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第九部:大結界の中心
田園に潜むモノ
しおりを挟む屋敷の外に飛び出た俺たちに、高速で向かってくる無数の『なにか』・・・魔力波と言うよりも、小さな魔力の塊が無数に押し寄せてくるような雰囲気だ。
だが押し寄せて来る攻撃魔法を、マリタンが展開した魔法障壁が撥ね返しているのを感じる。
「コレは魔法障壁で弾けるわ! やっぱり人族の魔法ね」
「ダメージは?」
「無い、と思う。でも兄者殿は直接受けないようにして!」
「了解だ!」
「第二弾が来るわよ! 今度は少し硬そう!」
第一弾の攻撃魔法を撥ね返しながら敵陣に突っ込んでいく俺たちに向け、続けて敵が撃ってきたのは実体のあるモノだった。
勇者の力で神経を加速していなければ軌跡を捉えられなかっただろうほどのスピードで向かってきたが、それらも俺の防御結界を削るまでも無く、直前でマリタンの放った『銀の網』に絡め取られた。
マリタンは対物防御のために咄嗟に太めの銀の糸を縦横に張り巡らせて、魚網の様な構造を持つ盾を作ったのだ。
「凄いなマリタン。こんなワザを持ってたのか!」
液体金属自体はそれほど頑丈なモノとは思えなかったけど、いまは見事に超高速の物理攻撃を防いでいる。
「液体金属の網を魔銀でくるんで網にして、その網の目の隙間を魔力障壁で塞いでるの」
「銀の糸がこれほど頑丈とはな!」
「兄者殿のスピードがあってこそ出来ることね。衝撃を受けきる前に接触点をズラし続けてられるの。でも物理攻撃を防ぐのは、これくらいの威力までが限界だと思うわ」
「ズラ?」
「液体金属ならではのワザよ!」
「良く分からんけど凄いことしてるのは分かった!」
飛ばされてきた物体は弩の矢かと思ったけど、網の目で絡め取られたソレが地面に落とされる直前に見たところ、奇妙な棒のようなシロモノだった。
破邪として色々な武器を目にしてきたけど、これまでに見たことは無いな。
コッチも相当なスピードで走り抜けようとしてるのに、うっとうしくも見事に追随して撃ち込んでくる。
幸い俺の防護結界に届く前に、一つ残らずマリタンに弾き飛ばされているが。
「コレは何を飛ばしてきてるんだ?」
「分からないけど、金属っぽい棒よね。どうやって飛ばしてるのかしら? マジで興味深いわ」
「この状況で余裕だなマリタン!」
「兄者殿こそ余裕でしょ?」
「これが敵の全力攻撃だとは思えないな。牽制目的だろ」
「つまり足を止めた後に、もっと強力な攻撃が控えてるってことよね!」
すでに俺たちは屋敷から遠く離れつつあるが、戸口を飛び出してから一度も方向を変えていない。
まさに一直線だけど、確かこの方向には農民達の集落があるはず・・・
「マリタン、集落を巻き込みたくないから向きを変えるぞ!」
「いえ兄者殿、方向はワタシが制御するから、このまま真っ直ぐ走り続けてちょうだい」
「策があるのか?」
「大丈夫、ワタシを信じて!」
「分かった!」
「じゃぁ閉じるわ。そのまま走り続けてねっ!」
「え? 閉じ...?」
俺が疑問を言い終わる前に、俺の周囲を銀色の膜がすっぽりと包み込む。
こういう意味かよ!
浮遊している俺を包み込んだ銀の膜・・・って言うか、この状態だと『銀の泡』だよな。
俺はその銀の泡の内側で、膜自体を踏みながら走っている。
何て言うか、水車の中で走ってるみたいなイメージだな。
この場合、水車を回しているのは水流では無く、中にいる自分が羽根板を踏み続けることで回しているような状態だけど、車輪が軸で固定されて無いから踏んだ分だけ水車は前に転がっていく。
俺の脚力が推進力だから、水車って言うよりも『踏み車』か・・・まぁ、そんな感じだな。
銀の泡にくるまれた俺たちは屋敷の周囲に広がる田園を突き抜けていくが、その進行方向は大きく曲がりだしていた。
俺自身は真っ直ぐに走り続けているつもりだけど、マリタンが銀の泡の傾け方を制御することで向きを変えているらしい。
そしてマリタンの狙った進路は、もっとも多くの攻撃が飛んでくる方向に向いている。
「一番大勢の敵がいる場所が本陣って考えか、マリタン?」
「ご明察!」
「じゃあパルレアの結界を侵蝕している魔法の発生源もそこか!」
「ソレは違うわ兄者殿」
「あ、違うんだ?」
「たぶん本陣とは別に、結界のさらに外側の三カ所に侵蝕魔法の魔道具か魔法陣が置かれていて、姉者殿の結界を外から包んでる感じね。だから、それに気が付かないフリをして向きを変えてるのよ」
「なるほどな!」
「このまま敵の本陣に突っ込むと見せ掛けて、直前で向きを変えて魔法陣の有る場所に踏み込むわ。ワタシが合図するから、兄者殿は飛び出て魔法使い達を片付けてちょうだい」
「そこに何があるんだ?」
「さぁ?」
「さっきもソレ...まあいいさ。周りに敵にしかいないなら全部ぶっ潰す!」
「アラ頼もしい!」
かなり危機迫った状況のハズなんだけど、なぜかマリタンとは軽口を叩くような会話になってしまう。
人族とは危機感や恐怖感と言った感性が一致してないせいかもしれないけど、俺的にはコレはコレで悪くない。
破邪時代の感覚から言っても、討伐の戦闘中に仲間と軽口が叩けるようなら、まだまだ余裕があるって証拠だからな。
「いい? 三つ数えたら敵の目前で急展開するから、飛び出せるように構えててね!」
「おしっ」
「イチ、ニ、サン、いまよ!」
横向きに強い加速度を感じると同時に俺の周囲をくるんでいた銀幕が姿を消し、俺は走り続けていたスピードそのままでローブを着た魔法使い達の真っ只中に飛び込んだ。
周囲には武器とおぼしき、弩に似た奇妙な道具を抱えた護衛の兵士達も数人いるが、そのまま通り過ぎると思っていた『銀の泡』が突然向きを変えて自分たちに向かって走り込んできたことに面食らったようで、一切の動きが凍り付いている。
別に勇者の加速した知覚だから止まって見えると言うのでは無く、コイツらは本当にどう動いていいか分からずに固まってしまっているようだ。
折角マリタンが創ってくれた奇襲のチャンスをふいにするつもりは無い。
俺は先手必勝とばかりに魔法使いに斬りかかる。
用心して最大限に知覚を加速していたけど、目前で凍り付いていた魔法使い達の身体は、俺が振り抜いたガオケルムで揃ってあっけなく両断された。
そして手に伝わってくる嫌な感触・・・
コイツらはホムンクルスじゃ無くて、人だ。
魔法使いに続けて斬り倒した護衛兵達もみな人族だった。
もちろん人を斬るのは初めてじゃ無いけど、コレまでは、その相手は大方が盗賊だった。
だけど甲冑に付いている紋章を見れば、コイツらが貴族家の正規兵だというのはすぐに分かる。
しかも見覚えのある紋章・・・
コルマーラの街で否が応でも目に入っていたレスティーユ家の家紋だ。
「くそっ! コイツらはレスティーユ家の兵士達だぞ!」
「でも今はエルスカインの手下だわ」
侯爵家の当主であるコンスタン・レスティーユ侯からの命令を受けて、敵が何者かも知らされずに出陣してきた一般兵だろう。
彼らが守っていた異形の魔道具らしきモノからはおびただしい魔力が漏れ出ていたが、イチかバチか、それも真っ二つに切り裂く。
幸い魔力が爆発したりすることは無く、魔道具は静かに沈黙した。
侵蝕魔法を操っていた魔法使い達も、本来は、ごく普通の城勤めの魔道士に違いないし、はたして侵蝕魔法の意味や効果を知った上で魔道具を扱ってたのかも怪しいところだ。
「大胆ね、兄者殿!」
「そんなコト言っても、中身を調べて止めてる暇は無いからな?」
「それはそうだけど、さすが勇者だわ」
「まぁ漏れ出てる魔力量からすれば、仮に吹き飛んでもアプレイスのブレスを受けるよりは軽いと思えたさ」
「なるほどね! 次に行くわよ兄者殿!」
「頼む!」
即座に銀の膜が俺を包み込み、次の要所へと向かって走り出す。
「兄者殿の刀捌きはホンの一瞬だったけど、ワタシ達が急にコースを変えて魔道具に突っ込んだのはバレたと思うわ。次はきっと警戒されてるわよ?」
「分かってる」
「なにか目眩ましをする?」
「いや、次は銀の泡を壊さずに俺だけ外へ放り出せるか?」
「出来るけど」
「じゃあ直前で俺を放り出したら、マリタンはそのまま走り抜けてくれ。でもその次の要所や本陣には向かわずに、無関係な方向に向かうんだ」
「逃げるフリ、ね?」
「そういうことだ。頼むぞ」
「任せてちょうだい」
マリタンは侵蝕魔法の発生源が三つあると言っていたから残り二つ。
精霊魔法への干渉さえ止めることが出来れば、後はなんとでも出来るハズだ。
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