絶対服従幼稚園

夕日 空

文字の大きさ
上 下
10 / 10

絶対服従幼稚園 最終話

しおりを挟む
その日、幼稚園から帰ると、タクミはすぐに、母親のもとに駆け寄り、ぎゅうっと抱き着いた。

「あら、どうしたの、タクミ。何かいいことでもあった?」
「…うん!あのね、お母さんに話したいことが、いっぱいあるの!」
「あらあら、そうなの。お母さん、タクミからいお話を聞くのが大好きなのよ。」
「うふふ、あのね、まずはね…。」
「待って待って、お菓子でも食べながら、ゆっくり聞かせてちょうだい。」

 タクミはその夜、久しぶりにすっきりとした表情で眠りについた。

「ふふふ…なんだか、笑ってるみたいな寝顔だな…。」
「ええ。あの子ったら、今日は帰って来るなり、ニコニコして幼稚園での様子を教えてくれたのよ。」
「ああ、俺も一緒にお風呂に入ってるときに聞いたよ。なんでも、前に言ってたお友だちと、一緒に遊べるようになったって。」
「うん、そうなの。…私ね、タクミがそのことを嬉しそうに教えてくれてるのを見てたら、なんだか感動しちゃって。あの子は、壁にぶつかっても、きちんと向き合って乗り越えていく力を持ってるんだなぁって。」
「そうだな…俺は『強く言い返せ』としか言えなかったから、自分の浅はかさを反省したよ。まさか、一緒に遊ぶなんて解決方法があったとは…ホント、子どもに教わることってたくさんあるんだな。」
「ふふふ、ホントにね。…私も、昨日の夕方、タクミが怒って大きな声を出した時は、びっくりしちゃったけど…。」
「ああ、キミが『今日は私が呼びにいかない方が良さそう』って言ってきた時は、俺も驚いたけど…もしかしたら、俺たちがああだこうだ言わなくても、タクミはこうやって成長していくのかもしれないな。」
「そうね…でも、それはそれでちょっと切ないわね。」
「あっはっは、確かにな。でもさ、きっとタクミにはタクミの世界があって、そこで色々な人とぶつかったり、励まされたり、背中を押されたりしながら、強くなっていくんだよ。」
「…だとしたら、あの子の力になってくれる人には、たくさん感謝しなきゃいけないわね。」
「ああ…さて、俺も今度からはタクミを見習って、自分の意見を押し付けすぎずに、相手の気持ちを聞いてみることにするよ。」
「うふふ、そうだね。」


 息子の成長に感心しきりの両親の視線の先では、タクミが穏やかに寝ていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

永久の雪と花の家

O.K
ファンタジー
「永遠に雪が降り続ける村に住む老婆が、不思議な力を持つ花を育てることで村を救う」という物語です。老婆の力と花の力を信じ合い、村人たちは雪に立ち向かい、互いに支え合って生きることを決意します。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...