なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑

文字の大きさ
上 下
914 / 922
第九部:大結界の中心

不思議な魔道具

しおりを挟む

すでに敵も、俺とマリタンが二手に別れていたことに気付いているので、いまは大量の金属棒が降り注いで来てるけど、俺が味方陣地にいる間に撃ち込んでこなかったのは人道的と言っていいんだろうか?

いやいや、実際は兵を大切にしてるんじゃ無くて、謎の『結界侵蝕魔道具を壊したくないから』ってだけに思えるな・・・
そもそも本陣らしき場所に陣取っている連中には、侵蝕魔法が停止した理由が『魔道士達が斃された』からなのか、それとも『魔道具を破壊された』からなのか判別出来ないのかもしれない。

エルスカインは手下達に必要最低限の情報しか渡さない様子だし、古代の魔導技術も独占している。
俺たちがヴィオデボラ島で体験したように、古代には概念通信の魔導技術が存在していたわけだし、だからこそマリタンも精霊魔法の指通信と同じように離れて会話が出来るのだけど、エルスカインは概念通信のような手段をレスティーユ家に供与していないのだろう。

< 兄者殿が見えたわ。もうすぐワタシも三つ目の陣地よ >

季節が夏か秋なら田園に生い茂った麦穂やらなんやらが少しは目眩ましになったかもしれないが、いまは全てが刈り取られた後の真っ平らな地面が全周囲に広がっている。
さっきはマリタンが止まらずに俺を投げ出して陣地脇を突っ切ったことで、陣地内の連中に構える隙を与えずに数拍ていどの時間は稼げたけど、いま俺の姿は敵の陣地や本陣からも丸見えだな。

< よし、俺はこのまま飛び込むぞ >
< 待って兄者殿! 最後の魔道具は壊さないでちょうだい。アレは鹵獲ろかくして調べるべきだと思うの! >
< おぉっ、それもそうだよな! >

言われてみればその通り。

俺は精霊魔法が侵蝕されるって言う初めての事態に焦っていたから、マリタンから釘を刺されなかったら三つ目の魔道具も叩き斬ってたに違いない。
そして、後でシンシアからこっぴどく怒られていたはずだ。
危ないところだった。

< 合流と同時に革袋に収納できるかしら? 液体金属と魔法障壁には影響を与えたくないのだけど... >
< たぶん問題ないだろう。たぶんな! >
< 当たって砕けろね。兄者殿が飛び込むタイミングに、ワタシは一瞬遅れて飛び込むわ! >

精霊魔法を侵蝕できる正体不明の魔道具を、稼働状態のまま革袋に収納して大丈夫なのかどうか若干の不安はあるけど・・・
だが、いかなる魔法であれ、革袋の中に入った瞬間に時間の経過は止まるはず。
止まるよね?
止まってくれないと困るぞ。

今回は不意打ち出来ないから、降ってくる金属棒は残らず弾き飛ばす覚悟で真っ正面から突っ込んでいく。

しかし、敵側は攻撃対象が二手に分かれているせいで混乱しているのか、どうも狙いが雑だ。
勇者の力で加速した俺の走りは、普通の兵士達の目に追い切れるものではないだろうし、ひょっとしたらマリタンのことだから、敵の狙いを撹乱する考えで、俺と真反対ではなく微妙にズレた角度で突っ込んできているのかも知れない。

< いくぞ! >
< いいわ! >

声を掛けると同時にジャンプして陣地内に飛び込んだ。
俺が峰打ちのガオケルムを一閃させると、金属棒を撃ち出していたらしい奇妙な武器を抱えた兵士達や魔道士達は、強烈なつむじ風に巻き込まれたような具合でバタバタと倒れていく。

最後の兵士が倒れきるや否や、マリタンを包み込んでいる銀の泡も陣地の中に飛び込んできた。
件の魔道具は先ほどと同じく陣地の中心に据えてあったが、まずは兵士が手にしていた奇妙な武器を頂戴して足下の革袋に放り込む。
これもシンシアかパジェス先生に中身を調べて貰った方がいいだろう。

お次は目的の魔道具だ。
前の二つは落ち着いて眺める余裕が無かったけれど、改めて見ても不思議な形状をしている。

ぱっと見では、とても武器の類いには思えないけど、なんとなく似ている形状のものを見た記憶があるような・・・
あぁ、分かった。
コレは鍛冶屋が使う『炉』に形が似ているんだ。

ご丁寧に炉の脇にはフイゴのような形状のモノまでくっ付いている。
本当の『炉』の場合はフイゴで空気を大量に送り込むことで炭を威勢良く燃やし、鉄を溶かすような温度を得るそうだけど、さすがにコレはそういう役目じゃないだろう。
それに『炉』の本体も、レンガで組んでいるような大きなモノじゃなくて、数人で抱え上げられそうな大きさだし、全体も金属製だ。

ボディの金属は鉄・・・じゃなくてオリカルクムか!

ホントに古代人は何から何までオリカルクムを多用してたんだな・・・
きっと中の部品にもオリカルクムやティターンなんかがふんだんに使われてるに違いない。
横にくっ付いているフイゴっぽいのやそこに繋がっている金属の箱まで含めて『魔道具の一式』だと認識して、一切合切を革袋に収納する。
正直、入れる瞬間は少しだけひるんだけれど、無事、なにごともなく収納できた。

兎も角、もうここに長居は無用だな。
周囲にうずくまって呻いている敵兵達は放置して、さっさと退却することにして銀の泡に。

「兄者殿、敵の本陣はどうするの? このまま攻め込む?」

「本当なら指揮官を締め上げて、精霊魔法を侵蝕した魔道具の秘密を吐かせたいところだけど...」
「知らされてるハズが無いわよね?」
「そういうことだな。指揮官だって何も知らずに送り込まれてきた現場要員だろうし、レスティーユ家の正規兵と言ってもエルスカインからの扱いは魔獣と変わらないんだろう」
「とりあえず、走ってこの場所から離れましょうか?」

「ああ。でもこの陣地を出ると、またあの金属棒が降り注いでくるな。液体金属の耐久度的には大丈夫かマリタン?」

「これまでと同じ攻撃なら平気だわ。でも、ワタシ達が魔道具を三カ所とも撃破しちゃったから、破れかぶれで周囲一帯を巻き込むような大規模攻撃でも出されたら分からないわ、ね」
「そりゃそうか」
「まだ隠し球があると思う?」
「なにしろエルスカインが秘蔵の魔道具を持ち出してきてるんだ。次の手があっても不思議じゃ無いな。とは言え...」
「ここでじっとしてるワケにも行かないってところね」

「討って出よう。敵の本陣を残しておくと、何か『奥の手』を出されるかもしれないし、魔法で追跡され続けたら、ココを離れても転移魔法陣を開くタイミングが難しくなる」
「了解よ兄者殿、最短距離で突っ込んでみるわ。もしもの時はワタシのことは気にせずに走って頂戴ね」
「カッコいいセリフだけど、どのみちマリタン自身は俺が運ぶんだから『一蓮托生』だぞ?」
「さっきも聞いたけど、ソレって悪くない表現ね。いつでもどうぞ!」
「よし行くぞ!」

銀の泡にくるまれた状態で三つ目の敵陣地から飛び出す。
即座に金属棒が雨あられと降り注いでくるはず・・・と思っていたのに、なに一つ飛んでこない。

「攻撃が来ないぞ。どういうことだ?」
「あやしいわね!」

撃ち出す金属棒が品切れとか、本陣の連中がサッサと撤退しようとしているなんてことは考えられない。
この間は、さっきマリタンが言っていたような『デカい一発』をお見舞いするための準備じゃ無いか?

「コイツは悪い予感が当たったかもな! でも精霊魔法の侵蝕は止まってるし、マリタンのストラップのメダルに埋め込んだ防護結界も、俺の防護結界も無事だ。少々のことなら耐えきれるさ」
「今度こそホントに『当たって砕けろ』だわ。兄者殿と一蓮托生なら悪くない気分よ!」
「突っ込むぞ!」

何がやって来るのか、それにどこまで耐えられるのか・・・文字通りの出たとこ勝負だな。
その一瞬、シンシアと二人で最初にアプレイスの前に立った時のことが脳裏をよぎった。
あの時だって、ドラゴンのブレスを弾く勝算はあったけど、アプレイスのブレスの威力自体は未知数だったのだから、危険な賭であったことは否めない。

だけど今回も何がなんでも耐えきらなければ、ラファレリアも、アルファニアも、そして最終的にはポルミサリア全域が終わりを迎えることになる。

< 御兄様! >

そんなことを思い浮かべたせいか、ふいにシンシアの声が脳裏に響いた。
幻聴か?
でも心配するなシンシア、俺とマリタンは絶対に無事に戻るから。

< 御兄様、聞こえてますかっ?! >

脳裏に響く必死なトーンのシンシアの声・・・
アレ? 
これって幻聴じゃ無くて指通信か!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜

優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、 戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。 本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、 皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、 剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。 彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...