からは奪い去られた。
声色が変わった。殺しますよ、と。
地球では感じることのなかったこの威圧感は、殺意と呼ばれるものなのだろうと誰もが理解した。
それが証拠となり、彼女の言葉は嘘のようには思えない。
「とりあえず鑑定をしましょう」
だが、女神はすぐに声色を戻し、鑑定盤に手を置くことを促した。
来る日も来る日も同じ行為を繰り返す。すると、それは立派な日常となってくる。
そんな平凡な日常に、少しの非日常は付き物だ。
家から出たらお隣さんとバッタリ鉢合わせただとか、登校中に100円玉を拾っただとか、近隣で変質者が出ただとか。
大きな日常に比べれば小さな違いでも、非日常は俺たちの生活の良きスパイスとなる。
だが、もしも。
もしも、その非日常が日常よりも大きかったら。
例えば、”異世界に召喚された”、とか───。
・ ・ ・
俺こと”枷月葵”は、一般的な男子高校生だ。
普通に学校へ行き、普通に家に帰る。特別勉強が出来るわけでもなければ、運動がズバ抜けて得意なわけでもない。まさに普通。真ん中をいく男である。
そんな俺の趣味は漫画や小説を読むこと。平凡な毎日を送っている俺だからこそ、物語の中で描かれる非日常に憧れと興味を抱いた。
だからといって────
自分が異世界に召喚されたいと思ったことはない。
ここが異世界なのかはともかく、身に覚えのない場所に居ることは確かだった。
上を見れば、大理石でできた天井がある。とても広いとは言えない部屋に、俺は今閉じ込められていた。
灯りは壁にかかったいくつかの蝋燭のみ。部屋にあえて特徴があると言うならば、床に描かれている薄暗く奇妙な魔法陣のようなものだけだ。
そして、俺の周りには8人の高校生。
高校生と分かるのは、全員が制服らしき服装だからである。ただ、その制服はとても見慣れたものではなく、同じ地域、同じ県のものではない。
彼らも俺と同じく、この状況を不審がっているようだった。
「皆さん。少し良いですか?」
と、そこで一人の男が声を出す。身長は180あるかないかくらいの良スタイルのイケメン男子だ。髪は黒。真面目な陽キャ高校生というイメージを受ける。
訝しげな表情をしながらも、全員が彼の方に振り向いた。
「ありがとうございます。まずは、状況を確認しましょう」
彼は冷静なリーダータイプのようだ。
「僕の名前は駿河屋光輝。東京の高校に通っていて、朝起きて家を出たらここに居ました」
はじめは訝しげだった他の高校生も、彼も同じ状況だと理解したのか、次々と自己紹介をしていく。
「俺は魔夜中紫怨。京都の高校に通っている。家を出たらここに居たのは同じだ」
中々な高身長──およそ180センチほどだろう、落ち着いた紫の髪をしたイケメンがそう言う。
「私は桃原愛美。光輝くんと同じ、東京の高校に通ってるよ。ここに居た状況はだいたい同じ感じかな」
次に言ったのは桃色の髪をした低身長の女子。身長は150代前半といったところだろうか。”小動物のような可愛さ”という言葉がピッタリ似合っている。
そこから、他の5人も自己紹介をしていった。
それぞれ、夏影陽里、夢咲叶多、空梅雨茜、角倉翔、北条海春。
夏影陽里は黒髪ロングの高身長女子だ。身長はおよそ170センチほどか。眼鏡はかけていないが、キリッとしてるその目は、彼女に知的な印象を与えている。
夢咲叶多は、中性的な男だ。一人称が”俺”であることから、一応男として過ごす気はあるのだろう。だが、その可愛らしい顔立ちと、声変わりが来てるのか分からない中性的な声質、女だったらベリーショートくらいの髪型が、彼を女ではないかと思わせる。髪は黒で、青メッシュである。
そして、空梅雨茜は夏影陽里ナツカゲヒカリとは反して、見た目は所謂ギャルと呼ばれる部類だ。薄く金色の髪は、先端が上手に巻かれている。身長は160後半くらいか。服装は制服でも、胸元は開いているし、スカートは短い。今どきというよりは、一世代前のギャルのような印象だ。ただ、ルーズソックスじゃないことが唯一の救いか。
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最後に、北条海春は桜色の髪をした女子だ。桃原愛美モモハラアミの髪色が派手なピンクなら、北条海春ホクジョウミハルの髪色は落ち着きのある桜色といった感じ。髪は綺麗に切り揃えられていて、大和撫子を思わせる顔立ちをしている。
皆、ここに来た経緯は同じようだった。
「最後になったが、俺は枷月葵。宮城の高校に通っていて──状況は8人と同じだ」
ガチャッ
最後に俺が自己紹介を終えたところで、どこにあったのか、部屋の扉が開いた。部屋を見渡した時はなかったので、何らかのギミックによる隠し扉だったりするのだろう。
扉から部屋に入ってきたのは、一人の女性。白い布で体を包み、髪は銀。その美しさはミスコン優勝は確実なレベルだろう。そして何より、男ウケの良さそうな体付きをしていた。
しかし、この中に彼女をいやらしい目で見る者は居ない。それは、彼女がエロという目線で見るにはあまりにも神々しいからであった。
「お待たせして申し訳ありません、勇者様方」
そして彼女はその透き通った声で確かに、俺たちを勇者と呼んだ。
・ ・ ・
それから俺たちは彼女に連れられ、客室のような場所へ連れてこられた。道中を見ていると、この建物は屋敷、それもかなり大きな屋敷のようだった。
人生でこんな壮大な建物を見たことがない俺は、みっともないとは自覚していながらも、辺りをキョロキョロと見てしまうことを辞められなかった。
そして案内しながら、彼女は自分が女神だと名乗った。信憑性は無かったが、彼女の神々しさから、つい本当なのではないかと思ってしまう。俺たちのそんな表情を見て、女神は苦笑いをしていた。
客室は俺たち9人が入るには丁度いい広さだった。つまり、俺たちをここに連れてきたのは女神、もしくは女神の関係者で間違いはないだろう。
俺たちは一つのテーブルを囲むように座った。一人につき一つ、計10個の椅子が用意されていて、それが大きなテーブルを囲むように配置されていた。女神もそのうちの一つに座った。
「いきなりお呼びして申し訳ありません。まず、皆様が突然暴れないよう、精神平衡の魔法をかけていることをご了承ください」
”お呼びする”という発言は、彼女が俺たちを連れてきたことを証明する言葉としては十分なものだ。ただ、それよりも意識すべき発言を彼女はしていた。
魔法。
科学とは違った神秘的な作用によって、超自然的な現象を起こすもの。ファンタジーには付き物のアレだ。
魔法が存在するなら───俺たちをここに連れてきたのも魔法の類だと考えられる。それも、考え得る限り最もあり得る答えは召喚系の魔法。
もちろん、そんなものがあるかは定かでない。
だが、この世界の法則が俺たちの常識で押し測れないことは確かだった。
「はい、わかりました」
ここで誰も口を開かないのは良くないと思ったか、光輝が代表して返事をする。
「そして皆様にお伝えしたいことがあります。それは、皆様は選ばれたということです」
「選ばれた?」
訝しむ俺たちに女神は続けて言う。
「はい、選ばれたのです。この世界に呼ぶにあたって、能力への適正などの観点から皆様を選びました。いわば、特別なのです」
この時、なんとなく思ったことがある。それは、この女神は話が上手く、それも、その気にさせるのが上手いということだ。
特別という言葉で嫌な思いをする人間は居ない。それを利用して無理にでもこの場を収め、拉致したことをスルーさせる。それに、もしこの後女神が要望をするならば、それを俺たちはイエスと言いやすい。
さらには俺たちの対抗意識を生むこともできる。それぞれが、自分が1番で居たいと思う。
現に、この場にいる高校生──俺と魔夜中紫怨を除く──は嫌な顔はしていない。心無しか、むしろ少し嬉しそうな顔をしているようにまで見える。
交渉術──いや、煽動術とでも言おうか。何せ、”神”を名乗っているにしては、名乗っているからこそか、人間の扱いに長けているような印象を抱いた。
「そこで、皆様にお願いがあります。現在、この世界は魔王、及び邪神に支配されています。このままでは……世界は滅びてしまうのです」
「魔王?邪神?」
女神の話には知らない言葉がどんどんと出てきた。
ただ、説明する気はあるらしく、女神は続けて発言をする。
「この世界には魔獣と呼ばれる生物と魔族と呼ばれる生物が居ます。魔獣とは、人ならざるもののことを、そして魔族とは、魔獣の中でも比較的知能が高いものを指します。
魔王とは、魔獣、魔族の頂点に君臨する存在です」
ここらへんはありがちなパターンと考えて良さそうだ。ドラゴンや悪魔などが魔獣、魔族に入るということだろう。
言い分的には、人間の補集合のような捉え方もできる。
「魔王が居ると世界が滅びるのは何故ですか?」
「それは、魔王の行動理念が人々を滅ぼすことだからです。魔獣、魔族は魔王の元で統治を行っており、魔王は戦力を揃えては人間の国に攻め入ってきます」
一応全員納得はいったようだった。
確かに理に適っている。
しかし、不安が拭えたというわけではない。
「ですが僕たちは元の世界で強かったわけではありません」
「それは心配に及びません。まず召喚にあたり、強力な能力がランダムで付与されています。また、戦闘の訓練などもこちらで手配します」
とんだ好待遇だった。女神はそこまでして魔王を殺したいのか。
そもそも女神が世界を滅ぼそうとしている可能性だってあるし、俺たちを騙しているという可能性もある。だがここで女神を疑ったところで、俺たちには抵抗する力もない。
「能力…ですか?」
”強力な能力”という言葉に召喚された俺たちの顔に期待が浮かび上がる。それはそうだろう。よくわからない世界に召喚され、普通の人間として魔王を討伐する必要があるなど、ハードモードにも程がある。
「はい。……勇者様方が居た世界にはない概念だと思うのですが…”ステータス”と呟いてみてください」
女神の言葉を合図としたように、各々がその場で”ステータス”と呟く。
「ステータス」
俺も同じく、その言葉を呟いた。
すると、目の前の宙に青白い半透明な板のようなものが表れ、そこに文字が書かれていた。
他の8人の前に青白い板は見えないので、これは本人にしか見えないと考えて良さそうだ。
名前:枷月葵 Lv1
ステータス:STR…E
INT…A
DEX…D
AGI…E
VIT…E
どうやら能力はアルファベットで表されるようだった。高い順からABCDEと考えて良いだろう。尤も、Aの上にSがある可能性は十分にあるから、決めつけるのは危険だ。
Lvとはそのまま、レベルを示すと見て良いだろうか。レベルが上がればステータスも上がると予想できる。
また、STRとはStrength、力強さを表し、INTはIntelligence、知能を示す。DEXはDexterity、器用さであり、AGIはAgility、俊敏さ、最後のVITはVitalityで生命力を表している。
つまり、このステータスを見れば、その人物の力はどの程度なのか、俊敏さはどの程度なのか、器用さはどの程度なのか、そう言った情報を簡単に測ることができるというわけだ。
「それが基本的なステータスです。それ以外にも能力には天職や固有スキルと呼ばれるものがあります。それらをこちらの鑑定盤にて調べさせていただきたいのです」
パチンッ
女神が指を鳴らすと、机の上に一辺40センチほどの正方形の石盤が現れた。どこから現れたのか、俺たちの顔に一瞬驚愕の表情が見られるも、”魔法”という言葉で納得する。
石盤には何やら知らない言語が刻まれているようで、その文字は青く光っている。
まさにファンタジーという感じ。鑑定盤という名前から、俺たちの世界とはまた違う概念が存在するのだろう。
「手を乗せるだけで能力が分かるスグレモノです。あ、前もって言っておきますが、私が下手に出ているからといって反抗したりするようでしたら……即座に殺しますよ?」
一瞬の静寂。
布が擦れる音すらも、この部屋からは奪い去られた。
声色が変わった。殺しますよ、と。
地球では感じることのなかったこの威圧感は、殺意と呼ばれるものなのだろうと誰もが理解した。
それが証拠となり、彼女の言葉は嘘のようには思えない。
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これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
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